文/海野 敏(東洋大学教授)
第8回 イタリアン・フェッテとその他の回転技
■回転技を整理する
第1回から、バレエのさまざまな回転技を紹介してまいりました。バレエには鉛直な軸を中心とする回転のテクニックがたくさんありますが、ちょっと分類をしてみましょう。跳躍を伴うものと伴わないもの、基本的に移動しないものと移動するものという2つの観点から、4種類に分類してみます。 [ ] 内の数字は、この連載で取り上げた回次です。
- 跳躍なし、移動なし
グラン・フェッテ[1, 2]、ピルエット[3]、グランド・ピルエット[4]、リエゾン・ド・ピルエット[5]、イタリアン・フェッテ[8]、ランヴェルセ、スートゥニュ・アン・トゥールナン、アティテュード・アン・トゥールナン、プロムナード
- 跳躍なし、移動あり
ピケ・トゥール[6]、シェネ[6]、パ・ド・ブーレ・アン・トゥールナン
- 跳躍あり、移動なし
トゥール・アン・レール[7]
- 跳躍あり、移動あり
ジュテ・アントルラセ、ソ・ド・バスク、アッサンブレ・アン・トゥールナン、リボルタード
17個を並べましたが、もちろんこれですべてではありません。「アン・トゥールナン」(en tournant)と付いたものが4個ありますが、これはフランス語で「回転しながら」という意味です。「アン・トゥールナン」と付けることのできるテクニックはたくさんあります(注1)。また❶と❸は、基本的な動きとしては「移動なし」ですが、そのほとんどは、移動しながらも行うことができます。
これら以外に、舞台を周回する「マネージュ」も回転の一種です。第6回に述べましたが、マネージュはそれ自体が回転ですが、通常はピケ・トゥール、シェネなどの回転技で移動しながら周回するので、回転が二重になって華やかさが増幅されます。
この連載は次回以降、跳躍技の紹介をしますが、❹に分類した「跳躍あり、移動あり」の回転技はその中で取り上げることにします。今回、回転技の最後にご紹介したいのは、❶に分類した「イタリアン・フェッテ」(Italian fouetté)です。
■華麗で優雅なイタリアン・フェッテ
イタリアン・フェッテとは、片脚を大きな振り子のように使いながら回る難易度の高い回転技です。「イタリアン」と冠されているのは、ローマに生まれ、ワガノワ・バレエ学校で教え、アンナ・パブロワやヴァツラフ・ニジンスキーを教えたエンリコ・チェケッティ(1850~1928)が考えたからと言われていますが、真偽は定かでありません。「エカルテ・フェッテ」または「グラン・フェッテ・ルルヴェ・アン・トゥールナン」とも呼ばれます。
イタリアン・フェッテは、ルルヴェしながら片脚をデヴェロッペでエカルテ・ドゥヴァンに頭上高くまっすぐに上げ、その脚を下ろして1番を通過させ、そのままフェッテをしてアン・ドゥダンに回転し、アティテュード・クロワゼ・デリエールのポーズになります。イタリアン・フェッテを連続しますと、エカルテ・ドゥヴァンのポーズとアティテュード・クロワゼ・デリエールのポーズで一瞬止まるので、それがアクセントになってリズムが生じ、とてもダイナミックかつ華麗な回転になります。連載第1・2回に紹介したグラン・フェッテと比べると、グラン・フェッテのアップテンポの力強い動きに対し、イタリアン・フェッテは少しゆったりとした動きで、たいそう優雅に見えます。
古典バレエの作品に登場するイタリアン・フェッテと言えば、すぐ思い浮かぶのは、『ドン・キホーテ』第2幕、「森の女王(ドリアードの女王)のヴァリエーション」です。ヴァリエーションの最後に、3拍子の音楽に合わせたイタリアン・フェッテを2小節で1回転、連続7回転してフィニッシュします。森の妖精たちが集う幻想的な場面にふさわしい幽美な踊りです。
『コッペリア』第3幕の「スワニルダのヴァリエーション」は、さまざまな振付で踊られますが、後半にイタリアン・フェッテを5回連続する振付がよく見られます。フランツとの結婚の喜びを胸に、音楽のリズムに乗って華やかに回る場面です。
『パキータ』第2幕の「グラン・パ」では、たくさんのヴァリエーションがソリストによって踊られます。同じ曲でもバレエ団によって振付はさまざまですが、ワルツの曲の典型的な振付では、終盤にイタリアン・フェッテを7回連続します。
(注1)川路明編著『新版バレエ用語辞典』(東京堂書店, 1988)には、「アラベスク・アン・トゥールナン」、「アントルシャ・アン・トゥールナン」、「エシャペ・アン・トゥールナン」、「グリッサード・アン・トゥールナン」、「シソンヌ・サンプル・アン・トゥールナン」などの項目があります。いわゆる「グラン・フェッテ」も、正確な呼称には「アン・トゥールナン」が付くことは、連載第1回に説明しました。
(発行日:2019年11月25日)
次回は…
12月は休載します。2020年1月掲載の第9回は「グラン・ジュテ」を予定しています。