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【インタビュー】宝満直也(ダンサー/振付家)〜やりたいことは、自分でやる。その力をつけるためにドイツへ向かいます

阿部さや子 Sayako ABE

2024年11月から「文化庁令和6年度 新進芸術家海外研修員」としてドイツ南部のアウクスブルク州立劇場バレエに在籍することが決まった、ダンサー/振付家の宝満直也さん。同団での活動のみならず、さまざまな舞台や芸術に触れたり、他団のリサーチに出かけたりするための資金を募るべく、5月14日(火)よりクラウドファンディングを開始することも併せて発表されました。

宝満直也さんのクラウドファンディング・プロジェクトの詳細はこちらでご確認ください

「世界に通用する振付家になって、みなさんに最高の全幕バレエを届けたい」。
クラウドファンディング開始を前に、海外を目指す理由、全幕バレエの魅力、ダンスの未来にかける思いなどについて、話を聞きました。

宝満直也 Naoya HOMAN
ダンサー/振付家。神奈川県出身。新国立劇場バレエ団、NBAバレエ団で活躍後、現在フリー。『ドラキュラ』タイトルロール、『白鳥の湖』ロットバルト役など個性の強い役で光る演技を見せるいっぽう、『狼男』『美女と野獣』など振付家としても才能を発揮している。 ©︎Ballet Channel

「クラウドファンディングに挑戦します」と発表して

あらためて、今秋からの「文化庁令和6年度新進芸術家海外研修」決定、おめでとうございます。渡航に先駆けて、5月14日からクラウドファンディングに挑戦することをSNSで発表しましたが、反響はどうですか?
宝満 予想していた以上の反響で驚いています。たくさんの方が情報を積極的にシェアしてくださったり、「ドイツならここに行くといいですよ」等とアドバイスをくださったりして、本当に嬉しく思っています。
クラウドファンディングは人々の応援の気持ちが資金調達になるという温かいシステムであるいっぽうで、少し“間違う”と逆に批判の嵐が吹き荒れるリスクも。実施を決断するには勇気も必要だったのでは?
宝満 とても勇気が要りましたし、やると決めてからも、じつは少し弱腰でした。というのも、今回のクラウドファンディングは何か具体的なプロジェクトを実現するためではなく、僕個人への支援を募るものです。振付家として感性を磨き、作家性を高めていくために、ドイツでの9ヵ月間の研修中にできる限りたくさんの舞台や芸術を観てまわりたい。しかし文化庁から支給されるのは必要最小限の生活費のみである上に、就労して収入を得ることも禁じられていて、チケット代や交通費などを捻出するのがどうしても難しいのです。考えに考えた末、たどり着いたのが、ダンスファンのみなさまや新しい全幕バレエを観たいと思ってくださるみなさまに資金的なサポートをお願いする「クラウドファンディング」という方法でした。

でも、振付家を目指す人間にとって芸術的な刺激を摂取することがどれほど重要であろうと、「舞台鑑賞なんて娯楽じゃないか」と思われる方もきっといらっしゃるはず。だから当初は目標金額をできるだけ低くしようと考え、50万円に設定していました。ところがいざ「クラウドファンディングをやります」と発表したら、多くの方に「目標金額がもっと高くてもいい」と言っていただけて。支援金の価格付けとリターン内容に関しても、たくさんの方が本当に親身になって、率直な意見や感想を寄せてくださいました。そうしたみなさんのアドバイスをもとに目標金額を100万円に急遽増額させていただいたのですが、こんなふうにバレエファンや舞台ファンのみなさんの率直な声を聞ける機会になるとは想像していなかった。クラファン開始はこれからですが、もうこの時点でも、やると決めて本当に良かったなと感じています。

バレエファンや舞台ファンのみなさんの温かさは私自身もこの仕事を通していつも感じていますが、同時に、クラファンのプロジェクトページに書かれた宝満さん自身の文章も素晴らしいと思いました。「これは応援しよう」と素直に思わせてくれる内容だな、と。
宝満 ありがとうございます。あの文章を書く上で大切にしたことはひとつです。最初から最後まで、真実を書くこと。どこかで1ミリでも嘘をついたら、もう何の説得力もない。そう思って書きました。
僕はもともと、踊りと同じくらい言葉も大事だと思っていて。自分が今この世界に生きていて何を感じ、社会とのつながりの中でどんなことを考えているのか。それを話したり綴ったりすることが好きですし、そもそも振付をするならば、自分は何を作りたいのかきちんと言語化して、ダンサーやスタッフのみなさんに伝わるように伝える必要があると思っています。
支援者へのリターンは、「ありがとうのソロ」「ドイツでの新しい日々を踊るソロ」「月1で踊るソロ」「1年間の集大成を踊るソロ」といった自作のソロ動画が中心。振付家・宝満直也を応援したいと思っている人たちにとっては何よりも嬉しいでしょうし、今回のクラファンの目的からしても、まさにふさわしい“返礼の品”ですね。
宝満 ありがとうございます。これもプロジェクトページに書いた通り「どんな時も創り続けること」を自分に課すために考えたものですが、じつはもうひとつ大切な理由があります。それは、僕がドイツに行っている間も、日本のみなさんとつながり続けていたい、ということです。この10年間、日本でコツコツと作品を発表し続けてきて、今ようやく「宝満作品のファン」と言ってくださる方が増えてきました。そのタイミングで日本を離れることになり、しばらくの間、作品や僕自身の姿を観ていただくことができなくなる。不在の間に「忘れられてしまう」ことがどれほど簡単か、こういう仕事をしていれば身に染みてわかります。ですから定期的にソロを作って動画にして、支援者のみなさんに作品を届け続けたい。そういう思いを込めて考えたリターンでもあります。
プロジェクトページのレイアウトや、各種リターンの内容説明に添えられたサムネイル画像なども、とてもおもしろく拝見しました。情熱が伝わってくるだけでなく、宝満さんのひょうきんな(?)一面も、そこはかとなく漂っていますね(笑)。
宝満 よかったです(笑)。ページのレイアウトやサムネイルのデザインは、知人にアドバイスをもらいながら自分でやりました。じつは数年前から、デザインとか、マーケティングとか、ダンス以外のことも勉強し始めています。コロナ禍で踊ることができなくなった時、僕らダンサーはみんな無力感に陥って、自分の存在意義を見失った時期がありました。僕はその状況に耐えられなくて、「踊れないなら、踊り以外のことをいろいろ学んでみよう」と思い立ったんです。マーケティングやマネージメントのこと、照明や美術やデザインのこと、ミュージカルなど他ジャンルのエンターテインメントのことなど……本を読んだり、講座を受けたりしながら勉強してみると、どれも本当におもしろい。例えばデザインは、足りないものを補い、余分なものを削りながら、伝えたいことが伝わるようにヴィジュアルを作っていく作業です。まさに、振付や演出と同じなんですね。だからデザインするのはすごく楽しいし、今回のプロジェクトページやチラシのメインヴィジュアルも、我ながらとても気に入っています。

宝満さん自身がデザインしたという、クラウドファンディングのヴィジュアル

こちらの想像を超えてくるダンサーたちと出会いたい

宝満さんはかねてより「海外で仕事をしてみたい」という目標について話していましたが、ドイツでの研修はいよいよその第一歩。あらためて伺いますが、宝満さんはなぜ海外に出たいのでしょうか?
宝満 理由は大きく2つあります。ひとつは、自分がまだ出会ったことのないような身体性やメンタリティを備えたダンサーと一緒に仕事をしてみたい、ということです。もちろん日本には日本の良さがあるし、実際これまで一緒に作品を創ってきたダンサーたちは、本当に素晴らしいアーティストばかりです。いっぽうでここ最近、ウラジーミル・マラーホフさんやニューヨーク・シティ・バレエのプリンシパルであるチャン・チュンウェイさんに振付ける機会をいただいたんですね。その時の彼らの積極性と創造性に、僕は圧倒されました。おふたりとも、振りを渡した瞬間から、与えられた振付以上のものを全力で出そうとしてくる。そして常にそういう姿勢でリハーサルに臨んでいるから、身体のみならず動きの質感も強靭だし、イマジネーションも豊かなんです。そんなふうに、こちらの想像を超えてくるようなダンサーたちがひしめく環境のなかで勉強してみたい。まずはそれが、海外研修を決めた大きな理由のひとつです。
ダンサーの側が積極性や創造性を備えていることは、振付家にとってすごく必要な要素ですか?
宝満 必要です。振付とはそれを体現するダンサーがいてはじめて形を成すものですし、彼らの力に助けられることもたくさんあります。とくに僕は目の前のダンサーを見ながら創っていくタイプなので、どんな人に踊ってもらうかはとても重要です。多くの振付家が「ミューズ」を必要とするように、フィーリングの合うダンサーと仕事をすると、未だ見ぬ世界にお互いを連れて行くことができる。振付家とダンサーは「パートナー」とも言えます。ダンサーはいい振付や作品と出会うことで成長するし、振付家もいいダンサーと出会うことで成長するんです。
なるほど。だからダンサーが「この振付家の作品を踊りたい」という理由でカンパニーを移籍するように、振付家も「こういうダンサーに踊ってほしい」という理由で活動の場所を変えていくこともある、ということですね。
宝満 そうですね。そして僕が海外を目指すもうひとつの理由は、プロジェクトページにも書いたように、日本はまだ、振付家が育つ土壌として未発達な面があると感じているからです。もちろん最近は日本のバレエ団も、所属ダンサーの振付活動を促すプロジェクトを実施するようになっていて、素晴らしいなと思っています。それでもなお、振付家を目指したところで作品を発表できるチャンスが極端に少ないのが日本の現状で、僕自身も教えなど他の仕事もしなければ暮らしていけない、というのが正直なところです。

だけど、それは需要と供給の問題だから仕方がない。バレエ団が古典のプログラムを多く並べるのは、古典のほうがお客様が入るからです。ならば現状に不満を言うよりも、このダンス界で生きていけるスタイルを自分で見つけよう。自分がやりたいことをやれるだけの力を身につけるために、何を学び、どんな努力と工夫をしたらいいんだろう――そう考えて導き出した答えが、「海外で研鑽を積むこと」でした。現地では踊りや振付の勉強だけでなく、劇場やカンパニー運営、芸術文化を取り巻く環境、観客の様子なども、広く見てまわりたいと思っています。

大和シティー・バレエ『美女と野獣』振付:宝満直也 ©︎塚田洋一

宝満さんはバレエの他にもジャズやヒップホップなど幅広いダンス経験があり、とくに「宝満直也=コンテンポラリーダンス」というイメージを持っている人も少なくない気がします。しかし今回のクラウドファンディングのタイトルに掲げているのは「世界に通用する振付家になって皆さんに最高の全幕バレエを届けたい!」という言葉。宝満さんが、あくまでも「全幕バレエ」を標榜するのはなぜでしょうか?
宝満 そこは、もしかしたら理屈ではないのかもしれません。何か大きな理由があるわけではなくて、自分がいちばんときめくものが全幕バレエだ、ということ。それに尽きる気がします。

僕は幼い頃からバレエを習っていたとはいえ、学生時代はジャズやストリートダンスやコンテンポラリーダンスのほうに熱心で、本気でバレエに専念し始めたのは18歳で新国立劇場バレエ研修所に入所してからでした。だから自分の思うようにはクラシック・バレエを踊れないし、かといってコンテンポラリー・ダンサーだという自覚もない。ずっと「僕はいったい何なのだろう?」という葛藤を抱えたまま、20代を過ごしました。でもそんな時、僕にとって決定的な転機となる舞台に出会ったんです。それは、スウェーデンまで観に行った、マッツ・エックの『JULIA & ROMEO』。チャイコフスキーの音楽を自在に組み換えた振付、その中でダンサーたちが存分に表現して、物語が立ちのぼる。感動のあまり涙がとめどなく溢れてきて、同時に「クラシック音楽ってこんなに自由に使っていいんだ!」と、衝撃を受けました。

振付を羽ばたかせてくれる音楽、物語、美術があり、その中で大勢のダンサーたちが躍動する。それが僕にとっての全幕バレエです。例えばソロやパ・ド・ドゥだけの小さな作品ももちろん美しいし大好きですが、僕の胸がいちばんときめくのは、やはり全幕バレエです。

11月から始まるドイツでの経験と、クラファン支援者のみなさんのサポートを糧にして、宝満さんはこれからどんなアーティストを目指していくのか。最後にぜひ意気込みを聞かせてください!
宝満 先ほど「日本はまだ、振付家が育つ土壌として未発達な面がある」とお話ししましたが、僕自身もその現状を変えていく一人として、自分で公演を回していけるだけの力をつけなくてはいけないと思っています。そのためにもドイツでの研修期間はとにかく何でも学びたいし、めいっぱい吸収したい。そして少し大きな口を叩いてしまうのですが、ゆくゆくは、劇場の運営や芸術監督の仕事にも携わることができたら。そんな夢も持っています。

それから、自分が学んできたことや経験してきたことを、ジュニアの子どもたちのために役立てていきたいとも思っています。ジュニア向けのコンクールの審査員をしたり、ワークショップを開催したりするたびに思うのは、「この子たちこそがダンスの未来であり、希望なんだ」ということ。目をキラキラ輝かせながら、今までやったことのない動きにチャレンジする子どもたちを見ていると、本当に嬉しい気持ちになるんですよ。だから今回のクラウドファンディングのリターンのひとつである「『最後のDisconnect』イベント(新国立劇場バレエ団の五月女遥さんと僕とで踊るスタジオパフォーマンス)ご招待」は、「一度の支援でお子様を一人お連れいただけます」というかたちにしています。

僕は現在34歳。30代はとにかく勉強して、40歳を迎えた時、やりたいことに向かって歩いていける自分になっていたいと思っています。そのための基盤作りである今、ドイツに行けるのは本当に幸運なこと。みなさんに、未来の新しい全幕バレエ作品に投資するという気持ちで、応援していただけたら嬉しいです。

©︎Ballet Channel

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