“Contemporary Dance Lecture for Ballet Fans”
サイトスペシフィック・ダンス〜逃れるだけでは、自由になれない〜
ではいよいよ、自然の中でのサイトスペシフィック公演に行ってみよう。
前回「その4」までしかなかった公演場所の分類に、急遽「その5:様々な場所で踊る」というザックリした仲間が加わったので、仲良くしてあげてほしい。
[公演場所で分ける]
・その1:
屋外(都会)で踊る
・その2:
屋外(自然)で踊る
・その3:
屋内で踊る(1) 美術館・ギャラリー等
・その4:
屋内で踊る(2) 普通は入れない場所等
・その5:
様々な場所で踊る
その2:屋外(自然)で踊る
●岩石で。そして砂漠で。
屋外でのパフォーマンスの醍醐味は、まず大自然の圧倒的な存在感の中で踊れることだ。
誰しも大自然に触れて感動に震えた経験はあるだろう。それをどう作品に取り込めるのか。
80年代に大きな話題になったのが宇都宮にある「大谷石地下採掘場跡」である。大谷石を切り出したあとにできた巨大空間を有効利用するため、79年から一般公開が始まったのだ。いち早く能楽師の津村禮次郎『巌洞の能公演』(1984年)や山海塾の滑川五郎(1986年)、95年には牧阿佐美バレヱ団が『ロメオとジュリエット』の公演をしている。
そそり立つ岩石が幾何学的な直線で区切られた空間は、自然と人間の手が生み出した絶景だ。天井が高いので反響も独特。気温は一年を通して8度前後と冴え冴えとしていて、100%石造りの空間は重厚で神殿のような荘厳さがある。
さて世界中に野外のフェスティバルはたくさんあり、場所も山、海、森、湖沼地帯に砂漠と多様である。
え? 砂漠で? と思うかもしれないが、実際にある。
有名なのはアメリカのネバダ州ブラックロック砂漠で1週間開かれる「バーニング・マン」というフェスである。
砂漠なので、水や電気や食料といったインフラらしきものは一切ない。参加者がそれぞれ物を持ち寄って集まり、共同生活をしながら1週間ほど歌あり踊りありの日々を過ごすのだ。何が行われるかは参加者次第なのも素晴らしい。
広さの制限もない。どんなに騒いでも近隣住民から怒られることもない。
サイトスペシフィック公演の「ちょっとした不便さ」は楽しみのエッセンスになるので、キャンプ的な手間はむしろプラスの要素になる。
しかし砂漠となると一気にハードルが上がる。はたして人が集まるものだろうか?
なんと、5万人が集まるという。
変わった名称の由来は、もともとは1986年にアメリカの若者が「ベイカービーチに巨大な木製の人形を作って燃やしながら騒ぐ」だけのものだった頃の名残である。
現在は世界中の砂漠で「バーニング・マン」を真似たフェスが行われている。オレはイスラエルの会場になったネゲブ砂漠へ行ったことがある。ここはダンスの施設があるのだが、最大の課題と思われたトイレはコンポストで、水の代わりにおが屑を入れていた。腐るより先に乾くので臭いもほとんどなく感心したものである。
●ガチで自然とともに生きる人々
しかしやはり自然と言えば、森や川や湖といった潤いのある環境が思い浮かぶ。
海外(とくにアメリカ)では舞踏を「自然と一体化して踊るダンス」と認識している人もけっこういる。ざっくりとした東洋思想からの連想だけでなく、実際にそういう作品を作るダンサーも少なくなかったからだ。
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