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【動画レポート】東京シティ・バレエ団「白鳥の湖」リハーサル&ダンサーインタビュー

バレエチャンネル

Videographer:Saiko Kodaka/Yuhei Kodaka

2021年7月17日(土)・18日(日)、東京シティ・バレエ団『白鳥の湖』~大いなる愛の讃歌~」』を上演します。同バレエ団が上演するのは石田種生版。バレエ団創立翌年の1969年に初演され、以降50年以上にわたり踊り継がれてきた代表的レパートリーです。

今回は6月下旬に江東区の稽古場で行われていたリハーサルのもようを動画レポート(*)
併せてこの4月からプリンシパルとなった4名のダンサーと、安達悦子芸術監督に、公演にかける思いなどをインタビューしました。

(*)前半の通し稽古で登場する主要ダンサー(オデット、ジークフリード王子)は2021年7月5~9日に日生劇場で行われた「ニッセイ名作シリーズ2021」で主演したキャスト(7/5主演)です。

取材・文:阿部さや子、古川真理絵(バレエチャンネル)
写真:バレエチャンネル編集部

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清水愛恵(しみず・まなえ)[オデット/オディール(7/17)]

5月の公演『鶴の池』(柳家花緑の落語バレエ版『白鳥の湖』)でオデットを踊らせていただきましたが、全幕でオデット/オディールを演じるのは今回が初めてです。
私は昨年5月に出産して、安達悦子芸術監督からこのお話をいただいたのがその2か月後の7月。当初は体力の面で不安があり、迷う気持ちもありました。でも自分が「母」になり、限られた時間でしかバレエと向き合えなくなったぶん、逆にリハーサルの時間に集中するようになって。これまで注意していただいてきたことに対しても捉え方が変わり、以前よりも素直に吸収して、気持ちよく踊れるようになったんです。産む前よりもバレエに対する姿勢がオープンになれた気がしますし、いま、本当にバレエが楽しい。この経験を今回の『白鳥の湖』に活かして踊れたら、と挑戦することにしました。

けれど、いざ踊ってみると人間でなく鳥であるという点が本当に難しい。頭の中で理想をイメージして踊っても、客観的に見ると全然鳥に見えません。王子と出会うシーンも、ただ怯えていることを表現するだけでは「人間」に見えてしまいます。テクニック的なことよりも、どうしたら身体で表現して伝えることができるのか。そこを試行錯誤しながらリハーサルしています。
オディールについては、私自身が男勝りな性格なので(笑)、オデットよりも役に入りやすい気がしています。オデットを踊っていても、オディールに見えてしまうことがあるくらいです。目標は、白(オデット)と黒(オディール)を明確に踊り分けること。黒がビシッと引き締まると白も引き立つと思うので、オディールを踊る時は強さや色気を全開にして出していこうと思っています。いまの自分はまだ、白と黒を行ったり来たりしていてグレー寄り。一人二役を踊り分けることは難しく、私にとって大きなチャレンジですが、そこがオデット/オディールを演じる面白さでもあり、魅力だと日々感じているところです。

この4月からプリンシパルになりました。これまでも多くの作品に主演させていただき、責任を負って舞台に立つことは経験してきたつもりでしたが、プリンシパルという名前がついたことで、いっそうの責任感を感じています。

清水愛恵(オデット)、キム・セジョン(ジークフリード王子)

キム・セジョン[ジークフリード王子(7/17)]

昨年は新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けて舞台が中止となってしまったので、3年ぶりの石田種生版『白鳥の湖』となります。僕はこれまでにジークフリード王子を何度か踊っていますが、毎回必ず課題が見えてくる。歩き方ひとつをとっても、王子らしく見えるようつま先をもっと伸ばして。上半身も大きく動かしすぎないように、手の先までゆっくり優雅に見えるように……と、注意すべきことは山ほどあります。

今回はとくに、演技の部分に重点を置いてリハーサルしています。バレエには言葉がありませんが、いまはパートナーの清水愛恵さんとお互いの感情を口に出してセリフを作りながら、演技と踊りが自然とつながるよう試行錯誤しています。清水さんが一人二役を演じるのは、今回が初めて。僕のこれまでの経験を活かして彼女をサポートできるよう、頑張りたいと思っています。

ジークフリードは心が若く、まだ「王子」になりきれていない王子です。国を守るにもまだ自信がなく、まだまだ友人と遊んでいたい、結婚なんて考えられない……そんな年頃の純粋な若者。そこが『眠れる森の美女』や『くるみ割り人形』など他作品に出てくる王子との大きな違いですが、そんな彼が母親から結婚を促されて悩むところから、ストーリーが始まります。僕は、そのように物語が動いていく瞬間が大好き。だからオデットやオディールと出会うシーンも、大事に演じたいですね。

4月からプリンシパルに就任したことは、とても嬉しく思っています。自分の踊りに対してもより責任感を持てますし、バレエ団の外にいる時も含めて、プリンシパルの名に恥じない態度でいなくてはと、身の引き締まる思いです。

中森 理恵(なかもり・りえ)[オデット(7/18)]

3年前の創立50周年記念公演『白鳥の湖』でオデット/オディールを踊らせていただいた時は、役の演じ分けをメインに考えて踊りました。でも、今回は「オデット」というひとつの運命を、最初から最後まで通して生きることができます。振付も以前よりは慣れているので、オデットの心の動きにより集中して、感情を大切に演じたいと思っています。

演じる上で感情が入りやすいのは、オデットが「嘆く」場面です。とくにハイライトでもある第4幕。白鳥たちがオデットの帰りを心配している情景を袖中にいる時から思い浮かべて、気持ちを高めてから舞台に出ていくようにしています。そして迎える、王子との最後のパ・ド・ドゥ。オデットは、最初は絶望でいっぱいで、大きく、嘆きます。でも、王子が戻ってきてくれた希望が、徐々に心を溶かしていく。同じ振付を踊っていても、王子の瞳の表情によって、絶望を感じたり、希望が湧いてきたり、優しい気持ちになったりします。その日、その瞬間に生まれる心の揺れを大事に踊りたいと思っています。

そのいっぽうで気をつけなくてはいけないのは、ただ感情に流されてクラシック・バレエのアカデミックな部分を失ってしまうこと。止まるところは止まる、回るところはきちんと回るということを忘れないよう、コントラストをつけて踊るのがいまの課題です。バー・レッスンでは絶対に崩れない真っすぐな軸をつくり、センター・レッスンでは上半身が歌えるよう、日々心がけながら身体づくりをしています。

4月からプリンシパルになりました。この肩書は、やはり重みが違います。みんなと同じ気持ち、努力だけでは務まらない。バレエに取り組む意識が変わったのを、自分自身で感じています。

中森理恵(オデット)、福田建太(ジークフリード王子)

佐合萌香(さごう・もえか)[オディール(7/18)]

今回、人生で初めてオディールを踊ります。最初はとにかく「新しい役に挑戦できる!」という嬉しさでいっぱいだったのですが、リハーサルを重ねるにつれて、この役の難しさをひしひしと感じています。
オディールはテクニック的な要素が多いので、そこが最も高いハードルになるのかな……と思っていたのですが、実際に挑んでみて最も難しさを感じているのは、人間ではなく鳥だというところです。これまでに踊ってきた役とは、アームスの動かし方、目線の使い方、立ち姿など、すべてが違います。いまはとにかく、毎回のリハーサルで「今日はここをこうしてみよう」と工夫を重ねる日々。私は自分の感じるまま自由に踊れる抽象バレエやコンテンポラリー・ダンスのほうが得意なタイプなので、立ち方ひとつとっても、考えることがたくさんある古典作品は、やはり難しいですね。

オディールはとても魅力的で、自信に満ちあふれたキャラクターだと思います。でもじつは、オディール自身もロートバルトに支配されているのではないでしょうか。振付を踊ってみると、彼女はいつもロートバルトの様子を伺い、彼の目を気にしているように思えるんです。王子とのパ・ド・ドゥでも、その中心にいるのはロートバルトであり、まるで3人で踊っているように感じます。第3幕の舞台全体を支配しているのはロートバルト。そうでなくては物語が成立しないと思うので、私自身もそれを強く意識するようにしています。

バレエ団のレパートリーの中でも、この石田種生版『白鳥の湖』がいちばん好きです。曲の構成と振付のすべてが合っていて、そこから生み出される世界観が大好きなんです。私がプロになって最初に立った舞台も『白鳥の湖』で、その時は石田先生もお元気だったので、リハーサルを直接指導していただくことができました。先生が教えてくださったのは、すべての動きに意味があるのだということです。例えば、コール・ド・バレエが立っている時の、片腕を上に上げた特徴的なアームスのかたち。あのポーズをしている時、白鳥たちは王子を警戒しながらも気になって羽の隙間から彼を覗き見ているのだと。「四羽の白鳥」は小さい子どもで、一人ずつだと怖いから、ずっと手をつないでいると教えていただきました。

4月からプリンシパルという階級ができましたが、コール・ドでもソリストでも責任を持って踊るということに変わりはありません。バレエはプリンシパルだけでなく、みんなで作るものだから。ですから私自身、プリンシパルになったからといって、意識に変化はありません。ただ、より難しい役や幅広い役を任されることに対しては、しっかりと向き合っていかなければと思っています。

※7/16追記:7/18オディール役の佐合萌香は怪我のため降板し、代わって飯塚絵莉が出演する旨が発表されました。詳細は東京シティ・バレエ団ウェブサイトでご確認ください

佐合萌香

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【Special Interview】安達悦子(あだち・えつこ)/芸術監督

東京シティ・バレエ団では、この4月から「プリンシパル」「ソリスト」「ファースト・アーティスト」「アーティスト」と階級制を設けたのですね。
安達 団員にとっての目標になりますし、モチベーションを上げていくためにも必要だと思い、ランクを導入しました。
プリンシパルダンサーたちは、偶然にも私が芸術監督になった2009年前後に入団してきた人たちです。ダンサー達の成長の過程を振り返ると、感慨深いものがあります。

安達さんが芸術監督に就任されて以来、ウヴェ・ショルツ作品のような特色のあるレパートリーが新たに加えられたり、今回のように団内のシステムが整備されたりと、バレエ団の改革が進んでいるように見えます。
安達 時間はかかっていますけれども、そうなったらいいなと思っています。日本のバレエ環境や東京シティ・バレエ団の歴史というものもある中で、出来る限りのことはやってみよう、うまくいかなくても、あきらめずにチャレンジし続けるーーそういうスタンスで取り組んでいます。現在バレエ団の顧問である石井清子先生や、監督の金井利久先生といった先輩方が築いてきたものを引き継ぎつつ、改革すべきところは改革していけたら。
コロナ禍により、昨年は東京シティ・バレエ団でも予定されていた公演――例えば私たちバレエチャンネルでも取材させていただいたパトリック・ド・バナ振付『Wind Games』のバレエ団初演が中止を余儀なくされたりしました。
安達 他にも、ボリショイ・バレエのオルガ・スミルノワとセミョーン・チュージンを招聘して上演する予定だった“フジタの白鳥”(*)も中止になりました。スミルノワは私も大好きなダンサーで、とても楽しみにしていたのですが、残念でした。でも“フジタの白鳥”はまた上演するつもりですし、パトリックの『Wind Games』も、来年1月に上演します。

*1946年日本で初めて『白鳥の湖』全幕が上演された際、画家・藤田嗣治が舞台美術を手掛けた。2018年、東京シティ・バレエ団創立50周年記念公演として、このフジタの美術を用いた『白鳥の湖』を新制作した。 

コロナ・パンデミックが起こり、何もかもが中止や自粛を求められていた頃、バレエ団内の状況はどうでしたか?
安達 これまで当たり前だった日々のレッスンやリハーサルができなくなり、オンライン・クラスも行いましたが、限られた空間では身体を思い切り動かすことができず、ダンサーたちは身体をどう保つか、本当に苦労していました。そしてもちろんメンタル面も。仕事がなくなってモチベーションが維持できなくなったり、経済的な不安も大きくなったりして、自分の人生を考え直したりキャリアチェンジをするダンサーも少なくありませんでした。
その頃に比べれば、このところは収容人数制限等はありながらも、公演活動は徐々に可能になってきましたね。
安達 そうですね。ただ、なかなか正常には戻らないな、というのが正直なところです。劇場に足を運ぶことを控えるお客様もまだ多く、今でも中止になる公演もありますし、地方公演もキャンセルになっています。バレエ団の経営にとっては厳しい状況が続いていますが、未だ不安の拭えない中でもどう歩んでいくか。それを日々考え、努力しているところです。やはり、ダンサーも私たちも、お客様に踊りを観ていただきたい。苦しい時期を乗り越えて、今また新たな気持ちでバレエに取り組んでいるダンサーたちと一緒に、頑張っていきたいと思います。

第2幕 四羽の白鳥

今回はそのような奮起の時だからこそ、バレエ団創立50周年の時などいつも重要な時に上演してきたレパートリーである『白鳥の湖』を上演することにしたのでしょうか?
安達 そうですね。東京シティ・バレエ団の設立者のひとりである石田種生先生が残してくださった財産的レパートリーであり、「大いなる愛の讃歌」つまり愛の復活という副題が付いている作品ですので、いまバレエ団としてもうひとつ気持ちを持ち上げたいというこのタイミングで選んでよかったなと思っています。石田版『白鳥の湖』は、古典作品としての王道を踏襲しつつ、第4幕の幕開きのコール・ド・バレエの配置は石田先生から竜安寺の石庭から着想を得たと聞いています。日本的な感性が加わった美しい場面です。王子だけでなく、白鳥たち全員で、自分たちの自由を勝ち取るのです。第4幕を踊ると、全員が本当に燃焼して一体感が生まれるんですよ。
いまは石田先生の演出意図や解釈をすべて知り尽くしている金井利久先生を中心に、石田先生自身から直に指導を受けた中島伸欣さんやキム・ボヨンさん、オデット/オディールを踊った私、他にもいろいろな役を踊ったバレエ・ミストレスの長谷川佑子さんや加藤浩子さんの他、民族舞踊の指導に小林春恵さんを迎え、若い世代に伝えています。また、他の様々な演出版を知るヴィスラフ・デュディックさんにも指導に加わっていただき、客観的な視点も取り入れて、作品をより進化させていこうとしています。作品が普遍的で揺るぎないからこそ、こうしていろいろな人の手で繋ぎ、受け継いでいくことができる。そして古典バレエとしての型があるからこそ、踊る人たちによって個性を出すことができるんです。バレエって素敵だなあと、あらためて感じます。

第4幕 白鳥の群舞

今回はティアラこうとうでの2公演と、日生劇場での「ニッセイ名作シリーズ」5公演を合わせて、トリプルキャストが組まれているのですね。
安達 はい、今回はA・B・Cという3つの組で配役しています。主役についてはAキャストの清水愛恵がオデット/オディールを一人二役で演じ、BキャストとCキャストではあえて白鳥と黒鳥でダンサーを分けました。Bのオデット役・中森理恵とオディール役・佐合萌香はどちらも白黒両方を踊れる力量の持ち主ですが、以前ウヴェ・ショルツ振付の『Air!』という作品で一緒に踊った時のクオリティが素晴らしかったので、今回はオデット&オディールでペアを組んでもらうことにしたんですよ。
最後に、今回の『白鳥の湖』にかける思いをあらためて聞かせてください。
安達 今ここにいるダンサーたちと、次に向かっていく思いで、この『白鳥の湖』をもう一つ掘り下げながらリハーサルしています。この復活の物語を、みんなで丁寧に作り上げて、お客様に届けたい。そしていろいろな不安を抱えていらっしゃるみなさまに、劇場にいらした時は夢の世界に気持ちを預けられるような作品にできたらと思っています。

「ニッセイ名作シリーズ」で主役を務めた斎藤ジュン、吉留諒

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公演情報

東京シティ・バレエ団『白鳥の湖』~大いなる愛の讃歌~ 全4幕
【公演日程・キャスト】
●2021年7月17日(土)17:00
オデット/オディール:清水愛恵、ジークフリード王子:キム・セジョン、ロートバルト:石黒善大

●2021年7月18日(日)14:00
オデット:中森理恵、オディール:佐合萌香、ジークフリード王子:福田建太、ロートバルト:内村和真

【会場】
ティアラこうとう大ホール

【詳細】
https://www.tokyocityballet.org/schedule/schedule_000653.html

※2021年7月12日からの緊急事態宣言発出による政府及び東京都のイベント開催制限に伴い、7月17日(土)、18日(日)公演の前売り券販売は停止。当日券販売なし。

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