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【動画あり】K-BALLET COMPANY「マダム・バタフライ」初日レポート&レッドカーペット

阿部さや子 Sayako ABE

2019年9月27日、東京・渋谷のBunkamuraオーチャードホール。
Kバレエカンパニー『マダム・バタフライ』が世界初演の日を迎えた。

劇場のメインエントランスには鮮やかなレッドカーペットが敷かれ、開場に先駆けてはデヴィ夫人や女優の三田佳子、斉藤由貴、トリンドル玲奈、デザイナーのコシノジュンコなど各界の著名人が次々に到着。
開幕直前の興奮に華を添えた。

デヴィ夫人

トリンドル玲奈

瀧川鯉斗(落語家)

斉藤由貴

三田佳子

コシノジュンコ

***

18時30分。初日の公演はオンタイムで始まった。

指揮者の井田勝大の姿がオーケストラピットに現れると、盛大な拍手が湧き上がる。
振付・演出の熊川哲也はかねてより、この『マダム・バタフライ』ではプッチーニのオペラ以外の楽曲も使うと明言していた。
タクトが振り下ろされ、最初に流れ出した音楽――それはなんと、私たちのよく知る「君が代」だった。

そこから始まる短いプロローグ。幼いバタフライの目の前で、父親が切腹する。
その手に握られていた短刀は、彼女にとって大事な父の形見となるが、それとともにバタフライの“運命”ともいうべき影となって、彼女の人生に最期まで寄り添うことになる。

第1幕1場はピンカートンのアメリカ時代。オペラでは描かれていない、熊川版オリジナルの重要な場面である。

ここは群舞からパ・ド・ドゥ、主役のソロまで詰まったダンスの見せ場。
男性たちの踊りはいろいろなジャンプが織り込まれていて、真っ白な衣裳ときびきびとした動きが目に眩しい。
いっぽう女性たちの踊りは回転がいっぱい。回るたびに色とりどりのスカートがぱあっと広がって、舞台に花が咲き誇るようでとてもきれいだ。

特に素敵だと感じたのは、ドヴォルザークの「弦楽セレナード」で踊られるケイト(小林美奈)とピンカートン(堀内將平)のパ・ド・ドゥ。ただ踊りを見せるだけでなく、ふたりがどんな恋人どうしなのかーー恋愛を春夏秋冬にたとえるならば、彼らはまだ初夏を迎えたばかりくらいの季節にいて、みずみずしい幸福感に満ちた状態であることまで伝わってくる。

第1幕第2場、長崎の遊郭街の場面。

ひらり、ひらりと登場する遊女たちはみな蝶々のようであり、金魚のようでもあると感じた。

話題の「花魁道中」も、この場面で出てくる。

初日の花魁役は中村祥子。花魁という“スター”にふさわしい、圧倒的な存在感、迫力の艶姿。
大きく襟を抜いた衣裳、長くしなやかな首筋がどきりとするほど色っぽい。
また、黒いトウシューズでポワントに立つと、確かに高下駄を履いているように見えてくるのもとてもおもしろい。

そして、矢内千夏演じるバタフライが登場。ピンカートンと出会う。

バタフライは天真爛漫で、好奇心いっぱいの明るい女の子だった。
とてもあどけない様子で、「さくらさくら」のヴァリエーションを踊る。

初めて触れる、ピンカートンの青い目や、大きな手。彼への興味が、やがて好意へと変わっていく。

第2幕、ピンカートンの庭。奥のほうで庭師がチャカチャカチャカ……と余念なく松の剪定をしていたりと、ディテイルも楽しい。

丘を登って、花嫁衣裳を着たバタフライがやってくる。とても美しい場面だ。

幸せに満ちた婚礼。それはほどなくして、バタフライの結婚と改宗に反対する叔父・ボンゾウの怒りによってめちゃくちゃにされてしまう。

しかし、悲しみはバタフライを大人に変えていく。
ピンカートンとふたりきりになって迎える初夜のパ・ド・ドゥは、バタフライが初めて自分の羽を広げて飛び立つ瞬間でもある。
淋しげだった瞳が少しずつ輝きはじめ、ピンカートンに高々とリフトされた時、彼女の細い指先が小さく羽ばたく。マダム・バタフライの真の人生が、この時に始まったのだと思う。

***

ここから先のことは、これからご覧になる方たちのために、詳しくは言わないでおくべきなのだろうと思う。

ひとつだけ見逃さないでいただきたいと思うのは、悲しみが深ければ深いほど、静かな表情で、身じろぎひとつせず、たったひとりですべてを受け止めていくバタフライの強さと、美しさと、哀しさだ。

おそらくはこの作品のいちばんの要であるその演技を、三者三様で見せてくれるヒロインたち。私は初日と2日目で全キャストを観たが、本当に3人とも、まったく違う。

いかに“踊らずに”、いかに“表情を変えずに”、感情の動きや精神性を表現してみせるかーー。
『マダム・バタフライ』は、熊川哲也とKバレエカンパニーが、新たな扉を開いた作品だと言える。

カーテンコールには粋な和服姿で登場した熊川。
『クレオパトラ』初演の日とも先日の『カルミナ・ブラーナ』の時とも違う、彼の穏やかな笑顔が心に残った。

 

ゲスト囲み取材
終演後、レッドカーペットに登場したゲストが再び劇場ロビーに登場。感想コメントは下記の通り。(文:若松圭子)
  • 斉藤由貴

「震えました。バレエはセリフがないので、感情は踊りと振付の絶妙なニュアンスで表現されていきます。その中の“余白”の部分は観客に委ねられている気がして。余白の部分から想像が膨らみ、惹きこまれて……。ただ観せられるのではなく、“あなたはどんな風に感じますか?”と提示されているように感じました」

  • デヴィ夫人

「熊川哲也さんは革命児ですよ! 第1幕でピンカートンに日本への出向命令が下り、婚約者を本国に置いていったという場面を加えたことによって、とてもドラマティックなストーリーになっていましたね。これは海外で上演されたとしても、みなさん物語を素直に理解できるでしょう。とても喜ばれると思いますよ」

  • コシノジュンコ

「第1幕のアメリカのシーンは、ポップというか、面白いことをやったなあという感じで、びっくりしました。水兵たちの軽快な踊りがチャーミングで可愛くて。バレエならではの良さが現れていて感動しました。ミラノ・スカラ座などで『蝶々夫人』が上演される時には、みなさん『蝶々夫人みたいな気分で観に行く』って言うんですよね。それを真似して、私も今日のドレスは蝶々夫人の気分で選びました(笑)」

  • 三田佳子

「私も舞台で花魁を演じたことがあるんです。花魁道中の場面を観て、その時のことを思い出しました。(練り歩く動作を真似て)トゥシューズで、こう、クッと。あれは素晴らしかったです。日本の所作を上手く取り入れた演出が見事でした」

  • トリンドル玲奈

「何から何まで美しい舞台でした。印象的に残ったのはラストシーンです。悲しいのに美しさと繊細さに包まれて、心が洗われたような、綺麗になったような気がしました。熊川さんがこんなに繊細で美しいものを作られる方であることに、すごく感動しました」

  • 瀧川鯉斗

「落語は“話芸”。それに対してバレエは言葉を使わない。自分とは真逆の舞台でとても勉強になりました。高座では座布団に座っていますけれど、膝の先まで表現者としてお客さんに伝えたいなと思いましたし、お客さんに伝えるという“熱”は、僕も同じだなと共感も覚えました」

公演の詳細
Kバレエカンパニー「マダム・バタフライ」
2019年9月27日~29日 Bunkamura オーチャードホール
2019年10月10日~14日 東京文化会館 大ホール

HP: http://www.k-ballet.co.jp/performances/2019madame-butterfly.html

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