★本日のリハーサル動画★
『マノン』第2幕よりレスコーの酔いどれのソロ(木下嘉人)/レスコーの恋人のソロ(木村優里)
2020年2月22日(土)に開幕する新国立劇場バレエ団『マノン』。
その出演ダンサーたちによるリレーインタビュー企画「私と『マノン』」、第2区からバトンを受け取り、第3区を走るのはこの3名です!
Videographer:Kenji Hirano, Kazuki Yamakura
インタビュー動画編集:Ballet Channel
8th Runner:木下嘉人(レスコー)
「レスコー役をやってみたい」という気持ちはありました。僕のなかでは、とてもかっこいい役柄だと思っていたので。昨年、同じマクミラン作品である『ロメオとジュリエット』を上演した際にマキューシオ役を演じさせていただいたのですが、レスコーとマキューシオには、少し面影が似ている部分があると思う。でも、レスコーのほうがさらに複雑な人物です。
振付指導のパトリシア(・ルアンヌ)さんやカール(・バーネット)さんに、「レスコーとはどういう人物なのか」ということをたくさんお話しいただきました。この作品が描いている18世紀後半のパリは酷い格差社会で、お金持ちは本当にお金持ちだけど、貧乏な人はものすごく貧乏。そしてかつて兵士だったレスコーは、もともとはとても真面目だったけれど、その時代にあって「どうやったらお金を稼げるか」ということをいつも考えている人物なのだと。それで結局、妹をムッシューG.M.に売ってお金を稼ごうという心境になるわけですが、その「妹を売る」というのが、僕にはまだ全然わからなくて……。でも、彼はそうでもしなければ生きていけない人物で、周りのみんなに好かれてもいる。すごく難しい役なのだと、先生方に深く教えていただきました。
いまは、とにかく必死です。役を捉えることも難しいし、振付も難しい。ステップの一つひとつ、一歩一歩に意味があることを日々実感しながら、稽古を重ねているところです。
★木下嘉人さん自身の人柄がにじむインタビュー、そしてページトップのリハーサル動画も素敵です! それでは木下さん、次のダンサーのご指名を!
- 僕からは中家正博さんにバトンを渡します。中家さん。僕らはいつもは友達ですけど、今回はG.M.とレスコーという形で、僕は中家さんから殺されます。その心境について、どうぞ!
9th Runner:中家正博(ムッシューG.M.)
バレエダンサーとしてはちょっと珍しいかもしれませんが、僕は『マノン』という作品をまったく観たことがなかったんです。今回の上演が決まってから、はじめて英国ロイヤル・バレエ団のDVDを見て。本当になにも知らない状態から、リハーサルがスタートしました。
今回演じるのはムッシューG.M.という役です。全公演にこの役で出演させていただきます。
G.M.は簡単にいうと、成金で裕福、そして裏社会の人間です。悪いことはすべてやって稼いできたので、「お金さえ払えば何をやってもいい」というような男なんですね。上流階級の人間ではないから、社交界や正式なパーティーには出席できない。だから舞台となる街では、トップに立って威張っているんです。仕草はエレガントですし、もの静かですが、心の中は真っ黒。とにかく悪いことばかり考えています。いかにしてあの娘を手に入れてやろうか、とか。とにかく悪者です(笑)。
僕は前回の『ロメオとジュリエット』で、ティボルト役を演じさせていただきました。ティボルトは悪役だと思われがちですが、それは彼なりに家柄や自分のプライドを尊重した結果であって、悪気があるわけではない。むしろとても純粋なんですよ。でもG.M.っていうのは本当に「悪」でしかない。自分のことしか考えていないし、なんでもお金で解決できると思っている。そういうキャラクターの違いも表現できればと考えています。
どの作品でも、僕はまず人物のキャラクターを理解したうえで、その“プラスアルファ”を考えます。「こういうとき、この役はこうするだろう。でも、もし自分だったらどうするかな?」と考えて、それを役というフィルターを通して演じてみるんです。もちろん、僕が想像できる範囲ではありますが(笑)。
今回の場合は、目線の使い方です。例えば何かを見るにしても、最後にちらりと目線を送るだけなのか、最初からじっと見ているのかで全然違う。第1幕のマノンとの出会いもそうで、最初レスコーから紹介されたときは横目で何となく見るくらいだったのが、途中から変わっていく。だんだんマノンにのめり込んでいく様子は、演じがいのある部分だと思っています
★中家正博さんムッシューの”目線”……オペラグラスでガン見しようと思います。それでは中家さん、次のダンサーの指名をお願いします!
- では、次は寺田亜沙子さん! よろしくお願いします。
10th Runner:寺田亜沙子(レスコーの恋人)
私は2012年の『マノン』でも、ミストレス(レスコーの恋人)役を演じました。当時は20代だったので、役作りにはとても苦労した覚えがありますが、あれから8年。私もいろいろな経験をしてきましたので、その頃よりもほんの少し、いまは余裕が生まれた気がします。
レスコーの恋人(写真中央:寺田亜沙子)
ミストレスはレスコーを一途に愛している女性。高級娼婦ですが、彼をずっと愛し続ける役です。
彼女は物語の中で、マノンと対照的な女性として描かれています。マノンは、真実の愛を取るか、きらびやかな生活を取るかで揺れ動きますが、ミストレスは本当に一途にレスコーについていく。レスコーは、時にミストレスに対して暴力をふるったり、思わず首をかしげたくなるような態度をとります。それでも彼女はそういうところも含めて彼を愛していて、レスコーのためなら売られてもいい、とまで思っているんです。私には彼女のような経験はできないけれど、人間として“ひとりの男性を愛する”という気持ちは同じ。そこは、自然に役に入って行ける部分だと思います。
マクミランの作品には、ひとつ大きな特徴があります。
それは“舞台上の世界で生きている人たちの物語”を、そのままお客さまに観ていただくということ。例えば『白鳥の湖』のようなクラシック作品は客席に対して顔を正面に向けて踊ることが多いのですが、『マノン』はそうではありません。
幕が上がると、舞台中央に、レスコーが真っ黒なマントを広げてひとり座っているーーこの幕開きが、私は大好きです。「この人をきっかけに、これから何が起こるのだろう?」とドキドキします。そして、彼の一つひとつの行動で、物語が進行していく。その彼を愛し続けるミストレスという役を、大切に演じたいと思います。
★ミストレスの人生が見えてくるようなお話をありがとうございます。それでは寺田亜沙子さん、次は誰を指名しますか!?
- 私からは、小野絢子さんにバトンタッチします。絢ちゃんも8年前に初役でマノンを演じましたが、その時にはたぶん苦労したことがいっぱいあったと思います。それから8年のキャリアを経て、いま、どういう思いでリハーサルなどをしているか、ぜひ教えてください。
★いよいよバトンは最終組の第4区へ渡ります……! リレーインタビュー〈私と『マノン』〉第4区は2月23日(日)公開予定です。
公演情報
新国立劇場バレエ団『マノン』