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小林十市エッセイ特別編!「その後、十市はどうなった?」

小林 十市

〈バレエチャンネル〉が創刊されて間もなくの2019年9月から約3年間にわたり、大人気連載エッセイ「南仏の街で、僕はバレエのことを考えた。」を綴り続けてくれた小林十市さん。
2022年8月より古巣のベジャール・バレエ・ローザンヌ(BBL)のバレエマスターに就任し、連載は2022年7月で最終回を迎えました。

……が! なんとその十市さんから、日本時間の今朝(今日は2022年12月24日です)突然、「ローザンヌから南仏に戻る電車の中で何気にパソコンを開いて文章を書き始めたら、こういうのが書き上がったので」と、原稿が届きました……!

十市さんからの思いがけないクリスマスプレゼントを、読者のみなさまへ。

その後、十市はどうなった?

ボン・ヴァカンス!
実感がない、ヴァカンス、ヴァカンスなのか?

ベジャール・バレエの2022-2023シーズンが始まってから4ヵ月が経った。

まず2022年812日にローザンヌに着いてからは、アパートのことや銀行口座開設、電話、住民登録などなど色々な手続きが続き、17年ぶりにローザンヌで生活をするための準備に追われていた。思考が現実に追いつかない感じで夢っぽい期間だったかもしれない。

そしてシーズン始め、僕にとって運が良かったのは、受け持つのが『火の鳥』のリハサールからになったことだ。そのひと月前に東京バレエ団で指導をしていた僕はビデオで振り確認をしなくても作品をすべて把握していたし、東京での公演の成果を芸術監督のジル(・ロマン)も観ているので、「同じように」と任せてくれたことがありがたかった。なのでダンサーたちから一種の信頼を得るには都合が良かったのだ。今シーズンのレパートリーにはその他にも『ギリシャの踊り』や『バレエ・フォー・ライフ』と僕も踊ったことがある作品ばかりだ。ジルの作品もドメニコ(・ルヴレ)がリハーサルを受け持ち、一緒に見ながら覚えていった。それとジルが気を遣ってくれて、シーズン始めはゲスト教師を呼んで僕がクラスを教える負担なくリハーサルに集中できるよう計らってくれていた。

そしてジルがリハーサルを見る時は、ジルの左側に座り、ノートを取る。これは作品を中断しないで後で注意点を伝えるための「ダメ出しノート」なのです。
ジルの左側に座るのは僕が左利きで右耳の方が聞こえが良いから。

そんな感じで最初の3週間が過ぎ、そしてシーズン最初のツアーに出発した。
そこはイタリアのトリノ!
ツアー? ツアー! わあ、懐かしい響きじゃないですか! と、心が躍る想いだった。

ローザンヌからトリノまではバスで移動をした。
移動中はレッスン内容を考えてノートに書き出していた。僕のレッスンはジル曰く、「タンデュが多いし、口うるさくないし、全体のリズムもいいからバレエ団に合っているんじゃないかな」だそうで(笑)。とりあえず良かった。
一応、その時踊っているレパートリーや、みんなの状態を考えてレッスン内容を構築しているけど、教えている期間中は割とレッスン内容ばかり考えてしまって、他のことが手薄になる。ゲスト教師が教えるときは自分もレッスンを受けてトレーニングをする(もちろん!)。

トリノは1998年『くるみ割り人形』の初演以来だった(多分……)。
この12月のローザンヌ公演の時は、ジルと一緒に客席で本番を観ていたけど、それまでの公演は、ジルは人前に出るのを嫌がっていつも袖で観ていた。なのでトリノでも他の公演もそうだったけど、僕は客席で観て、気が付いたことがあればノートに書き出して、それをジルに伝え次の公演に備えた。

ジルの横にいてノートをとる作業は大変に頭を使う(笑)。
聞き逃さないことが第一だけど、ノートもとりながらすべてを見られるわけではないので、ジルがどちらの方向を見ているか? それが結構大事なポイントで。なのでスタジオでは少しジルの後方に座りジルの頭の向く方向も気にしながらノートを取る。

この間のローザンヌ公演では本番中で声が小さめなジルの言葉が聞き取れない時があったので、どこの場面かだけを記しておき、休憩中や終演後にあらためて聞くということをやった(汗)。あくまでも作品を次の公演をより良くするためなのだから当たり前だ(のクラッカー……古い! いらない!)。

そんな「ダメ出しノート」はヴァカンス前には4冊目になっていた。 

さて、トリノの後は、スイス国内、スペイン、イタリア、またスイス国内と公演が割と続いた感じがしたけれど、12月のボーリュ劇場での『わが夢の都ウィーン』まで約1ヵ月と少しの間、公演がなかった……。自分の現役時代からすると恐ろしく公演回数が少ない。ツアーへ出ても多くて3公演、2公演、1公演と、数回しかないし。なので、ダンサーたちも、1回の公演に緊張し、発散し、疲労する……みたいな流れで、怪我も多くなりがちで悪循環かもしれないと思った。僕らの時代は舞台回数が多く、舞台上で力をつけて行っていたから。まあ、比べたところでどうにかなるわけではないけれど……。 

ジルの中で「十市は写真を撮る人」と定着してきた感じです。撮っては毎回ジルに送るんですけど、彼はそれを娘さんに送るらしい。「喜ぶから!」と。

スタジオでの稽古は、基本ドメニコ、自分、エリザベット(・ロス)で担当を分けて、ジルは総まとめ的な感じ。ただ舞台が始まると、エリザベットは踊るし、ドメニコは舞台監督で袖でキューを出す。なのでジルの横には自分がいつもいることになる。

バレエ団を辞めてから19年経つわけだけど、継続的にローザンヌには顔を出していたし、BBLの来日公演があれば観に行っていたし、外のバレエ団への振付指導だったり、日本で活動していても、太くはなくても繋がりみたいなものは常に合ったように思う。なので、今こうしてジルのアシストをし、バレエマスターという職についていることは、不思議でもあると同時にスッと腑に落ちる部分もないわけではない。

ただ、やはり、いつもどこかに「いつかまた踊りたい」という気持ちは残っているわけで、この仕事がずっと続くとは思っていない。それは自分から辞めるとかそういうことではなくて。ジルがこの4ヵ月の間に2回「65歳になったら定年退職だ~」みたいなことを仄めかすので、もしかしたら? そうなの? だったら自分もそこまでは付き合おう……って(ジルは今年62歳になった)。いや、わからないですよ、どうなるのか実際? そういうのもありだと思うけれど、で、ジルは好き勝手にベジャール作品を指導しに行って、気楽に過ごせば良いわけだから……。

 今シーズンからバレエ団の体制が変わったんです。人事部ができたり色々。
そんな節目に戻ってきた自分はある意味ラッキーだったなって思います。

ローザンヌの街をバイクで走れるのは喜びでしかありません!厳しい車検を経てスイスナンバーに変更しました。

この4ヵ月間で変わったこと。
まだ、正直わからない。最初の1ヵ月目は周りに少し心配されたほど痩せた!?(実感ないけどそうだったらしい)でも今は腹回りも安定してきているので、精神のほうもそれに比例しているだろう(笑)。

思ったのは、僕はバレエマスターという肩書きはあるものの、バレエ団をどうするとか次世代を育てるとか、そういういわゆる王道的な目的のためにいるわけではなく、ジルをサポートするためにいるんだなあ、って感じました。その一点に尽きるのかもしれません。まあイコール、バレエ団のためにもなっている的な。

ちょっと振り返り、自分的な感想を書いてみましたが、ふだんツイッターに色々投稿しているので、シーズン始めからフォロワーの皆様にはツアー先での写真だったり、つぶやきは見ていただいていると思います。最初はね、バレエ団内のことをSNSに投稿するのは禁止されているから……と控えめでしたけど、ちょっとすると自分の「ねえ~見てみて~!症」が発動して色々載せましたね結局(笑)。インスタグラムのほうは気をつけていたんですけど、ツイッターはバレエ団の人はジュリアン(・ファヴロー)以外誰も僕をフォローしていないので、回数が増えていきました。

ああ、久しぶりに文章考えました(笑)。
はい、これを書いているのは移動の電車の中です! ローザンヌ→ジュネーヴ、ジュネーヴ→ヴァランス、ヴァランス→オランジュ、なんですけど、じつはここ数日突然熱が出まして、38度とか! 抗原検査では陰性で、症状も熱だけなんです。
それでこの時期恒例のフランス国鉄のストライキがあって、その影響で電車も満席状態です。で、キャンセルになっている電車もあるんですけど、僕のは大丈夫で。

今朝も熱があってボーッとしていたのでクリスティーヌが心配しまして。ヴァランスで降りたら乗り換えてオランジュまでなんですけど、ヴァランスまで迎えに行くってクリスティーヌが言うんですよ、だからOKじゃあよろしくねって言ってさっきヴァランスで降りて、どこにいるの?って聞いたらなんか全然違う建物の話するのでよく見たらヴァランスTGVっていう駅で、僕ひと駅早く降りちゃったんです!(汗)

で、今、迎えを待っています。ただ相当道が混雑しているらしく、予定通り乗り換えて電車で帰ったほうが早く着いていましたね。でもイライラしても何も変わらないので、家族3人一緒になれる喜びだけに集中します。 

皆様、良いお年をお迎えください。

お読みいただきありがとうございます。

あ、

ひとつ、内心とても喜んでいることがあり……それは!?

毎月のお給料!!(笑)

お後がよろしいようで……。

小林十市

この記事を書いた人 このライターの記事一覧

元ベジャール・バレエ・ローザンヌ、振付家、俳優。 10歳より小林紀子バレエシアターにてバレエを始める。17歳で渡米し、スクール・オブ・アメリカン・バレエに3年間留学。20歳でスイス・ローザンヌのベジャール・バレエ・ローザンヌに入団。以後、数々の作品で主役をはじめ主要な役を踊る。2003年に腰椎椎間板変性症のため退団。以後、世界各国のバレエ団でベジャール作品の指導を行うほか、日本バレエ協会、宝塚雪組などにも振付を行う。また舞台やテレビ、映画への出演も多数。 2022年8月、ベジャール・バレエ・ローザンヌのバレエマスターに就任。

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