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小林十市 連載エッセイ「南仏の街で、僕はバレエのことを考えた。」【第22回】発表会を開催しました。……そして。

小林 十市

ベジャール・バレエ・ローザンヌ(BBL)のスターダンサーとして世界中の舞台で活躍。
現在はBBL時代の同僚であった奥様のクリスティーヌ・ブランさんと一緒に、
フランスの街でバレエ教室を営んでいる小林十市さん。

バレエを教わりに通ってくる子どもたちや大人たちと日々接しながら感じること。
舞台上での人生と少し距離をおいたいま、その目に映るバレエとダンスの世界のこと。
そしていまも色褪せることのない、モーリス・ベジャールとの思い出とその作品のこと−−。

南仏オランジュの街から、十市さんご本人が言葉と写真で綴るエッセイを月1回お届けします。

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今ざっとこれまでの自分の連載を見返したんですけど、スタジオの発表会については1回しか触れていないんですね。去年は劇場閉鎖でできなかったから。今年も結構ギリギリまでどうなるか分かりませんでしたけど、結果から言うとなんとか無事に発表会を終えることができてホッとしています。去年の秋頃に自分のスタジオを含めた4つのお教室とオランジュ市の役員たちと会議があって、今シーズンのクリスマスガラの日程と6月のシーズン終わりの発表会の日程がその時決められました。そしてクリスマスガラは結局不可能なまま終わり、年明けから2週間と少しの間スタジオでレッスンができて、その後からまたずーっと家バレエ、オンラインレッスンで。6月もどうなるのかわからないままレッスンを続けてきて、「可能」な時のために発表会用の振付もして準備をしていました。

519日の水曜日から、子どもたちはスタジオでマスク着用でレッスン再開! ということで、65日の発表会に向けて猛稽古の開始でもありました。劇場側はPCR検査も必要なく、客席の35%だけの175席を確保で最大6人まで並ぶことができ、あとは家族ごとに距離を置いて座るとのこと。子どもたちは舞台裏や袖ではマスク着用で、舞台上では必要なし。このように発表会開催のための準備事項があって他には衣裳どうする? とか、チケット販売いつする? とか急に慌ただしく日常が進んでいきました。

さて、発表会の上演演目ですが、52人いた生徒が29人になり、予定していたソロやアンサンブルとかできなくなったけれど、今回は『Etude pour Paquita(パキータのためのエチュード)』という、まあパキータをベースに勉強、研究、練習のようなニュアンスで。そして、これもいつも僕のやり方なんですけど、下から上まですべての生徒を同じ世界観の中に入れる。なので『パキータ』も4歳児とかいるわけです。例えば最初のマズルカを、4歳−6歳クラス、6歳−8歳クラス、8歳−10歳クラスの3つのグループにして、別々に稽古して舞台稽古の時に初めて合わせるとか。え!って思われるでしょうけど、各グループの踊る場所を決めてあれば、まるでずっと一緒に稽古していたかのようにすぐにできちゃいます。こんな感じで最初と最後を作り、あとはグループごとにレベルに合った動きを音楽と合わせていく、というやり方です。

前半はクラシック、後半は創作舞踊でいつも構成しています。大体のお教室がクラスごとにテーマも別々で、たまに学芸会っぽくなっている感じもします。それを避けたくて、なるべくひとつの作品、ひとつの世界観に生徒みんながいる作品を見せることが自分では良いと思っているので毎回そうです。日本のように外からゲストを呼ぶのはこの辺りのスタジオではほぼ無いことなので、基本そのスタジオの生徒たちだけで構成します。

後半は『FREEDOM』という、もうリモートじゃなくてこの舞台空間で走り回れるような自由を、踊る楽しさを満喫できるような、そんなイメージで作りました。

音楽はバッハのゴルトベルグ変奏曲から抜粋して。ピアノはもちろん、ヴァイオリンバージョン、木琴バージョンと、グループごとにいろいろ使い分けてみました。

踊り始めと終わりのつなぎを、演出によってグループやソロやデュオを踊る生徒たちが何かしら関係性があるように作り、そこはコミカルな部分もあったりで、作る自分が(お客さんもそうだと良いけど)笑える要素を必ずどこかに入れています。

大体の部分はオンラインレッスンでも稽古してきたので、519日にスタジオで稽古を再開してなんとか行けるだろうと思っていたのですが、小さな子たちはほぼ最初からやり直しという感じでした。思ったのが、振りは忘れていても振付に使っている音楽はずっと聴いてきていたので、割と早く立て直しができたな、ということ。音楽を理解してるって強いなと。舞台稽古の62日の水曜日まで2週間! 発表会でやる演目だけに集中しました。

先月、アノネーから戻り、ソロの自主稽古を続けている自分ですが、この機会に自分も舞台で踊ってみたいと思っていました。けれど問題は「テーブルがない」ということで、最初小さめのテーブルで上に乗れないけど踊って良いでしょうか? と聞いたところ、振付家のアブ・ラグラさんが指定したサイズ感のものがないと演出上無理で作品の意味合いも変わってくるからやらないほうが良いとのお返事があり、諦めました。『パキータのためのエチュード』が約22分で『FREEDOM』が約30分なので、間に自分が入るとちょうどいいなと思っていただけに残念でしたが、何か他にないと短すぎると思い、『パキータ』の前に大きな子たちを2つのグループに分けて、舞台上でのウォームアップというかたちで公開レッスンのようなものを見せようと。エクササイズもあらかじめ決めておくけれど、その場で出されたエクササイズをやっている感じで動く、というのをやろうと本番6日前に決めました。

衣裳はいつもなら近所の舞台衣裳を作っている方から借りたりするのですが、今回はその時間もなく、僕らが持っているレペットの稽古用チュチュと小さな子たちにもチュチュっぽい物をなんとか人数分用意できました。

ある意味、生徒が少なくて良かったと思えた瞬間(笑)。

後半の『FREEDOM』の衣裳は、生徒に赤かオレンジか黄色または濃いピンクでワンピースがあれば用意して下さいとお願いをしました。本番1週間前には各自スタジオへワンピースを持参し、着てみて動けるかどうかを試しました。

さて、62日の舞台稽古の日。劇場へ行くと、なんと! ちょうど良いサイズ感のテーブル? ステージユニット? まあどちらにしても、ソロを踊るのに適した素材の物が置いてあるではないですか!!

すぐにアブ・ラグラさんに写真を撮って連絡しました。そして上演許可をいただき、急に生徒たちより自分のことが気になりだした自分です(笑)。なので上演演目が、「舞台ウォームアップ」→『パキータのためのエチュード』→休憩10分→『One to One』(僕のソロ)→FREEDOM』と約1時間半の長さに変更され、自分の衣裳を取りに行き、劇場へ戻り照明合わせ、そして生徒たちが来て場当たり稽古となりました。自分のソロは生徒たちの稽古をすべて終えてから、衣裳つきで通しました。

65日発表会当日。

写真のようにOrange Ballet Schoolのロゴをプロジェクターで映し出し、客入れの時もカーテンは開けたまま、舞台上の照明はなく生徒たちには私語をせず柔軟だけなら舞台にいて良しと言い渡しました。これは前回のクリスマスガラ以来舞台に立っていない子たちの緊張をほぐす目的と、いきなり作品を踊るのでなく空間に慣れる目的を兼ねてのアイデアでした。

あと、劇場スタッフさん、音響や照明や消防署の方がいらっしゃいますけど、それ以外の劇場入口の正面扉の開け閉め、チケット関係、鞄チェックなどはこちら側が用意した人々がやってくれています。クリスティーヌの両親とか。小さい生徒たちの世話は、ある生徒のお母さんが幼稚園の先生なので、その方に毎回頼んでいます。

僕は音きっかけや照明、舞台上を管理する舞台監督を務めます。一応進行表は作って生徒用に舞台裏に貼ってありますが、舞い上がっている生徒たちがすべて把握しているわけではないので、結構落ち着いていられません。

クリスティーヌは舞台裏と客席を行ったり来たりする社交的存在(笑)。

さて、発表会の幕開き、公開レッスンはこんな感じ。当連載初ビデオ!

生徒たちの家族には好評な公開レッスンです。普段は見たことがないですからね。

続いて『パキータのためのエチュード』。

僕はレッスンのエクササイズを出して、そのあと袖に控えて音きっかけ出したりとずーっと立っていて突然両脚が重たく感じられて、しまった俺このあと踊るんだったと(汗)。

焦りましたが『パキータ』もほぼ終わりに近づき……そのまま終わりまで立ったままでした。

真ん中に集まってと言っているのに動かない生徒たち……。
このために照明つけたままでいてもらってたのに。僕は急いで衣裳に着替えに。

ソロが始まる直前まで無線で「客席暗転」とか「幕開けて音楽スタート」とか言い渡して舞台上へ……一瞬にして踊るほうに切り替えた自分。

ある意味不思議な感覚でした。集中してるけど、すべて見えて聞こえている、みたいな。

始まる前は少し脚に力が入らず不安でしたが、踊り始めたら腹から力が回ってくる感じがしました。なんだろう? やはりこのソロは自分との対話な感じがしました。その瞬間瞬間を味わえたらいろいろな意味で醸し出されるものが深くなるのかもしれない? まだ分かりませんけど。とにかく振付けてもらってから約1ヵ月目に踊れたことは良かったと思います。

そして終わってすぐに『FREEDOM』の開始。 

みんな楽しそうでした。一貫してみられたのが音楽の早どり。みんな頑張ろうと緊張しているからだと思うのですが、割と今回多かった。けれど冒頭でも言いましたが、みんな音楽を聴き慣れていたおかげで、早どりしてもきっかけまで待つことができたので、そこまでバラバラにならずお客さん的には気にならなかったはずです。

僕は袖できっかけを出しながら汗が止まらず、これらの写真も自分で撮っていました。なのでファインダー越しに生徒の踊りを見ることもあり、舞台袖の中でも生徒たちに気を配って……と忙しかったです(笑)。いつもプロのカメラマンにお願いするんですけど、今回連絡するのが遅れてカメラマンの都合が合わなかった。でもまあ、こっちの発表会って親はスマホで撮りまくってますからプロの写真を買う人ってほとんどいないんです。

一応フラッシュは使わないでねというくらいで。ちなみに僕の写真は娘が撮ってくれました。(インスタやツイッターに違う写真あるから見てね❤️

今回、客席にいるみなさんがすごく温かかった。心のこもった拍手に生徒たちもみんな一生懸命応えていたと思うんです。舞台と客席がひとつになって、とても良いエネルギーだったと思います。発表会ができて本当に良かった。クリスティーヌと僕にはすごく意義あるものだったのです。

それは、「始まりのための終わり」だからです。

クリスティーヌと僕は、今シーズンをもってOrange Ballet Schoolを閉めることにしました。

その理由はまず、僕が今年Dance Dance Dance @ YOKOHAMA 2021」のディレクターに就任し、自分で自分が踊る公演をプロデュースをしたりで長い日本滞在になり、来シーズンの頭に戻って来られないからです。え!? だってクリスティーヌがいるでしょう? と思われると思います。もちろんそうなんです。そうなんですけど、クリスティーヌは健康上の理由で教えができないんです……。幸い快復に向かっていて、今も日々体調の上下はありますけど、大丈夫な方向に向かっています。

いろいろ考えたんですけど、6年前に近藤良平さんの『モダンタイムス』に出させていただいて、それ以来の日本での舞台です。なぜこんなに間が空いたかというとそれはやはり「家族優先」と、スタジオをやっていると結局他のことをやろうと思っても無理なんですね。そして今、このタイミングで「Dance Dance Dance @ YOKOHAMA 2021」のディレクターになりクリスティーヌがこういう状態で僕ら2人の人生は大きな転換期なんだと思います。人生ではこういうことが何回かあるんじゃないですかねえ、分岐点のような……。あと娘も16歳になり僕らの手伝いも充分できるようになりましたし、すべての物事が絶妙なタイミングで動いている気がするのです。

発表会が終わったばかりですけど、14日の月曜日にメールですべての生徒に知らせようと思っています。本当に申し訳ない気持ちもあるんですけど……これを書いている今69日ですけど、今日も教えてきたばかりです。というか今シーズンずーっと1人で教えてきたんです。嫌ではなかったけどたまに疲れが取れずきつい時もありました。でもクリスティーヌのことを考えた時に自分を甘やかしたくはなかった。僕よりも大変な思いをしているのはクリスティーヌだから……。あと僕はあのスタジオの空間が無くなるのかと思うととてもつらいです。この数ヵ月宝くじをやっていますが当たりません(そりゃそうだ)。生徒が結構辞めたので、このあとの7月8月の家賃を支払うのも大変だし、日本で踊るから例年のように9月にクラスを始めることはできない。それで12月から再開したとしても、遅すぎて誰も来ないと思うんです。一応、その方向も考えたんですけど。

僕のビジョンは、僕のこれからは「フリーランスのダンサー」で活動していくということです。果たして活動していけると良いけど……舞台を楽しみたい! という気持ちがやはりあるので。

その始まりが「Dance Dance Dance @ YOKOHAMA 2021」なわけです。

あと、どうしましょう? この連載!?

南仏でバレエを考えた(笑)。ベースはこのまま南仏ですけどバレエ教室を営まなくても大丈夫でしょうか?
それともこの回で最終回にしましょうか?
アンケートで決めてみようと思います(勝手に言うな!!)。

発表会の話からのどんでん返し。

今月もお読みいただきありがとうございます。

小林十市

★次回更新は2021年7月27日(火)の予定です

この記事を書いた人 このライターの記事一覧

元ベジャール・バレエ・ローザンヌ、振付家、俳優。 10歳より小林紀子バレエシアターにてバレエを始める。17歳で渡米し、スクール・オブ・アメリカン・バレエに3年間留学。20歳でスイス・ローザンヌのベジャール・バレエ・ローザンヌに入団。以後、数々の作品で主役をはじめ主要な役を踊る。2003年に腰椎椎間板変性症のため退団。以後、世界各国のバレエ団でベジャール作品の指導を行うほか、日本バレエ協会、宝塚雪組などにも振付を行う。また舞台やテレビ、映画への出演も多数。 2022年8月、ベジャール・バレエ・ローザンヌのバレエマスターに就任。

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