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【バレエホリデイSP】「ロミオとジュリエット」柄本弾インタビュー〜名版は演者の心をリアルに揺さぶる。ロミオはどこか、昔の自分に似ています

阿部さや子 Sayako ABE

沖香菜子(ジュリエット)、柄本弾(ロミオ)©️Yumiko Inoue

2022年4月29日(金・祝)〜5月1日(日)開催の〈上野の森バレエホリデイ〉で、東京バレエ団クランコ版『ロミオとジュリエット』全3幕をバレエ団初演!
ドラマティック・バレエの巨匠、ジョン・クランコ振付によるこのバージョンは、数々の演出が存在するバレエ『ロミオとジュリエット』のなかでも決定版のひとつです。

記念すべきカンパニー初演の初日(4/29)にロミオ役を踊るのは、同バレエ団プリンシパルの柄本弾(ジュリエット役:沖香菜子)。
その舞台を終えたばかりの4月30日(土)にはトークイベント〈『ロミオとジュリエット』名版ダンサー・クロストーク〉にも登場し、マクミラン版をレパートリーとする元バーミンガム・ロイヤル・バレエ プリンシパルの佐久間奈緒さん&厚地康雄さんと、『ロミジュリ』トークを繰り広げます。

いよいよ今週末に迫った舞台&イベントに向けて、柄本弾さんにお話を聞きました!

柄本弾さんは2014年、東京バレエ団がノイマイヤー版『ロミオとジュリエット』を初演した際もロミオ役を踊りましたね。パートナーのジュリエット役も、今回と同じ沖香菜子さんでした。
あの時はまだ20代で若かったし、今よりずっと舞台経験も少なかったけれど、役にはかなり入りきれていた気はします。最後、ジュリエットが死んだと絶望するシーンなどは自然と泣きながら演じていましたし、舞台が終わってしまったことがとにかく寂しかったのを覚えていますね。
あれは本当に、柄本さんが「役そのもの」になってしまえるダンサーだということを証明したような舞台でした。
そう言っていただけるのはすごくありがたいです。それはきっと、ノイマイヤー版の振付に助けられたところもあると思います。例えばマクミラン版の終盤だと、ロミオは仮死状態でぐったりしたジュリエットとパ・ド・ドゥを踊りますよね。でもノイマイヤー版ではそういった部分がギュッと短くて、そこに至る過程のほうーーつまりジュリエットが亡くなったと聞き、一心に墓所に向かうシーンが長く描かれるんです。いきなり感情の頂点を演じるのではなく、その頂点に至るまでの気持ちを、だんだんと積み上げていけるようになっているというか。そのおかげでより役に入り込みやすかったというのはあると思いますし、今回のクランコ版も比較的感情を積み上げていきやすい演出だと感じます。
その後年齢も経験もキャリアも重ねてきて、今再び、バージョンは違えどもまた「ロミオ」を演じることになりました。
僕が感じるに、ノイマイヤー版のロミオのほうが本当に子どもなんですよね。そしてあの時にまず言われたのは、「バレエらしく踊らないで。自然体で演じてほしい」ということでした。例えばバレエで歩く時は、普通つま先を伸ばしてアン・ドゥオールを意識して……ってなるじゃないですか。でもそんなふうに歩いたとたん、「ダンは普段そんな歩き方をするの?」と注意されて。そういう自然体が求められたからこそ、20代だった僕にはとてもやりやすかったのかもしれません。いっぽうクランコ版のロミオは、もう少し大人な気がします。だから挑戦するのが今で本当に良かったと思う。もしもタイミングが逆だったら、どちらのロミオもしっくりこなかったかもしれない。
そうしたタイミングにも恵まれて、ロミオはご自身にしっくりくる役だと感じられるわけですね。
ロミオって一途で単純で、本当にわかりやすい男の子だと思うんですよ。好きな人のためには喧嘩を売られても買わないし、でも大切な仲間を奪われたら我を忘れて剣を取る。考え方が「ザ・男の子」というか、生粋の「男の子」気質というか。そして僕自身も、今はそうでもないですけど、もともとはまさにザ・男の子タイプだったので。だから演じていると、どこか昔の自分に返っているような感覚があります。その意味では、役作りにすごく苦労する、というふうには自分としては感じていません。

柄本 弾 ©︎Ballet Channel

いよいよ本番間近、リハーサルも大詰めですね。
クランコ版の『ロミオとジュリエット』は、数あるバージョンのなかでも傑作と言われるだけあって、やはり演出が素晴らしいなと思います。演じている僕らの感情が、リアルに揺さぶられてしまう。例えば第2幕なら、幸せの絶頂から絶望に突き落とされるその落差の描き方がものすごく鮮やかなので、リハーサルをするたび精神的にドッと疲れるんです。そしてもちろん演じている時は香菜(沖香菜子)のことが心から大好きだし、マキューシオ役の新大(宮川新大)はプライベートでも仲が良いので、彼らが倒れている姿を見るとリアルに精神的ダメージを受けてしまう。そういう意味で、今は毎日が本当にしんどいです。
振付そのものもとても難しそうに見えます。
そうですね。これも僕自身の感覚ですが、ノイマイヤー版やマクミラン版に比べると、クランコ版にはよりクラシカルな香りがある気がします。バルコニー・パ・ド・ドゥにしても、基礎的な部分をきちんとこなさないと成立しない振付で、逃げる隙がないのに、感情は大きく動くという。そこがとても難しいです。
ちなみにその第1幕のバルコニー・パ・ド・ドゥですが、クランコ版と言えば、踊り終えてジュリエットと別れる間際に……
懸垂ですか?
懸垂!(笑)はい、ロミオがバルコニーにぶら下がって、ジュリエットとキスをする幕切れ。あのシーンがとても印象的だし素敵だと思うのですが、やはりその振付もあるのでしょうか?
もちろんです。その瞬間に至るまでにロミオはもう散々踊っていて、リフトもたくさんしていて、パ・ド・ドゥの終盤ではあんなに軽い香菜を持ち上げるのもギリギリなくらい、腕がパンパンな状態。そこから最後に自分を持ち上げられるのか……懸垂の練習をしたくても身近にぶら下がるところもないし、けっこう心配ではありますね(笑)。
開幕が本当に待ち遠しいです! もうひとつだけ質問が。クランコ版のロミオには、「ジュリエットの髪に触れる」という、他版にはないとても印象的な仕草が出てきますね。
その通りです。まずは第3幕の幕開きで、先に目覚めたロミオが、まだ眠っているジュリエットの髪を掬うような仕草が出てきます。そのあとも何度か彼女の髪に触れるシーンがあって、それはきっとロミオなりの愛情表現であり、大事な行為のひとつだと考えています。
まさに演出のカギのひとつであり、見ていても胸が締め付けられる瞬間のひとつですが、あの触れ方には厳密な指定があるのですか?
とくにありません。だから演じるダンサーによってそれぞれ微妙にニュアンスが違うのではないでしょうか。
鑑賞の際はオペラグラス必携ですね! 最後に、4月30日のトークイベントについても聞かせてください。今回はマクミラン版を踊った経験を持つ佐久間奈緒さんと厚地康雄さんと一緒にトークをしていただきますが、同じ作品・役を演じる同士として、おふたりに聞いてみたいことはありますか?
バレエのストーリーって、舞台の上で恋が始まったり、舞台の上で憎しみの感情が生まれたりするじゃないですか。出会った瞬間にビビッとくるとか、本当にその場で初めて起こった出来事のように演じなくてはいけない。だから僕はそうした相手と本番前にはできるだけ話さないようにするなどして、できるだけ新鮮な感情で舞台に出て行きたいと思うのですが、佐久間さんや厚地さんはどうなのだろうと。とくにおふたりはプライベートでもご夫婦なので、より一層、そのあたりの切り替えはどうしているのか。お互いのなかで暗黙のルールがあったりするのか? そこをぜひ聞いてみたいです。

公演&イベント情報

東京バレエ団『ロミオとジュリエット』

日時 2022年
4月29日(金・祝)16:00
4月30日(土)14:00
5月1日(日)14:00
会場 東京文化会館 大ホール
詳細・チケット購入 東京バレエ団公式WEBサイト

『ロミオとジュリエット』名版ダンサー・クロストーク

日時 2022年4月30日(土)12:50~13:50(開場12:30)
会場 東京文化会館 小ホール
出演者 厚地康雄元英国バーミンガム・ロイヤル・バレエ プリンシパル)
佐久間奈緒元英国バーミンガム・ロイヤル・バレエ プリンシパル)
柄本 弾東京バレエ団 プリンシパル)
※五十音順
詳細・チケット購入 上野の森バレエホリデイ公式WEBサイト

©︎Yumiko Inoue

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