Photo:鹿摩隆司
日本で初めての“バレエ団の全国組織”として、2014年に発足した日本バレエ団連盟。
バレエ芸術の振興や普及を目指す活動のひとつとなる文化庁委託事業「2019年度次代の文化を創造する新進芸術家育成事業」の一環として、海外指導者を招いてのマスタークラスを開催している。
この夏は、パリ・オペラ座バレエ団教師のアンドレイ・クレム氏を招聘。
8月17日に開催された、東京シティ・バレエ団による公開レッスンのようすを取材した。
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猛暑まっただなかの公開レッスン当日、東京・江東区にある同バレエ団の稽古場には、将来プロを目指す若いダンサーたちとその指導者など、約20名の見学者が集まっていた。
思い思いにストレッチをしながら、クラスの始まりを待つダンサーたち。ほどなくしてクレム氏が登場し、笑顔で挨拶を交わすと、早速バー・レッスンが始まった。
クレム氏が低く響く優しい声でアンシェヌマンを指示。ピアノの生演奏に心地よく呼吸を合わせながら、ダンサーたちは、鍛錬された肉体をひとつずつ丁寧に動かしていく。
しなやかな動き、美しいポール・ド・ブラ。そこに、
「アン・ドゥオールしすぎて身体を前に倒さないで。土踏まずを意識して」
「この動きはソフトに。自然にターンアウトが出来るように」
「ロン・ド・ジャンブ・ア・テールは最後きちんと1番に戻して」
「動きが変わっても5番は緩めないように確認して」
など、クレム氏が歯切れの良い口調でアドバイスを与えていく。
通訳が入るよりずっと早くそれを聞き取り、動きを修正していくダンサーたち。
見学者のなかには、アンシェヌマンをすべて聞き取りながら、熱心にペンを走らせメモを取っている女の子の姿も。小学5〜6年生くらいだろうか。ダンサーの集中力や意識の高さはこうして訓練されていくんだなと感心した。
パリ・オペラ座バレエ団では、膝下のロン・ド・ジャンブや足先の動きを重要視しており、あらゆるフォームのエクササイズがあるそうだ。この日のレッスンでも、細かな足さばきをふんだんに盛り込んだアンシェヌマンが幾つも与えられ、目の前で繰り広げられる技術に目を奪われた。
バーの下で素早く小刻みに動くたくさんの足は、五線譜に並んで踊る音符たちのようだった。
「ただ練習するだけではなく、自分が“踊っている”ということを意識しましょう」
と、クレム氏。その声にも、エレガントなリズムを感じる。
休憩を挟んでバーを片付け、センター・レッスンへ。小人数のグループに分かれながら、アンシェヌマンを次つぎと行っていく。ジャンプの角度や身体の左右のバランスなど細かな注意が飛ぶたびに、即座に動きを修正しながら表情豊かに踊るダンサーたち。
最後は『ドン・キホーテ』第3幕のグラン・パ・ド・ドゥの曲に乗せて、女性はグラン・フェッテ、男性はピルエット・ア・ラ・スゴンド。
1時間のレッスンはあっという間で、見ていて本当に楽しかった。
最後に、クレム氏にレッスン見学の感想を伝えつつ、ひとつ質問をしてみた。
「本当に素敵なレッスンで、まるでひとつの小さな作品を楽しませていただいたような気がしました。何といっても先生自身が誰よりも楽しそうに見えたのですが、それがクレム先生の指導方針なのでしょうか?」
クレム氏は、こう答えてくれた。
「僕の主義として、怒ったり厳しくしたりして教えるよりは、みんなの気持ちを明るく良い方向に持っていくレッスンをしたい、ということがあります。まず楽しんでレッスンするというところから、上達へと導いていくように教えたい。そうした方法が良い結果を生み、より進歩がみられるように、個人的には思っています」
公開レッスン後、クレム氏を囲んで。
東京シティ・バレエ団芸術監督:安達悦子(後列右)
ピアニスト:山西由実(2列目左)