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【金子三勇士×柄本弾SP対談】金子三勇士の「弾む♪ワルツ」~名曲バレエ音楽の世界~で初共演!

青木かれん Karen AOKI

©政川慎治

2024年8月8日(木)、バレエ音楽をテーマにしたコンサート「金子三勇士の弾む♪ワルツ~名曲バレエ音楽の世界~」が上演されます。

ハンガリー国立リスト音楽院に飛び級で入学し、バルトーク国際ピアノコンクールで優勝を収めた経歴を持ち、2011年の日本デビュー以来国内外で数々の演奏活動を行っているピアニストの金子三勇士。映画『蜜蜂と遠雷』で主人公の一人「マサル」のピアノ演奏を担当したことでも話題を呼びました。

同公演は金子のピアノ演奏と米元響子(ヴァイオリン)と上村文乃(チェロ)との協演、東京バレエ団プリンシパルの柄本弾をゲストに迎えたトークを楽しめるコンサート。ピアニストとバレエダンサーのそれぞれの視点で語る、バレエ音楽の魅力とは――? 公演に先駆けて、金子三勇士と柄本弾の対談をお届けします。

金子三勇士 ©政川慎治

金子三勇士 Miyuji KANEKO
1989年、日本人の父とハンガリー人の母のもとに生まれる。6歳で単身ハンガリーに渡り、バルトーク音楽小学校、11歳からは飛び級で国立リスト音楽院大学(特別才能育成コース)に入学。2006年全課程取得とともに日本に帰国、東京音大付属高校に編入。東京音楽大学を首席で卒業、同大学院修了。バルトーク国際ピアノコンクールのほか、数々のコンクールで優勝。第22回出光音楽賞他を受賞。これまでに、ゾルタン・コチシュ、ジョナサン・ノット、小林研一郎ら各氏と共演。NHK-FM「リサイタル・パッシオ」にレギュラー出演。2021年に日本デビュー10周年を迎え、2022年3月にドイツ・グラモフォンより新譜CD「フロイデ」をリリース。キシュマロシュ名誉市民。スタインウェイ・アーティスト。

柄本弾 ©政川慎治

柄本弾 Dan TSUKAMOTO
京都府京都市出身。5歳よりバレエを始める。2008年に東京バレエ団に入団し、『ドナウの娘』で初舞台を踏む。2010年1月『ラ・シルフィード』で主役デビュー、4月には『ザ・カブキ』に主演。2013年よりプリンシパル。主演作品は『ザ・カブキ』由良之助、『眠れる森の美女』デジレ王子、『ジゼル』アルブレヒト、『ラ・バヤデール』ソロル、『ドン・キホーテ』バジル、『ラ・シルフィード』ジェイムズ、『くるみ割り人形』くるみ割り王子、『白鳥の湖』ジークフリート王子、『ボレロ』ほか。2024年5月24日、6月9日の『ロミオとジュリエット』に主演の予定。

金子三勇士×柄本弾 対談インタビュー

おふたりは今日が初対面だそうですね。(編集部注:取材は2024年3月)
金子 柄本さんのオーラがすごいです。入ってきた瞬間に「舞台の方だ!」と感じて、いい意味で少し圧倒されました。

柄本 ありがとうございます。金子さんとは取材直前に初めてお会いしてまだ30分しか経っていないのですが、すでに僕の関西らしいノリにも対応してくださって、本当に助かっています(笑)。

子ども時代について教えてください。金子さんがピアノを始めたきっかけは?
金子 日本人の父とハンガリー人の母のもとに生まれ、群馬で暮らしていました。祖母がハンガリーの民俗音楽を専門に研究していて、生まれてすぐの頃から、ハンガリーの子守歌や童謡を歌って教えてくれました。私はその時間がとにかく好きだったのを覚えています。決定的だったのは、祖母からもらったハンガリーの作曲家によるピアノ曲集のCD。当時2歳だった私はCDを聴いて、どうやったらこの音になるの?と惹かれたんです。あっという間に心を鷲掴みにされて、幼いながら「この音とずっと一緒に時間を過ごしたい」と思ったのが、ピアノとの出会いでした。きっと子どもは誰しもそういったアンテナを持っていると思うのですが、私の場合はたまたまピアノに反応するアンテナで、ピアノの音楽に触れられる環境だった。振り返ると運命的な出会いとも言えるし、ありがたいプレゼントだったなと感じています。それからほどなくして、テレビで観たピアニストが燕尾服に身を包んで演奏し、割れんばかりの拍手を浴びている姿が目に焼きつきました。その時に「ぼくはこれをやる!」と決意して、あの画面に映っている人のかっこよさを追いかけようと決めたんです。当時の幼稚園の卒園式の文集を読み返すと、将来はピアニストかパイロットか警察官になりたいと書いてありました。憧れの職業は変わっても、必ずピアニストは入っていたくらい、私にとって大きな存在だったのだと思います。
金子さんはピアノを学ぶために、6歳でハンガリーに留学しました。小学1年生で親元を離れるのは大変ではありませんでしたか?
金子 ほんとうに寂しかったです。日本を出発する時、成田空港からひとりでハンガリー行きの飛行機に乗ったのですが、到着するまでの12時間、泣き続けました(笑)。「この子、ずっと泣いてる」と機内がちょっとした騒ぎになるくらい。当時はホームシックと不安を感じるいっぽうで、子どもらしいワクワク感と「ぼくはピアノをやるんだ!」という信念がありました。新しい世界に踏み出す時、大人は難しいことを考え出してしまうものですが、思うがままに行動できたのは6歳の子どもだったからかもしれません。
金子さんがはじめてバレエを観たのはいつ頃でしたか?
金子 ハンガリーに渡ってすぐの、6歳の時でした。『くるみ割り人形』のチケットをプレゼントされて、クリスマスイブの日に観に行ったのが、私にとって人生初のバレエ体験。ヨーロッパで本物のバレエの舞台を観た時の感動は、いまでも忘れられません。

©政川慎治

柄本さんは5歳でバレエを始めたそうですが、きっかけは?
柄本 僕には兄と姉がいて、ふたりが先にバレエを習っていました。そのお迎えを母と一緒にするうちに、ふたりと同じことをしたいと思って「バレエをやりたい」と言い出したようです。だからもし兄と姉がピアノを習っていたら、ピアノだったかもしれません(笑)。

金子 惜しかったですね(笑)。

柄本 自分の意思でバレエをはじめたものの、幼い頃はとにかくレッスンが苦手でした。バレエのレッスンは、バーを使った地味な動きから始まって、センターに移ると次第に大きな動きになっていきます。当時は派手なテクニックに憧れがあったので、基礎的なエクササイズを楽しめなかったんです。どうしても友だちと遊びたくてレッスンをさぼり、先生に怒られたこともあったけれど、バレエを辞めたいと思ったことは一度もなかった。レッスンをさぼるのに、バレエダンサーになりたいと思っていたなんて、いま思うとちょっと甘い考えでしたね。もう少し真面目に頑張っていたら、もっと上手くなっていたかもしれません(笑)。
僕は小さい頃から人前で怖がらずに踊っていたそうです。子ども時代のそんな気質が、プロのダンサーになったいまの自分を形作っているのだと思います。舞台に立ってお客さまからいただく拍手が、何にも代えがたい力になる。その喜びは昔もいまも変わりません。

金子 私も柄本さんと同じような経験があります。ピアニストにも、家で個人練習をして、レッスンを受けて、発表会や試験に臨むという3段階のプロセスがあるのですが、私も“練習”があまり好きではなくて。レッスンでは先生に演奏を聴いてもらうのが楽しかったし、発表会ではお客さまが拍手をしてくださるので、これ以上ない幸せを味わうことができました。でもその本番を迎えるためのいちばん大切な練習が苦手だったなんて、矛盾していますよね(笑)。私も柄本さんと一緒で、とにかく人前で弾くのが好きだったことが、いまの原動力になっていると思います。大人になればなるほど舞台への責任や恐怖を感じますが、それらを乗り越えられるのはきっと、楽しさの味を知ってしまったからですね。

プロのピアニストは、どのくらい練習をするのでしょうか?
金子 ほかのピアニストの方は結構練習するそうなのですが、僕はあまりしていません。もともと、指を動かす基礎練習をしない方針の先生方に教わっていました。そういった練習ばかりでは音楽の持つ芸術性から離れていくから、テクニックは曲を仕上げる過程で磨いていけばいい、という考えがあったようです。いまでも「まず音楽があること」を心がけ、演奏する曲に合わせた練習をしています。

柄本 僕たちバレエダンサーは、ほぼ毎日練習ですね。スケジュールが詰まっていて忙しい時などには「休みたい」と思うこともあるのですが、いざオフになっても翌日の身体が重すぎて「休むんじゃなかった……」と後悔するんです。かといって休まないと怪我をしてしまうこともありますから、うまく折り合いをつけるのが難しいと感じています。

©政川慎治

柄本さんがこれまで聴いたなかで印象に残っているコンサートはありますか?
柄本 指揮者のズービン・メータさんが率いるイスラエル・フィルのコンサートに感動しました。ちょうど2014年に東京バレエ団とベジャール・バレエと合同で「第九交響曲」を上演した時に開催されたコンサートで、僕にとって音を聴くことを純粋に楽しめたはじめての経験でした。僕たちダンサーはふだんオーケストラピットで演奏してくださる曲を聴きながら踊っています。音楽に助けられることはたくさんありますが、基本的には踊りに専念しなければならないので、舞台上で音楽だけを楽しむのは難しいこと。曲を聴きながら踊るのと、客席で音楽だけを堪能するのとでは感じ方がまったく違うという発見がありました。
金子さんが印象に残っているバレエ公演はありますか?
金子 2012年の「世界バレエフェスティバル」にピアニストとして出演させていただいた時のことをよく覚えています。バレエフェスでは『マルグリットとアルマン』でリストのピアノソナタを演奏しました。この曲はレパートリーでいつも弾いているので、喜んで!とお引き受けしたのですが、いざ初回の練習に行って「こんなに難しいなんて!」と衝撃を受けました。
私たち音楽家は、舞曲など踊りの要素を求められる楽曲を弾く場合、自分たちの経験から得た感覚をもとに演奏しています。しかし、バレエダンサーとの共演はその感覚をはるかに超える体験でした。踊り手のために音楽を奏でるということが、どれだけふだんの演奏と違うのか……よく指揮者やオーケストラで演奏する方から「バレエの時はまったく違う意識で音楽を作る」と聞いていたのですが、まさにこのことか!と。
すでに知っている作品を弾いているはずなのに、踊りによってその曲が持つ芸術性が何倍にも広がっていく瞬間に立ち会える。その幸せを噛みしめながら、踊りに見入ってしまいそうになるところを演奏に集中する……そんな瀬戸際を攻めていくような感覚でした。さらにその日のダンサーのコンディションを感じ取り、呼吸やテンポ感を見て弾くのははじめてのこと。同じ作品を自分のリサイタルで弾くときに、新たな視点で向き合えるようになったのも、この経験のおかげです。
(編集部注:『マルグリットとアルマン』はタマラ・ロホとスティーブン・マックレーと共演。「エトワール・ガラ2014」では『月の光』でエルヴェ・モローと共演し、ドビュッシーの同名曲を演奏した)
今回のプログラムにはドビュッシーの「月の光」も選ばれています。柄本さんが演じた『かぐや姫』の道児役は、「月の光」で踊る場面がありますね。
柄本 『かぐや姫』全幕では、「月の光」が第1幕はピアノバージョンで、第2幕はオーケストラバージョンで流れます。同じ曲でも役の心境がまったく違うパ・ド・ドゥになっていて、どちらの場面も役に入り込んで気持ちのアップダウンが激しくなるので、僕にとって「月の光」は平常心では聴けない曲かもしれません。コンサート当日、ピアノの横で悲しげにしゅんとしていたらすみません(笑)。

金子 今回のコンサートでも「月の光」をピアノソロバージョンと、初共演となるヴァイオリニストの米元響子さんとチェリストの上村文乃さんとのトリオバージョンで2回演奏する予定になっていますが、柄本さんの『かぐや姫』のお話は知りませんでした。お客さまに演奏のスタイルによって印象が変わるという体験をしてほしいと思って選曲をしたのですが、まさにピタッと合致しましたね!

今回のコンサートで演奏するショパンの「華麗なる円舞曲」や「バラード第1番」についても、金子さんの思いを聞かせてください。
金子 私のアイデンティティ、そして音楽家としてのアイデンティティにも、ハンガリーが深く関わっています。いっぽうで、ショパンといえば隣国ポーランドの作曲家。ハンガリーを代表するリストと、ポーランドを代表するショパンは親友どうしでした。当時のリストから見たショパンはとても繊細で、ショパンから見たリストは華やかなピアニスト。ふたりは対照的な音楽家でありながら、お互いに自分にはない部分を尊敬し合っていました。リストの伝記によると、彼はショパンの持つ柔らかい表現に憧れがあったようです。対するショパンも、リストを感じさせるような力強い曲や技巧的な曲を書いたりと、触発されていました。私にできるのは、リストから見たショパンの魅力をお客さまにお届けすること。ショパンはこうだ!という演奏は、本場ポーランドのピアニストにお任せしたいと思っています。
また、若くして亡くなったショパンの楽曲をヨーロッパ各地に広めたのは、リストとその弟子たちです。その活動のおかげで、いまもなお世界でショパンの作品が親しまれていることを忘れずにいてほしい。そんな願いも込めてお届けします。
演奏する作品の中に、プロコフィエフの『ロミオとジュリエット』もあります。この曲が選ばれた理由は?
柄本 僕が事前に、『ロミオとジュリエット』をリストに入れて欲しいと金子さんにお伝えしていました。もともとドラマティックな演目が好きで、とくにこの作品はドラマティック・バレエの代表作とも言えます。曲を聴くと踊っている時の感情がよみがえってくるほど、思い出深い作品です。さらに今年の5月と6月にクランコ版『ロミオとジュリエット』を踊らせていただくので、ぜひ金子さんの演奏を聴きたいとお願いしました。
僕はこれまで、クランコ版とノイマイヤー版の2つの『ロミオとジュリエット』でロミオを演じる貴重な経験をさせていただきました。どちらも同じ曲を使っていますが、振付家によって物語のなかで重要視するところがまったく違います。クランコ版はジュリエット視点でストーリーが展開し、オーソドックスな印象を受けます。いっぽうでノイマイヤー版は、薬を飲んだジュリエットのもとにロミオが駆け付けるまでのシーンがあったりと、ロミオの視点で物語が描かれるのが特徴です。二作品を演じることで、『ロミオとジュリエット』の音楽により深く魅了されました。

©政川慎治

おふたりが感じるバレエ音楽の魅力とは?
金子 バレエ音楽は“瞬間芸術”だと思います。バレエは総合芸術と言いますが、公演で演奏させていただいてから、舞台上で起こるすべての瞬間が一期一会だと肌で感じるようになりました。私たち音楽家も生演奏である以上、二度と同じようには再現できないと思っています。バレエ音楽はオーケストラに踊り手と、さらに大人数が関わってくるもの。たとえピアノ伴奏のソロだとしても、ピアニストとバレエダンサーというふたりの人間がいて、物語や振付、演出、空間が一体となってひとつの作品が生まれる。その奇跡こそが、バレエ音楽の魅力として現代まで継承されている理由だと思います。きっとこれからも人類の歴史に刻まれていくことでしょう。

柄本 僕も一期一会という言葉に共感します。ダンサーとして感じるのは、振付家や踊り手が変われば表現の仕方が変わり、指揮者や演奏家が変われば音楽も変化するということ。間(ま)の取り方ひとつで、お客様の感じ方もかなり変わると思います。人が変わることで、同じ曲でもまったく違う芸術が生まれるところがバレエ音楽の魅力だと感じています。毎年上演する『くるみ割り人形』も、主役のパートナーや、周りのダンサーが変われば雰囲気もガラっと変わるし、指揮者だけでなく、劇場が変わるだけでもまったく違う印象になります。そのくらい、舞台は一期一会のものですね。

最後に読者に向けてメッセージをお願いします。
金子 今回は柄本弾さんの踊りではなくトークをお楽しみいただく、という趣向。バレエダンサーの方をお迎えしてトークしかしない公演もなかなか珍しいと思いますが(笑)、ぜひそこを魅力として感じていただきたいです。私たちピアニストがバレエの公演でご一緒しても、ダンサーのみなさんとはテンポ感の確認くらいで、本音でお話を伺う機会は多くありません。ですから、お客様の前で二人のトークをお届けできるこの機会はまさに一期一会。音楽ファンの方も、バレエファンの方も、バレエも音楽もはじめましての方もきっと楽しめる時間になると思います。ぜひ多くの方にご来場いただきたいです。

柄本 お客様は、バレエ音楽中心の素敵なコンサートをぜひ堪能してください。僕はいまから上手く話せる気がしないのですが(笑)、拙いながらもダンサー目線の話をしますのでお付き合いいただけたらと思います。

©政川慎治

公演情報

アフタヌーン・コンサート・シリーズ2024-2025
金子三勇士の「弾む♪ワルツ」~名曲バレエ音楽の世界~

公演日 2024/08/08(木)
会場 東京オペラシティ コンサートホール

開場 12:50
開演 13:30
終演予定 15:30

会場詳細 〒163-1403 東京都新宿区西新宿3-20-2
※京王新線「初台」駅東口下車徒歩5分以内 東京オペラシティビル直結
主な出演者 金子三勇士(ピアノ)
米元響子(ヴァイオリン)
上村文乃(チェロ)
【トークゲスト】
柄本弾(東京バレエ団プリンシパル)
料金 (全席指定)
一般-5,500
学生-2,800(社会人学生を除く25歳まで※当日に証明書を提示)
※学生券:残席がある場合に限り、7/8(月)10:00より受付
シニア-5,000(65歳以上)
お問い合わせ先 ジャパン・アーツぴあコールセンター 0570-00-1212
主催者URL 公演情報ページ

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