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【レポート&インタビュー】現代舞踊とコンテンポラリーのリハーサル現場を取材!「ダンスカナガワ in 岡山」

阿部さや子 Sayako ABE

現代舞踊(モダン・ダンス)とバレエを両輪に活動する国内唯一の団体、神奈川県芸術舞踊協会。〈赤レンガDance Art〉〈アートダンスカナガワ〉〈モダン&バレエ〉〈ヨコハマコンペティション〉といった催しを神奈川県内で定期的に開催している同協会が、2024年1月、県外に飛び出してユニークな舞台を上演します。

公演名は「ダンスカナガワ in 岡山」。日程は2024年1月20日(土)・21日(日)の2日間、会場は岡山芸術創造劇場ハレノワ。プログラムは現代舞踊作品『だるまさんがころんだ』(北島栄振付)と、コンテンポラリーダンス作品『継承』(櫛田祥光振付)の二本立てです。

現代舞踊=モダン・ダンスと、「同時代・いま現在のダンス」を意味するコンテンポラリー・ダンス。両者を明確に区別することは難しいけれど、作品を観れば確かに違いを感じられるのがおもしろいところ。

というわけで、現代舞踊とコンテンポラリーそれぞれの魅力を味わえる「ダンスカナガワin岡山」のリハーサル現場を取材。振付を手がける北島栄さんと櫛田祥光さんのインタビューとともにお届けします!

写真撮影:バレエチャンネル編集部

現代舞踊作品『だるまさんがころんだ』
振付:北島 栄

「すでに存在している作品を踊り継いでいくのが古典バレエだとしたら、現代舞踊は一から創作した作品を踊るもの。それまでこの世にはなかったものが舞台の上にポンと生まれる、それが現代舞踊のおもしろさだと思います」。そう話すのは、「ダンスカナガワ in 岡山」の制作委員を務めるバレエ教師の熊谷有梨さん。12月上旬、『だるまさんがころんだ』の稽古場におじゃましてみると……確かにこれまで取材してきたどの現場とも違う気がする、独特なクリエイションが行われていました。

写真手前が振付の北島栄さん

リハーサルを見てまず思ったのは、「現代舞踊のダンサーさんたち、身体能力高すぎでは……?」ということ。床の上をシャッ!とすばやく滑ったかと思えば、踵を床につけたままいきなりクルクルクルッ!と高速で3回転。身体も極めて柔軟で、脚を前にグラン・バットマンするとみなさん膝が顔にぶつかりそうなほど。

男性ダンサーもこの柔軟性

みなさんの動きが機敏すぎてシャッターを切る指が追いつかず……

作品は、一人の女の子が新幹線に揺られ、神奈川から岡山に到着するところから始まります。大勢の人に囲まれてはいるけれど、一人ぼっち。集団の中の孤独。けれども彼女の心はやがて空想の世界へと羽ばたいて、夢と現実が溶け合うように、痛快な「だるまさんがころんだ」遊びが始まります。

寂しいけれど楽しくて、懐かしいけれど新しい。『だるまさんがころんだ』の構成・演出を手がける北島栄さんにお話を聞きました。

【Interview #1】
北島 栄 Sakae KITAJIIMA

北島 栄 神奈川県出身。幼少より踊り一筋。1991 年全国舞踊コンクールなどで入選・入賞を経て、2004年文化庁国内研修員。2006年ヨコハマコンペティション創作部門第2位。2008年(一社)現代舞踊協会ダンスプラン賞受賞。2014~17年全国舞踊コンクール創作舞踊部人賞。2014年から岡山出身の作曲家長代憲治氏に作曲を依頼し、数多くのオリジナル作品を発表している。

今日は「現代舞踊ってどんな感じだろう?」と思いながら取材に来たのですが、この作品は“身体能力の高いダンサーたちが本気で「だるまさんがころんだ」をするとこうなります”という感じで(笑)、とてもおもしろかったです。
北島 ありがとうございます(笑)。今回のメンバーはベテランから若手までキャリアも年齢もさまざまですが、みなさん技術レベルが高くて表現力にも長けたダンサーばかりです。
メンバー構成は女性ダンサー11名、男性ダンサー3名。振付は基本的にジェンダーレスですが、時々パ・ド・ドゥ的な振付や大きなリフトなども出てきて、効果的なアクセントになっていますね。
北島 『だるまさんがころんだ』は3回目の再演で、初演当初は女性だけで踊る6分ほどの短い作品だったんです。それを今回は14名で踊る20分ほどの作品にスケールアップするのですが、空間の使い方に高さも出したかったので、男性にも加わってもらうことにしました。でも衣裳は男女の区別なく、みんな同じ赤いワンピースを着るんですよ。
作品のテーマを教えてください。
北島 「だるまさんがころんだ」のような遊びって、誰か1人が“鬼”になりますよね。もちろん単なる遊びだし、その人を仲間外れにする意図ではないけれど、鬼になった人はやはり心のどこかで孤独感を味わうと思うんです。そうした感情を社会における人間模様と重ねてみたらどうなるか。それがこの『だるまさんがころんだ』という作品です。
なるほど、だから本作は “群衆の中の孤独”みたいなものを感じさせる情景から始まるのですね。そして徐々に現実が空想の世界へと溶けていくかのように人々とのコミュニケーションが始まって、あのダンサブルでハイスペックな「だるまさんがころんだ」の場面に突入していくと。
北島 表現したいことが伝わっていて嬉しいです(笑)。今回は岡山での公演ですから、地元のお客様に楽しんでいただけるような仕掛けも用意していますし、衣裳も赤いワンピースでは終わらないんですよ。そのあたりもぜひ注目していただけたらと思います。

今回の公演は「現代舞踊」と「コンテンポラリー・ダンス」のダブルビルとのこと。基本のキで恐縮ですが、「現代舞踊」とはどんなダンスなのでしょうか?
北島 現代舞踊は20世紀の初めに日本に芽生えて、石井漠や江口隆哉といった先生方が礎を築いたダンス。それぞれの先生が創ったスタイルを、後進の舞踊家たちが受け継ぎながら発展させて、今に至っています。私の師である中條富美子先生は江口隆哉先生のもとで学んだ方なので、私自身も江口先生のスタイルを継承する者のひとりと言えますが、それだけではなくアメリカのグラハムテクニックを木村百合子先生に、またその他の技法は様々なワークショップに参加して学んできたんですね。ですから自分の作品は現代舞踊をベースにさまざまなダンススタイルがミックスされていると思っています。
バレエダンサーは日々の基礎訓練としてバー&センター・レッスンを行いますが、現代舞踊のダンサーは基礎練習としてどんなことをするのでしょうか?
北島 先生やスタジオによってさまざまだと思います。たとえば私たちのスタジオでは、最初に床の上でストレッチをして、次に簡単なバー・レッスンをして、そのあとフロアに出て身体を自然に動かしていく……といったトレーニングをしています。でもバー・レッスンはやらないスタジオもありますし、今回のメンバーの中にもふだんは「よさこい」を踊っているダンサーもいるんですよ。
北島さんの思う、現代舞踊の魅力とは?
北島 「自由さ」です。守らなくてはいけない原版や型みたいなものがなく、自分の表現したいものをゼロから創れること。ですから観客のみなさんにも、自分なりの感じ方で自由に観ていただけたら、それがいちばん嬉しいです。

コンテンポラリー作品『継承』
振付:櫛田祥光

「櫛田さんの作品には、ストーリー性を強く感じます。観る人に伝えたいことが明確にあって、それを主軸に魅力的な動きを創っていく。たとえて言うなら映画みたいなダンスを創る振付家だと思います」(前出の熊谷さん)。

12月半ばの朝、都内の稽古場。リハーサルの開始を待つダンサーたちが、それぞれのやり方で身体を温めていました。壁に手を添えてバー・レッスンをする人、酸素を全身に送り込むようにじっくり呼吸を繰り返す人、筋肉や関節をひとつずつ確かめながらストレッチする人……ウォーミングアップの様子からも、出演ダンサーたちの多様さが感じられます。

この日のリハーサルは、最初にいくつかのパートの振付を確認したのち、音楽をかけて最初から通してみることに。

「じゃあ、ダンサーのみなさん、マスクを着けてお願いします」と櫛田さん。念のため感染症対策をしているのかな?と思いきや……

ガスマスクなんですね!

『継承』は、大気汚染に覆われた架空の世界を舞台に「生きるとは何か」「あなたはどう生きたいか」を問う作品。ガスマスクで顔を覆い続け、命を守るのと引き換えに、感情の表出や周囲とのコミュニケーションを失っている人。そんな生活に耐えられずにマスクを外し、人間らしい喜怒哀楽に彩られた日々を謳歌するも、儚く命を終えていく人。絶望も希望もある世界が、時に鋭く時に優しいダンスで綴られていきます。

作品の中盤でダンサーたちはマスクを外し、ラストに向かってドラマが加速していきます

ユニゾンの場面。みんなで動きを揃えるのではなく、同じ振付に各人がそれぞれ個性をぶつけて自分だけの凹凸を作っていくという印象

【Interview #2】
櫛田祥光 Yoshimitsu KUSHIDA

櫛田祥光(くしだ・よしみつ)岡山県出身。2007〜2012年新潟りゅーとぴあレジデンシャルダンスカンパニー「Noism1 」に所属。2013年Dance Company Lasta 創立。NPDF2015 コレオグラフィー、コンテンポラリーの2部門で第1位受賞。第49回埼玉全国舞踊コンクール創作舞踊部門第1位受賞。国内外で数多くの作品を発表し高い評価を得ている。今回の作品では同じ岡山県出身ダンサー松岡希美と共演する。

櫛田さんは2007年から2012年まで新潟のNoismで踊っていましたが、振付の活動を始めたのはいつ頃からですか?
櫛田 Noismを退団した翌年からです。だから、今年で10年になりますね。
退団は振付家としての活動をしていくためだったのでしょうか?
櫛田 いいえ、退団した時はもうダンスじたいを辞めようかなと思っていました。当時の自分はもう燃え尽きていたというか、すべて出し切ってしまったように感じていたので。でもその後に教えの仕事をしていたダンススタジオの社長が、「作品を作ってみないか」と言ってくださって。それで作ってみたら、楽しかった。僕は子どもの頃から手を使って何かを作ることがすごく苦手で、工作も料理もできなかったんです。でも、頭を使ってダンスを作ることはできた。その作品が完成した時、初めて「自分の作ったものを好きになれた」と思いました。
『継承』という作品について聞かせてください。リハーサルを見学してまずおもしろかったのは、出演ダンサーの個性の多様さです。今回のメンバーはどのようなダンサーたちなのでしょうか?
櫛田 ほとんどはフリーランスのダンサーで、中にはBATIKで踊っている人や、元Noism2のメンバーもいます。バレエがベースの人もいれば、ジャズベースの人、現代舞踊ベースの人など、確かにバックグラウンドはいろいろですね。というのも今回の作品では最初しばらくガスマスクを着けて踊ってもらうので、動きを揃えるよりも、動きだけでもその人らしさを出してほしくて。そのために敢えて明確な個性のあるダンサーたちをキャスティングしました。
全員がそれぞれ異なる身体言語で踊っているという印象ですね。
櫛田 とくにこの作品は約50分と長いですし、手の込んだ舞台装置があるわけでもないので、ダンサーたちが互いに似たような感じに見えると観客も飽きてしまう。時間や空間を滞らせないためにも、どんなダンサーたちに踊ってもらうかは重視したポイントのひとつです。

ずばり、この作品のテーマは何ですか?
櫛田 この作品は「生きるとはどうことか」という問いかけです。大気汚染に覆われた世界で、ガスマスクに自らを閉じこめても命を守るのが「生きる」ということなのか? それともマスクを外し、ひとときの生を自分らしく謳歌してこそ「生きる」と言えるのか? 僕はどちらが正しいと結論づけるつもりはありません。ただ、そのふたつの選択の中に生まれる人間たちの物語を、映画のように表現したい。そして観てくださった方の心が動く作品になればと思っています。
『継承』というタイトルにしたのはなぜですか?
櫛田 たとえ一瞬でも命を燃やして力強く生きること。あるいは命を守りきって次の世代に繋ぐこと。「生きるとは何か」という僕らからの問いのバトンを、観客のみなさんに受け取ってもらえたら。そういう思いを込めています。

最後に、今回の公演は現代舞踊とコンテンポラリー・ダンスのダブルビルですね。コンテンポラリー作品の作り手である櫛田さんの視点から、現代舞踊について思うことがあれば聞かせてください。
櫛田 現代舞踊には20世紀前半から継承されてきた歴史がある。そこがいちばんうらやましいなと思うところです。約100年間にわたって脈々と受け継がれてきたからこそ磨き上げられた身体能力や、繊細に研ぎ澄まされた感性。僕は雑草みたいにいろいろなものを吸収しながら踊ってきたので、そういうダンサーを見ると本当に素晴らしいなと思います。

公演情報

「ダンスカナガワ in 岡山」

【日時】
2024年
1月20日(土) 18:30開演
1月21日(日) 13:00開演
※開場は開演の30分前

【会場】
岡山芸術創造劇場ハレノワ 中劇場
(〒700-0822岡山県岡山市北区表町3-11-50)

【プログラム】
『継承』
演出振付:櫛田祥光
ミストレス:村上ふみ
作曲: 松田幹
出演:
西川卓
安岡由美香
松岡希美
中村渚央
岡本優香
ChiChi
大上のの
髙橋幸穂
鈴木夢生
森加奈
SHIon
田﨑真菜
小野里笑
大西優里亜
今野友萌
櫛田祥光

『だるまさんがころんだ』
構成 演出:北島栄
監修:中條富美子
映像:立石勇人
作曲:長代憲治
音編集:河田康雄
出演:
小松あすか
片山幸子
鈴木麻依子
篠﨑理恵子
近藤みどり
冨田奈保子
天野真希
天野結唯
野沢心南
伊藤玲実
水島晃太郎
鈴木遼太
田岡弘毅
北島栄

【チケット】全席自由・税込
一般:2,750円
U18:1,100円
カンフェティ割引:2,200円
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【詳細・問合せ】
神奈川県芸術舞踊協会

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