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【レポート】最後の東京文化会館公演 東京バレエ団×金森穣 グランド・バレエ「かぐや姫」リハーサル&囲み取材

若松 圭子 Keiko WAKAMATSU

©Shoko Matsuhashi

東京バレエ団Noism Company Niigata芸術総監督の金森穣によるグランド・バレエ『かぐや姫』。2021年3月にクリエーションを開始、2年7ヵ月を経て1幕ずつ上演を重ね、2023年に全3幕の世界初演を行いました。今回の再演は、ゴールデンウイーク後半の2026年5月5~6日、上野の森バレエホリデイ2026の期間中に上演されます。東京文化会館は大規模な改修工事に伴い、5月7日より約3年間の全館休館に入るため、『かぐや姫』が休館前最後の公演になります。
3月5日、同バレエ団のスタジオにて、メディア向け公開リハーサルと囲み取材が行われました。

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バレエ「かぐや姫」公開リハーサル

この日のリハーサルに参加したのは、初演からかぐや姫を演じている秋山瑛と、前回までは帝役を務め、道児は初役となる大塚卓の二人。かぐや姫と道児が初めて踊る第1幕、宮廷に連れ去られてしまったかぐや姫を道児が連れ戻しに来る第2幕のパ・ド・ドゥを中心に披露しました。

左から:大塚卓(道児役)、秋山瑛(かぐや姫役) ©Ballet Channel

リハーサルは第1幕から。かぐや姫が道児の胸に駆け込んで抱きつく場面では、「かぐや姫の幼さや、やんちゃなところも表現して」と演出・振付の金森譲。秋山はこの動きを何度も繰り返し、顔の向きや脚を巻き付けるタイミングを確認していました。

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互いの手を何度も重ね合うかぐや姫と道児。この振りは、第1幕と第2幕で同じものが繰り返されます。金森から手を重ねていくスピードを指摘された大塚は、一つひとつの動作を嚙み締めるように身体に落とし込んでいました。

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後半は第2幕のリハーサル。成長したかぐや姫の足元はバレエシューズからポワントに。ドビュッシーの「月の光」に乗せ、流れるような動きと高いリフトが繰り出されます。

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リハーサルを見つめる金森譲と演出助手の井関佐和子 ©Ballet Channel

©Shoko Matsuhashi

囲み取材

リハーサル終了後、演出・振付の金森穣、東京バレエ団団長の斎藤友佳理による囲み取材が行われました。おもな内容は以下の通り。

©Ballet Channel

再演に向けて、どのようにアップデートする予定ですか?
金森 初演の時は、限られた時間の中で、この世に存在しないものをひとつの作品として生み出します。そして生み出した後には、いろいろな気づきがあるものです。『かぐや姫』も、初演を終えたところでいくつかのアイディアが浮かびました。それを元にブラッシュアップしているところなので、初演よりもさらに素晴らしい作品になるのではないでしょうか。
斎藤友佳理団長は、東京バレエ団の豊富なレパートリーの中で、この作品をどのような位置付けだと捉えていますか?
斎藤 全3幕が完成した時、「この作品はこの先、ダンサーたちにとっても、バレエ団にとっても絶対必要になる」という手応えを感じました。東京バレエ団が海外公演を企画する際、よく「日本人の振付家の作品はないのですか」と聞かれることがあります。(金森)譲さんの『かぐや姫』は、バレエ団のレパートリーである『ザ・カブキ』や『M』に続くオリジナル作品になると思っています。
前回まで帝役を演じていた大塚卓さんは今回、道児役を演じますね。金森さんがそれぞれの役に求めているものや、どういうダンサーに踊らせたいと考えているかを聞かせてください。
金森 異なるキャスティングによって、ダンサー一人ひとりの個性が生きる。それはグランド・バレエの醍醐味だと思います。だから、いろいろな人に帝や道児を踊ってほしいですし、ダンサーによって違う帝像、道児像があっていいと思っています。例えばある男の子が誕生する時、そこが宮廷であればその子は帝になりますが、もし村で生まれていたら道児のような少年になるでしょう。そういう意味で言えば、道児と帝には親和性があります。前回帝役だった(大塚)卓が今回道児を演じることは、僕の中で自然なものに感じます。
舞台芸術の本質とは「人間とは何かを問うこと」。たとえば人間の持つ二面性は、その本質を探るテーマのひとつだと思います。バレエで言えば『白鳥の湖』の白鳥と黒鳥がそうですよね。『かぐや姫』でも、かぐや姫と影姫は光と影の関係にあります。同じく道児と帝もインヤン(陰陽)の関係として、ふたりの舞踊家が人間の内面の陰と陽を表現している、という考え方もできると思っています。

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今回の公演は、改修工事を控えた東京文化会館で上演する最後の舞台です。公演を控えて、いまどんなお気持ちですか?
斎藤 最後の公演、と思うと、どうしても怒りのほうが先に浮かんでしまいますね。私たちは劇場がなければ活動する場がありません。舞台芸術というのは成長していく過程がとても大切なんです。それなのに、この劇場もあの劇場も全部同じ時期に改修工事を決めてしまうなんて。なぜ、もっと計画的にやってくれないのだろうと思わずにはいられません。東京文化会館は、東京バレエ団の歴史がすべて刻まれた私たちのホームグラウンドです。一日も早く改修を終えて再開してくれることを願っています。

金森 友佳理さんがおっしゃっている、いわゆる行政に対する怒りには共感します。実演芸術にとって、継続性というのがどれだけ大事か。それを理解してもらえない憤りを覚えますね。今回は、ご縁あって劇場がクローズする舞台に関わることになりました。光栄なことだと思っています。かぐや姫がここから海外に飛び立ち、改修を終えた東京文化会館に凱旋する日を夢見ています。

斎藤 私は、それ以上の夢があるんです。ジョン・クランコがシュツットガルト・バレエのために振付けた『オネーギン』という作品は、いまも世界中のバレエ団が上演したいと願っていて、たくさんのダンサーたちが踊る夢を抱いています。願わくばこの『かぐや姫』も、海外のバレエ団から声がかかる日がきたら……もう少しだけ、東京バレエ団のオリジナル作品として大事にしたいですけれども(笑)。譲さんには、日本人の振付家として世界で活躍してほしいです。

©Ballet Channel

クリエーションがスタートしてからこれまでの何年間で、社会情勢なども大きく変化しています。再演にあたって、そういったものが作品に影響を与えていることはありますか?
金森 おっしゃるように、この数年で社会情勢は変化し、思ってもみなかったことが起こっています。先ほど「この世に存在しないものを生み出す」と言いましたが、時として、まったく意図せずにつくった部分が現実のできごとに反映されていたり、何かを予見していたような演出や展開になっていることに気付いて自分自身がショックを受けることもあります。社会情勢が変わればその場面の意味も褪せていったり、逆に色濃くなったりと、互いに響き合う。創作って、そういうものなんですよ。
初演から何回かに分けて創作してきましたが、その間のダンサーたちの成長をどう受け止めていますか。
金森 これだけの回数をこなしてきたので、ダンサーたちも私と稽古をすることにシンプルに慣れ、向き合い方も変わってきました。最初はまるでお見合いみたいだったんですよ(笑)。「どこまで心を開こう」「どこまで受け入れていいんだろう」と互いに手探り状態が続き、第3幕が完成した時に、やっと分かり合えたような気がします。あれから少し間があきましたが、あのクリエーションを経験したメンバーは、今回リハーサルの取り組み方が違います。前回の稽古で見出したあの課題をクリアしたい、という思いが見えるんですよ。私とダンサーたちとの関係も深まってきていると思います。

斎藤 この場をお借りして、演出助手として譲さんと私たちをつなぐパイプとなってくださった井関佐和子さんにも、心から感謝の気持ちを伝えたいです。

©Ballet Channel

かぐや姫と道児のパ・ド・ドゥに関して伺います。2024年のブノワ賞のガラ公演の時、第1幕のパ・ド・ドゥがポワントで踊るようになっていました。今回の再演ではどうなるのですか?
金森 ポワントで踊るバージョンは、友佳理さんから「コンサート用の小品として単独で上演できるようにしたい」と提案があり、手直ししたものです。東京バレエ団創立60周年ガラ「ダイヤモンドセレブレーション」でも披露しました。

斎藤 コンサート用のピースとして、とても良いものになったと思います。ポワントに合わせて、衣裳も白の全身タイツに変えています。

金森 友佳理さんがとても良かったと言ってくださったので、今回の再演は全部ポワントでという考えも頭をよぎりました。ですが、やはり全幕バレエとしての物語の流れを大切に考え、リハーサルでご覧いただいたように、初演と同じく第1幕の幼いかぐや姫はバレエシューズで、宮廷に入る第2幕からはポワントで踊ります。振付全体の精度や細かなポジショニングもブラッシュアップされ、より楽しんでいただけると思います。

©Shoko Matsuhashi

最後に一言ずつメッセージをお願いします。
斎藤 東京バレエ団、金森譲さん、そしてドビュッシー。この素晴らしい組み合わせによって、日本最古の物語からグランド・バレエ『かぐや姫』が誕生しました。先ずはひとりでも多くの日本の方に、このバレエを知っていただきたいです。

金森 僕も同意見です。東京文化会館が改修工事に入ってしまう前、『かぐや姫』が海外へ羽ばたくよりも先に、日本の劇場を満席にしたいと願っています。

左から:秋山瑛、大塚卓、井関佐和子、金森譲、斎藤友佳理、佐野志織、足立真里亜、柄本弾 ©Ballet Channel

公演情報

東京バレエ団×金森穣
グランド・バレエ『かぐや姫』全3幕

【日時】
2026年5月5日(火祝)13:00/18:30
2026年5月6日(水祝)14:00

会場:東京文化会館 大ホール

※上演時間:約2時間40分(休憩2回含む)

演出振付:金森穣(Noism Company Niigata)
音楽:クロード・ドビュッシー
衣裳デザイン:廣川玉枝(SOMA DESIGN)
木工:近藤正樹
映像:遠藤龍
照明:伊藤雅一(RYU)、金森穣
演出助手:井関佐和子(Noism Company Niigata)
衣裳製作:武田園子(Veronique)

おもな配役
かぐや姫:秋山瑛・足立真里亜
道児:大塚卓・柄本弾
影姫:沖香菜子・金子仁美
帝:池本祥真・生方隆之介
翁:岡崎隼也

公式サイトこちら

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