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【劇場招待券プレゼント付!】「マシュー・ボーン IN CINEMA/ロミオとジュリエット」鑑賞レポート

阿部さや子 Sayako ABE

外出自粛が求められるようになって以来、約3ヵ月ぶりに映画館へ出かけた。
〈バレエチャンネル〉の人気連載「UK Ballet Journal 英国バレエ通信」で、執筆者の實川絢子さんが昨夏取り上げてくださって以来ずっと気になっていた、マシュー・ボーン版『ロミオとジュリエット』シネマ公開されたからである。

透明の仕切りに隔てられた販売カウンター。前後左右が空席になるように間引かれた客席。
“ソーシャル・ディスタンス”が保たれたシアター内は、清潔で静かでゆったり快適だけれど、ほのかに寂しい。
でも今この瞬間のこの感覚を味わっておくこともきっと後には貴重な経験になるだろうな……と、そんなことを考えながら席についた。

世界がコロナ禍に覆われて以来、スマホやパソコンやテレビの画面でしかバレエを見ることができなかった私たち。
久しぶりの映画館のスクリーンはとても大きくて、わくわくした。

こちらはパンフレット。P9-10の武蔵大学准教授・北村紗衣氏による作品解説が素晴らしい

➕➕➕

ボーン版『ロミオとジュリエット』は、幕がスタン!と落ちて始まった。

小さな台に身を寄せて横たわる、真っ白な服を着た1組の男女。よく見ると、お腹のあたりに真っ赤な染みがある。やっぱり、この版のロミオとジュリエットもラストは死んでしまうのか……と、当たり前のことに悲しくなりそうになった瞬間、パッと照明が入る。

© Illuminations and New Adventures Limited 2019

舞台は「今からそう遠くない近未来」、反抗的な若者たちを従順に矯正するための教育施設「ヴェローナ・インスティテュート」。
真っ白な床、真っ白な壁、真っ白なフェンス。何の特徴もない、真っ白な衣裳を着せられた若者たち。
白一色の舞台は、そこが自由も個性も奪われた世界であることを、ひと目で理解させる。

爆発しそうなエネルギーを必死にこらえるようにして、ギクシャク窮屈そうに踊る若いダンサーたち。壁面にある2つの入口の上にはそれぞれ〈BOYS〉〈GIRLS〉の文字があって、彼ら・彼女らはいつも男女別にまとまって踊り、それぞれの入口に吸い込まれていく。ここにいる若者たちは、男女が触れ合うことも、恋をすることも禁じられている。

群舞の若者たちには、一人ひとりに名前がある。マキューシオやベンヴォーリオはもちろん、バルサザー、フランキー、ドーカス、ラヴィニア、等々。そしてそれぞれがそれぞれの物語を背負っていて、この無機質な舞台の上で、それぞれの小さなドラマを見せていくことになる。よく見れば身体的特徴も、髪型も、動きの質感までも、一人ひとり全然違う。そんな個性的な若者たちが、ひと色であることを強いられているような衣裳や振付が、目の前のヴェローナ・インスティテュート(が象徴する世界)の息苦しさを、余計に際立たせてくる。

© Illuminations and New Adventures Limited 2019

この版における物語の主役は、もちろんロミオジュリエット、そしてティボルトだ。
ジュリエット(コーデリア・ブライスウェイト)は、ヴェローナ・インスティテュートの看守であるティボルト(ダン・ライト)に目を付けられ、性的暴力を受けている。そこに、有名政治家である両親から見放されたロミオ(パリス・フィッツパトリック)が、新たに収容されてくる。権力と暴力の権化的なティボルトに対し、ロミオは純粋無垢で子犬のようにいじらしく、男性性をあまり感じさせずもちろん暴力性もゼロ。そんな2人が吸い寄せられるように恋に落ちる。

© Illuminations and New Adventures Limited 2019

観ていて嬉しかったのは、その恋を、周りの友人たちがみんなで応援するところだ。若者たちはある日、力を合わせて看守たちの厳しい監視をかいくぐり、ロミオとジュリエットを引き合わせる。全編中、いちばん幸せなシーンである。そして、そのいちばん幸せなシーンから、ロミオとジュリエットと私たち観客は、ひと息に悲劇へと突き落とされる。

© Illuminations and New Adventures Limited 2019

© Illuminations and New Adventures Limited 2019

端的に、このボーン版『ロミオとジュリエット』ほど、今この時代を生きる私たちにリアルに迫ってくる演出版はないと思う。

若者たちの未来から自由が奪われること、分断されていく社会。私たちの身近なところに、ヴェローナ・インスティテュート的な世界は広がっている。

また、いわゆる「バルコニー・シーン」で、唇と唇が触れ合うやいなや、もうひと時も離れることなく床を転げ回るロミオとジュリエット。――コロナと結びつけて考えることはできればしたくないけれど、やっぱり、会いたい人と会えることや、大好きな人と触れ合えること、言いたいことを言えて、踊りたいように踊れることこそが、何より守られるべき幸福なのだということ。それをこんなにも、痛いほど実感できるのは、この3ヵ月間を過ごし、まだ先の見えない恐れの中にいる今だからではないだろうか。

© Illuminations and New Adventures Limited 2019

ロミオは命を落とし、ジュリエットは自ら命を絶つ。
この結末が、これまで観たどのバージョンよりも、現代を生きる私たちには納得がいくと私は思う。
その理由は、これからご覧になる方のために、言わないでおくべきなのだろう。
でもひとつだけ言いたいのは、こんなふうにロミオやジュリエットの命が奪われるような世界にしては絶対にいけない、ということだ。

マシュー・ボーン版『ロミオとジュリエット』の上映情報は下記の通り。
また、劇場招待券(対象館は東京・恵比寿「YEBISU GARDEN CINEMA」)とパンフレットを各3名様ずつ、読者のみなさんにプレゼントいたします。このページの最後をご覧ください。

上映情報

『マシュー・ボーン IN CINEMA/ロミオとジュリエット』

■配給:ミモザフィルムズ
■配給・宣伝協力:dbi inc.
■YEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次公開中
■公式サイト:http://mb-romeo-juliet.com/

読者プレゼント

上記でご紹介した『マシュー・ボーン IN CINEMA/ロミオとジュリエット』の劇場招待券とパンフレットを、それぞれ3名様(計6名様)にプレゼントいたします。
劇場招待券の対象館は「YEBISU GARDEN CINEMA」(東京・恵比寿)のみとなります。上映期間にご注意ください。

【応募方法】
①〈バレエチャンネル〉公式Twitterアカウント(https://twitter.com/balletchanneljp)をフォローして、
②該当ツイートをリツイート!

【応募期間】
2020年7月1日(水)〜7月2日(木)23:59 まで

【当選発表】
当選者の方にのみ、7月3日(金)までにTwitterのDMにてご連絡いたします

ご応募、お待ちしております。

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