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【新トップスター就任】OSK日本歌劇団 翼和希インタビュー〜OSKの魅力は生命力。102年の歴史を受け継いで

若松 圭子 Keiko WAKAMATSU

©Ballet Channel

1922年に大阪の地で誕生したOSK日本歌劇団(略称:OSK)。和洋さまざまなダンスを取り入れたクオリティの高いステージで「ダンスのOSK」と称され、100年以上多くのファンを楽しませてきました。
2024年9月2日、歌劇団から時期トップスターとして、翼和希(つばさ・かずき)さんの就任が発表になりました。伸びやかな歌声とダイナミックなダンスで注目を集め、去年のNHK連続テレビ小説『ブギウギ』に出演するなど多方面で活躍している翼さん。トップ就任に際し、歌劇団公式Instagramでは「今、とても厳粛な思いです。(中略)。100年分の汗と涙が染み込んだとびきり輝かしいこのバトンを劇団員皆で握り締め、感謝をこめて力一杯舞台に生きてまいります」とコメントしました。
10月からは各地を巡るトップスター就任記念公演がスタート。公演の合間を縫って翼さんにインタビューし、今の思いを聞きました。

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トップスター就任おめでとうございます。
 ありがとうございます。歌劇団に入ったからには、トップになるのがひとつの目標ではあったので、お話をいただいた時は素直に嬉しかったです。でもそれはほんの一瞬。OSKは今年で創立102年という歴史がある歌劇団です。102年間OSKを引っ張ってきた先輩方とスタッフのみなさま、そして応援してくださっているたくさんのお客様がいます。トップになる、つまりその102年分を背負う立場になるんだと思ったら、のんびり喜びに浸ってはいられませんでした。トップスターの楊琳(ヤン・リン)さんが在団されているうちに、もっともっと学ばなくてはと思いました。芸事の継承は物を手渡すように簡単なことではないし、言葉だけで伝えきれるものでもありません。私も楊さんからOSKの志や魂を、責任を持って引き継いでいかなくてはと思っています。
現在、翼さんは2025年6月のトップスターお披露目公演に先駆け、就任記念公演に飛び回っています。まずは10月12日に行われた山口県岩国市での「レビュー in IWAKUNI」。手ごたえはどうでしたか?
 私は山口県の舞台に立つのが初めてだったのでとても楽しみにしていました。実際にみなさまの前に立ち、パフォーマンスさせていただいて、みなさまのあたたかい手拍子や声援をいただけて嬉しかったですね。OSKは初めてという人も多かったと聞き、たくさんの方が興味を持って足を運んでくださったことに感謝しています。
2本目は11月21~24日、地元大阪での「レビュー Road to 2025!!」。第1部で日舞、第2部で洋舞とグランドレビューの2本立てですね。日舞と洋舞それぞれの見どころを聞かせてください。
 日舞レビューは「四季彩」。演出・振付は尾上菊之丞先生で、歌舞伎舞踊などに着想を得たステージです。日舞、というと難しいのでは?と考える人も多いですが、OSKの日舞はレビューショーなので、堅苦しく考えたり身構えたりしなくても「日舞ってこんなに面白いんだ!」と楽しんで観ていただけると思います。洋舞のレビューは麻咲梨乃先生演出・振付の「Shining Life」。こちらはもう言わずもがな、ダンスでいっぱいのステージです。ジャズやヒップホップをはじめ、コンテンポラリーダンス風の踊りもあり、OSKの代名詞であるラインダンスも含めて一気にご覧いただきます。
ひとつのステージで日舞と洋舞、違うジャンルを踊り分けるのは大変ではないですか?
 確かに違いはありますね。日舞は腰をぐっと落とし、重心を下げて踊るのに対し、洋舞では上半身の引き上げが必要になりますから、休憩中に意識して身体の使い方を変えるようにしています。
衣裳やメイクチェンジ以外に、身体も整える。大変ですね。
 そうですね。でもすごく贅沢なことをさせていただいているなと思います。

翼和希 レビュー「Road to 2025‼」より 提供:OSK日本歌劇団

日舞は洋舞に比べてあまり触れる機会がないという人もいると思いますが、翼さんは日舞のどこに魅力を感じますか?
 日舞ってやってみるとめちゃくちゃ楽しいんです。日舞もバレエと同じように、何かを伝える時に手や目線で表現するんですよ。あと面白いのはお扇子を使った「見立て」。閉じて筆のように見せたり、ちょっと開いて上下逆に持てばお酒を注ぐとっくりに、もう少し開いてそれを受ければ盃(さかずき)に、となんでも表現できてしまうんです。芸術の世界は演じる側と観ている側、両方の想像力をかき立てる。日舞でも洋舞でもそこは一緒です。
他にも、日本舞踊を楽しむポイントはありますか?
 バレエも同じだと思うのですが、その日の演目のあらすじを少しだけ予習しておくだけで面白さが増すと思います。文字にしたら2行に満たないくらいの内容を、15分ぐらいかけて細やかに表現することもありますから。踊りひとつとっても、それが何をしているところで、何を表現しているのか?といったことをわかっていると、踊りやマイムの意味に気づけるし、より楽しめるのではないでしょうか。
11月のレビューを終えると2025年1月にはシンガポール特別公演『Les Ailes(レゼル)』 、続いて大阪と東京で上演されるミュージカル『三銃士』のほか、愛知、香川、京都でのレビュー公演が控えています。
 「鑑賞する日が楽しみなので仕事も頑張れます」というお手紙をいただきました。楽しみにしていますという言葉は、そのまま私たちの原動力になります。私たちのすべてをぶつけたステージをお届けしようと思います。

翼和希 レビュー「Road to 2025‼」より 提供:OSK日本歌劇団

続いて翼さんがOSKに入るまでのお話を伺います。歌劇に興味を持ったのは宝塚歌劇団の公演ビデオだったと聞きました。
 はい、中学2年の時です。演劇部に入っていた2人の姉が、文化祭の劇の参考にと持って帰った宝塚のビデオを何気なく観て、男役の存在感とカッコよさにはまってしまったんです。ビデオを繰り返し観るうちに自分も男役を演じてみたいと思うようになりました。それまではバレーボール部に所属していてダンスや歌とは無縁。歌劇団を受験すると決めて、初めてバレエとジャズダンスを習い始めました。
初めてのバレエ体験の思い出は?
 とにかく身体が硬すぎて、踊る以前に柔軟からのスタートでしたね。バレエが大好きな子に囲まれて、私だけ基礎知識すらなかった。最初はバレエ用語が全部フランス語なのにびっくりして、なぜバレエ用語を日本語に訳してお稽古しないんだろうと思ったくらいです。小さな頃から耳にしていれば慣れる言葉でも私にはすごく難しくて、タン「ジ」ュとタン「デ」ュは似た言葉だけど動きは同じなのかな……とか(笑)。当時はスマホもなかったからすぐ調べることもできなくて、小さな疑問が増えるばかり。途中からは覚悟を決めて、とにかく言われたことを見よう見まねでひたすら覚えるようにしました。
努力の甲斐あって、翼さんは2011年にOSK日本歌劇団研修所へ入所しました。
 じつは最初に宝塚を受験しようと考えた時にそれが叶わず、もう男役への夢は諦めようと思っていました。そんな時に先生が「OSKを受けてみたら?」と勧めてくださったんです。公演を観に行き、すぐに受験を決めました。合格した時はこれで男役になれるんだ!と本当に嬉しかったですね。
入所後のレッスンはどうでしたか?
 受験前は覚えることばかりで大変でしたが、バレエとジャズをゼロから学ぶ経験をしたことで、入所後に習ったタップダンスや日本舞踊も、まっさらな気持ちで取り組めました。今は自分の中に「バレエ」「ジャズ」「タップ」「日舞」とダンスがチャンネル分けされていて、踊る時にそれをパチッと切り替える、みたいにイメージしています。別のダンスのニュアンスを取り入れたいと思った時には、そのジャンルの要素を取り出してアレンジを加えることも。たとえばバレエの動きをイメージさせるジャズダンスなら、アームスの動きは自分の中のバレエのチャンネルを覗いてみるとか。身体の使い方は無限大なので、いろいろな挑戦にも役立っています。
今までの舞台でいちばんの自信作や達成感を感じた役は?
 最後に演じた作品がいつでも私の「いちばん」です。毎公演、稽古場では自分の限界まで挑戦し、最大限をお見せするべく本番に臨んでいます。それは再演の作品であっても変わりません。どんなにベストを尽くしても、舞台の上ではかならず新しい課題が生まれてくる。それをどう改善しようかと考えるのも再演の醍醐味ですね。
努力家なのですね。
 負けず嫌いなんですよ。悔しかったことを覚えていて、同じような状況になったら絶対に前みたいな失敗はしたくない。芸術には完成がないから、いくらでも突き詰められる。私の課題は永遠に続きます。

©Ballet Channel

2023年秋から24年3月に渡って放映されたNHK連続テレビ小説『ブギウギ』のお話も聞かせてください。ブギの女王と呼ばれた笠置シヅ子の人生を描いたドラマでしたが、前半では笠置さんが所属していたOSKの前身にあたる松竹楽劇部(ドラマでは「梅丸少女歌劇団」)のエピソードがたくさん描かれていました。
 OSKは解散の危機が何度もあって、そのたびに劇団生命をかけて闘い、生き延びてきました。『ブギウギ』の梅丸少女歌劇団は、その史実に基づいてとても丁寧に描いてくださっています。ドラマに登場した通称「桃色争議」と呼ばれる労働争議も実際のOSKで起こったことです。劇団の歴史は資料などで知ってはいましたが、今回、劇団員役で出演したことで、劇団の過去を体験するという貴重な経験をさせていただきました。
翼さんは梅丸少女歌劇団のトップスター、橘アオイ役を好演。存在感のある演技が印象的でした。
 「橘さん」とはドラマが終わった今でも一心同体というか運命共同体みたいな感じです。OSKの劇団員として、物語に対してリアルな感情を持って演じることができました。現在のOSKがもし同じ状況に巻き込まれたら、トップスターとして何を思い、どう行動するかもパッと頭に浮かびます。
ドラマと舞台の演技で違うと感じたところは?
 舞台は広い劇場のいちばん端のお客様にまで届けなくてはいけないから、お芝居もある程度の誇張が必要です。ドラマではカメラがアップにしてくれるので、細かな表情を伝えられるのがいいですね。眉をピクっと動かしたり、唇をクッと噛んだり、舞台では絶対にできない表現に挑戦できました。
収録中、共演者のみなさんとはどのように過ごしましたか?
 めちゃくちゃ楽しかったです! みんなとは撮影の待機時間にいっぱいおしゃべりしました。何気ない日常会話を交わしたり、時にはふざけ合ったり。それが何年も一緒にやってきた劇団の仲間としての絆を感じさせる演技に繋がりました。レビューシーンでの一体感にも活かされていたと思います。『ブギウギ』には、梅丸のみんなが円陣を組み「強く、たくましく、泥臭く、そして艶やかに!」と声を揃える場面が何度も出てきます。橘さんとして声を出す時は、私自身も同じ気持ちになっていました。
ドラマでは、ピンクのパラソルを手に歌う「桜咲く国」など、OSKファンには嬉しいレビューシーンの場面もたくさんありました。
 梅丸のレビューシーンは、ドラマのクランクインより前に、きちんと舞台用のお稽古をして臨んだんですよ。演出は荻田浩一先生。梅丸の団員たちはドラマのメインキャスト以外、全員OSKの現役劇団員が出演しています。
もうひとつ忘れてはいけないのは、梅丸の団員の心をひとつにしたラインダンス。これはOSKの代名詞でもあるパフォーマンスです。
 ラインダンスは、新人がステージに立つための基礎を学ぶ大事な通り道でもあります。ただ脚を上げるだけの踊りだからこそとても難しい。大人数で手を繋いで、方向をピタリと揃え、高く脚を上げ続けるために、私たちはたくさんお稽古をします。舞台ではすべてを乗り越えた先に生まれる一体感をお届けしたいと思っています。「しんどいことしているのに、みんな笑顔。だから感動する」「いっぱいお稽古したんだろうなと思いながら観ていると、なぜか涙が出てきます」などお客様の声を聴くたび、みんなで「やったね!」と感じているんですよ。

レビュー「Road to 2025‼」よりラインダンス 提供:OSK日本歌劇団

翼さんが思うOSKの魅力を教えてください。
 前トップスターの楊さんが同じ質問をされて「生命力」と答えた時、私が漠然と感じていたOSKの魅力はまさにそれだと思いました。初めてOSKの舞台を観た時、ステージから客席に向かって大波のようにザーッ!となにかが流れ込んでくるのを肌で感じたんです。今思うと、あれは団員みんなから出るエネルギーが舞台いっぱいに膨らんで、客席に放出された生命のパワーだと思います。
最後にトップスター就任後の新たな目標や夢を聞かせていただけますか?
 私のいちばんの夢はOSKが広まることです。『ブギウギ』でOSKを知っていただいたことで、劇場に足を運んでくださる方も増えてきましたし、海外の方からお手紙をいただくこともあります。でも、もっともっと知っていただきたい。日本には男性が女性を演じる歌舞伎という文化があり、女性が男性を演じる歌劇という文化があることをひとりでも多くの方に伝え、生の舞台に触れていただきたいのです。レビューは言葉の壁もないノンバーバルなショーでもあります。世界のみなさんに私たちの「生命力」ある舞台を楽しんでいただきたいと思っています。

翼 和希 Kazuki TSUBASA
大阪府枚方市出身。2011年にOSK日本歌劇団研修所89期生として入所。13年4月OSK日本歌劇団に入団し、「レビュー春のおどり」東京公演で初舞台を踏む。18年「REVUE JAPAN~GEISHA&SAMURAI~」「Fire Agate~躍動~」で中劇場公演初主演。23年10月~24年3月NHK連続テレビ小説『ブギウギ』に、OSKの前身である松竹楽劇部をモデルにした梅丸少女歌劇団のトップスター・橘アオイ役で出演。同年8月大阪府枚方市のPR大使に就任。24年9月2日付でOSK日本歌劇団トップスターに就任した。

information

レビュー「Road to 2025‼」より『桜咲く国』 提供:OSK日本歌劇団

翼和希トップスター就任記念公演
① 2024年10月12日(土)
レビュー in IWAKUNI」(山口:シンフォニア岩国)

② 2024年11月21日(木)〜24日(日)
「レビュー Road to 2025‼︎」(大阪:COOL JAPAN PARK OSAKA TTホール)
オンライン配信試聴チケット発売  視聴期限:2024年11月28日(木)23:59
※購入はこちら

③ 2025年1月10日(金)〜11日(土)
海外公演「Les Ailes(レゼル)」(シンガポール:Singtel Waterfront Theatre)

④ 2025年2月6日(木)〜9日(日)
ミュージカル『三銃士』(大阪:ナレッジシアター)

⑤ 2025年2月20日(木)〜25日(火)
ミュージカル『三銃士』(東京:博品館劇場)

⑥ 2025年3月22日(土)〜23日(日)
「OSKレビューin名古屋」(愛知:メニコンシアター)

⑦ 2025年3月29日(土)〜30日(日)
「OSKレビューin東かがわ」(香川:ベッセルおおち)

⑧ 2025年4月25日(金)〜29日(火祝)(予定)
「レビュー in Kyoto」(京都:南座)

翼和希トップスターお披露目公演
◎2025年6月14日(土)~24日(火)
「レビュー 春のおどり」(大阪:松竹座)

◎2025年8月22日(金)~26日(火)
「レビュー 夏のおどり」(東京:新橋演舞場)


※OSK日本歌劇団公式サイトはこちら

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