“Contemporary Dance Lecture for Ballet Fans”
サイトスペシフィック・ダンス〜逃れるだけでは、自由になれない〜
1月の配信はお休みになってしまい、申し訳なかった。
今月からは再びがっつりと行かせていただきたい。
さてこの連載もラストスパートである。
前号までは「舞台上にあるもの」を様々に分解・分析・考察してきたが、今回からは、作り手・観客双方が、より深く作品にアクセスするための方法を考えていこう。
ダンスは、劇場だけのものではない
●サイトスペシフィック(SIGHT-SPECIFIC)とは
今回のテーマであるサイトスペシフィック(SIGHT-SPECIFIC)・ダンスとは、「場所の特殊性を生かしたダンス」ということだが、「劇場以外の場所で踊られるダンス」という意味合いで使われることが多いので、本稿でもそれにしたがう。
広がる青空もしくは夕暮れ、海辺や川、森の鳥たちの自然な声が聞こえてくる。もしくは歴史的な建造物や遺跡、最先端科学の粋を凝らした場所で踊ることもあるだろう。
なかには「え、こんなところで踊るの?」と唖然としたり、「こんな場所があったんだ……」とワクワクしたりする。今回は、そんな驚きの実例を挙げながら見ていこう。
しかしこれは単なるオモシロ公演集ではない。
やがて「サイトスペシフィックなダンスを考えることは、劇場の可能性と限界について考えることである」と思い至ることになる。ぜひ一緒に考えていきたい。
●「外」→「内」→「外」を考える
もちろん人々は劇場が誕生する前から踊ってきた。
日本でも多くの芸能が「河原乞食」と言われ、能舞台も元は野外にあった。舞台芸術の源流は屋外にあったのだ。海外でも源流は野外もしくは野外劇場である。
ヨーロッパでは、バレエをはじめ専門的・職業的なダンスが王宮などの権力者・富裕層の庇護の許に発達してきた。
つまり現在、わざわざ「サイトスペシフィック」という言葉を使うのは、人々の意識の中に「ダンスは劇場で見るもの」という考えが浸透した結果といえる。
この「外(道や河原)」→「内(劇場)」→「外(サイトスペシフィック)」と人々を向かわせる力は何なのだろう。
それを考える前に、まずバレエにおけるサイトスペシフィックな公演の実例を見てみよう。
サイトスペシフィックなバレエ
●清里とニューイヤー
バレエは宮殿で生まれた。
しかしサイトスペシフィックな挑戦はけっこうされている。
そもそもロマンティック・バレエは森の奥深く、月光の下で、魔法や妖精とともに物語が展開するのが大好物なのだから、本物の森の中で上演したくなるのはしょうがない。
ヨーロッパでは、夏のバケーションに様々な場所で野外バレエ公演が行われている。モーリス・ベジャールは夏場に湖畔や古代の劇場などで公演をしていたが、現代のベジャール・バレエにもしっかりと受け継がれている。
「日本で唯一、⻑期間にわたり連続で上演されている野外バレエ公演」(公式サイトより)が、バレエシャンブルウエストによる「清⾥フィールドバレエ」である。1990年の開始以来、清里高原萌木の村特設野外劇場で約2週間行われる公演に、多いときはのべ3万人を越える観客がやってくる。
都会の喧噪を離れ、背景に広がる木々に高原の清涼な空気、冴えわたる月と星の下でのバレエは、多くのファンの心をつかんでいるのだ。コロナ禍の2020年も無事『白鳥の湖』の公演が行われた。
―― この続きは電子書籍でお楽しみいただけます ――
※この記事ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています。