バレエを楽しむ バレエとつながる

PR
  • 観る
  • PR

【レポート】「マシュー・ボーン IN CINEMA/眠れる森の美女」金子仁美(東京バレエ団)×阿部裕恵(牧阿佐美バレヱ団)トークイベント

バレエチャンネル

初演から10周年を記念し、新たに甦った英国バレエ界の鬼才マシュー・ボーンの話題作『マシュー・ボーン IN CINEMA/眠れる森の美女』。2023年8月25日(金)よりYEBISU GARDEN CINEMAアップリンク吉祥寺ほか全国で順次ロードショーがスタートしたことを記念して、8月29日(火)14時15分の回上映後(会場:YEBISU GARDEN CINEMA)、東京バレエ団ソリストの金子仁美さんと牧阿佐美バレヱ団ファーストソリストの阿部裕恵さんを迎えてのトークイベントが開催されました。

金子仁美さんは2023年11月に東京バレエ団が新制作初演する『眠れる森の美女』でオーロラ姫を、阿部裕恵さんは2023年12月に牧阿佐美バレヱ団が上演する『眠れる森の美女』でフロリン王女と妖精を踊る予定。
マシュー・ボーン版を観ての感想や、自身が演じるバージョンとの比較、『眠れる森の美女』というバレエに対する思いなどについて、ダンサーならではの視点で語り合いました。

東京バレエ団の金子仁美さん(写真左)と牧阿佐美バレヱ団の阿部裕恵さん。トークの司会はバレエチャンネル編集長の阿部さや子が務めました

マシュー・ボーン版のオーロラ姫は“人間らしさ”が魅力

客席のみなさんがいまご覧になったばかりの『マシュー・ボーン IN CINEMA/眠れる森の美女』、おふたりにも事前に観ていただきましたが、率直な感想は?
金子 ひと言でいうと、おもしろい! 古典バレエでは表現できないような照明や衣裳はもちろん、演出や振付も本当におもしろかったです。古典の『眠れる森の美女』は本来プロローグからたっぷり長くて、原典を大切にすればするほど上演時間の長い作品になってしまいますけれど、マシュー・ボーン版は展開が速くて物語がサクサク進んでいく。スピーディで、観ていて飽きないなと感じました。

阿部 私も今回初めて鑑賞させていただいて、クラシック・バレエの『眠り』とはずいぶん違うのが新鮮でした。ミュージカルにも近いところがあって、でもクラシック・バレエの良いところも取り入れていて。観ていて飽きない作品だなと思いました。

とくに印象に残ったシーンや、古典の『眠り』を知っているからこそ驚いたシーンは?
金子 たくさんあったのですが、まずはプロローグで赤ちゃんのオーロラが動くシーンは衝撃でした!
赤ちゃんのオーロラをダンサーと一緒に踊らせるという(笑)。斬新ですよね。
金子 バレエでは乳母が抱いているかベッドに寝かせておくだけなので、赤ちゃんを操り人形にして動かすというのはすごいアイディアだと思いました。

金子仁美さん ©️Ballet Channel

阿部さんはどうでしょう?
阿部 私がいちばん印象的で素敵だなと思ったのは、第1幕の宮廷の場面。最初のほの暗い部屋から華やかな宮廷へと切り替わる、その転換の仕方もすごく素敵でした。驚いたのは第3幕の結婚式の場面です。クラシック・バレエであればオーロラと王子の華やかな結婚式で、舞台がパーッと明るくなるシーンなのに、マシュー・ボーン版では暗くて真逆の雰囲気で。「このあと明るくなるのかな……?」と思ったけれど、ずっと暗いままだったのが新鮮でおもしろかったです。
金子さんは11月にオーロラ姫を、阿部さんはフロリン王女と妖精を演じますね。このボーン版で描かれているオーロラや妖精について、ご自身が踊る役と大きく違うところや、意外と似ているところ、演技のヒントになりそうなところなどがあれば聞かせてください。
金子 このボーン版のオーロラはとても人間らしいですよね。姫として自分の思うままに生きてきたのだということを強く押し出した演技で、アカデミックさを求められるクラシック・バレエでは、ここまで人間的に演じることは難しいと思います。ただ、16歳という若さや、望むものは何でも手に入るお姫様ならではの性格みたいなものは、自分の表現にも繋げていきたいなと感じました。
マシュー・ボーン版のオーロラは、森番の青年レオとのラブストーリーを明確に描かれているところも素敵ですよね。
金子 すごく素敵です。ローズ・アダージオの音楽で踊られるふたりのパ・ド・ドゥや、第3幕のアダージオのシーンは本当に感動しました。
阿部さんは、12月の『眠れる森の美女』2回公演のうち1日目にフロリン王女、2日目に妖精を踊ると聞いています。リラを含めて6人いる妖精のうち、阿部さんが踊るのはどの妖精ですか?
阿部 「勇気の精」を踊らせていただきます。プロローグの「妖精たちのヴァリエーション」の場面でいうと、4つ目のソロを踊る役。このマシュー・ボーン版では男性ダンサーが踊っていましたけれど、振付そのものはクラシックのバージョンによく似ていると思いました。
勇気の精というと、両手の人差し指を立てて、刺すような動きをしながら踊る役ですね。
金子 裕恵さん本人はこんなに柔らかい雰囲気だから、ちょっとギャップがありますね。

阿部 (笑)。よくそのように言われるのですが、自分としてはわりと強い踊りが好きなんです。

金子 確かに、『ドン・キホーテ』のキトリとかすごく似合う。

阿部 ありがとうございます。

阿部裕恵さん ©️Ballet Channel

クラシック・バレエではトウシューズで踊ることになりますけれど、マシュー・ボーン版はバレエシューズで踊っています。トウシューズを履いて踊る時と踊らない時では、表現できることや、表現すべきことに違いがありますか?
金子 違いますね。トウシューズで立つには、先端の平らな部分ーー私たちは「ブタの鼻」と呼んでいるのですが、その一点に全体重を集中させることになるんですね。頭からつま先まですべてに意識を行きとどかせてコントロールしないと、踊ることは不可能。床との接地面積が狭いぶん、やはりとても難しいです。とくに上体を使える度合いが、バレエシューズとトウシューズでは変わってくる感じがします。
ちょっと横道にそれますけれど、トウシューズの先端は「ブタの鼻」というんですね!?
金子 ……私だけかな?(笑)

阿部 その呼び方があることは知ってますけれど、私はあまり使っていません(笑)。

ブタの鼻っていう呼び方、すごく可愛いです(笑)。でも数センチの幅しかない楕円の上ですべてをコントロールしているのは、すごい世界だなといつも思います。裕恵さんはどうでしょう?
阿部 バレエシューズとトウシューズでは、表現できることがすごく違うと思います。もともと、トウシューズは軽やかさや宙に浮いているような雰囲気を出すために生まれたもの。今回私が踊らせていただくフロリン王女や妖精といった役はまさに軽やかな表現が必要なので、トウシューズが向いているなと思います。いっぽうマシュー・ボーン版『眠り』のオーロラは、先ほどおっしゃったように人間味がすごくありますよね。そうした人間らしさというのは、床を充分に使って踊ることで表現の幅が広がると思うんです。トウシューズだからこそ表現できる役もあれば、バレエシューズのほうが表現しやすい役もあるな……というのは、今回のシネマを観てあらためて感じました。
なるほど。人間としてのオーロラだからこそ、バレエシューズが良いと。
阿部 はい。トウシューズを履いて踊る役では、(この版のオーロラのように)床を転がったりは……

金子 しないですよね。

阿部 なかなかクラシック・バレエでは出てこない動きが多くて、そこもおもしろいなと思いました。

東京バレエ団と牧阿佐美バレヱ団、それぞれの『眠れる森の美女』

『眠れる森の美女』はクラシック・バレエの金字塔的作品。バレエダンサーなら誰もが通過する作品ではないでしょうか。
金子 そうですね、私にとっても思い入れのある作品です。まずは高校1年生の時、地元のバレエスタジオの発表会で第3幕のみを抜粋上演したんですね。その時にオーロラを踊らせていただいたのが、この役との最初の出会いでした。その後に入学した東京バレエ学校でも、スクールパフォーマンスでローズ・アダージオを。高校生から19歳ぐらいまでの間に培ったものって、身体から離れていかないんですね。血となり肉となって、残り続けるというか。東京バレエ団に入団して初めての舞台も、初主演したのも「子どものためのバレエ『ねむれる森の美女』」だったのですが、その時に「ああ、10代の頃に学んだことが活きているな」と実感しました。この「子ども『ねむり』」はツアー公演もたくさんあって、踊るたびに少しずつ自分が成長できていることも感じられる、私にとって大切な作品です。

優しいバラ色のドレス姿が素敵だった金子仁美さん ©️Ballet Channel

阿部 私は小学校4年生の時にコンクールでローズのヴァリエーションを踊ったのが最初で、その後も発表会などで第3幕を踊らせていただいて。そして昨年出演したガラ公演では、私たちのバレエ団が上演しているテリー・ウエストモーランド版の特色でもある「目覚めのパ・ド・ドゥ」を踊ることができました。すごく好きな作品ですが、とても難しいとも感じています。まだ経験がないのは、第2幕の幻想のシーン。昔から大好きな場面なので、いつか踊ってみたいなと思っています。
バレエ『眠れる森の美女』といっても様々な演出版がありますので、東京バレエ団と牧阿佐美バレヱ団、それぞれが上演するバージョンについても聞いてみたいと思います。まず東京バレエ団がこの11月に上演するのは新制作・世界初演とのこと。どんな感じになりそうですか?!
金子 古典バレエとしてのオーソドックスなものは残しつつ、斎藤友佳理芸術監督がアレンジを加えながら制作をしています。例えばオーロラ姫はあまり変わらないのですが、妖精たちのヴァリエーションなどは、かなり手の込んだ振付になりそうです。
手の込んだ!
金子 リハーサルを観ていて「みんなすごい!」と思うようなテクニックが盛り込まれていたり、1音1音すべてにステップが入っているのでは?というくらい、難しいけれど見ごたえのある踊りになっています。
楽しみです……! いっぽう牧阿佐美バレヱ団の財産的レパートリーと言えるウエストモーランド版は、マリウス・プティパの原典版に忠実に作られたバージョンということでも知られていますね。
阿部 とてもオーソドックスな振付で、マイムもしっかり使われているのが大きな特徴だと思います。例えばカラボスとリラの精のシーンでも、マイムが一つひとつ細かく入っているのでとてもわかりやすく、物語に入っていきやすいんです。舞台装置も衣裳も本当に豪華ですし、いちばんの見どころだと思うのは、先ほどお話しした「目覚めのパ・ド・ドゥ」。王子がオーロラにキスをして、彼女が100年の眠りから目覚めたところで踊られるデュエットです。音楽もとても素敵なので、ぜひたくさんの方に観ていただきたいです。
「目覚めのパ・ド・ドゥ」は本当に美しい曲ですが、上演時間短縮のために割愛されることも多いので、その踊りを堪能できるところもウエストモーランド版の魅力のひとつですね。
阿部 そう思います。「目覚めのパ・ド・ドゥ」はリフトも多くて男性ダンサーにとってはかなりハードだそうですが、それがあるのとないのとでは作品全体の印象が大きく変わる、本当に素敵なシーンです。

阿部裕恵さんもまさにフロリン王女のようなブルーのドレスが似合っていました ©️Ballet Channel

こちらも楽しみです! 金子さんはオーロラ役、阿部さんはフロリン王女と勇気の精、それぞれの役を演じるにあたって大事にしたいことは?
金子 「子どものための『ねむれる森の美女』」は1時間半ほどの短縮版。全幕でオーロラ姫を踊らせていただくのは今回が初めてです。いったいどのくらいの体力が必要なのか……まずはそこが心配です。でも、今回はトリプルキャスト。私を含めて3人のダンサーが日替わりでオーロラ姫を演じますので、三者三様、私は私にしか出せない表現や、これまで培ってきたものを最大限に出し切れるように挑みたいと思います。
東京バレエ団が新制作する『眠れる森の美女』、その全貌は私たちにもまだわかりません。でも、きっと東京バレエ団ならではのオリジナリティのある良い作品になっていくと思います。みなさん、ぜひ劇場に観にいらしてください!阿部 勇気の精では、オーロラ姫を温かく守っているような雰囲気を出せたらと思っています。そしてフロリン王女については、バレエ団の舞台で踊らせていただくのは今回が初めてなんです。私は個人的にブルーが大好きなので、衣裳が素敵なのも嬉しいですし、『眠り』3幕の豪華な雰囲気の中で踊らせていただくのも楽しみ。フロリン王女が出てきた瞬間、がらりと空気が変わって静かになり、しっとりとした音楽でパ・ド・ドゥが始まるーーあの雰囲気が私自身とても好きなので、自分もそのような表現ができたらいいなと思っております。
私たち牧阿佐美バレヱ団の『眠れる森の美女』は、いちばん伝統的でオーソドックスなものを守り続けてきたバージョンです。今回は英国ロイヤル・バレエから素晴らしいゲストをお招きしての舞台になりますので、みなさんぜひご覧ください!

この日が初対面だったという金子さんと阿部さん。そうとは思えないほど終始和やかなムードで楽しいクロストークでした ©️Ballet Channel

上映情報

『マシュー・ボーン IN CINEMA/眠れる森の美女』

【STORY】1890年、子宝に恵まれない不幸な国王と王妃は、闇の妖精カラボスの力を借りてオーロラ姫を授かった。しかし、国王夫妻が妖精への感謝の気持ちを忘れたがために、カラボスはオーロラ姫に恐ろしい呪いをかけた末に王国を追放される。
時は流れ、やがて美しく成長したオーロラ姫は森番の青年レオと密かに愛を育んでいたが、母カラボスの復讐を誓った息子カラドックが現れ、再び呪いによって長い眠りについてしまう。そして100年の歳月が流れた現代、遂にオーロラ姫が眠りから目覚める時が近づいていた…。

【プロダクション】演出・振付:マシュー・ボーン 音楽:ピョートル・チャイコフスキー 舞台・衣装デザイン:レズ・ブラザーストン 照明:ポール・コンスタンブル 音響:ポール・グルーサス 指揮者:ブレット・モリス

【キャスト】オーロラ姫:アシュリー・ショー レオ:アンドリュー・モナハン ライラック伯爵:パリス・フィッツパトリック カラボス/カラドック:ベン・ブラウン

撮影場所:サドラーズ・ウェルズ劇場/撮影時期:2023年1月
上映時間:105分
提供:TRAFALGAR RELEASING
配給:ミモザフィルムズ 配給・宣伝協力:dbi inc.
後援:ブリティッシュ・カウンシル
© Illuminations and New Adventures Limited MMXXIII

『マシュー・ボーン IN CINEMA/眠れる森の美女』
2023年8月25日(金)よりYEBISU GARDEN CINEMAアップリンク吉祥寺ほか全国順次ロードショー

▶オフィシャルサイト
http://mimosafilms.com/mbcinema/

【NEWS!】マシュー・ボーン インタビュー動画公開!

演出・振付を手掛けたマシュー・ボーン自身が『眠れる森の美女』のプロダクション制作背景を語るインタビュー。ボーン版『眠り』ならではのユニークな設定や物語のテーマについても触れています(日本語字幕付き)。
作品鑑賞のお供に、ぜひご覧ください!

動画提供:ミモザフィルムズ

公演情報

東京バレエ団『眠れる森の美女』

【東京公演】
会場:東京文化会館 大ホール(上野)

2023年
11月11日(土)14:00
オーロラ姫:沖香菜子
デジレ王子:秋元康臣

11月12日(日)14:00
オーロラ姫:秋山瑛
デジレ王子:宮川新大

11月17日(金)13:30
オーロラ姫:沖香菜子
デジレ王子:秋元康臣

11月18日(土)14:00
オーロラ姫:金子仁美
デジレ王子:柄本弾

11月19日(日)14:00
オーロラ姫:秋山瑛
デジレ王子:宮川新大

※上演時間:約3時間(休憩含む)

【全国公演】

●浜松公演(静岡県浜松市)
11月23日(木・祝)15:00
会場: アクトシティ浜松・大ホール
オーロラ姫:秋山瑛
デジレ王子:宮川新大

●横須賀公演(神奈川県横須賀市)
11月26日(日)15:00
会場:横須賀芸術劇場・大劇場
オーロラ姫:沖香菜子
デジレ王子:秋元康臣

●堺公演(大阪府堺市)
11月28日(火)18:30
会場:フェニーチェ堺・大ホール
オーロラ姫:金子仁美
デジレ王子:柄本弾

※上演時間:約3時間(休憩含む)

【詳細】
NBS公演WEBサイト

【問合せ】
NBSチケットセンター
TEL:03-3791-8888(10:00~16:00 土日祝・休)

🌹

牧阿佐美バレヱ団『眠れる森の美女』

【日時】
2023年
12月2日(土)15:00
12月3日(日)15:00

【会場】
東京文化会館 大ホール(上野)

【詳細】
牧阿佐美バレヱ団WEBサイト

【問合せ】
牧阿佐美バレヱ団 公演事務局:info@maki-ballet.jp
TEL:03-3360-8251(10:00~18:00 土日祝・休)

この記事を書いた人 このライターの記事一覧

NEWS

NEWS

最新記事一覧へ