バレエを楽しむ バレエとつながる

  • 観る

【インタビュー】東京バレエ団「眠れる森の美女」沖香菜子“優しさ、勇気…オーロラ姫の踊りには妖精たちの贈り物が隠れている”

若松 圭子 Keiko WAKAMATSU

©Shoko Matsuhashi

2023年11月11日、東京バレエ団〈創立60周年記念シリーズ〉第2弾として新制作『眠れる森の美女』が開幕します。東京文化会館での公演を皮切りに、浜松、横須賀、堺の3都市と学校団体貸切3公演を含む全11公演が予定されています。
新制作の総指揮を執る斎藤友佳理芸術監督は2015年の就任後、2016年のブルメイステル版『白鳥の湖』、19年の『くるみ割り人形』と”チャイコフスキー三大バレエ”の新制作にも次々と着手。その最後を飾る今作は、衣裳製作総数延べ600着以上、出演者は子役やエキストラを含め延べ100名という大作です。

今回オーロラ姫を踊る3人のダンサーから、プリンシパルの沖香菜子(おき・かなこ)さんにインタビュー。出産を経て、このたび1年半ぶりの主演を飾る沖さんに、公演に向けてお話を聞きました。

©Ballet Channel

沖香菜子 Kanako OKI
神奈川県出身。4歳よりバレエを始める。2008年にボリショイ・バレエ学校に留学、10年に東京バレエ団に入団、18年よりプリンシパルを務める。おもなレパートリーは、ブルメイステル版『白鳥の湖』、『ラ・シルフィード』、『ドン・キホーテ』など古典作品の主役、ベジャールの『ザ・カブキ』『春の祭典』ほか。バレエ団初演作品には、子どものためのバレエ『ねむれる森の美女』のオーロラ姫(12年)、ベジャール『第九交響曲』(14年)、ロビンズ『イン・ザ・ナイト』(17年)、『海賊』のメドーラ(19年)、勅使川原三郎『雲のなごり』(19年、世界初演)、『くるみ割り人形』のマーシャ(19年)、クランコ版『ロミオとジュリエット』のジュリエット(22年)、金森穣『かぐや姫』の影姫(23年、世界初演)などがある。

🌹

沖さんは昨年に出産のためお休みし、2023年春には金森穣さん演出・振付の『かぐや姫』で舞台復帰しています。お休みの前後はどのように過ごしていたのですか? また時間の使い方などに変化はありますか?
 舞台出演は控えていましたが、出産の直前までバレエ団に通ってレッスンや『かぐや姫』のクリエーションに参加していました。いままでは自分のリハーサルが終わってから自習をしたり、ポワントをかがってから帰ったり、みんなのリハーサルを見る日もありましたが、いまは少しでも早く保育園に迎えに行って、子どもとの時間を取るようにしています。自分のためだけに使える時間はバレエ団に来ている時、つまり仕事をしている時だけなので、気持ちの切り替えも大事にするようになったと思います。
『かぐや姫』では、帝の正室である影姫を演じました。いままでの沖さんのイメージとはまったく違う、妖艶で芯のある役柄が話題になりましたね。
 最初はなぜ私がこの役? と不思議だったんですけれど、穣さんは「君はこのキャラクターにぴったりだと思っていた」と。その頃同時進行でリハーサルをしていたジュリエット役のほうが意外だ、って言われたぐらいです(笑)。穣さんは新しい私を見つけてくださった。それは自分にとって大きな挑戦となりました。本番の1週間ぐらい前までずっと「優しすぎる」と言われ続け、最初はただ強い女性を演じようとしていました。でも全幕初演のお稽古の時ふと、影姫の強さは自分の中の弱さとか、周りに見せたくない部分を守るためのものかもしれない、と思って。穣さんの求める影姫像にたどり着くまで、ちょっと遠回りをしてしまったけれど、12月の新潟公演では、また少し成長できるのではと感じています。
その12月公演を前に、今回の新制作版『眠れる森の美女』で1年半ぶりの全幕主演を飾ります。新制作にあたり、斎藤友佳理監督が「古典に忠実でありたい」と語っていたひとつがオーロラ姫の踊りです。クラシック・バレエの金字塔とも呼ばれる『眠れる森の美女』。踊りの部分でとくに意識しているところはありますか?
 チャイコフスキー三大バレエの中でも『白鳥の湖』や今回の『眠れる森の美女』にはクラシック・バレエとしての「形」があります。とくに『眠り』第3幕のオーロラとデジレのグラン・パ・ド・ドゥは、まさにクラシック・バレエの形式美の極みです。バレエダンサーでいる限り、「形」はどんなに追求しても終わりがなく、本当に難しくて、けれど絶対に必要なもの。今回に限らず一生追い求めていくのだと思っています。
今回の東京バレエ団『眠れる森の美女』は、新制作につき古典を守るだけでなく、現代の観客に合わせてアップデートされた場面もあると聞いています。とくに第2幕、リラの精の導きで、デジレ王子が眠るオーロラ姫を見つける幻影の場面は大きく変わるそうですね。
 『眠れる森の美女』の中には幻影の場でオーロラとデジレが踊る版もありますが、今回の『眠り』では、ここはオーロラ姫にとっては夢の中という設定です。なので二人は、ほんの一瞬、視線を合わせるだけで手を繋ぐこともありません。動きがないからこそ、とても難しい場面だと思っています。オーロラ姫が夢の中で会っていることは、後にデジレのキスでオーロラが目覚める大事なシーンへと繋っているんです。
「オーロラの目覚め」は二人が現実の世界で再会する場面になるのでしょうか?
 はい。それだけにこの場面では「幻影の場のオーロラ」のすがたをどれだけ印象づけられるかに、かかっていると感じます。表現する手だてが何もないからこそ、どう表現するか。より深く考えていきたい部分です。
目覚めの場面では、「夢の中で見たあの人が、いま私の目の前にいる」と気が付く瞬間を大切に演じたい。ここは例えば、目の中の表情がほんの少しだけ変わる……みたいな、本当に細かな表現が求められます。お互いの存在をゆっくりと確かめ合いながら、次第に気持ちが通い合っていくようすを、温かくて深みのある表現で伝えたいと思っています。

沖香菜子(オーロラ姫)、秋元康臣(デジレ王子)©Shoko Matsuhashi

今回のパートナーは秋元康臣さん。全幕の『眠れる森の美女』のオーロラとデジレとして組んでみた印象は?
 何度かご一緒していますが、秋元さんはそのまま立っているだけでも王子ですし、踊ったら王子そのもの(笑)。だからこそ私も負けないようにというか、なにかを引き出してもらえるような踊りをしたいと思います。オーロラとデジレが踊る場面は決して多くなく、第2幕の目覚めのパ・ド・ドゥと第3幕のグラン・パ・ド・ドゥくらい。だから一つひとつを大切に踊りたいですね。『眠れる森の美女』は『ジゼル』や『ロミオとジュリエット』と違って、物語の背景を演じるシーンが少なく、いかに踊りに乗せて表現できるかが大切です。 秋元さんと話し合いながら、オーロラとデジレの関係性をしっかりと作っているところです。
お稽古で、リハーサルを重ねていくことで、踊りが変わることはありますか。
 相手の演じ方に変化が生まれれば私の踊りも変わります。一つひとつの動きの理由などはリハーサルを重ねて、より役の理解が深まればもちろん踊りが変わりますし、前もって考えていても、その瞬間に差し出された手ひとつによって、その手を取る時の気持ちも変わるんです。以前は踊る前にきちんと決めておきたいほうでしたが、いまはその瞬間に生まれるものを大切にしていくのもいいなと思っています。
リハーサル中、役作りや作品に関しての指導で印象に残った言葉はありましたか?
 コーリャ先生(ニコライ・フョードロフ)が、オーロラ姫は妖精から贈り物としてさまざまな感情をプレゼントされている。そこには優しさも、勇気も、やんちゃな気持ちもあるから、オーロラ姫はそのすべての感情を備えた女性なのだと。だからヴァリエーションを踊っているときも、「ここは優しさの精からもらった優しさの部分を」、「ここは勇気の精からもらった部分を」、って一つひとつを感じながら踊るといい、とおっしゃっていて。いままでそういう視点からヴァリエーションを捉えたことがなかったので、すごく新しい気持ちで挑めています。オーロラの中にはこんなにいろんな感情があるんだな、って。踊るたびにつぎつぎと浮かぶ気持ちを、自分の中で膨らますように演じていけたらと思っています。
最後に、ファンのみなさんにメッセージをお願いします。
 『眠れる森の美女』といえばディズニー作品としても親しまれているので、どなたが観てもきっと楽しんでいただけるバレエだと思っています。もちろんバレエを習っているお子さんにとっても『眠り』は絶対に欠かせない特別なバレエなのではないでしょうか? 今回の新制作版は踊りも素晴らしくて、とくに妖精たちのヴァリエーションや、第3幕のディベルティスマンは、お稽古場で、私も観客のひとりになったみたいに感動してしまったくらいです。舞台セットも衣裳も一新され、東京バレエ団の新たな『眠り』が生まれようとしています。ぜひ劇場へお越しいただいて、非日常の世界をお楽しみください。

公演情報

東京バレエ団
『眠れる森の美女』全3幕 プロローグ付き

※上演時間:約3時間(休憩を含む)

【日程】
<東京公演>
11月11日(土)14:00
11月12日(日)14:00
11月17日(金)13:30
11月18日(土)14:00
11月19日(日)14:00
会場:東京文化会館 大ホール

<浜松公演>
2023年11月23日(木祝)15:00
会場:アクトシティ浜松 大ホール

<横須賀公演>
2023年11月26日(日)15:00
会場:横須賀芸術劇場 大劇場

<堺公演>
2023年11月28日(火)18:30
会場:フェニーチェ堺 大ホール

【おもな配役】
オーロラ姫:沖香菜子(11/11、17、横須賀公演)、秋山瑛(11/12、19、浜松公演)、金子仁美(11/18、堺公演)

デジレ王子:秋元康臣(11/11,17、横須賀公演)、宮川新大(11/12、19、浜松公演)、柄本弾(11/18、堺公演)

カラボス:柄本弾(11/11、12、17、19)、伝田陽美(11/18)

リラの精:政本絵美(11/11、19)、榊優美枝(11/12,18)、中島映理子(11/17)

公式サイトこちら

この記事を書いた人 このライターの記事一覧

NEWS

NEWS

最新記事一覧へ