英国ロイヤル・バレエ「くるみ割り人形」金平糖の精役:マヤラ・マグリ、王子役:リース・クラーク ©2023 Alice Pennefather
ロンドンのコヴェント・ガーデンにある歌劇場「ロイヤル・オペラ・ハウス」で上演されたバレエとオペラを映画館で鑑賞できる「英国ロイヤル・バレエ&オペラ in シネマ」 。臨場感のある舞台映像はもちろん、開演前や幕間にはリハーサルの特別映像や舞台裏でのスペシャル・インタビューを楽しめるのも、“映画館で観るバレエ&オペラ”ならではの魅力です。
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2026年2月20日(金)~2月26日(木)にTOHOシネマズ日本橋ほか全国の劇場で 上映されているのは、英国ロイヤル・バレエによるピーター・ライト版『くるみ割り人形』 です。その豊かな物語性は、クリスマスシーズンに世界中で上演される『くるみ割り人形』の中でも決定版と称され、世代を超えて愛されています。今回の上映は、2025年12月公演で収録されたもので、マヤラ・マグリ(金平糖の精)、リース・クラーク(王子)、マリアンナ・ツェンベンボイ(クララ)、中尾太亮(ハンス・ピーター/くるみ割り人形)らが出演しています。
今回は、クララ役を演じているマリアンナ・ツェンベンボイ にインタビュー。2024年にファースト・アーティストに昇格して数年、進境著しいマリアンナさん。ピーター・ライト版『くるみ割り人形』の魅力や、クララ役を演じるポイントなどを聞きました。
マリアンナ・ツェンベンボイ Marianna Tsembenhoi ウクライナ出身。3歳からキーウのバレエ学校で学ぶ。2016年ユース・アメリカ・グランプリで金賞・銀賞を受賞し、ロイヤル・バレエの奨学金を獲得。2017年ロイヤル・バレエ・スクール(アッパー・スクール)に入学。卒業時にはアシュトン賞を受賞した。2020年英国ロイヤル・バレエ入団、オード・イェブセン・ヤング・ダンサーズ・プログラムに参加。2024年ファースト・アーティストに昇格。
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ピーター・ライト版『くるみ割り人形』のクララはどういう役どころですか?
サー・ピーターの『くるみ割り人形』は、全幕をとおしてクララが成長していくようすを描いています。物語のはじめ、クララはまだ幼くて仲良しの友だちとはしゃいでいる普通の女の子ですが、ドロッセルマイヤーからくるみ割り人形をもらってから、心の中に変化が生まれます。クララはくるみ割り人形にひと目で惹かれ、弟のフリッツにいたずらされると、おもちゃを壊されて感じる悲しみ以上の痛みを覚えるほど、この人形を 大切にします。
なぜクララは、可愛いお人形ではないくるみ割り人形に惹かれたのでしょうか。
くるみ割り人形は、一般的に子どもへのクリスマスプレゼントとして選ばれるものではありません。そんな「特別な」贈り物を手にして、クララはくるみ割り人形との間に、何か不思議な繋がりのようなものを感じたのではないでしょうか。だから、ねずみたちとの戦でくるみ割り人形が倒されそうになると、クララは勇気を振り絞って立ち向かいます。自分のスリッパでねずみの王様を思い切り叩き、彼を救おうと奮闘するのですが、倒れてしまったくるみ割り人形は動かない。「ああ、もうおしまいだ、壊れてしまったわ」とクララは泣き出してしまいます。
くるみ割り人形が青年の姿になる場面は、どんな気持ちですか?
泣いていると、ふと誰かに声をかけられたような気配を感じて振り返ります。そこには人間の姿をしたくるみ割り人形が微笑んでいて……! あの瞬間は、いつも幸せな気持ちでいっぱいになります。松林のパ・ド・ドゥは、彼と踊る喜びにあふれた素晴らしい時間です。サー・ピーターの振付は、ジャンプやステップ、リフトなどの動きそのものに役の感情が組み込まれていて、演技で埋めようとしなくても、踊りが気持ちを語ってくれる。このパ・ド・ドゥを通じて、クララの思いは恋へと変化していくのです。
英国ロイヤル・バレエ「くるみ割り人形」写真中央:マリアンナ・ツェンベンボイ ©2024 RBO. Photographed by Andrej Uspenski
現実に戻ったクララが、ハンス・ピーター(の姿をした青年)とすれ違うラストシーンはどのように解釈していますか?
あの時、私がクララとして感じていることは――居間で目を覚まし、時計を見ると深夜0時。頭の中に残っているこの出来事がなんだったのか整理したくて、新鮮な空気を吸おうと外に出ます。そこで、ひとりの青年と出会います。ハンス・ピーターのようでもあり、別の人でもあるような人と。立ち去る直前に私たちはふと振り返り、目と目が合って「この人と、どこかで会った気がする」と感じます。そして……ここが演出としてとても巧みだと思うのですが、クララは、自分の首にお菓子の国で贈られたネックレスがかかっていることに気づくのです。やっぱりあの出来事は夢じゃなかったんだという喜びのなかで、クララはふと思います。「もしかしたらまた、彼と会えるかもしれない」と。私は、このエンディングが大好きです。クララとくるみ割り人形の再会を想像できる余白が残されている、素晴らしい演出だと思います。
ほかにマリアンナさんがお気に入りのシーンはありますか?
『くるみ割り人形』には、楽しくてマジカルな瞬間がたくさんあるのですが、その中でもいちばん好きなのは、クリスマスツリーが成長していくシーンです。ツリーのそばに置かれたプレゼントが、舞台セットの一部になるくらいまでどんどん大きくなっていくのを見るのも好き。あそこはクララとドロッセルマイヤーだけが舞台上にいて、グリッターが降ってくる瞬間を、あの大きなツリーのすぐそばで味わえるんです。舞台効果がチャイコフスキーの音楽と相まってまさに魔法のようです。本当の雪が降っているような雪の王国のシーンも第1幕の幕切れにふさわしくて好き。そしてこの映像を観る方には、第2幕のお菓子の国の舞台セットにも注目してほしいです。じつは第1幕のパーティーの料理の中に、お菓子の国にそっくりなケーキが出ています。こういう細かなディテールから『くるみ割り人形』の魔法が生まれているんですよ。
英国ロイヤル・バレエ「くるみ割り人形」
マリアンナさんが、バレエを始めたきっかけは?
バレエは3歳から始めました。きっかけは、ストリートダンスを習おうとした兄が「まずは踊りの基礎を学んだほうがいい」とバレエスクールを紹介されたこと。母に連れられて教室に行くうちに、先生が「妹さんもバレエを習ってみたら?」と声を掛けてくれて。バレエを始めるのには少し早かったのですが、私が年齢のわりに落ち着いていたので、大丈夫だろうということになりました。
バレエは最初から楽しかったですか?
ええ。すぐに大好きになりました。3歳にして、私はこの芸術に恋をしたんです。お稽古場はもちろん、家にいてもずっと踊っていました。
プロのダンサーになりたいと思った時のことや、入団までの経緯を教えてください。
8歳の時には、将来バレエで自分のキャリアを築きたいと思うようになりました。私の母は数学者なので、バレエを職業にしたいと言ったらびっくりしていましたが、私の情熱を知って理解してくれました。
プロを目標にしてから、素晴らしい先生方との出会いがありました。技術はもとより、芸術としてのバレエの素晴らしさを教えていただきました。10歳ごろからコンクールに挑戦するようになると、ヴァリエーションを踊る機会が増えたことで、多くのバレエ作品を知り、学ぶ機会も増えました。そんな時、インターネットでロイヤル・バレエの映像を観たんです。たちまちプリンシパルの素晴らしい踊りに魅了されました。またテクニックと同じくらい演技を大事にしているところに魅力を感じ、このバレエ団で学びたいと思いました。YAGPに出場し、奨学金を得てロイヤル・バレエ・スクールへ。アッパー・スクールに3年間在籍したあと、2020年に入団することができました。
英国ロイヤル・バレエ「くるみ割り人形」クララ役:マリアンナ・ツェンベンボイ、ハンス・ピーター/くるみ割り人形役:中尾太亮
これから挑戦してみたいと思う作品や役はありますか?
ひとつだけ挙げるのは難しいですね。ロイヤル・バレエのレパートリーは古典からコンテンポラリーまで非常に幅が広く、どの作品もとても魅力的です。
じつは2月に、現在上演中の『ジゼル』で、ジゼル役デビューをする予定になっていて(*注) 、いまはそのリハーサルをしているところです。まだファースト・アーティストの私にとってとても名誉なことですし、芸術監督のケヴィン・オヘアが、私を信頼してこの役を与えてくれたことに感謝しています。リャーン・ベンジャミンとエドワード・ワトソンがコーチについてくれていて、ジゼルを演じるための細かなディテールを一つひとつ丁寧に教えてもらっているところです。教わったすべてのことをスポンジのように吸収して、役作りに活かしていきたいと思っています。
(*)2026年2月24日(火)スクール・マチネ/3月18日(水)ソワレ公演に出演予定。アルブレヒトはジョセフ・シセンズが務める
プロのバレエダンサーを目指して頑張っている日本の子どもたちにメッセージをお願いします。
バレエのクラスを毎回楽しんでください。できるだけ多くの作品とダンサーを観てください。大変なこともありますが、希望を失ってはだめ。なぜバレエをしているのかを忘れないでください。あなたが踊り続けているのは、バレエという芸術が、音楽が、踊ることが好きだからでしょう。どんなことがあっても前を向いて、自分を信じて。そうすればきっと夢は叶います!
英国ロイヤル・バレエ「くるみ割り人形」
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上映情報
英国ロイヤル・バレエ&オペラ in シネマ 2025/26
ロイヤル・バレエ『くるみ割り人形』The Nutcraker
VIDEO
2026年2月20日(金)~2月26日(木)TOHOシネマズ 日本橋 ほか1週間限定公開
★上映館、スケジュールなど詳細は公式サイト をご確認ください
(2025年12月10日上演作品/上映時間:2時間36分※休憩、解説+インタビューを含む)
【キャスト】
金平糖の精:マヤラ・マグリ
王子:リース・クラーク
ドロッセルマイヤー:ジェームズ・ヘイ
クララ:マリアンナ・ツェンベンボイ
ハンス・ピーター/くるみ割り人形:中尾太亮
■Act I (1幕)
ドロッセルマイヤーの助手:キャスパー・レンチ
シュタルバウム博士:トーマス・ホワイトヘッド
シュタルバウム夫人:クリスティーナ・アレスティス
フリッツ:ミラン・イェップ
クララのパートナー:五十嵐大地
祖母:イザベル・ルーバック
祖父:ジェームズ・ラージ
ダンシング・ミストレス:アネット・ブヴォリ
キャプテン:テオ・デュブレイユ
アルルカン:マルコ・マシャーリ
コロンビーヌ:ミーシャ・ブラッドベリ
兵士:ハリソン・リー
ヴィヴァンディエール:桂千理
ねずみの王様:フランシスコ・セラノ
■Act II (2幕)
スペインの踊り:イザベル・ルーバック、オリヴィア・フィンドレイ、マディソン・プリッチャード、ジャコモ・ロヴェロ、ジェームズ・ラージ、ブレイク・スミス
アラビアの踊り:ナディア・ムローヴァ=バーレー、ハリス・ベル
中国の踊り:マーティン・ディアス、ハリソン・リー
ロシアの踊り:フランシスコ・セラノ、ジョシュア・ジュンカー
葦笛の踊り:エラ・ニュートン・セヴェルニーニ、ヴィオラ・パンテューソ、アメリア・タウンゼント、ユー・ハン
ローズ・フェアリー:クレア・カルヴァート
ローズ・フェアリーのおつき:レオ・ディクソン、テオ・デュブレイユ、アイデン・オブライエン、ジュンヒュク・ジュン
花のワルツのリード:ミーシャ・ブラッドベリ、ハンナ・グレンネル、桂千理、シャーロット・トンキンソン
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振付:レフ・イワーノフに基づき ピーター・ライト
音楽:ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー
原台本:E.T.Aホフマン「くるみ割り人形とねずみの王様」に基づき マリウス・プティパ
プロダクション・台本:ピーター・ライト
美術:ジュリア・トレヴァリン・オーマン
照明デザイン:マーク・ヘンダーソン
ステージング:クリストファー・カー、サマンサ・レイン
アラビアの踊りの振付改訂:ギャリー・エイヴィス
シニア・レペティトゥール:サミラ・サイディ
レペティトゥール:ザーン・アティムタエフ、シアン・マーフィー
主演指導:アレクサンダー・アグジャノフ、ダーシー・バッセル、スチュアート・キャシディ、オルガ・エヴレイノフ、
イザベル・マキーカン、クリストファー・サウンダース、エドワード・ワトソン、ゼナイダ・ヤノウスキー
指揮:シャルロット・ポリティ
アソシエイト・コンサートマスター:メリッサ・カーステアズ