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尾本安代、平田桃子、橋本清香、木本全優らが出演! 苫野美亜プロデュース Dance Performance Live #10「DANCE NOBLE」公開制作レポート&インタビュー

坂口 香野

舞踊家・振付家の苫野美亜がプロデュースを務めるDance Performance LIVE。その第10回の記念公演が、2024年8月11日、横浜の赤レンガ倉庫で行われます。出演はバーミンガム・ロイヤル・バレエ プリンシパルの平田桃子、ウィーン国立バレエ プリンシパルの橋本清香木本全優、谷桃子バレエ団シニアプリンシパルの尾本安代ら。これに先立ち、7月5日に行われた公開制作とトークセッションのもようをレポートします。

公開制作は、みなとみらいホールのリハーサル室で行われました。最初に披露されたのは中村春奈横山翼山田琴音大藤明礼生の4人とヴァイオリン(井阪美恵)・ピアノ(石井麻依子)の生演奏による『十四夜月』の1シーン。静かな旋律に導かれるように、ダンサーが一人ずつ歩み出し、1フレーズずつ印象的なソロを踊ります。刀の一閃を思わせる鋭い動きであったり、ふっくらと穏やかな佇まいであったり……それがデュオへ、全員の動きへと変化していきます。

『十四夜月』リハーサルより ©️Ryosuke Miyazawa(umProduction)

「十四夜月」とは、十五夜の一夜前、あと少しで満月になる月のことで「小望月(こもちづき)」「幾望(きぼう)」とも言うそうです。この作品は、龍安寺の石庭に触発されてつくられました。石庭には十五個の石が置かれていますが、どの位置から見ても十四しか見えません。苫野さんは、この配置に込められているといわれる「物事は完成した瞬間から崩壊が始まる」という思想に、強いインスピレーションを受けたといいます。

バレエの高いテクニックをもつ4人の動きは流麗で、刻一刻とかたちを変えてゆきます。女性が男性の背中の上を転がるような動き、女性二人が同時に、あぐら座のまま空に打ち上げられるようなリフト……絶え間ない流れの中に、鮮やかな残像を残す瞬間が幾度も訪れます。

シーンの通しの後、2組のデュオの動きを確認。「ここは極限まで引っ張り合って。お互いのテンションを感じてね」「テンションを緩めた瞬間、互いにすっと吸い込まれるように」体重をかけるタイミング、距離感など、苫野さんのていねいな指導により、動きがさらに洗練されていきました。

『十四夜月』リハーサルより ©️Ryosuke Miyazawa(umProduction)

『十四夜月』リハーサルで指導にあたる苫野さん ©️Ryosuke Miyazawa(umProduction)

続いて、尾本安代×苫野美亜のトークセッション。今回尾本さんが踊るソロ作品『白鳥の歌』が生まれた経緯について、二人のトークが展開されました。『白鳥の歌』は尾本さんの依頼を受けて苫野さんが振付け、2022年に初演されています。クリエイションが始まるそもそもの発端となったのは、尾本さんのミュージックビデオへの出演だといいます。さだまさしの「防人の詩」を当時19歳のシンガー・琴美がカヴァーしたMV(2021年1月リリース)で、尾本さんは70歳、谷桃子バレエ団への入団50年目となる節目の年のことでした。

「トウシューズは10年ほど履いていなかったのですが、ディレクターさんにやはりトウで立ってほしいと言われて。火事場の馬鹿力で一瞬だけ立って踊りました」と尾本さんは笑います。

琴音のまっすぐな歌声と尾本さんの踊りがひとつになって、力強く「防人の詩」の世界観を表現したMVは反響を呼びました。これが数多くのコンテンポラリー作品を上演してきた東京・神楽坂のスタジオ、セッションハウスから「白鳥をテーマとした新作」を依頼されるきっかけとなったのです。

尾本安代×苫野美亜トークセッションより。写真左が尾本 ©️Ryosuke Miyazawa(umProduction)

「私はクラシック・バレエのダンサーで、様々な創作作品も踊ってきましたが、自作自演の経験はほとんどなくて。どなたか一緒に作品をつくってくださる方をと考えた時、すぐ頭に浮かんだのが苫野美亜さんでした」(尾本さん)

「お電話をいただいた時、70歳になった『今から』の自分は、今までよりもっと踊れるような気がするんですとおっしゃって、その言葉にとても感銘を受けました。安代先生の精神性が際立つような作品をつくりたいと思いました」(苫野さん)

その頃、苫野さんが構想していたのは相反するものの中心点・「mid/point」という大きなテーマでした。クリエイションの出発点として、苫野さんがまず尾本さんに提案したのが、三浦半島でのロケ。海と空との、ちょうど中心点にあるような風景の中での映像撮影だったといいます。白と黒、生と死、過去と未来――様々な相反するイメージを織り込みながら、約1年間のリハーサルを経て『白鳥の歌』は完成し、2022年12月のセッションハウス公演「ダンスブリッジ2022 3つの白鳥」で初演。三浦半島で撮影した映像は、作品の中盤で使われます。

「リハーサルは大変でしたよ。最初の美亜さんの指示は『無から何かが生まれてくるように、ほんの少し手を動かしてほしい』と。これは簡単なようで難しく、小さな手の動きを次のムーブメントにつなげていくためには、自分の身体の中を繊細に感じ取りながら動かなくてはなりません。バレエには決まったポジションやステップがあり、そこに感情を乗せて表現しますけれど、新作は『ゼロから』ですからね。手を少し動かす、脚を一歩出す……50年踊ってきた中で、いちばん小さな動きかもしれないけれど、使うエネルギーはバレエを踊るのと同じだなって。こういう作品のつくりかたは初めてでしたが、すごく面白かったですね」(尾本さん)

「安代先生の手の動きや目線、周りの空気の動かし方など、すべてはバレエダンサーとして50年、60年鍛錬を重ね、日々1ミリ、1センチずつ積み上げられてきたゆえの表現です。本当に唯一無二だなとリハーサルのたびに感じています」(苫野さん)

苫野美亜プロデュース Dance Performance LIVE #9「Contemporary Dance Pieces Ⅱ」(2023)より『白鳥の歌』 ©植村耕司

『白鳥の歌』は様々な劇場で再演を重ね、今回が4度目の上演になります。時にはハプニングに見舞われることもあるけれど、舞台は生ものだからこそ面白い、と尾本さんは語りました。

「バレエは、テクニックを身につけるのに長い時間がかかります。私も昔は回ったり跳んだりすることが本当にワクワクして楽しかったのですが、40代でアキレス腱を切ってしまった後は、フェッテを回るといったことにあまり喜びを感じなくなってきました。その頃から、様々な面白い創作作品に参加させていただき、新しい表現をつくっていくことに興味がわいてきたんですね。自分自身ではわからない、私の中にある表現を振付家の方に引き出してもらえるのは、とても面白いことです。だから、ダンサーとして行けるところまで行ってみたい。テクニック的にできないことは年々増えていくけれど、歩けさえすれば……あ、車いすで踊っていた方もいらっしゃいますね。

美術や映像は未来永劫残りますけれど、舞踊は時間芸術ですから、一度きりで消えてしまいます。時間と空間を共有して、観ている方たちとその時間を一緒に過ごしていくこと。同じ作品でも、自分の中から出てくるものは毎回違います。たった一度きりだからこそ、面白いんですね。観に来ていただけたら本当に嬉しいです」(尾本さん)

©️Ryosuke Miyazawa(umProduction)

最後に、松岡大高瀬瑶子による『HYORI』が披露されました(本番はチェリストの坂本弘道が出演)。松岡さんは世界的な舞踏カンパニー山海塾の舞踏手、高瀬さんは青木尚哉作品等で幅広く活躍するコンテンポラリーダンサーです。まとう雰囲気も動きの質も異なる二人が、柔らかな布で繋がったまま踊ります。二人の動きと布のかたちが様々な表情を生み、ひとつの羊膜に包まれた双子のように見えたり、距離を置いて支え合う別の生き物のように見えたり……。一方が相手を束縛、解放を求める関係が瞬時に逆転するなど命がけの闘いに見える瞬間もあり、目が離せません。足の裏と地面が溶け合うような、ゆったりとした松岡さんの動きと、よりバレエ的なしなやかさや鋭さをもつ高瀬さんの動きが不思議な調和を見せ、様々なドラマが想像できる展開でした。

『HYORI』リハーサルより  ©️Ryosuke Miyazawa(umProduction)

公開制作の後、苫野さんに今回の公演全体について話を聞くことができました。

今回はプロデュース公演の10周年記念として、苫野さんと親交のあるアーティストが出演するそうですね。
苫野 ウィーン国立バレエの橋本清香さんは、私が4歳から通っていた神戸の山口けい子先生のお教室出身。今回は木本全優さんと、ティエリー・マランダン振付の『モーツァルト・ア・ドゥ』を踊ってくれます。バーミンガム・ロイヤル・バレエの平田桃子さんは山本禮子バレエ団出身で、ジュニア時代からのつながりなんです。今回、桃子さんに新作を振付けて下さる渡辺レイさんは山本禮子バレエ団の先輩で、私がイリ・キリアンの作品を初めとするコンテンポラリーに強く惹かれ始めた頃、NDTでダンサーとして踊っていらっしゃいました。高瀬瑶子さんは中村恩恵さんの作品で、松岡大さんは着物×DANCEという公演などでご一緒していて。安代先生のことも、神戸のけい子先生が谷桃子バレエ団出身でしたので、昔から存じ上げていました。10周年記念公演は、私の大好きな方たちと一緒に、ひとつの舞台をつくりあげたいという思いで企画しました。
先ほどの『HIYORI』はほぼ即興ときいて驚いたのですが、松岡さんと高瀬さんはもともと一緒に踊っていたのでしょうか?
苫野 いえ、まったく。2022年初演のリハーサルの時は、二人とも「初めまして」の状態で、しかもスケジュールが3日間しか合いませんでした。でも、私がこの二人は絶対に合う、一緒に何か新しいものを生み出せるに違いないと思ったものですから(笑)。
振付家の直感ですね。しかもクリエイションから完成までたった3日とはびっくりです。
苫野 1日目に、物理的な「中心点」をテーマにしたいとお話ししたら、松岡さんが「それなら、実際につながっちゃえば」とアイディアを出してくださったんです。その日は布もなかったので……。初対面のお二人が、その場にあったヨガマットを留めるゴムバンドを足にはめてつながり、何ができるか考える、というところからスタートしたんですね。3日間の間に、自由と束縛、生活のためにつながりを求める性質など様々なことを話し合い、動きながらアイデアを出し合いました。30~40分の作品にしたかったのですが、3日目に通したら本当に時間ぴったりの仕上がり。表現者として確立している二人だからこそ可能なクリエイションだったと思います。私は客観的に見て方向性をそろえ、松岡さんと高瀬さん、そしてチェリストの坂本さんの表現がイーブンに混ざり合うよう、ディレクションの立場で関わっています。
『十四夜月』は振りのニュアンスを細かく指導するやり方、『白鳥の歌』は尾本さんの内面にあるものを引き出す方針だと思います。作品により、振付や演出のアプローチは異なるのですね。
苫野 ええ。『十四夜月』は華やかなテクニックよりも、動きをそぎ落とし、佇んでいる姿からにじみ出るような、より日本人的な身体から出てくるものを表現したいという気持ちがあります。
日本では、新作は一度きりの上演で消えてしまいがちですけれど、再演を重ねながら、さらに研ぎ澄まされた表現へと昇華できたら。大好きな方たちと一緒につくりだす瞬間は、私にとって宝物のようだと感じています。

公演情報

苫野美亜プロデュースDance Performance LIVE #10
Danse Noble」

日時 2024年 8月11日(日)13:00/17:00
会場 横浜赤レンガ倉庫1号館 3Fホール
詳細・問合 公演サイト

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東京都八王子市在住。早稲田大学第一文学部美術史専修卒、会社員を経てフリーに。盆踊り、フラメンコ、HIPHOPなど踊りはなんでも好きで、大人バレエを細々と続けている。 https://twitter.com/kayas05114080

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