Videographer: Kenta Shimizu
バレエダンサーの、研ぎ澄まされた身体、凛として立つ存在感。
その透徹した美しさにインスパイアされるアーティストは多い。
ファッションフィルムの国際コンペティションなどでも高い評価を受けて活躍するビデオグラファー平野絢士氏の新作フィルムに、新国立劇場バレエ団の木村優里と渡辺与布が出演。
その撮影に臨むふたりのようすを取材した。
Photos: Ballet Channel
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撮影は9月初旬に行われた。
新国立劇場バレエ団では、まさに10月公演『ロメオとジュリエット』のリハーサルが本格的にスタートしたところ。
ふたりはその日も夕方までリハーサルに参加した後、都内某所の撮影スタジオに入った。
撮影で使われる衣装は、スタイリストが英国で買い付けて来たというアンティーク
まるで大きな”プチプチ”で出来ているかのような不思議なドレス
撮影内容を示す”絵コンテ”のようなものが壁に貼られていた
木村優里。撮影用のヘアメイクが手際よくほどこされていく
先に木村のヘアメイクがほぼ完成。奥で渡辺与布のヘアメイクが始まった
撮影用の小道具、バンドネオン。アンティークながらちゃんと音が出て演奏もできる本格的なもの
プチプチ……?
この撮影のメイキング映像は、当記事の冒頭に掲載した通り。
全編はファッションフィルムの世界的権威であるロンドンのSHOWstudioが主催するSHOWstudio Fashion Film Awardに出品され、間もなくロンドンの老舗デパート「ハロッズ」等で公開される予定。
また、バレエチャンネルでも後日配信を予定している。
Interview
木村優里 Yuri KIMURA
新国立劇場バレエ団 ファースト・ソリスト
今回のファッションフィルムのように、バレエとは違う世界のプロフェッショナルのみなさんと一緒に作品づくりをさせていただけるのは、自分の幅を広げる貴重な機会。とても嬉しくて、ありがたい経験だと感じています。
撮影も、とてもおもしろいです。「バレエだとこうは撮らないな」とか、「このポーズをこの角度から撮られるのは初めて!」とか、新鮮なことばかり。とくに今回は、ビデオグラファーさんのコンセプトや撮りたい画を、「イメージボード」という形で説明していただいたんですね。そこには「鳥」「シェイクスピア」「プラスチック」といったキーワードや、想像を喚起するような写真やイラストが、ただ断片的にいくつか貼り付けてあって。ああ、こうしてイメージの“かけら”みたいなものから世界を作っていくんだなと、とても勉強になりました。
バレエ団では、10月に上演する『ロメオとジュリエット』のリハーサルをしています。私は、初めてジュリエットを踊らせていただきます。最初は天真爛漫な少女だったジュリエットが、ロメオと出会い、たった4〜5日間で強い意志を持ったひとりの女性に成長していく。その成長とともに、彼女と父・母・乳母など周りの人たちとの関係が、どんどん変化していきます。大切に演じたいのは、第3幕で寝室に残されたジュリエットが、ひとりぼっちでベッドに座っているシーンです。あの瞬間に、ジュリエットは真に自立するのだと思っています。
「シンデレラ」
渡辺与布 Atau WATANABE
新国立劇場バレエ団 ソリスト
オーストラリア・バレエ学校在学中に、バレエダンサーとプロのデザイナーがコラボするファッションショーに参加する機会がありましたが、今回のようなビデオグラファーの方のファッションフイルムにモデルダンサーとして参加させて頂く機会は初めてで、本当にありがたく、刺激的な経験になりました。バレエ公演で踊る時は「自分のラインはどう見えているか」がいつも頭にありますが、今回の撮影では「いかに衣装を美しく見せるか」や「この作品空間の中で私はどう存在すべきか」を常に意識していました。こうした経験は、今後の舞台に活かせると感じました。優里さんと振付けを相談したり、動いてみたりとあれこれ考えることも、とても楽しい時間でした。
10月の『ロメオとジュリエット』ではロザライン役を演じますが、ロメオがジュリエットと出会う前に恋い焦がれている女性、という役どころです。ロメオは彼女に会いたい一心で敵対するキャピュレット家の舞踏会に忍び込みます。そういう設定に見合う存在感をしっかりお客様にお届けできたらと思います。大きく踊る役柄ではないので、何気ない場面での佇まいや演技力が問われると、身を引き締めています。
「眠れる森の美女」(カラボス)
公演情報
新国立劇場バレエ団『ロメオとジュリエット』
●2019年10月19日(土)〜10月27日(日)
●新国立劇場オペラパレス(東京・初台)
●詳細 https://www.nntt.jac.go.jp/ballet/romeo_and_juliet/