「Kバレエユース」は、熊川哲也芸術監督がKバレエスクール10周年を迎えた2013年に、生徒からプロフェッショナル・ダンサーになるための、セカンド・ステップの場として創設されました。
2年に一度、全幕作品を上演してきたKバレエユースが、節目となる第5回目の公演に挑むのは『ドン・キホーテ』。公演はプロフェッショナルと同等の環境ーー広いオーチャードホールの舞台、Kバレエカンパニーの衣裳・美術、オーケストラの生演奏で行われます。参加するメンバーは、厳正なオーディションによって選ばれたプロを含む13〜23歳(*)のダンサーたち。
約1年にわたるリハーサルでは、作品をより深く理解するために作品の歴史を専門家から学び、スペインの民族舞踊フラメンコを習うなど、特別講義も行われました。
今回は、「Kバレエユース」の活動について前田真由子芸術監督にインタビュー。11名の出演メンバーには作品のこと、この1 年で経験してきたことを伺ってきました!
本記事トップの動画と併せて、ぜひお楽しみください。
(*)これまでは22歳までだったが、コロナ禍の影響により昨年の公演が中止になったため、従来の22歳から23歳に年齢を引き上げた
写真・動画撮影:古川真理絵(バレエチャンネル編集部)
動画編集:平野絢士
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芸術監督インタビュー 前田真由子(まえだ・まゆこ)
- Kバレエカンパニーでは芸術監督補佐を長年務めていらっしゃいますが、Kバレエユースの芸術監督は今回が初めてですね。
- 前田 Kバレエユースの活動には第1回目から携わってきましたが、芸術監督を務めるのは5回目にして今回が初めてです。芸術監督という仕事もずっと熊川総監督のそばで見てきましたが、こうして自分で経験してみると、いかに重要な任務かということに気づかされます。キャスティングひとつをとっても冷静な判断力や決断力が問われますし、私自身も学ばせてもらっています。
- 芸術監督として心がけていることはありますか?
- 前田 出演者は学生が多いので、リハーサルは毎週日曜日のみと、ダンサーたちと会える時間が限られているんです。ですからバレエマスターやバレエミストレスとしっかり情報をシェアして、ダンサー約90名全員のちょっとした変化も見逃さないように気をつけています。彼らを引っ張っていくというよりも、見守りながら、ダンサーの持っているエネルギーを押し上げる。そういうサポートの仕方を心がけることが、ユースにおける芸術監督の役割だと感じています。
- 今回の公演に取り組む上で、若いダンサーたちがとくに苦労しているのはどんな点ですか?
- 前田 「スペイン人になりきること」ですね。とくに第1幕の街の広場や第2幕の酒場のシーンでは、アンサンブルも舞台の上で役を演じ続けなければなりません。ただ立っているだけでスペイン人の雰囲気をナチュラルに出さなければならないのが、最初の難関でした。上体のツイスト、首の付け方、目線など、教師たちがお手本を見せてヒントを与えたりもしましたが、できる限り自分たちの発想力で役にアプローチして欲しいし、それがプロになっていくための訓練にもなるんです。最初は迷いが見えたり、自分の殻に閉じこもり気味だったりする部分もありましたが、今は本人たちも自由に楽しんで演じているのが伝わってきます。一人ひとりが舞台の中で生きるということを、ちゃんと理解してくれているのだと思います。
- 今回のバジル役は、Kバレエカンパニーの若手ダンサー、栗原柊さんと金瑛揮さんですね。
- 前田 今回のオーディションは、Kバレエスクール生→外部生→Kバレエカンパニーに所属する23歳以下のダンサー、という順で行いました。合計200名ほどの応募の中からバジルに選ばれたのが、Kバレエで活躍する二人でした。栗原さんは踊りを見た瞬間に「バジルにぴったりだな」と思った覚えがあります。テクニックはもちろん、彼自身とてもチャーミングで、キャラクターがそのまま生かせるのではないかと。金さんは内に秘めているものがすごく強いダンサーです。きっと舞台で弾けてくれると期待しています。
- キトリ役は梅木那央さん、清水利静さんです。キャスティングの決め手となったのはどんな点ですか?
- 前田 梅木さんはまだ17歳ですが、パッと目を引く華やかさがあります。学ぶ姿勢も人一倍強く、彼女のキトリが見たいと思いました。もう一人のキトリ役・清水さんもテクニックは問題なし。何より「キトリ役を演じたい!」という気持ちが全面に出ていました。今もスタジオに最後まで残って練習していますし、バレエに対する並々ならぬ熱量を感じます。
- プロを目指すダンサーにとって、Kバレエユースの活動はどのような意義があると考えていますか?
- 前田 過去4回の公演を通じて一番感じるのは、一回の舞台がダンサーを一気に成長させてくれるということです。ユースに参加するダンサーは、大半が舞台経験の少ない生徒ですから、プロと同じ大きな舞台で、しかもオーケストラ演奏で観客の前で踊るのは、すごくプレッシャーだと思います。でも、そのプレッシャーをはねのける力が舞台で発揮された時……その爆発力には、プロの公演とはまた違った感動があります。怖いもの知らずで、自ら壁にぶつかっていこうとするエネルギー。それは若い彼らにしか出せない、一瞬の輝きなんです。
ユースのメンバーたちの姿を見ていると、約1年前と比べて、技術だけでなく精神面もすごく成長したと思います。次のステップへの架け橋として、ユースはとても意義のある場所だと感じています。
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出演ダンサー11名にインタビュー
上段左から主演する梅木、栗原、清水、金/中段左からメルセデス、エスパーダ役の黒﨑、井隅、田中、鈴木/下段左から中村、永山、二宮
キトリ[7/30]梅木那央(うめき・なお)
17歳。Kバレエユース公演への出演、全幕作品の主演は今回が初めて
スクール生のうちに全幕バレエを踊れる機会はなかなかないこと。これはチャンスだと思い応募しました。
私が思い描くキトリは、愛嬌があって可愛らしいけど、ちゃんと芯もある強い女の子。フラメンコを踊るスペイン人のような挑戦的なまなざしや、情熱あふれる踊りを表現できるよう意識しています。
Kバレエユースは全員で作り上げて行こうという気持ちが本当に強いです。仲間たちからエネルギーをもらえるのも全幕ならではの経験で、アンサンブルのダンサーたちが私の踊りに指鳴らしや手拍子でリアクションしてくれると、一人ではないと思えます。当日はテクニックばかりに集中せず、物語に気持ちを乗せてキトリを演じたいです。
キトリ[7/31]清水利静(しみず・りせ)
16歳、Kバレエスクール生。ユースの参加は2回目。前回は『くるみ割り人形』より「中国の踊り」で出演
私は姫系より元気はつらつな村娘のほうが、自分の性格と合っていて踊りやすいなと感じます。ジャンプや回転も得意なほうで、キトリは踊っていて一番楽しいと思える役です。いっぽうドルシネア(熊川版ではキトリとして登場)は、これまでに踊ってきたことのないキャラクター。「素の自分」を消して、空気のようにしなやかに踊らなくちゃ……と思って練習していたのですが、プリンシパルの日髙世菜さんが、こんなアドバイスをしてくださったんです。「夢の中で登場する役だけど、キトリの部分を残して、アクセントをつける時は強さもあっていい」と。ドルシネアにもキトリの面影が見えたほうが、ドン・キホーテが二人を錯覚してしまうのもうなずけます。なるほどな、とすごく納得できました。
ユースのリハーサルで先生方からたくさんのアドバイスをいただき、やはり基礎が一番大事だと気づきました。ふだんのクラス・レッスンを受ける意識も大きく変わりました!
バジル[7/30]栗原柊(くりはら・しゅう)
21年2月よりKバレエカンパニーにファースト・アーティストとして入団。主な出演作は『ロミオとジュリエット』のマキューシオ。ユースは初めての参加となる
主役は観客にずっと見られているので、一瞬たりとも気が抜けません。精神的にも体力面にも、とてもきついのは確かです。でも、この仕事をしている以上、注目されるのが嫌な人はいないと思うんです。しんどさもあるけれど、それ以上にダンサーとしてのやり甲斐を感じています。
カンパニーでプロとして踊るのと、Kバレエユースで踊るのとは、緊張のベクトルが違います。プロは「できて当たり前」。その中で仕上げていく厳しさがあります。いっぽうユースはまだ発展途上の若いダンサーが多いから、彼らの成長を肌で感じられて刺激的。僕ももっとチャレンジしたい!という気持ちになるんです。キトリ役の梅木さんは、言われたことを受け止める吸収力がすごい。それでいて、自分の中で決めたことは絶対ブレない強さもあるから、一人のダンサーとしてとても尊敬しています。このフレッシュなメンバーで舞台に立った時、みんながどう変化するのかが本当に楽しみ。僕も22歳の今しか出せないバジルを演じたいと思います!
バジル[7/31]金瑛揮(キム・ヨンフィ)
18年9月よりKバレエカンパニーにアーティストとして入団。Kバレエスクール生時代、ユース第3回公演『眠れる森の美女』(17年)のブルーバードを、第4回公演『くるみ割り人形』(19年)で雪の王を踊った
バジルの振付には、同じタイプのステップが何度も出てきます。でも、それを踊る曲調が全然違っているんですよ。ロマンティックな曲だったり、アップテンポな曲だったり……同じステップでも雰囲気を変えつつ音楽的に見せなければならないのが、一番難しいところだなと感じています。熊川哲也ディレクターからも「動きがシャープに見えるように、ポーズは流さずはっきりきめるように」など、バジルを踊る上での大事なポイントをアドバイスしていただき、一つひとつ心に留めています。
これまで段階を踏んで挑戦を続けてこられたおかげで、今回は少し心身に余裕ができているように思います。スクール生の時はただ食らいついていくことに必死で、目の前のことしか見えていませんでした。でも今は主役でもありますし、全体を見渡して、みんなを引っ張っていこうという意識が芽生えています。
メルセデス[7/30]、森の女王[7/31]井隅萌(いすみ・もえ)
Kバレエスクール生、20歳。ユースは今回が2回目の参加
メルセデスと森の女王という、まったく違うキャラクターに挑戦します。より難しさを感じているのはメルセデスのほう。足を一歩出すだけで場の空気を変えなければいけないのですが、その一歩の出し方がわからなくて……歩き方に一番苦戦しています。これまで演じたことがないタイプの役なので、いろんなメルセデスの動画を見ては、自分なりの表現に落とし込めるよう日々研究しています。
これまでの私はイメージばかりが先行して、全部頭の中で完結させているだけで、肝心の「動き」として表現できていなかったように思います。今回は、イメージと実際の動きとの間にズレがないか、徹底的にチェックしています。ユースに参加するダンサーは練習熱心な人ばかり。そんな仲間たちに私も感化されて、良い刺激をもらっています。
メルセデス[7/31]鈴木里佳子(すずき・りかこ)
アメリカ・インディアナ育ち。13歳でバレエを始めるも、日本のバレエ教育を受けるため数年前に帰国し、現在はKバレエスクールに通う。ユースは初参加
メルセデスは、オーディションを受ける時からやってみたいと思っていた役でした。でも実際に演じてみると、表情ひとつとっても難しく、動きには柔らかさも強さもあって、そのバランスが本当に難しいです。私にとっては、ひとつの役を作ることじたいが初めての経験。最初は動きしか追えていなかったけれど、今は出番の前に情景をイメージして、「私は里佳子じゃない、メルセデス」と心の中で唱えてから出ていくようにしているんですよ。その成果か、少しずつですが演技も自然になってきたかな?と思っています。
一緒に踊るエスパーダ役の田中さんはプロのダンサーですが、常に役のことを考えている、追求心の強いダンサー。そのプロフェッショナルな姿勢にも学ばせてもらっています。
エスパーダ[7/30]黒﨑空哉(くろさき・くうや)
Kバレエスクール生。ユースの第4回公演『くるみ割り人形』(19年)では「ロシアの踊り」で出演する
エスパーダは自分より年上のキャラクターですから、大人の男性を演じなければと、最初は肩に力が入っていました。でも、前田真由子芸術監督に「若いエスパーダを演じてもいい」とアドバイスをいただいてから、19歳の僕だからこそできるエスパーダを演じてみようと思えるようになりました。役柄の解釈や、立ち位置をしっかり理解して踊るというのも全幕ならでは。この経験は、コンクールなどでヴァリエーションを踊る時にも役立っています。
この3年ほどはコロナもあり、バレエという芸術は必要とされてないのかな?と不安に思ったこともありました。だけどバレエは僕がこれまで唯一継続してやってきたことで、今はユースという大舞台が心の支えにもなっています。全力でエスパーダをやり遂げたいです。
エスパーダ[7/31]田中大智(たなか・だいち)
18年9月よりKバレエカンパニーにアーティストとして入団。ユースの公演は第2回から参加。第4回公演『くるみ割り人形』(19年)では王子/くるみ割り人形で主演を務める。
エスパーダは登場しただけで舞台の空気を一変させる、唯一無二の存在。情熱的で真っ赤に燃え盛るような部分があるいっぽうで、青い炎のようにクールな一面もあると思うんです。その二面性を表現したいですね。
一緒にエスパーダを踊る黒﨑さんとも、お互いにアドバイスし合いながらリハーサルしています。僕もエスパーダは初めてですし、プロとスクール生の間に壁は作らないようにしています。もちろん、今回はプロとして参加しているので、その自覚や責任感はしっかり持って。その上で一緒に切磋琢磨して、このメンバーでいい舞台を作り上げたいと思っています。僕にとってユースは初心に帰れる大切な場所。プロになってから、さらに感謝の気持ちが増しました。
キューピッド[7/30]中村咲菜(なかむら・さな)
Kバレエスクール生、15歳。ユースの公演は子役として出演経験あり。
キューピッドのヴァリエーションを踊ったことはありますが、全幕で演じるのは初めてのこと。「夢の場」ではひっきりなしに登場するので体力的にもきついです。アップテンポの曲に乗って、軽さを出さなければならないのも難しいところ。小さいパ・ド・シャは空中でポーズが止まって見えるように、プリエは浅くして空中での滞空時間を長くとれるようにと、音の取り方を工夫しています。ダブルキャストの中尾咲くらさんとテクニック面でアドバイスし合ったりできるのも刺激になっています。
アンサンブル[7/30、31]永山稀恵(ながやま・きえ)
大阪出身。オーストラリアへのバレエ留学を経て、2021年から東京の大学に通う。外部生。ユースは初めての参加
「夢の場」のコール・ド・バレエ(ドライアーズ)は、ずっとアンダーだったのですが、数週間前(編集部注・取材は7月上旬)に急遽正式メンバーとして入ることになりました。周りのみんなは仕上がっている上に、熊川哲也ディレクターの振付はとても難しいので、毎回緊張しながらリハーサルに臨んでいます。1ミリたりともずれないよう、前後のダンサーをしっかり感じて、呼吸を合わせる。みんなで作り上げていく一体感がとても楽しいです。
アンサンブル[7/30]二宮百花(にのみや・もか)
Kバレエスクール生、14歳。ユース初参加
幕が進むにつれてどんどん盛り上がっていく……熊川版『ドン・キホーテ』のあの世界にダンサーとして参加できるのが、本当に楽しいです。ただし、体力やお芝居、ダンスシーンでも、課題はたくさんあります。アクセントをつけて、動きを大きく見せられるように。そしてカッコよく踊れるように、がんばります!
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公演情報
Kバレエユース「ドン・キホーテ」
日程 |
2022年
7月30日(土)17:00 キトリ:梅木 那央 バジル:栗原 柊
7月31日(日)14:00 キトリ:清水 利静 バジル:金 瑛揮
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会場 |
Bunkamuraオーチャードホール
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詳細 |
KバレエユースWEBサイト |