バレエを楽しむ バレエとつながる

  • 観る

映画「ドリームズ・オン・ファイア」主演・仲万美インタビュー “ダンスは自由。失敗もないし、誰に何を言われる筋合いもない”

阿部さや子 Sayako ABE

©︎Shoko Matsuhashi

ダンスアーティスト・女優の仲万美(なか・ばんび)が主演する映画「ドリームズ・オン・ファイア」が、2021年5月15日よりシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開される。

ダンサーになる夢を追いかけるヒロイン・ユメが、苦しみ、もがきながらも様々なダンスや人との出会い、道を切り拓いていくダンスムービー。彼女の挑戦と成長のプロセスが、多種多様なダンスシーンで織り上げられていく。

〈Story〉
ダンサーになる夢を実現するため、家族の反対を押し切り上京したユメ。個性あふれるダンサーたちとのレベルの差に衝撃を受けるも、 目標を達成するために努力は惜しまない。
無一文だった彼女は東京の歓楽街で働くことを決意。先の見えない夢と現実の狭間でもがきながら、 たくさんの人たちと出会い、ユメはダンスを続けていくのだが……。

メガホンを取ったのは気鋭のカナダ人映画監督フィル・メッキー。幼少期より日本のカルチャーに影響を受け、2010年以降は東京をメインの活動拠点にしているだけあって、ダンスや音楽、ファッションなど、現在の日本カルチャーの有り様を独自の色彩で描き出している。

当然ながら、この映画はダンスファンにとって見どころだらけだ。

ユメ役を演じる仲万美は、加藤ミリヤ、BoAなどのバックダンサーや椎名林檎のアーティストダンサーを務めた経歴の持ち主。2014年には、とあるワークショップで踊ったヴォーグダンス(*)の動画がSNSで広がり、世界中で大きな話題となった。これをきっかけに、2015 年にはマドンナのバックダンサーとしてワールドツアーに約1年半同行、2016年リオデジャネイロ五輪の閉会式でもダンスを披露するなど、活躍の場は国内外に広がっている。
*ヴォーグ(VOGUE)。ヴォーギング(VOGUEING)とも呼ばれる。ファッション雑誌「ヴォーグ」のモデルのポーズに似ていたことが名前の由来。雑誌の表紙のようなポーズ、腕を大きく動かす独特の手振りが特徴のダンススタイル。

また、ユメがダンサーを目指すことに断固反対する祖父役は、大駱駝艦(だいらくだかん)を主宰する舞踏家の麿赤兒(まろ・あかじ)。母親役は、ダンサー・振付家の黒田育世(くろだ・いくよ)が演じている。黒田については、自身が主宰するBATIKの代表作のひとつ『SHOKU』が、この映画のオープニングで映し出されるところも見逃せない。

映画「ドリームズ・オン・ファイア」オープニングの場面。黒田育世振付「SHOKU」が映し出され、強い印象を残す

他にも、WORLD OF DANCE(WOD)2019世界大会第3位のYumer1、「きゃりーぱみゅぱみゅ」や「ちゃんみな」のバックダンサーを務めるGENTA、「きゃりーぱみゅぱみゅ」のほぼすべての振付を担当するMAIKO、国内外のバトルで優勝し長年TRFのダンサーを務めるPInO、「DANCE ALIVE 2019」でハウスのチャンピオンとなったKAZANE等々、多彩なジャンルのトップダンサーたちが続々とスクリーンに現れる。

本作の公開を前に、主演の仲万美にインタビューした。
映画のことはもちろん、仲が得意とするヴォーグダンスのことや、踊ることに対する思いについても、話を聞いた。

ダンスアーティスト・女優の仲万美。自らを「僕」と称し、あの湧き上がる鼓動のようなダンスからすると意外に思えるほど、ゆったりとした語り口で言葉を紡ぐ。 ©︎Shoko Matsuhashi

***

ユメは私と似ていない

万美さんが演じた「ユメ」というヒロインは、ダンサーになることを夢見て上京し、たくさんの壁にぶつかり挫折もして傷つきながら、それでもダンスへの情熱を燃やし続ける女の子ですね。ユメは、万美さん自身と似ていますか?
 ダンスが好きっていう気持ちは、すごく似てるなと思います。でも、それ以外はまったく似てないですね。
そうですか! 役柄的に、きっとご自身とすごく重なるのだろうと思っていました。
 ユメちゃんはすごく真っ直ぐで、ちょっと頑固者というか、好きなものにはとことん情熱を注げる子。どんなに寄り道や挫折をしようとも、また這い上がってダンスのために努力し続けます。でも仲万美は、ダンスは好きだけど、そこまで這い上がれない。だからユメちゃんと僕は、ほとんど似てないですね。あそこまでいけるユメちゃんは本当にすごいなと思います。
これは軽はずみに言ってはいけないことですが……いっぽうで万美さんの活躍を折に触れて見ていると、ご自身の才能や魅力ゆえに、様々なチャンスを求める前に与えられてきた面もあるのかな? という印象もあります。
 確かに、抜擢は多いかもしれません。自分があがく前にチャンスが来てくれるのはとても嬉しいことで、恵まれているなとは思うのですが……時々、「こんなにうまく進んでいいの? ちょっと楽をしすぎてない?」とも思ったりします。今回の映画「ドリームズ・オン・ファイア」にしても、僕がお芝居に挑戦するのはこれが2回目くらいなのに、いきなり初主演なんて「いいの?」って。
むしろ、経験も心の準備も充分とは言えないまま初主演をドン!と任されるほうが大変そうで、「楽をしている」なんて到底思えませんが……。
 そこは、正直怖いです。今回のように大きなチャンスが急に来ると、やはり一瞬は身構えてしまいますね。でも、自分のいちばん好きな言葉は「なんとかなる」。その言葉をいつも唱えながらやっています。だから、まったく苦労してないかといったらそんなことはないでしょうけど、それはみなさん誰もが同じだと思うので。

©︎Shoko Matsuhashi

しかし、ユメと実際の万美さんがそれほど似ていないとしたら、今回はずいぶん役作りも必要だったでしょうし、お芝居も難しかったのでは?
 それが、自分としてはあまり「役を作った」という実感はないんですよ。自分の中で、ガチガチに「ユメ」という人物像を固めたわけでもなかったなと。監督が「万美の好きなようにやっていいよ」って言ってくださったし、とりあえず「ダンスが好き」っていう気持ちを曲げなければ、ユメという人物はちゃんと伝わるだろうと思っていました。そして彼女は感情豊かなので、泣いたり、笑ったり、目の前のことに対して素直に反応できればいいのかなと。あとはもう、とにかく踊ってばかりでした。
ダンスシーンは本当にたっぷりですね!
 ダンスに関しては、ユメとしても踊ったことのないジャンルに次々飛び込んでいくという設定でしたし、仲万美としても、やったことのない踊りが多かったです。「なんだこれ!」みたいなことがたくさんあって(笑)、そこはもう、何もカッコつけず、素直にやりました。僕が本当にユメだったとしても、同じ気持ちになると思ったから。
どのシーンにおいても、何かを無理して頑張って演じたわけではないんですね。
 矛盾してますよね。「似てる部分はない」はずなのに、無理して演じる必要がなかったなんて。でも、似てはいなくても、僕の中にもユメと同じものがじつはあって、それを自分で引き出したのかもしれません。確かに10代だった頃はやっぱりがむしゃらで、ユメちゃんみたいに踊っては転んで、踊っては転んで、っていうのを繰り返していたので。

いまの万美さんに似ているわけではないけれど、たどってきた道のりのどこかは、ちょっと重なる部分があるということですね。
 そうですね。若いときの自分には、ユメの気持ちがきっとわかるんだと思います。いまの自分には、まったくわからないけれど。
もうひとつこの映画でダンスファン的に見逃せないのが、ユメのお祖父さん役を舞踏家の麿赤兒さんが、お母さん役をダンサー・振付家の黒田育世さんが演じていることです。
 もう、怖くて怖くて(笑)。撮影前は少しお話ししてくださったりして気さくなのに、カメラが回って役のスイッチが入ると、「ああ、怖い!」って。物凄い迫力でした。でも夢のようでしたね。ずっとステージで見ていた方々とご一緒できて。

ダンスシーンはほぼ“即興”

この映画は、ユメが広いダンスの世界を冒険する物語とも言えて、そこがダンスファン的にはとてもおもしろいところだと思うのですが、先ほど「仲万美としてもやったことない踊りが多かった」という言葉がありました。撮影前には、それぞれの振付をずいぶん練習したのですか?
 いいえ、練習はしていません。ダンスシーンはほとんどフリースタイル(*)だったので。

*ここでは「ジャンルのスタイルや型にこだわることなく、即興で自由に踊ること」という意味

フリースタイルですか?!
 はい(笑)。最初のダンスバトルに挑むシーンと、最後のほうでダンス・コンテストに出場するシーンだけは、あらかじめ自分で振付を考えました。あとは全部フリースタイルです。音楽が流れて、自分の思うままに踊っただけ。だから自分が何をしたのか、まったく覚えていません(笑)。

そうだったのですね! ユメはいろいろな場所に飛び込んでは「自分はこういうダンサーだ」ということを見せていきますが、その時の踊りが、万美さんの代名詞的なダンススタイルである「ヴォーグ」だったことが、とても印象的でした。「自分の思うままに」踊ろうとした時、自然に身体から出てきたのは、やはりヴォーグだったということですね。
 出てきましたね……不思議と。やはり、自分はヴォーグをやっていた人間だからこそですね。あと、きっとユメちゃんは田舎に住んでいた頃、東京の流行りものをずっと見てたと思うんです。その流行りものがヴォーグだったんじゃないかなと。だから初めてのバトルの時にずっと手振りばかりやるんですけど、他のみんながあまりにも上手くて、彼女は自信を失ってしまいます。でもそこからいろんな人のダンスを見て、いろんな人にダンスを教わったりした結果、ラストシーンのコンテストでは、もうそれほど手振りには頼らなくなる。ユメは最後に、全身で踊る表現を完成させるんです。そういうプロセスを思い描きながら踊りました。
最後のコンテストのシーンは本当に素晴らしくて、まさに「魂のダンス」という感じがしました。
 ありがとうございます。あれは、自分でも踊ってて気持ちよかったです。振付を考えてる時は別に気持ちよくなかったんですけど、ユメになって、あの衣裳を着てステージに立った瞬間に、ウワァーッ!っとこみ上げてくるものがあって。そして踊り終わって袖に入ったら、もう泣いてるのか、笑ってるのか、嬉しいのか……あの時の感情は、いちばん解放的でした。あそこだけは、ちょっとユメちゃんのことを忘れちゃいました。万美が出ちゃいましたね、あの場面は。
本当に、心が動いて踊っているという感じが、映像から伝わってきました。
 嬉しいです。とっても。
それにしても、あれだけふんだんにあるダンスシーンのほとんどがフリースタイルで、振付があるところすら自作だとは、驚きです。
 その時の音楽に、その時の感情、その時のモチベーション、その時のアドレナリン。それで出来上がった踊りを見せるのが、すごく好きなんです。何も考えず、無の状態で踊るのがたまらなく好き。気持ちがいいし、自由だから。僕は自由が好きです。何をしようと失敗もないし、誰に何を言われる筋合いもない。そもそもダンスって自由なものですよね。何かを感じて身体が勝手に動きだす、それがダンスだと思います。

©︎Shoko Matsuhashi

自分にとって「ダンス」とは

ところで、万美さんはバレエを観たり、習ったりしたことはありますか?
 バレエは、やりたかったです!
そうですか!
 やりたかったです……。僕は5歳からダンスを始めたのですが、いちばん最初に習ったのがジャズダンスだったんです。それで大人になってからずっと、母に「バレエが習いたかった」と言っています(笑)。やっぱり、バレエの基礎が欲しかった。バレエダンサーって、体幹が本当に強いので。僕もバレエができたら違ったんだろうな、もっと大技ができたりしたんだろうな……と、いまになってすごく悔やんでいます。
ぜひ、いまからでも!(笑)。でも、そうして万美さんのキャリアはジャズから始まり、ヴォーグに出会って、大きく世界が拓けていったと言えますね。バレエファンの中にはヴォーグを知らない人もたくさんいると思うので、あらためて、万美さんの思う「ヴォーグの魅力」を教えてください。
 僕にとってヴォーグは、「踊っている」という感覚ではないんです。自分が美しいと思うポーズを、ただ繋げているだけ。カメラでパシャッ、パシャッ、パシャッ、パシャッ、パシャッ、と写真を撮っていったら、1枚1枚すべて自分が美しいと思うポーズが並んでいる、という感覚です。そしてそれらの写真を並べて動画にしたら、踊っているように見える。どの瞬間を切り取っても美しいのがヴォーグだと、僕は思ってます。ヴォーグって、どの角度でも、どの瞬間を見ても、本当に美しい。もう「美」でしかないです。それがヴォーグの魅力だと思います。
最後にもういちど映画のお話を。今回演じたなかで忘れられないシーンや難しかったシーンなど、印象に残っている場面はありますか?
 難しかったのは……ユメが「ダンスが上手くなりたいのに、どうしてもできない」と、涙を流すシーンですね。上手くなりたいのになれなくて泣いてしまう、その気持ちを演じるのが、すごく難しかったです。自分にはまったくない感情なので。

万美さんのように、踊るステージが瞬く間に大きくなっていった方であれば、そのあたりがいちばんの共感ポイントになりそうなのに。
 これはちょっと嫌味に聞こえるかもしれないのですが、僕はあまり「悔しい」という思いをしたことがなくて。それは決して恵まれているからとかではなくて、挫折する前に逃げてしまうクセがあるからなんです。挫折している自分が嫌なので、その前にとりあえず逃げてしまう。「ああ、このまま続けてたら折れるかな」と思ったら、「はい、1回やめます」みたいな。だから結局、ダンスを踊っていて悔しくて泣いた、みたいなことは一度もない。ダンスをやめたくて泣いたことはあるんですけどね。
ダンスをやめたいと思ったことがあるのですね。
 僕はダンスを嫌いになってしまったことが、何度かあります。そのたびにショックを受けて、「もう、嫌いになりたくない。じゃあ、どうしたら嫌いにならないかな?」と、いろいろな方法を試しました。ダンスのジャンルを変えたり、踊る場所を変えたり。そうしてたどり着いた結論が、「ダンスをやめよう」でした。だからいまは、たとえばダンスイベントで踊ったり、ワークショップで指導をしたりするような、いわゆる「ダンサー」としての仕事は一切していません。今回のように映画やミュージックビデオで踊ったり、振付はするのですが。でも、「逃げる」という道を選んで正解だったなと思ってます。逃げることは、必ずしも悪ではありません。その結果、いまこうしてお芝居の仕事をいただけたりもしているので。
そうだとすると、いまの万美さんにとって、ダンスとはどういう存在ですか?
 人間に喩えるなら「幼なじみ」とか「いとこ」みたいな感じです。その場にいてもいなくても、繋がっている。だから、会わなくても大丈夫。常に一緒にいるわけではないけれど、お互い好きで、信用してるから、再会すればいつでも手を取り合える、みたいな感覚ですね。「恋人」では一切ないです。それだとたぶん、嫌いになってしまうから。僕とダンスは、そういう関係です。……これ、ずっと思っていたことを、いま初めて言葉にしました!(笑)

©︎Shoko Matsuhashi

仲万美 Bambi NAKA
5歳からダンスをはじめ、20年以上のキャリアを誇る。
これまで加藤ミリヤ、BoAなどのバックダンサーを務め、2015 年にはマドンナのバックダンサーとしてワールドツアーに約1年半同行。2014・2015・2016年・2019年にはNHK「紅白歌合戦」において椎名林檎のアーティストダンサーを務めた。2016年リオデジャネイロオリンピック閉会式における日本のプレゼンテーション「SEE YOU IN TOKYO」にも参加するなど、世界的にも活躍。
2019年1月、岡崎京子原作の映画「チワワちゃん」で女優デビュー。舞台「ROCK OPERA『R&J』」ではヒロイン・ジュリエット役に抜擢された。その他、雑誌・広告・CM・MV・イベントなどでも活躍中。

上映情報

「ドリームズ・オン・ファイア」

2021年5月15日(土)よりシアター・イメージフォーラムほか全国順次ロードショー
公式サイト: https://dreamsonfirefilm.com/

この記事を書いた人 このライターの記事一覧

NEWS

NEWS

最新記事一覧へ