Videographer:Kenji Hirano
1949年創立の谷桃子バレエ団は、日本のバレエの創成期から続く歴史あるカンパニーです。
〈バレエチャンネル〉では、2020年1月18・19日に開催される創立70周年記念新春公演を目前に控えて行われていたリハーサルを取材・撮影しました。
70周年という長い歴史を記念する今回の公演は、豪華2本立て。
新作「70周年記念作品『Fiorito』」と、1962年に同バレエ団が日本で初めて全幕上演した記念碑的演目『リゼット』全幕が同時上演されます。
まずこのページトップの動画では、「70周年記念作品『Fiorito』」のリハーサル風景をお届けします。
振付は、バレエ団を代表するプリマのひとりであり、現在は振付家としても活躍する伊藤範子さん。
そして音楽は、「この楽曲に振付けたバレエ作品はおそらく世界初」(伊藤さん)というロシアの作曲家カリンニコフの交響曲第2番を使用しています。
バレエ団の代表的なレパートリーである『眠れる森の美女』や『ドン・キホーテ』『白鳥の湖』等をそれぞれモチーフにした、緑(Verde)・赤(Rosso)・白(Bianco)・黒(Nero)という4色の踊り。
それらを4組のプリンシパルとコール・ド・バレエが華麗に織り上げていくという、おもしろい趣向!
今回はすべて、ダンサーのみなさんから寄せられたコメントで作品をご紹介します!
上記の動画とあわせて、ぜひじっくりお楽しみください。
Photos:Ballet Channel
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プリンシパルキャスト全8名が紹介!「Fiorito」&「谷桃子バレエ団」
- 「Fiorito」プリンシパルへの3つのQ
- Q1 今回の作品であなたが踊るパートについて教えてください。
Q2 この70周年を記念する作品をどのような気持ちで踊りたいですか?
Q3 あなたの思う「これが谷桃子バレエ団らしさ!」とはズバリ何?!
●緑ーVerde
Verde(緑)山口緋奈子、吉田邑那
山口緋奈子
A1 今回は「緑―Verde」のプリンシパルを踊らせていただきます。この「Verde」は『くるみ割り人形』の金平糖や『眠れる森の美女』第2幕のオーロラ姫、また妖精などのイメージで振付けていただいています。どの振りも素敵ですが、とくにソロパートの振りをいただいたとき、胸が高鳴りました! この気持ちは谷桃子先生の大切にされてきた「心で踊る」ということに繋がると感じました。踊り込んでいけばいくほど、ますますこの踊りが好きになっていっています。難しいのはパートナリングです。本番までにまだまだ良くなる余地があります。もっとスムーズになれば、そのぶんお客様へ気持ちをお届けするパワーが増えるので、本番に向けてまだまだ進化させていきます!
A2 70周年という由緒あるバレエ団がこうして今も伝統を受け継ぎ、常に進化し続けている「現在」に舞台に立てることを嬉しく思います。谷先生が大切にされてきた「心で踊る」を念頭に置き、70周年の祝福の気持ちを込めて、70周年の今の自分にしかできない踊りをお届けしたいと思っています。本番まで毎日毎日、常に進化し続けて、より良いものを求めていきます! そしてバレエを愛する気持ちを全力で踊りに込めて、舞台上をキラキラさせて、お客様にパワーをお届けしたいです。
A3 谷桃子バレエ団はとにかくアットホームで、大好きな場所です。踊りも性格も個性豊かなダンサーがたくさんいて、毎日笑顔で溢れています! それぞれの良いものが団結するとものすごいパワーが出ます! 大変なことも乗り越えなければいけないことも出てきますが、そんな仲間がいるおかげで乗り越えていけるのだと思います。
吉田邑那
A1 僕は「Verde」(緑)のプリンシパルのパートを踊らせていただきます。とても繊細な動きが多く、難しい部分もたくさんあるのですが、音楽がとても素敵なので助けられております。
A2 やはり谷先生がいつも大事にしてらっしゃった「心で踊る」ということを忘れずに、そしてバレエに対するリスペクトも忘れずに踊りたいと思っております。
A3 ずはり「結束力」だと思います。僕は入団してから丸10年経ちますが、団員たちの仲の良さ、温かさ、公演に対するエネルギーはいつも本当に素晴らしいと思います! どこにも負けない自信があります。
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●赤―Rosso
Rosso (赤)馳 麻弥、安村圭太
馳 麻弥
A1 Rosso(赤)のプリンシパルを踊らせていただきます。バレエ団の大切なレパートリーである『ドン・キホーテ』へのオマージュとなっていて、情熱的であり、華やかな空気感がお客様に伝わるように練習に励んでいます。
A2 伊藤範子先生が振付の際から大事にしていた「伝統と革新のサイクルによって、らせん状に上昇していく」という想いをしっかり受け止め、谷桃子バレエ団の70年の歴史に愛や敬意を払い、努めたいと思います。
A3 真摯に踊りに向き合い、谷先生の「心で踊る」という気持ちを大事にしていることだと思います。
安村圭太
A1 Rosso(赤)は谷桃子バレエ団のレパートリーの中でも『ドン・キホーテ』等の情熱的な作品をオマージュしたパートです。パートナリングだけでなく、ソロの部分もテクニック的に難しいものが多いのですが、テクニックだけにとらわれずに情熱的に踊りたいと思っています。
A2 谷桃子バレエ団が積み重ねてきた歴史に対してリスペクトを持って踊りたいというのはもちろんですが、谷先生の常に新しいものに挑戦していった精神も受け継いでいきたいです。伝統を守りながらも新しい何かを提示していけるような、そんな新しい時代の幕開けにふさわしい作品にできればと思います。
A3 言葉では言えない部分を探し求めるところです。言葉ではなく踊りでしか伝わらない何か、踊っている時に感じる何か、舞台を見た時に感じる言葉にできない何か。そういったものを大切にしていると思います。
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●白―Bianco
Bianco(白)永橋あゆみ、今井智也
永橋あゆみ
A1 Bianco(白)のパートを踊らせていただきます。谷先生が得意とされていました白鳥やジゼルの要素も入っており、谷先生からご指導いただいていたことを思い出しながら、一つひとつのパに思いを込めて踊ります。難しいのはパ・ド・ドゥ部分です。流れるようなナチュラルな動きにしたいので、今井さんとのパートナリングを大切にし、叙情的な表現を目指しております。
A2 70周年記念作品『Fiorito』(フィオリート)は、イタリア語で
・華麗な
・才能が開花する
・繁栄、栄華していく
という意味があるので、谷先生が大切に育てられた70年の伝統を守りつつも、これからの新時代へ向けて繁栄していく願いを込めて踊りたいと思います。
A3 現在は若いエネルギーもいっぱいですが、70年という歴史があり、どこか趣のある温かいバレエ団だと思います。
今井智也
A1 Bianco(白)を踊らせていただきます。白のパートは自分のソロから始まるので、赤・緑からの白、どこまで自分が空気(カラー)を変えることができるかを意識して踊ってます。
A2 舞台に立ったその時、どんな気持ちになっているかわかりませんが、その時の感情が素直に出せて、それがお客様にも伝わるように、気持ちよく踊れればいいなと思ってます。
A3 みんな仲が良くアットホームなところ。
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●黒―Nero
Nero(黒)佐藤麻利香、三木雄馬
佐藤麻利香
A1 4パートある中のNero(ネーロ)というパートを踊ります。このパートは他の3パートと違い現代に近い踊りを表現しています。強く表現する場面もあれば流れるように踊る場面もあり、リハーサルを重ねる度にいろいろな発見のあるパートです。
A2 谷桃子先生が残された歴史の深いバレエ団のレパートリーを少しでも多くの方に伝えられるよう、気持ちを込めて踊りたいと思います。
A3 とてもアットホームでみんな仲が良く、出演者全員で作品を作り上げていくところだと思います。どの作品も谷桃子先生のお人柄が出ており、一体感があり、とてもあたたかい舞台になっていると思います。
三木雄馬
A1 僕は黒のプリンシパルを踊らせていただきます。このカラーは新時代をイメージしていて、現代的なコンビネーションの組み合わせや、まるで音楽と掛け合いをするかのようなシーン運びがとても素敵です。自分自身、このパートを踊らせてもらえることをとても光栄に思っています。
A2 「感謝」そして「招待」という感情です。支えられ作り上げられてきたバレエ団からすべての方に感謝の思い。そして谷桃子バレエ団がこれから先に放っていく新たな風とその芸術の波への招待という気持ちです。
A3 共存していることです。伝統と新しい文化のどちらにも思いがあり、先人と新人が共に1つのモノに魂を込めている。多くの方法がある中から個人を尊重した活かし方を考えてくれ、何よりも「心を大切に」と人間の根底を求めてもらえる。とても素晴らしいバレエの在り方だと思っています。
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振付 伊藤範子氏インタビュー
- 70周年記念作品のリハーサルを見せていただきましたが、まさに色とりどりの踊りが目の前でどんどん展開して、華やかでワクワクしました!
- 伊藤 ありがとうございます。70周年記念であり、今回の公演のオープニング作品でもありますので、現在のプリンシパルたちと新しい未来のプリンシパルたちを起用した祝賀的な作品になればという思いで振付けました。同時上演する『リゼット』全幕は長編で、本来はそれだけで一夜の舞台になるだけの長さがありますから、こちらの記念作品は30分ほどの長さにしています。
伊藤範子
- 音楽はヴァシリー・カリンニコフ作曲の交響曲第2番とのことですが、これはバレエファンにはあまり知られていない作曲家ですね?
- 伊藤 おそらく、この楽曲を使用したバレエ作品というのは世界初ではないかと思います。じつはこの曲は、指揮者の福田一雄先生が勧めてくださいました。福田先生はもともと谷桃子バレエ団でレッスン・ピアノを弾いていらしたところからバレエ指揮者になっていったという経緯があって、私たちのバレエ団にはゆかりの深い方なんです。それで70周年記念作品を作るとなった時に先生のところに「何か良い楽曲はないでしょうか」とご相談に行ったら、「範子ちゃん、あるんだよ!」と(笑)。「ロシアにカリンニコフという作曲家がいて、彼は才能があったけれど若くして亡くなったのだけれども、とてもおもしろい曲を書いているよ」と教えてくださいました。カリンニコフは交響曲を第1番と第2番しか書いていなくて、第1番のほうはロシア民謡のようなロシア色が強い楽曲。いっぽう第2番は今回の祝賀的なイメージにとてもマッチしたので、こちらを選ばせていただきました。本来は第4楽章まであるのですが、すべてを使用すると45分くらいかかってしまうので、今回は第3楽章を割愛して。第1・第2・第4楽章を使って30分くらいの作品にまとめました。
- 今回は谷桃子先生という巨星を失って初めて迎える大きな周年でもありますが、これからも受け継いでいきたい谷先生のDNAのようなものも、今回の振付に込めていますか?
- 伊藤 この作品は、谷バレエ団が全幕日本初演した『ドン・キホーテ』や、『白鳥の湖』『眠れる森の美女』などバレエ団のレパートリーをモチーフにしています。「赤」には『ドン・キホーテ』の振りを入れていますし、「白」には白鳥、「黒」には黒鳥のエッセンスを入れている、というように。
- おもしろい趣向ですね!
- 伊藤 谷先生がいつも「心で踊りなさい」「気持ちを持って踊りなさい」とおっしゃっていたことや、『リゼット』『ドン・キホーテ』『白鳥の湖』のような作品を通して私が直接教えていただいたことは、もちろん後輩に教えていきたいと思っています。それとともに伝えていきたいのは、谷先生の「在り方」です。先生がダンサーとして、人間として、何事にも真摯に取り組んでいたことや、役柄を深く深く解釈してそれを表現していたこと。そういうことを今の若いダンサーたちに伝えていきたいですね。個性はあって良いと思うんです。誰も谷先生そのものにはなれませんから。でも先生の在り方や、気持ちの持ち方をどんどん繋げていくことで、自分たちなりにバレエに真摯に取り組んで、「踊る役者」になってほしいと思っています。私自身、作品を創るにもドラマ性があるものが好きなので、そういう作品に取り組んでいくつもりです。
- いまのお話にもすでにヒントがあったように思いますが、70周年を契機に、新たに取り組んでいきたいのはどんなことでしょう?
- 伊藤 古典作品は大事にしつつ、新たな作品もどんどん発表していきたいです。現代に生きている彼ら彼女たちが活かされるようなオリジナリティを谷桃子バレエ団に持たせていかないと、新しいお客様は増えないと思うので。観に来てくださるお客様も「今」を生きている方々ですから、その人たちに「谷バレエ団しかないよね、こういう味を出せるのは!」と言っていただけるようなオリジナルな作品を、もっともっと創っていかなくてはいけません。また古典作品においても、「谷バレエ団を観ていると心が躍るよね、心が洗われるよね」と思っていただけること、そこにオリジナル性を持つことができれば、もっとお客様にも理解していただけると思いますし、発展していくのではないかと思っています。
私はミラノ・スカラ座に研修に行かせていただいたこともあるのですが、日本人のダンサーは、本当にすごくレベルが上がっているんです。ダンサーも、先生方も、みなさんとても優秀です。あとは、それをどう発表し、どう伝えて、文化として発展させていくか。これはバレエ界全体の問題ではありますけれど、私たち自身がアクションを起こして、日本のバレエ文化を盛り上げていきたいと思っています。
公演情報
谷桃子バレエ団 70周年記念新春公演
70周年記念作品『Fiorito』&『リゼット』全幕