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K-BALLET Opto「シンデレラの家」小林美奈インタビュー~長靴を履いた”現代のシンデレラ”。それでも彼女は家族を愛していると思います

若松 圭子 Keiko WAKAMATSU

写真は2月の公開リハーサルより ©Ballet Channel

K-BALLET Opto(Kバレエオプト)が、2024年4月27日から東京芸術劇場プレイハウスにて新制作『シンデレラの家』を上演します。
K-BALLET Opto はBunkamuraとK-BALLET TOKYOが、現代社会に潜む問題をダンス作品に昇華し、世界に発信することを目標に2022年に発足されたプロジェクト。第3弾となる今回は「ヤングケアラー」をテーマに、介護や家事を一手に担う主人公を、現代のシンデレラとして描きます。原案は詩人の最果タヒ(さいはて・たひ)さんが書き下ろした詩集「シンデレラにはなれない」。マウロ・ビゴンゼッティの弟子であり、ドイツのMiRダンス・カンパニー ゲルセンキルフェンの芸術監督を務めるジュゼッペ・スポッタ氏が、振付・演出を手掛けます。

主人公のシンデレラを演じるK-BALLET TOKYOプリンシパル・ソリストの小林美奈(こばやし・みな)さんに、新制作初演に向けての思いや、役への取り組みなどについてお話を聞きました。

©Ballet Channel

小林美奈 Mina KOBAYASHI
山梨県生まれ。5歳よりバレエを始める。ワガノワ・バレエ・アカデミー留学の後、サンクトペテルブルク・バレエシアター、オペラノヴァ・ビドゴシュチバレエ団を経て14年Kバレエ カンパニーにアーティストとして入団。18年9月プリンシパル・ソリストに昇格。

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2月28日に行われた公開リハーサルで、演出・振付のジュゼッペ・スポッタ氏が「すでに7割は完成している」と語っていましたが、リハーサルはいつ頃からスタートしたのですか?
小林 今年の2月です。3月のK-BALLET TOKYO『ジゼル』公演を挟んで、今月から再開しました(※編集部注:取材は4月初旬)。ジュゼッペさんも再来日され、今は完成している場面のブラッシュアップや、動きの質を高めるために細かい部分を確認しています。
ジュゼッペ氏の作品には初めての参加になりますね。
小林 私たちは普段、どちらかというとクラシック・バレエをメインに踊っています。コンテンポラリーの動きは、身体の使い方、体重の乗せ方、重心の取り方など、どれをとってもクラシック・バレエとは真逆。なのでコンテンポラリーは自分の身体と馴染みがまだ薄いんです。けれどジュゼッペさんは私たちのことをよく理解してくださっているので、その部分をとても丁寧に教えてくださいますし、ダンサーが持っているものを多く引き出してくださいます。
お稽古はどのように始まったのですか?
小林 振付を始める前に、一週間ほどワークショップが行われました。“言葉を使わないで意見交換する”場、つまり各々がフィーリングや身体を通して意思疎通を図る機会をたくさん作って、みんなで『シンデレラの家』の作品に取り掛かる準備をしたんです。ワークショップは、私たちにどんな動きができるかを見てもらう時間でもあり、同時に私たちが振付家のイメージする動きを学ぶ機会にもなりました。

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今回、小林さんはシンデレラ役を演じます。一般的な版の『シンデレラ』とはストーリーもキャラクターも大きく違い、設定は現代。シンデレラは認知症の祖父、精神を病んだ母、義妹の世話をするヤングケアラーの少女、という役どころです。初めて内容を聞いた時はどう感じましたか?
小林 最初は具体的なイメージが湧きませんでした。ヤングケアラーという言葉は知っていたけれど、じっさいにどういう方々なのかまでは分からなくて。社会的なテーマをどうやって踊りとかけ合わせて作品にするんだろう、と思っていました。
演じるうえで参考にしたものがあれば教えてください。
小林 全体リハーサルが始まる前に、『シンデレラの家』に関わるダンサーみんなに向けて、ヤングケアラーについて学ぶ勉強会が行われたんです。当事者だった方(一般財団法人ヤングケアラー協会・髙尾江里花さん)を迎えて実体験をお聞きして、みんなで話し合う時間を持ちました。いろいろと感じたことがあったので、振付の中の演技として取り入れていこうと思っています。
『シンデレラの家』はひとつの家族を扱ったドラマでもあります。小林さん自身が家族と過ごした記憶の中で、今回の作品に活かせそうな思い出はありますか。
小林 私は、小さい頃からおじいちゃんのことが大好きで、いつもおじいちゃんのそばにいました。もう亡くなってしまいましたが、当時は一緒にいるだけで癒される存在でした。そんな幼少期を過ごしたので、シンデレラがおじいちゃんに抱いている愛情は、私のそれと一緒なのかなと思っています。私はおじいちゃんのケアをする立場ではありませんでしたから、シンデレラとは少し違いますけれど。
シンデレラがおじいちゃんと踊る場面をリハーサルで観ましたが、リフトなどのテクニックが多い振付のなかに、二人の温かい絆が感じられました。
小林 ありがとうございます。あの踊りはとくにパートナリングが大切で、ダンサー同士の信頼関係がないと、シンデレラとおじいちゃんの関係性が見えてこないんですよ。

©Ballet Channel

今回目標にしていることや、自分の課題としていることは?
小林 じつは、きちんとしたストーリーがあるコンテンポラリー作品に挑戦するのは、この『シンデレラの家』が初めてなんです。とくに演技については、ここまで深い感情を乗せてコンテンポラリーを踊った経験がないのもあって、難しさを感じています。例えばマイムがない状況でどう「台詞」を表現するのか、またアーティスティックな現代音楽から、その場面の役の気持ちをどう読み取って演じるか、などについては、今も研究と工夫を重ねています。
初めての振付家による新制作、しかも演劇性のあるコンテンポラリー。たくさんの挑戦があるのですね。
小林 はい。でも面白いです。最近は振りが身体の中に入ってきたので、動きの本質や表現方法を探すのが楽しくなってきました。振付には登場人物のキャラクター性を分かりやすく示す動きも入っていて、そこはお客様が分かりやい表現をしたいですね。見え方を研究しつつ、そこに自分の……シンデレラの感情をどうやって乗せて伝えられるか。そこまで突き詰めていきたいです。
少し話がそれますが、いま小林さんが「自分の」と言いかけて「シンデレラの」と言い直したのを聞いて、小林さんは舞台上でその人物になりきってしまうというよりは、客観的な視点で役を捉えて演じるタイプなのではと思ったのですが、実際はどうでしょうか。
小林 そのとおりです。いろいろな役を演じてきて、いつも自分の性格に近い役が与えられるわけではないですし、役のほうを自分に引き寄せてしまうのは場合によっては良くないのではと思うようになりました。自分の性格と共通する部分がなかったり、経験のない感情を持った役をいただいた時は、参考になるものを探して取り入れたり、想像力で補ったりしています。
役作りは前もって準備するのですか?
小林 私の場合は、最初に自分の中で考えたキャラクターを「この役はこういう子」と設定します。それを現場に持っていって、みんなとコミュニケーションを取りながら合わせていきます。「ここはこういう感情でいたほうが、次のシーンでの演技に気持ちが繋がりやすいかな?」と試してみたり、その場で生まれた発想で演じてみたりすると、自分の中の設定が変わることも。きちんと考えて準備していったのに、ジュゼッペさんのお話を聞いたら解釈がまったく違っていた、ということもあります(笑)。

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公開リハーサルの時、念願のダンスパーティーに出かけたシンデレラが12時の鐘を聞く場面では、両手をブルブルと震わせる僅かな振りからシンデレラの様々な思いが伝わってきました。感情の揺れを最小限に抑えて表現しているように見えたのですが、意識的にコントロールしたものですか?
小林 あの演技は、気持ちの流れから自然と生まれたものです。振付は前からいただいていたんですけれど、公開リハーサルの日に前の場面から通して演じてみて、あの瞬間にシンデレラがどういう気持ちでいるのか、やっとわかり始めた気がしたんです。あの場面で感じるおじいちゃんへの思いや自分の責任感が、表現というよりもまさに「身体から出てきた」感じでした。
稽古場で振付家にアドバイスを求めることはありますか?
小林 やってはみたけれど、これは振付家が思っている動きとは違うと感じた時や、逆に指示通りの動きをしていてシンデレラがどういう気持ちでこう動くのか分からないと思った時は、私から直接質問に行きます。「この子は今、どういう気持ちなんでしょうか?」とか「ここはこう演じないほうがいいですよね?」とか。通訳さんを通して、にはなりますが、一緒にその動きや設定を細かく突き詰めていく時間がもてますし、動きと自分の感情がピタッと合わさる瞬間を感じ取ることができるんです。

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ところでリハーサルでは、黒のゴム長靴を履いて踊っていましたね。
小林 はい、男性が作業用に履いている長靴。あれを本番でも使います。
かなり激しく踊る場面もありますが、大変ではないですか?
小林 最初は慣れなかったんですけれど、もう自分の一部みたいになってきています(笑)。今のところはそこまで筋肉の疲労も感じないですし、意外と履き心地もいいですよ。
長靴はバレエシューズやトウシューズとは対極にあるというか、重たくてバランスも悪く、踊るのは大変そうです。靴の中はなにか細工をしているのですか?
小林 何もせずそのままで。だから足周りにゆとりがあって、歩くたびにパカッ、パカッ、と動きます(笑)。

©Ballet Channel

シンデレラは、外に出る時はいつもあの長靴を履いている設定なのですね。
小林 そうです。長靴はシンデレラにとっては足かせのような感じです。
家に帰ったらその足かせを脱いで素足になる。
小林 はい。素足になることでやっと自分の時間が持てて、自由な気持ちでいられるようになります。
しかしヤングケアラーのシンデレラは、家に帰ったらひとりでおじいちゃんの介護や家事、すべてやらなくてはなりません。長靴を脱いで素足になったとしても、その日々はとても辛いもので、自由とはほど遠いのではないでしょうか。そんな家族の中でも唯一、叔母さんはシンデレラに優しさを与えてくれる存在ですね。
小林 叔母は一緒に住んでいないけれど、シンデレラのことを気にかけていつも見守ってくれている、彼女にとっての希望の象徴です。圧が強いお母さんとは対照的ですね。
シンデレラは、それでも家族のことを好きなのでしょうか。小林さんは、どう思いますか?
小林 もちろん! みんなのことが大好きだと思います。心を患って怒りを抑えられないお母さんに対しては、確かにストレスも抱えていると思いますが、おじいちゃんの面倒もしっかり見なくちゃ! と強い責任感を持って生活していますよね。私も自分の家族のことが大好きですし、家族愛という意味ではこの家族も一緒だと感じます。
私は実際に介護をした経験はありませんけれど、このお話はシンデレラが家族のことを愛しているから成り立つドラマではないでしょうか。ヤングケアラーの彼女が、家族を愛しているがゆえに生まれてしまう問題を描いている。そしてケアは、愛があるからこそできることなんじゃないかなと思っています。

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公演情報

K-BALLET Opto
『シンデレラの家』

【日程】
2024年4月27日(土)15:30
2024年4月28日(日)12:30/17:00
2024年4月29日(月祝)12:30/17:00
会場:東京芸術劇場 プレイハウス

【スタッフ】
演出・振付・舞台美術:ジュゼッペ・スポッタ
原案:最果タヒ「シンデレラにはなれない」
企画・構成:高野泰寿
音楽:セルゲイ・プロコフィエフ「シンデレラ」(作曲・編曲:クリストフ・リットマン)
演奏:和田永 エレクトロニコス・ファンタスティコス!
衣裳デザイン:進 美影(MIKAGE SHIN)

【出演】
森 優貴、酒井はな、白石あゆ美、石橋奨也、岩井優花、小林美奈、杉野慧、吉田周平
ほかK-BALLET TOKYO

公式サイトこちら

 

\追加公演決定!/

<追加公演>
2024年8月3日(土)16:00
2024年8月4日(日)14:00
会場:TACHIKAWA STAGE GARDEN(立川ステージガーデン)
※出演者ほか詳細は後日発表

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