Videographer: Kenji Hirano
本日(2019年10月19日)開幕した新国立劇場バレエ団『ロメオとジュリエット』。
バレエチャンネルでは開幕直前のリハーサルに励むダンサーたちの表情を取材。その動画レポートをメインキャストのインタビューとともに3回連続でお届けしています。
ラストは本日開幕初日を飾った主役カップル、小野絢子と福岡雄大の登場です。
ふたりは10月24日(木)13:00公演と10月26日(土)18:30公演でも主演を努めます。
この作品を何度も踊り、掘り下げてきたおふたりだからこそのお話。
取材をしながら、胸がいっぱいになりました。
Interview 3:Romeo&Juliet
小野絢子(ジュリエット)×福岡雄大(ロメオ)
- おふたりの役の解釈について聞かせてください。ジュリエットはどんな女の子で、ロメオはどんな男の子だととらえて演じていますか?
- 小野 ジュリエットはとても心が強い少女で、まだ14歳なのですが、最後にはもうその年齢であることが信じられないほど大人の女性に成長してしまいます。演じていて私自身がちょっと追いつけないと感じるほどですね。
福岡 ロメオは15〜16歳くらいの少年で、平和主義的なところや友達思いの優しい性格といった人物設定がありますが、僕は自分のなかですら役のイメージをギチギチに決めてしまうのが好きではありません。もちろん「こう演じたい」というものは胸のうちに持ってはいますが、毎日、毎回、毎時間、違う感覚で踊ってもいいのではないか。それを観たお客様がそれぞれの印象を抱いてくださるのが、僕はいちばん理想的だと思っています。
- 福岡さんは、別の日にはティボルト役も演じますね。
- 福岡 今回の上演にあたり指導に来てくださっている先生が、それぞれの役の人物像や設定、バックグラウンドについてとても詳しく話してくださったんですね。今回はそのお話をもとに役作りをしています。ティボルトは19歳で、キャピュレット家の跡継ぎ。そしてロメオたちにとっては家同士の関係で敵になるように教育されてきた相手ではあるけれども、必ずしも“悪役”というわけではない。みんなよりも少し先に大人になったために意気がったところがあると。僕たち演者もそうなのですが、一部のお客様のなかにも、できあがっている“ティボルト像”があるのではないでしょうか。それを打ち破って賛否両論が出てくるようなティボルトを演じられたらと思っています。
- 小野さんはジュリエットとして、福岡さんのロメオをどう感じますか? 福岡さんはロメオとして、小野さんのジュリエットをどう感じていますか?
- 小野 まさに「この人しかいない」、そういう感情を起こさせてくれるような情熱的なロメオです。この人の何が好きなのか言葉では言えないから惹かれてしまう、そんな感じもすごくします。彼はもちろん魅力的なのですが、それを超えるパッションがものすごく溢れているので(笑)、それに負けないくらいのエネルギーを私も出していかないといけないなと思っています。
福岡 絢子さんのジュリエットは、可愛いですね。僕にとっては、本当にぴったりな感じがします。もちろん、米沢唯さんや木村優里さんのジュリエットもそれぞれに個性が光っていてどのジュリエットも素敵なのですが、僕はこの絢子さんのジュリエットを全力で愛したいと思う。それだけ魅力的な女性だと感じながら、ロメオを演じています。
- 『ロメオとジュリエット』は本当に最初から最後まで、全編を通して素晴らしい作品ですが、おふたりがとくに大切にしている場面があれば聞かせてください。
- 小野 私は、全部です。もちろん、客観的に考えると「ここがすごくポイントだ」という場面はあるのですが、そこを迎えるまでにどうやって生きてきたかが大切で、そこだけを重視しても良い場面には決してならないと思うんですね。例えばロメオとジュリエットが出会って恋に落ちる瞬間や、第3幕でジュリエットが一人ぼっちでベッドに座り音楽だけが流れているシーンなど、もちろんとても重要だと思っています。でもそれらは結局、そこまでをどう生き抜いてきたかの結果として立ち現れてくるものですよね。だからやはり最初から最後まで、一瞬一瞬、その世界にしっかりと生きていかなくてはいけません。それは本当に難しいのですが、いちばん大事にしていることです。
福岡 僕も絢子さんと同感で、その舞台でロメオというひとりの人生を生き抜くことが作品になる、という感覚です。ロメオとジュリエットは運命的に惹かれ合うのだけれども、ふたりをあのような運命に駆り立てていった周りの人たちのバックグラウンドなども含めて、全部観ていただきたい。本や映画を見ているみたいに観ていただけたらいいなと、本当にいつもそう思っています。
- ラストシーンについて。最後に命が消えていくあの瞬間に、おふたりは何を感じているのでしょうか。
- 福岡 あの場面こそ、観ている方と、演じている僕とでは、感じていることがまったく違うのではないでしょうか。僕は、あえて何も言わないでおこうと思います。
小野 その時に感じる感情はもちろん毎回微妙に違うのですけれども、何度演じても、決して耐えられるようなものではないですね。私自身が経験のしたことのない、それが“悲しみ”なのかどうかさえわからないくらい受け入れられない現実がそこにある。通し稽古でも本番でも本当につらくて、「ああ無事に踊り終えられてよかった」等と感じたことは一度もありません。終わった後もしばらく引きずってしまうくらい、押しつぶされそうになるような感覚をいつも感じています。でもそのニュアンスは毎回本当に微妙に違っていて、彼の顔を見た瞬間にどう感じるのかも、本当に言葉では言い表せないものがあります。それがお客様に伝わるかどうかはわからないのですが、「こうしたら悲しく見える」とか、「こうすれば綺麗に見えるかな」とか、そんなことは一切考えません。あのシーンでは、通常のバレエでは絶対に見せないような表情が自然に出てきます。この作品を通して、私はもしかしたら一生経験できないような感情をも経験しているのかもしれません。
舞台写真:鹿摩隆司
公演情報
新国立劇場バレエ団『ロメオとジュリエット』
期間: 2019年10月19日(土)〜10月27日(日)
会場: 新国立劇場オペラパレス
詳細: 新国立劇場バレエ団『ロメオとジュリエット』特設サイト