ウィーン国立バレエ 専属ピアニストとして、バレエダンサーを音楽の力で支えている滝澤志野さん。
彼女は日々の稽古場で、どんな思いを込め、どんな音楽を奏でているのでしょうか。
“バレエピアニスト”というプロフェッショナルから見たヨーロッパのバレエやダンサーの“いま”について、志野さん自身の言葉で綴っていただく月1連載。
日記の最後には、志野さんがバレエ団で弾いている曲の中から“今月の1曲” を選び、バレエチャンネルをご覧のみなさんのためだけに演奏した動画も掲載します。
美しいピアノの音色とともに、ぜひお楽しみください。
ぽっかり予定が空いた夏休み
そのお知らせが届いたのは、日本に旅立つ前日の夕方でした。
日本で出演する予定だった公演の延期のお知らせ。今年は年明けから体調が優れず、休暇はゆっくりしたい気持ちもあり、夏は他の仕事を入れず、日本ではこの公演出演だけの予定でした。
日本では緊急事態宣言が発令されていて、水際対策も去年よりも一段と厳しいこと、身体のこともあり、お知らせを受けて帰国を取りやめようかと悩んでしまいました。でも、もうオンラインチェックインもパッキングも済ませてある。Meは何しに日本へ……。
そんな時、「バレエカレッジでイベントを」とのお話を以前いただいていたことを思い出し、阿部さや子プロデューサーに連絡してみたのです。空いた時間を使って何か面白いことができるかもしれない!
もしかしたらイベントをするかも? ということで、トランジットで立ち寄ったパリのご贔屓のお店でドレスも買いました(本当にいきあたりばったり)。
2色で悩んだのですが、店員さんが絶対紫が似合うと言ってくれたのと、地中海界隈を旅するといつも目にするブーゲンビリアの花に似ていたので、ニースの思い出に右をチョイス。
ニースの街角に咲くブーゲンビリア。
急遽決まったオンラインコンサート
オリンピックの時期にも重なり、今年の日本帰国の水際対策は厳しいものでした。ウィーンや関空での検査や手続きはもちろん、その後2週間、テレビ電話と位置情報で自己隔離を管理されます。ちなみに、私は機内で濃厚接触者になったらしく、1日4回テレビ電話がかかってくることもありました……。
そんな私にとって、急遽〈バレエカレッジ〉 にて、オンライントークショー&コンサートを開催する運びになったのは、幸運なことでした。お客様を入れての公演は今は難しいけれど、配信なら! 少しでもお客様とつながりたくて、リクエストを募ることにしました。
「今までリリースした4枚のCDから原曲で聴きたい曲」 そして「レッスン用にアレンジしてほしい曲」 。たくさんのリクエストをいただきました。
私にとって、やっぱり夏は日本のみなさまとこんな風に芸術でつながっていたい。
収録までの時間は2週間(ちょうど隔離期間)。今回は楽譜を一冊も持ち帰らなかったので、それもどうしよう。ネット上にアップされている曲はいいのですが、プロコフィエフのバレエ作品などは難しい。でも、久しく弾いていない曲をこの機会に弾いてしまおう! などと挑戦できるのも夏休みならではだったかな。なかなかヘビーな課題ではあったけれど、やっぱり私は、淡々とピアノに向き合う日々が好き。
そして、無事隔離が明けた次の日、私は東京に向かいました。
ウィーンの抗原検査キット持参です。
誰かにお会いする前に検査することで少し安心できます。
収録は代々木公園駅前のPachetart (パシュタート)さんで行われました。
我らがバレエチャンネルの編集長、阿部さや子さんが企画・司会進行してくださいました。
話すことに苦手意識があり、たとえば日本での公演の際にインタビューや記者会見などが行われる時なども、前日は緊張して時差ぼけも相まってほとんど眠れず、いつもボロボロのコンディションでマイクに向かっていた気がします。でも、今回はいつになく安心して話すことができました。感謝です。
いただいたリクエストをノートに書きだしました。
収録した動画は、バレエチャンネルのYouTube で近々公開されると思いますので、楽しみにしていてくださいね。
♪
そしてその2日後、私の新譜「Dear Tchaikovsky」 の解説を書いてくださった、音楽評論家の林田直樹 さんがプレゼンターを務めるラジオ、OTTAVA にも急遽お呼ばれして、お話ししてきました。
ラジオ本編と別に、YouTubeの動画 も何本か撮りました。ウィーンやチャイコフスキーのことをお話ししています。下記の他にもいくつか動画が上がっているので、よろしければぜひそちらもご覧くださいね。
VIDEO
帰国している間に日本は感染拡大してしまい、友人たちには会わず、お仕事もほぼオンライン、ということになりましたが、それはそれでコロナ共存時代に大きく発展していくスタイルなのですよね。
兄が住む葉山だけ訪れ、予定していた期日を2週間早めて、ウィーンに戻ってきました。みなさまにとって2021年夏はどんなものでしたでしょうか。来年は安心して過ごせる夏になることを祈りつつ、いまは心身ともに健やかに、オンラインで繋がっていましょうね。
今月の1曲
バレエカレッジ本編の収録が終わっても、まだ弾き足らず、いただいたリクエストを即興で繋げて、お遊びで即席バレエ曲メドレーを弾きました(それ以外にもいろいろ弾いた気がする。スタッフのみなさまごめんなさい)。
せっかくなので、その即席メドレーを今月の動画にします。しかし、2週間あんなに頑張ったのに、1ミリも練習していない曲をこうして公開してしまうのは一体どんなオチなのでしょうか……。
(著作権的にアップできない曲をいろいろ弾いたので、途中から載せています)
2021年8月20日 滝澤志野
★次回更新は2021年9月20日(月)の予定です
【NEWS】 配信販売スタート!
滝澤志野さんのベストセラー・レッスンCD「Dramatic Music for Ballet Class」(ドラマティック・ミュージック・フォー・バレエ・クラス)、大好評のvol.1に続き、vol.2&3の配信販売がスタート しました!
New Release!
Dear Tchaikovsky (ディア・チャイコフスキー) 〜Music for Ballet Class
ウィーン国立バレエ専属ピアニスト 滝澤志野
ベストセラーCD「ドラマティック・ミュージック・フォー・バレエ・クラス」でおなじみ、ウィーン国立バレエ専属ピアニスト・滝澤志野の新シリーズ・レッスンCDが誕生!
バレエで最も重要な作曲家、チャイコフスキーの美しき名曲ばかりを集めてクラス用にアレンジ。
バレエ音楽はもちろん、オペラ、管弦楽、ピアノ小品etc….
心揺さぶられるメロディで踊る、幸福な時間(ひととき)を。
●ピアノ演奏:滝澤志野
●監修:永橋あゆみ(谷桃子バレエ団 プリンシパル)
●発売元:新書館
●価格:3,960円(税込)
★収録曲など詳細はこちら をご覧ください
ドラマティック・ミュージック・フォー・バレエ・クラス1&2&3 滝澤志野 Dramatic Music for Ballet Class Shino Takizawa (CD)
バレエショップを中心にベストセラーとなっている、滝澤志野さんのレッスンCD。Vol.1 では「椿姫」「オネーギン」「ロミオとジュリエット」「マノン」「マイヤリング」など、ドラマティック・バレエ作品の曲を中心にアレンジ。Vol.2 には「白鳥の湖」「眠れる森の美女」「オネーギン」「シルヴィア」「アザー・ダンス」などを収録。Vol.3 ではおなじみのバレエ曲のほか「ミー&マイガール」や「シカゴ」といったミュージカルナンバーや「リベルタンゴ」など、ウィーンのダンサーたちのお気に入りの曲 をセレクト。 ピアノの生演奏でレッスンしているかのような臨場感あふれるサウンドにこだわった、初・中級からプロフェッショナル・レベルまで使用可能なレッスン曲集です。
●ピアノ演奏:滝澤志野
●Vol.2、Vol.3監修:永橋あゆみ(谷桃子バレエ団 プリンシパル)
●発売元:新書館
●価格:各3,960円(税込)