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小林十市 連載エッセイ「南仏の街で、僕はバレエのことを考えた。」【第21回】50代。今の自分のためのソロを、振付けてもらいました。

小林 十市

ベジャール・バレエ・ローザンヌ(BBL)のスターダンサーとして世界中の舞台で活躍。
現在はBBL時代の同僚であった奥様のクリスティーヌ・ブランさんと一緒に、
フランスの街でバレエ教室を営んでいる小林十市さん。

バレエを教わりに通ってくる子どもたちや大人たちと日々接しながら感じること。
舞台上での人生と少し距離をおいたいま、その目に映るバレエとダンスの世界のこと。
そしていまも色褪せることのない、モーリス・ベジャールとの思い出とその作品のこと−−。

南仏オランジュの街から、十市さんご本人が言葉と写真で綴るエッセイを月1回お届けします。

🇫🇷

情報が解禁になりご覧になった方もいらっしゃると思いますが、この度「Dance Dance Dance @ YOKOHAMA 2021」のディレクターに就任しました。

このコロナ禍でプログラミングしていくのは結構大変でしたが、その中でひとつ思いついた企画が「エリア50代」というものです。50歳を少し過ぎて、自分の体の使い方や表現方法などの在り方についてどうあるべきなんだろう? という僕自身がふだん悩んでいる問題が、この企画が生まれるきっかけになりました。

おそらくですが、一般的に現役を終えた40代前半のダンサーたち(現役を退く年齢は個人差があると思いますが)は、作品の指導やバレエ教室などでの教えにまわる方が比較的多いのではないでしょうか? リサーチしたわけではないので実際のところはわかりませんが、たとえ舞台に立たなくても、「教え」「作品指導」など、やはり「動く」機会はあると思うのです。もちろん日常生活の中でも「昔は楽だった」ことが大変に感じたりすることもあると思いますし。

現役時代ほど毎日レッスンやトレーニングをするわけでもなく、20代や30代の時には感じなかった体の変化とどう向き合い付き合っていくのか?
ある意味、これまでに培ってきたものや経験から身についた動きの癖やスタイルのまま、新しい発見もなく日々が淡々と過ぎ、50代というまだ「ベテラン」と呼ばれる領域には到達し得ない中途半端感などもあるのではないか?
本当にこれで良いのか?
ならば「今」何ができるのか?

こうしたことを追求してみたいと思い、自分と同じ50代の方を巻き添えにして、この「エリア50代」が実現することになりました。「追求」ということであえて自分で振付をするのでなく、自分の癖や得意な動きを封じたところからのほうが良いと思い、参加ダンサーのみなさんには振付家探しからお願いしました。僕自身は、横浜市とリヨン市が姉妹都市だということを聞き、元20世紀バレエ団でリヨンのコンセルヴァトワールで教えていたドミニク・ジュヌヴォワさんに連絡して、リヨンやリヨン近郊で振付家を探してもらいました。そうして紹介していただいたのが、リヨン近郊の街アノネーで「La Baraka」というカンパニーの芸術監督をしている振付家のアブ・ラグラさん。今回は彼に振付の依頼をしました。アブ・ラグラさんはふだんなら忙しい時期だったらしいのですが、コロナの影響ですべての公演が中止や延期になり、「外の仕事でソロを振付けたのはオーレリ・デュポンさん1人だけだけど、やってみようか!?!」と引き受けてくださいました。

連絡をした約2ヵ月後の202076日にアノネーにあるスタジオへ出向きワークショップ的に彼の動きを経験することができ、その時に僕を見てインスパイアされたからと、約3分ほどの振付をしてもらいました。そしてこれを書いている今日202151日、約10ヵ月ぶりにアノネーに戻ってきたしだいです。すみません前置き長くて(笑)。明日から本格的にソロの創作活動に入りますが、明日のために前回振付けていただいた箇所を何度も練習して来ました。ですが変わる可能性もあるわけです。

まあ、それは明日のお楽しみということで……。

さて、本当ならばオランジュからバイクでここアノネーに来るつもりでした。
そのために荷物を乗せるシュミレーションもしたのです。

オランジュ−アノネー間は160km、高速道路を使わず国道で約2時間40分くらい走る距離です。

ところが一昨日からずーっと雨だったのです! 今朝までバイクで行くつもりでした。ですが大降りの雨を見てクリスティーヌが心配して、バイクで行くという僕に対して怒り出した(笑)。僕も再び考え直し、今回いちばん大切なのは「踊ること」であり振付けてもらうのにちゃんと動けないことになってはどうしようもないなと思い、バイクでの冒険をあきらめてクリスティーヌに車で送ってもらいました。ただフランスはコロナ禍で移動制限があるんです。僕は「仕事」なので外出許可証を持って移動できるのですが、付き添いのクリスティーヌはどう説明するか? 職務質問されたらどうしよう? 罰金135ユーロは痛すぎる……と思っていたのですが、今日は51日。メーデーで祭日なので、働いている人は誰もいないようでした。

高速道路を走り約2時間で到着し、アブ・ラグラ氏に滞在先のアパートの鍵をもらい明日の時間を決めて、今これを書いています。

まだ雨は降り続けています……。クリスティーヌも職務質問されず無事にオランジュに戻れたようです。メルシーメルシー!

これから1週間、振付していただく過程を日々綴っていきたいと思います。

【ソロ振付初日】

去年来た時のほうが緊張していたと思います。今回はあらかじめ彼の動きを練習してきていたので、それがどういう方向へと進展してくのか楽しみでした。

ここ、良いですよね~♪ 朝到着してすぐに1枚撮りました。チャペルをスタジオにするなんて素敵だなぁって。ここではレジデンスという制度を取り入れていて、フランスの田舎の街や使われなくなった古いお城などさまざまなスペースを利用して、1週間ほどの滞在で集中して創作ができるようになっています。今回の僕のように外のダンサーが来て作品を作ったり、時には地元の人に向けて公開リハーサルとかもしているようです。

さて、柔軟をしてからまず前回のおさらいをするのではなく、新しい動きから始まりました。そして前回の振りを見せて、変更した部分と直しとカットした部分、そして今日作った部分を繋げて音楽も変えて……と、初日にしては結構動きました。集中しているとあっという間に時間が経ち、一度止まると身体が痛くてちょっと大変でした。バイクに乗ってこなくて正解ってこの時思いましたよ(笑)。

結構ハイペースで振付しているのではないでしょうか? 今日は約4時間くらい踊っていたと思います。アブ・ラグラさんも現役は引退していて僕より2つ年下の50歳です。ですが動く! 振付をする時は、本番では使わない別の音楽で振りを作っていくんです。それでそのあと本番用の音楽で合わせていくんですけど、これが面白いタイミングで合ったりするので不思議なのですが違和感がないんですね。それは振りが、なんというか僕という人間って何? この人は誰で何者だろう的な感じだからかな? と。もちろん音楽の存在も大きいのですが、僕が僕のやるべきことに向き合えていたら大丈夫なのでは? と。ストーリーとかあるわけではないのですが、何かが見えてくる感じ。

テーブルを使うんです。対話的な時もあり、身を委ね、体重を乗せて重心を落として脱力して……と、理解できるけどできない苦手分野。もともとがバレエダンサーなので、つい胸を張っちゃうんですよね(笑)。

「マーキングをするつもりで力を抜いて。音の理解とパへの意識を」って言われました。

【振付2日目】

今朝はキツかったですね。首から背中、腰と筋肉痛でした。けれど柔軟して準備していたら気にならなくなってスッと稽古に入れました。

自分のやってきたこと、蓄積されている経験。それらを信頼してあげるといい。パッと踊っても酷いことにはならないんだから。と、アブ・ラグラさんに言われました。

でも難しいですね、自分を解放するのが。考えて構えちゃう。これじゃあ演劇をやっていた時と同じだ……。

稽古後にスーパーへ買い出しに行ったんですけど、帰り道に階段が多いのと坂があるのとで、体がつらくて泣きそうになりました。もう食事作ってお皿も洗いました。これからボーッとします。

【振付3日目】

昨夜、寝る前にその日やったことを復習したんですけど、寝る前にやってはダメですね……よく寝られなかった(笑)。相変わらずの筋肉痛と肘と膝に複数のアザができています。今日も昨日やったところの先を振付けてもらってから、最初から細く稽古していきました。

そういえば、今回は靴下で踊っているんです。初めてです。ウォームアップでプリエとタンデュのエクササイズをする時はバレエシューズですけど。みなさん「プリエして」と言われたら? とりあえず両膝を曲げて下に、ですよね? 上半身は引き上げたままで。でも今日、プリエするときに股関節から上体を倒して折り曲げればいいって言われたんです。アブ・ラグラ氏がウィリアム・フォーサイスさんから聞いた言葉らしいです。突然上半身が楽になりました。振りの中でですけど。

【振付4日目】

振りの中で結構「ここはこういう感じで好きに動いて」というところがあるんですけど超苦手なんです。新しいことにチャレンジできるのは嬉しいのですが……。難しいし時間がかかる作業です。けれどアブ・ラグラさんは結構早めに成果が見たい感じでどんどんくる。頭も身体も毎回フル回転です。息切れ、汗、筋肉痛。水をすごく飲みます(笑)。代謝が良くなりました。滞在しているアパートに大きめのバスタブがあってよかったです。

【振付5日目】

振付が仕上がりました。約13分あるんです。なんでこんなにキツイんだ!(笑)思い返せば『東京ジェスチャー』(ベジャール振付)でも、ベジャールさんにソロを作ってもらうことになりそれが膨らんで約20分もある作品になって後半酸欠で足先が感じられないほど大変でした。さてソロが出来上がり、さらに要求が鋭くなって稽古も厳しさが増してきました。今日はアブ・ラグラさんが鬼に見えましたよ……。

慣れない動きに「背骨! 骨盤! 股関節! 手! 首! 力抜いて!」とビシバシくる。

衣裳がプランAから上の写真のプランBになり。「ちょっと着て動いてみて。マーキングでいいから」と言いながら「もっと柔らかく、そこ鋭く動いて!」って(汗)。

そして「うーん、衣裳ダメ」となりプランCへ。

こうなりました。

【振付6日目】

昨日言われたんです「僕の仕事は終わった。あとは十市しだい。この作品をどう成熟させるか? ここからだよ」と。今朝は2〜3ヵ所、注意と稽古を約1時間ほど。そしていったん2時間ほど間を空けてから、地元の新聞記者とアブ・ラグラさんの弟さん家族が来て、ソロを披露しました。簡単な自己紹介とソロの振付をお願いした経緯などをアブ・ラグラさんと一緒に話し、そこから踊りへ。10人くらいでも前に座って観られているとちょっと違うスイッチが入る感じがします。気をつけなければいけないところや音楽に集中しようと割と冷静に思いながらソロに入りました。あとは、どうだろう? よくわからなかった(笑)。観に来てくれた人々は喜んでくれたようです。(横浜でもそうなる事を祈りつつ)

正直、ここまで大変なソロになるとは思っていなかったです。ですが、きっとそれはまだ自分ができるからなんだと……思いたいし、このソロを通して自分を、自分の踊りを解放していきたいなと。ああ、踊れるって最高だな……舞台に行くまでのプロセスがね~、やはり大変なんですよね。緊張、ストレス。若い頃は若さで突っぱねることができたけど、「50代」って……大変だと思うんです、他の人はわからないけど、自分は。そこも含めて変化できればいいな。さらけ出すのを怖がらないような……怖いよ(笑)。

【振付最終日】

今日はもう稽古というか、プロモーション用のビデオ撮影でした。いつも通りの準備をし自分で今ままで注意されてきたことを反復し、一度カメラマンさんのために音楽でマーキングしてから着替えて撮影。1ヵ所衣裳が足に引っかかりすっ転びましたけど、本番でもあり得ることだし集中していたのでそのまま続行。一度すべて踊り終えてから部分的に取り直し、そして終了。7日間踊り続け、ある意味満身創痍……気持ちは充実。本当に今の自分にぴったりなソロを創作していただきました。あとは僕がこのソロを生きて成熟させて行くだけです。僕を迎えに来てくれたクリスティーヌも喜んでくれました。「十市がこんなふうに踊るの観たことない!」って(笑)。

日本に行く前に一度稽古しておいたほうが良いだろうと日程を調整し、アブ・ラグラさんにあらためてお礼を言って別れました。すごい1週間でした!

この連載が始まって以来、指導者としてでなく、また思い出話でもなく、初めてダンサーとしてのことを書いた記事だと思うんですけど、こんなことになるなんてまったく想像していなかったですし、いやあ人生何があるかわかりませんね。しかし、自分の中ではいつもチャンスの波が来た時にそれに乗れるようにとは思っていたので、僕のインスタグラムやツイッターをご覧になっている方はわかると思いますが、その時自分ができることはやってきていました。けれどこうして再び舞台に立つ! となるともちろん嬉しいけれど少し臆病な自分もいるのが正直なところです。アブ・ラグラさんは「踊ることが大好き。こうしてスタジオでダンサーたちと一緒に創作するのが楽しい。舞台も好きなんだけど、もう舞台に戻りたくないのは、舞台へ行くまでのプロセスがストレスになるから。舞台に上っちゃえば平気だけど、それまでが嫌なんだ」と。すごく解ります(笑)。

でも今回50歳を過ぎてチャレンジする僕を見て「十市のような他の50代のダンサーたちと一緒に何か創りたいね」と、何かアイデアのようなものが見えてきたみたいです。もしかしたら将来また一緒にお仕事できるかもしれない!?

さてDance Dance Dance @ YOKOHAMA 2021ですが、「エリア50代」や、他のプログラムもこれから徐々に詳細が明らかになっていくと思うので、みなさんお楽しみに! そしてよろしくお願いいたします!

今月もお読みいただきありがとうございます。

小林十市

★次回更新は2021年6月15日(火)の予定です

この記事を書いた人 このライターの記事一覧

元ベジャール・バレエ・ローザンヌ、Orange Ballet School 主宰、振付家、俳優。 10歳より小林紀子バレエシアターにてバレエを始める。17歳で渡米し、スクール・オブ・アメリカン・バレエに3年間留学。20歳でスイス・ローザンヌのベジャール・バレエ・ローザンヌに入団。以後、数々の作品で主役をはじめ主要な役を踊る。2003年に腰椎椎間板変性症のため退団。以後、世界各国のバレエ団でベジャール作品の指導を行うほか、日本バレエ協会、宝塚雪組などにも振付を行う。また舞台やテレビ、映画への出演も多数。 現在はフランスのオランジュにて Orange Ballet Schoolを主宰。

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