2024年7月~10月で東京でのロングラン上演を終えたDaiwa House presents ミュージカル『ビリー・エリオット〜リトル・ダンサー〜』 が、11月9日よりSkyシアターMBS にて大阪公演の幕を開けました。本作はスティーヴン・ダルドリーの映画「BILLY ELLIOT」(邦題「リトル・ダンサー」)を同監督がミュージカル化した作品。1984年イギリス北部の炭鉱の町を舞台に、少年ビリー・エリオットがバレエと出会い、幾多の障壁を乗り越えてロイヤル・バレエ・スクールを目指す物語です。日本では2017年・2020年に続き、3度目の上演。今回も長期間の育成型オーディションで選抜された4人のビリーたちがそれぞれの魅力を放っています。
バレエチャンネルではビリーたちのお披露目となった2024年2月の製作発表から随時取材を行い、稽古に励むビリーたちの様子や、オールダー・ビリー3人のインタビューなどを公開してきました。となれば当然、4人のビリー全員の舞台姿を見届けなくては!……ということで、“バレエチャンネル・ミュージカル班”を自称する2名が、4ビリーのステージをコンプリート鑑賞してきました。
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「ビリー・エリオット」2024舞台写真 撮影:田中亜紀
★座談会メンバー★
バレエチャンネル編集長。かつてボーイズ向けバレエ雑誌「ダンシン」を創刊するなど、リアル・バレエ少年たちの取材経験も豊富。『ビリー』は初演からコンプリート。
“バレエチャンネル・ミュージカル部”部長。かつて小劇団を主宰し、脚本・演出を手掛けていた異色の編集部員。
まずは好きなシーンから!
若松 『ビリー・エリオット~リトル・ダンサー~』、初コンプリートだったんですが、4回とも別の面白さがありました。出演者が変われば心動かされる部分も違うし、観比べる楽しさも! 阿部さんは、どのシーンやナンバーが好きでしたか?
阿部 好きなシーンがありすぎて選べない……。まず、われわれバレエファンとしては「ドリームバレエ」は外せないじゃない?
若松 確かに!では「ドリームバレエ」以外、ということで。
阿部 まず挙げたいのは、ビリーが初めてバレエを経験したあとに踊る「影絵のダンス」。あれはビリーの中に“ダンスが生まれた瞬間”という感じがしてすごく好き。ビリーはきっと、学校の帰り道とかお友達と遊んで別れたあととか、夕暮れ時の地面に映る自分の影と遊んでいたのかもしれない。ダンスって、知らず知らずのうちに自分の中から生まれてしまうものなんだということが、すごく印象的に表現されていると思う。若松さんは?
若松 のっけからダンスナンバーではないんですけれど、ラストの「過ぎし日の王様」の場面が大好きです。お父さんがロイヤル・バレエ・スクールに旅立つビリーに服の畳み方を教えながら荷造りをしていくところから、舞台後方で炭鉱へ向かう大人たちが振り返り、ヘルメットの懐中電灯をライトのようにビリーに浴びせて「誇りを抱いて/歩け力強く/冷たい地の底へと我らともにいざ行こう」と歌う。歌の途中で地下へ向かうエレベーターがガシャーン!と閉まって、轟音にみんなの声がかき消されていくところは何度見ても泣ける。
阿部 あそこは間違いなくいいシーン(涙)。もうひとつ、個人的にこれだけは外せない!と思うのが、2幕でビリーがオーディションで自分の思いを歌う「エレクトリシティ」。ビリーのパフォーマンスと、それをなんとも言えない表情で見つめている父ちゃんとセットで大好き。このナンバーは、ビリーが自分の情熱を初めて言葉にできた場面なんだと思う。1幕の終わりの「アングリーダンス」の時の彼は、自分の気持ちを伝えるための言葉を持っていないから、あたかも赤ちゃんが泣いて訴えるように、感情が身体を突き破ってダンスとして噴出する。この2つのソロナンバーは、彼の変化と成長を端的に表現していて、いつも圧倒されます。
若松 ダンスナンバーとして私が推したいのは「おばあちゃんの歌」の男性たちの踊りです。照明も暗くて表情まで見えないけれど、スーツ姿でタバコをくゆらせていて、おばあちゃんの亡くなった旦那さんを全員で表現しているような演出が好き。ちょっと不思議な音にあわせて舞台上手からスーッと現れる瞬間は、ルネ・マグリットの絵を見ているみたいな不思議な感覚に襲われます!
阿部 壁から溶け出てきたように現れて、煙みたいにふわ〜っと動いておばあちゃんと一瞬戯れたと思ったら、反対側の壁に吸い込まれるように消えていく。あの見せ方はいい。しかもそれが舞台上手から下手へと一方方向に流れていくことで、それはもう決して戻ってはこない過去の日々なのだということも感じさせる。
若松 あの場面はすごくコンテンポラリー・ダンス的な世界観だなといつも思います。
四人四色!2024年のビリーたち
若松 続いては、主役のビリーくんたちについて。まさに「みんな違って、みんないい」という言葉がぴったりだと感じました。
阿部 4人全員を観ることができで本当に良かった。それぞれの良さとか特徴的だったと思うことを挙げていきましょう。
👆2024年のビリーたち。左から浅田良舞、石黒瑛土、井上宇一郎、春山嘉夢一
阿部 まずは浅田良舞 くん。
若松 彼の魅力のひとつはバレエテクニック。シェネからの高いジャンプ、良く伸びた足先などに目が行きました。良舞ビリーは、元々運動神経や音感がよくて、バレエの才能を秘めつつ誰もそれに気づかなかった男の子、というイメージでした。喩えていうなら、部活でたまたま始めたスポーツで開花するタイプ、というか。だからバレエ=芸術の意識もあまり持たないまま、とにかく自分がいちばんしっくりきたものに向かっていって、どんどん吸収して成長していくようなビリー像だと感じました。男の前ではちょっとカッコつけているのも10歳の男の子らしい。そのいっぽうで、亡くなった「かあちゃん」が現れると、赤ちゃんのように柔和な表情になって、声の出し方とかもふわっと柔らかくなるんです。そこが可愛らしくて自然体に感じました。
阿部 身体も軽いし、スピード感ある回転とかジャンプも良舞ビリーの特徴。彼の演じるビリーは可能性のかたまりに見えた。こんな子に出会ったら、そりゃあウィルキンソン先生もハッとするよね!と。もうひとつ、彼はあまり演技的に表情を作ったり、声色を使ったりしないですよね。そこがすごく自然で好きでした。とくに、ロイヤルに入学するために旅立つ時、お母さんに手紙のお返事を出すところ。手紙をポケットから取り出して「ちょっとしわくちゃ」と言うセリフが個人的に大好きなのだけど、良舞くんはそこにあまり感情的な意味を持たせず、無意識的に口をついて出た言葉みたいにサラッと言ってくれたところが、たまらなく可愛かったです。
若松 演技はナチュラルなのに踊りはガチッと決めてくるのもカッコいい。
阿部 とくに「アングリーダンス」は、言葉にならないから踊るしかない!という印象で、いじらしかったです。ダンスこそが彼の言葉なんだな、って。
「ビリー・エリオット」2024舞台写真 撮影:田中亜紀
若松 続いて、石黒瑛土 くん。
阿部 踊りも歌も演技もいちばんバランスが整っているのが瑛土ビリーだと思いました。あの年齢ですでにすべてをコントロールできているのがすごい。振付も演技も、自分が演出家から何を求められているかをちゃんと理解できているように見えました。印象的だったのは、まだまったくバレエができなかったビリーが、ウィルキンソン先生の個人レッスンを受け、しだいにステップアップしていくさまの表現。椅子をバー代わりにしてレッスンするところで、最初は脚がインになっているのに、先生に指導されるとみるみる美しくターンアウトされていく。ビリーの成長を、身体表現としてくっきり見せることができるのは、おそらく彼自身が日々のバレエレッスンを本当に一生懸命やっているからだと思う。横に脚を上げて回転するア・ラ・スゴンド・トゥールの時に、脚やつま先がグン!ともうひとつ伸びるのも美しかった。
若松 彼は自分の感情をお芝居に乗せるのが上手いなと思いました。屈託のない笑顔がキュートで、愛され感のあるタイプに見えるのに、気持ちを許す相手とそうでない相手で見せる表情が全然違う。だから黙っているシーンでも何を考えているのか伝わってきました。印象的だったのが、バレエシーンではあまり笑わなくて、必死にバレエに向き合っているのに「エレクトリシティ」のソロの後半から一気に笑顔がこぼれ出して止まらなくなるんです。「僕は踊りが好きなんだ」と気付いた瞬間を共有できたようでジーンとしました。
「ビリー・エリオット」2024舞台写真 撮影:田中亜紀
阿部 井上宇一郎 くんはどうでしたか?
若松 私の中でイメージしていたビリーにいちばん近かったのが宇一郎ビリーでした。いかにもバレエとは無縁の炭鉱の町で暮らしていそうな男の子。体格も良くて背も高く、お兄ちゃんのトニーと互角に殴り合いできるようになる日も近いだろうなと想像してしまうし、お父さんだって絶対こいつは俺たちと炭鉱で働くだろうと信じて疑わなかったはず。だから彼が「バレエダンサーになりたい」と言った時の大人たちの驚きもリアルに伝わってきました。宇一郎ビリーの魅力は、舞台の上でちゃんと男の子として成長していくところですね。
阿部 そう。あらかじめ用意していた「間(ま)」とか「段取り」で演じるのではなくて、その舞台を「ビリー」として生きて、いま起こっていることに対してリアルな呼吸で演技できていることに驚きました。
若松 印象的だったのは、最初から貫禄もあるし、思春期特有のモヤモヤというかイライラを持て余している彼が、バレエを知って初めて子どものような笑顔を見せるところ。踊っている自分が嬉しくてたまらないのが伝わってきました。いっぽうで大人の事情や自分の葛藤にもみくちゃになって「ワーッ!」と叫んでいる場面や、バレエを奪われた瞬間に怒りを放出させる「アングリーダンス」。説得力がありました。引きの演技というか、相手を輝かせる演技も上手で、「レター」ではビリーの気持ちを押し出すだけでなく、それに心動かされていくウィルキンソン先生の演技の見せ場では、しっかりバトンを渡していてセンスを感じました。彼が大人になってバレエダンサーになったら、『ジゼル』のヒラリオンとか、『オネーギン』のレンスキー役など演じて欲しいです。
阿部 おそらく彼は身長もぐんぐん伸びている最中で、回転などのバランスも変わってきて身体をコントロールするのが難しい時期なのかもしれない。それでも各ナンバーで表現すべき感情とか細かなニュアンスをちゃんとつかんで踊っていて、たとえば「影絵のダンス」では、自分が作った影がどう動くべきかまでしっかり計算しているように見えました。あと、バレエがまだ下手だった頃の演技も巧かった! バレエ初心者がやりがちな「かま脚」とか、すごくリアルでした。
阿部 そして4人目、春山嘉夢一 くんはどうでしたか?
若松 彼は王子様のようでした! 変な言い方ですが、鳶が鷹を産んじゃったみたいな感じ。きっとお父さんは彼が逞しくなるように熱心にボクシングに行かせたり、筋肉のつく食べ物を食卓に出したりしたんだろうなと思いながら観ていました。美しくて素直な存在だけにこの街ではいい意味で浮いていて、だから彼と同じように浮いた存在だったウィルキンソン先生の目に留まったのだろうなと。こっそりバレエの個人練習を続ける場面でも、バレエを愛する似た者同士が寄り添うように見えて、教師と生徒以上の暖かさが伝わってくるんですよね。だから二人の最後の別れの場面は、よけいにホロリとしました。あと、嘉夢一くんはコミカルなセリフの言い回しや、間の取り方も絶妙。相手役の呼吸を的確に読んで、笑いを生んでいました。
阿部 彼は透明感があって、すごくバレエダンサー的だなと思いました。踊りの質感もエレガントで、バレエもそれ以外のダンスも丁寧に踊る。勢いや情熱に任せて踊るというよりも、一つひとつ真心を込めて表現していく感じがとても良かった。親友のマイケルくんとのシーンもリアリティがあってホロリときました。
若松 だから「アングリーダンス」では驚きが強かったです。他のビリーたちからは怒りや悔しさが響いてきたけれど、彼から伝わってきたのは悲しみ。「アングリーダンス」の後半の音楽に『白鳥の湖』第2幕「情景」のアレンジが入るところがありますが、あそこで嘉夢一ビリーに白鳥オデットの面影を感じたような気がしました。囚われの身の王子のような。
阿部 オデット! それは納得です。彼はほかの3人に比べるとバレエ経験が浅いとのことだけど、だからこそ本当に一つひとつの振付やセリフ、歌詞の解釈を丁寧に掘り下げていったのかもしれない。その丁寧さが、嘉夢一ビリーの個性のひとつになっていると思う。
若松 彼はビリーを演じたいという一途な思いでオーディションを受けたと聞いています。
阿部 公演を観てビリー役に憧れたとしたら、普通は過去にビリーを演じた誰かの真似をしてしまいそうなのに。嘉夢一ビリーは過去の誰とも似ていなくて、新鮮でした。
「ビリー・エリオット」2024舞台写真 撮影:田中亜紀
オールダー・ビリーと「ドリームバレエ」
阿部 さて、われわれバレエの民たるもの、オールダー・ビリーについてはきちんと語っておかねばなりませんね。
若松 今回バレエチャンネルでは3人のオールダー・ビリー役にインタビューしました。その中で厚地康雄 さんが「ドリームバレエはパ・ド・ドゥ」だと語っていたのですが、舞台を観て、まさにそれがぴったりなダンスナンバーだとあらためて思いました。厚地さんは冒頭に椅子をくるくる回しながら現れる瞬間から美しくて、これこそビリーが思い描く理想のダンサー像だと感じました。
阿部 厚地さんはさすが現役のクラシック・バレエダンサー!という踊りだった。何せ、パートナリングがあまりにもスムーズで、動きと動きの間に継ぎ目がなく、パ・ド・ドゥがシームレスに流れていく。ビリーをふわりと空中に送り出し、彼の身体が宙に舞うその勢いを殺さずに、再び手中にキャッチする。宙吊りのビリーと手を繋いでポーズを作る時の造形美も完璧でした。
若松 永野亮比己 さんと山科諒馬 さんは、オールダー・ビリー役のほかにアンサンブルとしても活躍していて、さらにはビリーがオーディションを受けている間に劇場の幕前でお父さんと言葉を交わすバレエダンサー役としても登場しますね。
阿部 あのバレエダンサー役で「巧い!」と思ったのは山科さん。とても自然体で、いい味を出してました。
若松 でんとした佇まいとキラキラな衣裳とのギャップが面白いですよね。私は山科さんのオールダー・ビリーに、ビリーの身近な先輩やアニキのような爽やかさを感じたのですが、そこが幕前のダンサー役で自分の故郷や父親の話をする場面とリンクして見えたんです。ビリーのお父さんとの対話は息子の先輩と立ち話しているみたいで面白かった。
阿部 永野さんのオールダー・ビリーはどうだった? 私には、未来のビリーが過去の自分を励ましているように感じて、観ていてあったかい気持ちになりました。
若松 分かります! 幕前のダンサー役の時も、この人はもしかしたら、お父さんが幻で見た未来のビリーだったのかもしれない、と思ってドキドキしましたよ。
阿部 あと、オールダー・ビリーはフィナーレでもシュパッ!と鮮やかな大ジャンプを見せて客席をどよめかせてくれる。あの瞬間、私はいちバレエファンとして非常に誇らしかったということも言い添えておきます(笑)。
違和感を、違和感として体験する
阿部 もうひとつ語っておきたいのは、作中で繰り返される「オカマ」等のセリフについて。今日的には差別的な表現であって、私自身もそのセリフが出てきた瞬間ちょっとドキッとしたし、SNSでも「いまの時代にそういう言葉を連呼するのはどうなのか」「時代の感覚に合わないのではないか」といった意見を見かけたんだけど、若松さんはどう感じました?
若松 私はあまり気にならなかったです。舞台になった当時の男の子たちは自然に口にしていたんだろうなと思ったし、ビリーが差別意識を持って使っているようには聴こえなかったから。2回目のバレエレッスンに行ったビリーが、ウィルキンソン先生にバレエシューズを渡された時に「これを履いたらオカマだって思われる」と言うけれど、先生に「ここに来る前に考えればよかったね」って言われた途端、慌てて履くじゃないですか。彼の中でバレエを好きになっていくにつれて「バレエはオカマがやるものだ」という言葉じたいを気にしなくなって、自分の気持ちを信じるようになりますよね。そういうビリーの内面の変化を映すキーワードとして、あえて「オカマ」という言葉を使ったのだと思っていました。
阿部 私は、舞台を観ながら「この2024年にこういう言葉を多用するのはどうなんだろう」と感じることじたいが、すごく演劇的な体験だと思った。舞台は1980年代のイングランド北部で、当時は確かにそういう空気があったから、このセリフが書かれたはず。でもそれから40年経ったいまは、もはや男の子がバレエを習うこともぜんぜん珍しくないし、そのセリフも「違和感を覚えるもの」に意味合いが変化した。そういう時代の変化を体感したり、感動や共感だけでなく違和感に揺さぶられるというのも、重要な劇場体験のひとつだなと思いました。
若松 なるほど。
阿部 さらに言えば、観客が「オカマ」という言葉に違和感を覚えた、という事実が大事だなと。ちょっと話が飛ぶけれど、私、北野武監督の映画がずっと苦手だったんですよ。暴力表現がグロすぎて。でもある時、北野監督が「暴力を美しく描いちゃいけない。暴力は嫌悪すべきものだからこそ、映画を観る人がちゃんと嫌悪感を覚えるように、グロテスクに描かなくてはいけない」みたいなことを語っているのを聞いて、腑に落ちた。現代の私たちは、「オカマ」という表現は人を傷つける嫌な言葉だということに、ちゃんと気づいている。だからこそそのセリフが出てくるたびにヒヤヒヤしたわけだけど、いっぽうで、そんな言葉を人々が平気で口にしていた時代は確かにあったし、自分だってその当時は無自覚的に口にしていたのかもしれない。そういうことを私たちに自覚させる、端的なセリフだったとも思う。
若松 学校や社会では表現方法を変えることも多いけれど、芸術でもそれをやり始めてしまうと、それはそれで別の違和感を生みますよね。
阿部 今回の『ビリー・エリオット』がそういうことを意図していたかどうかはわからない。でも少なくとも、今回の演出家や制作チームは「いまこの時代に、このセリフはそのままでも良いのだろうか?」と自問したのではないでしょうか。その上で「やはりこのままでいこう」という選択をしたのではないか……というのは、完全に私の憶測です。だけど、「このセリフは、現代ではクレームになりそうだから変えましょう」と単に言葉の問題として表面的に処理してしまったら、根本的な問題に蓋をするだけになってしまう。今回、セリフをふわっとソフトに改変することなく、2024年の観客にそのまま伝えたということに、私自身は大きな意味を感じました。
「ビリー・エリオット」2024舞台写真 撮影:田中亜紀
若松 それでは、最後に一言ずつ語って座談会を締めましょう。
阿部 男の子がバレエを習うのは普通のことになってきたけれど、男の子にバレエを習わせているママたちから聞く悩みはあまり変わっていない気がしていて、それは「どうすればうちの子がバレエを好きになってくれるのか?」という問題。だから私は男性ダンサーに取材をする際にいつも「バレエを好きになったきっかけは?」と質問するのだけど、ほとんどの人が「小さい頃はバレエが好きじゃなかった。でもコンクールに出るようになり、同世代の上手な男の子たちを見て、やる気に火がついた」と口を揃えるんです。つまり、きっかけになるのは圧倒的に「コンクール」であって、「作品」とか「舞台鑑賞」ではないんだな、ボーイズにとって決定打になるようなバレエ作品は残念ながらないんだな……と思っていたら、今回4年ぶりに『ビリー』を観て「ここにあったわ!!!」と(笑)。男の子たちのハートをズキュン!と射抜ける作品、それが『ビリー・エリオット』だと思う。バレエ少年にとって等身大の物語であり、同世代の子が舞台の真ん中であんなにも輝いていて、バレエだけでなくさまざまな種類のダンスを踊りこなすのもカッコいい。しかもその役は、バレエの基礎を持っていることが大きな強みになるという。正直に言えば、これがバレエ作品でなくミュージカル作品であるということに嫉妬してしまった。でも私自身、何度観てもやっぱり好きだし、良い作品だなとあらためて思います。
若松 『ビリー・エリオット』を観ると嬉しくなるのは、バレエとミュージカルが互いにリスペクトを持って作られていると感じるから。バレエシーンがあるミュージカルとはちょっと違う。舞台の中にはバレエもほかのダンスも一緒になって溶け込んでいて、熱心なミュージカルファンのみなさんが、バレエをちょっと身近に感じられるスイッチがあちこちに隠れている。ストライキで闘う大人たちのようすと、バレエに夢中になっていくビリーのレッスン風景が同時進行する「ソリダリティ」のナンバーとか、お父さんたちが、バレエガールズとペアで踊るようにサポートしながら会話していく場面は、演出も面白いし両方のファンにぜひ注目して欲しいです。
Daiwa House presents
ミュージカル『ビリー・エリオット~リトル・ダンサー~』
東京公演 ※終了
【日程】
オープニング公演 2024年7月27日(土)~8月1日(木)
本公演 2024年8月2日(金)~10月26日(土)
【会場】東京建物Brillia HALL (豊島区立芸術文化劇場)
大阪公演
【日程】2024 年11月9日(土)~24日(日)
【会場】 SkyシアターMBS
【スタッフ】
脚本・歌詞 リー・ホール
演出 スティーヴン・ダルドリー
音楽 エルトン・ジョン
【キャスト】
ビリー・エリオット(クワトロキャスト)浅田良舞、石黒瑛土、井上宇一郎、春山嘉夢一
お父さん(ダブルキャスト)益岡徹、鶴見辰吾
ウィルキンソン先生(ダブルキャスト)安蘭けい、濱田めぐみ
おばあちゃん(ダブルキャスト)根岸季衣、阿知波悟美
トニー(兄)(ダブルキャスト)西川大貴、吉田広大
ジョージ 芋洗坂係長
オールダー・ビリー(トリプルキャスト)永野亮比己、厚地康雄、山科諒馬
マイケル(クワトロキャスト)髙橋維束、豊本燦汰、西山遥都、渡邉隼人
デビー(トリプルキャスト)上原日茉莉、佐源太 惟乃哩、内藤菫子
ほか
【公演に関するお問合せ】
ホリプロチケットセンター 03-3490-4949 (平日11:00~18:00/土日祝休)
◆公式サイトはこちら
◉ミュージカル『ビリー・エリオット~リトル・ダンサー~』2024年版製作発表動画レポート
※ビリー役4名の初パフォーマンス披露&会見コメント
※お父さん役:益岡徹さん、鶴見辰吾さん、オールダー・ビリー役:永野亮比己さん、山科諒馬さんの会見コメントも収録!
動画撮影・編集:古川真理絵(バレエチャンネル編集部)
〈この動画は2024年11月24日までご覧いただけます〉
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