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※リハ動画追加【リラ&カラボスのマイム動画つき!】牧阿佐美バレヱ団「眠れる森の美女」佐藤かんな&菊地研インタビュー

古川 真理絵

牧阿佐美バレヱ団が英国ロイヤル・バレエで活躍するマリアネラ・ヌニェスワディム・ムンタギロフエリザベス・マクゴリアンをゲストに迎え、『眠れる森の美女』を2023年12月2日(土)・3日(日)に上演します。

バレエ団が初演から40年間大事に受け継いできたウエストモーランド版は、マリウス・プティパの原典版に忠実に作られたバージョン。その作品のひとつの魅力として「マイム」が挙げられます。
今回は、マイムが頻出するプロローグからカラボスとリラの精の名シーンを佐藤かんなさん、菊地研さんに実演してもらいました。また、二人には演じる時のマイムの心得や作品の見どころについても聞きました。記事の最後には、鑑賞の手立てとなるマイムの用語解説も。

動画と併せて、ぜひお楽しみください。

もくじ
◆【Movie】カラボスvsリラの精<マイム実演>
◆【Interview】出演ダンサーにインタビュー
佐藤かんな(リラの精)
菊地研(カラボス)
◆【Movie&Point】「眠り」マイム用語集<入門編>
Ⅰ「指に刺す」/Ⅱ「死ぬ」
Ⅲ「彼女は」/Ⅳ「成長する」
Ⅴ「聞いて」
Ⅵ「覚えて」
Ⅶ「話す」
Ⅷ「あなた」/Ⅸ「美しい」/Ⅹ「ハンサム」

【Movie】カラボスvsリラの精<マイム実演>

動画撮影・編集:バレエチャンネル

◆◇◆

【Interview】出演ダンサーにインタビュー

佐藤かんな Kanna Sato(リラの精)

©️Ballet Channel

牧阿佐美バレヱ団の財産的レパートリー、ウエストモーランド版『眠れる森の美女』は、マイムがひとつの特徴だと伺いました。
佐藤 ウエストモーランド版は、マリウス・プティパが1890年に初演した原典版をリスペクトしています。初演から現代に至るまで、大事に受け継がれてきたものを残したバージョンで、そのひとつの要素がマイムです。
マイムがあることによって、相手との繋がりやストーリーのディティールがより明確に伝わる。ニュアンスで流れてしまいそうな部分も、具体的に伝わるので、物語の展開に納得しながら見ることができると思います。
佐藤さんは、マイムを演じている時、演技の一部として行っているのですか?それとも踊りの一部と捉えているのでしょうか?
佐藤 私は、マイムは会話しているように見せなければならないと思っていて。身振り手振りのジェスチャーであっても、自分の中では、相手に語りかける意識で手を差し出すようにしています。だから、マイムは演技の一部ですね。
マイムをする時に心がけていることはありますか?
佐藤 ひとつは指先の向きです。ミストレスの先生にもよく注意を受けるのですが、指先の向きが曖昧だと、伝えなければならないことが伝わらなくなってしまう。「あなた」と手を出しても、指先が丸まって自分のほうに向いていたら「私」と受けとる人もいるかもしれない。ほんの少しの違いで印象が変わってしまうのがマイムなので、指の先端まで意識するようにしています。
もうひとつは目線。動画でお見せしたプロローグのマイムシーンでも、カラボスを見て「Hello」と言ってから、王妃に目線を送り「Don’t worry」と伝える。その目線ひとつで伝えるべき内容が変わります。相手のことをちゃんと見る、これも曖昧にしないよう心がけています。

「なぜ、オーロラ姫を”苦しめる”のですか?」とマイムするシーン ©️Ballet Channel

佐藤さんが考えるリラの精は、どのようなキャラクターでしょう?
佐藤 リラの精は、その場を制する存在だと思っています。カラボスが現れても「私がいるから大丈夫、心配しないで」とみんなに絶対的な安心感を与えられるよう演じたい。妖精特有の可愛らしさというよりも、威厳を持って、凛とした強さを表現したいです。
リラの精を演じるのは3回目となりますが、今回新たな発見はありましたか?
佐藤 最初に踊った2017年は、公演の半年前に膝の十字靭帯を断裂してしまい、その状態での出演だったんです。靭帯をサポートする筋力のトレーニングをして、なんとか舞台に立ちました。だからコンディションも万全ではなく、心配ごとも多くて、なかなか役に没頭することができませんでした。
今回は、膝も手術して不安要素はありませんし、3度目なのでテクニック的なことも含め、自分の中での気づきもたくさんありました。マイムも客席から観た時に王妃やカラボスとの距離感を考えて、自分の歩く歩数を模索してみたり。部分的なことだけでなく、俯瞰して自分が演じるリラの精を見るようにしています。私はこれまで『飛鳥-ASUKA-』の「黒竜」など、強い役を演じることが多かったですし、そのほうが踊りやすいタイプ。なので、その対極にあるリラの精に、ずっと苦手意識を持っていました。初めてリラの精に抜擢された時は、「黒龍」を踊った直後で、役が自分の中に残っていたこともあり、普段から「リラのように優しく、おおらかに!」と心で唱えて生活していました(笑)。いまでも悩みは同じで「ずっとおおらかに、でも凛とした立ち振る舞いってどう表現したらいいんだろう」と自問自答しながら稽古しています。けれど、これまでの経験も経て、マイムの見せ方のコツなど少しだけ答えが見えてきたように感じています。
次の公演では、ゲストとしてロイヤル・バレエで活躍する、マリアネラ・ヌニェスさん、ワディム・ムンタギロフさん、エリザベス・マクゴリアンさんが出演されますね。
佐藤 すごく楽しみです。これまでヌニェスさんがリラの精を踊る映像を何度も観て、お手本にしてきました。彼女が演じるリラの精は、柔らかさの中にも強い芯がある。難しいテクニックもさらっとこなしていて、毎回「素晴らしい、こう踊りたい」と思って見ていました。あの映像はリラの精の理想像だと思います。そんな方と共演できるのは嬉しいですね。

王子とは、第2幕のゴンドラのシーンでマイムのやりとりがあるので、ムンタギロフさんがどのようなアプローチをしてくるのか、いまからとても楽しみにしています。私もリラとして、彼の演技に対応できるようしっかり立ち振る舞わなければなりません。責任も感じますが、いまはわくわくする気持ちのほうが強いです。
王妃とカラボスを演じるエリザベスさんは2回目の共演となります。この前は、リラの精のマイム指導をとても丁寧にしてくださって。絡まった糸を解くような発見があったので、いまから共演を心待ちにしています。

2017年、『眠れる森の美女』の公演でリラの精を踊る佐藤さん 撮影:©︎鹿摩隆司

リラの精と対峙するキャラクターといえばカラボス。今回、佐藤さんと共演するカラボスを演じるのは菊地研さんですね。
佐藤 研さんは、舞台に上がるとすごく変わるんです。オーラが増すというか。「わっ」と声を漏らしそうになるくらいすごい迫力でした。あとは、首のラインの見せ方がとても上手。女性でも難しいラインを、男性でありながらなぜこんなに美しく出せるんだろう……と感心しながら見ています。

でも、圧倒されてばかりでは負けてしまうので(笑)。「私のほうが!」と強い気持ちを持って、カラボスには屈さず、臨もうと思います。

最後に、舞台への意気込みを教えてください。
佐藤 自分が課題だと思っている、柔らかさの中にある強い芯、そして凛とした美しさをこれまで以上に出せたらと思っています。
また、リラの精はストーリーを運ぶ役目もあります。だからこそ、マイムの一つひとつを、お客さまにしっかり伝わるよう心がけて演じたいです。

リラの精の前では、カラボスも威力を発揮することはできない ©️Ballet Channel

◆◇◆

菊地研 Ken Kikuchi(カラボス)

©️Ballet Channel

ウエストモーランド版『眠れる森の美女』の特徴のひとつ、マイムについて聞かせてください。菊地さんにとって、マイムはお芝居の延長なのか、それとも踊りの一部という感覚なのでしょうか?
菊地 僕はすべて踊りと同じ感覚です。マイムは手振りなどがあるから、芝居的な要素に感じられると思いますが、やはりバレエである以上、マイムも音楽的であることが大事だと思います。例えば、「死ぬ」とマイムするシーンも、音楽が一番盛り上がる「ここ!」というところでしないと決まらないですよね。

音楽性というのは、マイムに限らず、ダンサーならばどんな時でも気をつけていることです。 ただ歩いているだけのシーンでも、音楽は絶えず流れています。劇場空間でダンサーと観客が同じ音楽を聴き、それを通して「何を表現しているのか」をお互いにキャッチし合う。バレエはそれが大事だから、マイムも音楽的でないといけないと思うんですよ。

作品の魅力はどういうところにあると思いますか?
菊地 なんといっても純クラシックならではの重厚感があります。
また、ウエストモーランド版は、無駄なものを省きつつも、しっかりと伝えるべきところは残しています。
『眠り』はわかりづらいという話も耳にしますが、かと言ってあまり説明しすぎるとお客さまの受け取る“余白”がなくなってしまう。バレエはその“余白”を残すことが大事で、それこそが芸術的な感性を養うことにつながると思っています。
時代のニーズに合わせて、いろんな考え方がありますし、僕たちも頑なに守っているというわけではありません。ただ、自分たちの中で「これ以上は崩さない」というラインを持っていればいいのかな、と。芸術作品を作り上げるというのは、その軸を心に留めながら、かたちにしていくものなのではないでしょうか。

2020年に『眠れる森の美女』でカラボスを踊った時の菊地さん。この時はコロナ禍で短縮バージョンでの上演だったそう 撮影:©︎鹿摩隆司

カラボスを演じる時に大切にしていることはありますか?
菊地 いちばん難しくて、毎回壁にぶつかるのは歩き方ですね。感情が自分の中で少しでも強くなってしまうと、キャラクターから逸脱した歩き方をしてしまうことがあります。
カラボスのベースは女性なので、やはり品を持たせたい。怒りの感情から強く歩くところでも、気位は高く保って。そのさじ加減は、先輩方にも見てもらいながら、いまも調整しているところです。歩き方については、これまでも牧(阿佐美)先生に散々注意されてきました。若い時は、歩くだけで1時間以上稽古したこともあるくらい。牧先生の歩き方のこだわりは、とても面白かったですね。『飛鳥-ASUKA-』で竜神を演じた時も、歩き方について先生に尋ねたら「何言ってるの、竜神のように出てくればいいだけじゃない」と(笑)。実在しない神仏であっても、先生の中では体現できるものだったのでしょう。歩き方については、ずっと正解が出ないまま、いまでもつねに模索しています。けれど、正解がないというのもバレエの面白いところだと思います。
今回は、ダブル・キャストでロイヤル・バレエのエリザベス・マクゴリアンさんもカラボス役を演じます。
菊地 ロイヤル・バレエは演劇的バレエの本家ですから、演技性の高いキャラクターで一緒に配役いただくのは、とても光栄なことです。カラボス役を男女それぞれで演じるのも面白い。これまで三谷先生や保坂アントンさんなど、男性しか演じてこなかった役を、彼女がどういうふうに役作りするのか、とても楽しみにしています。
菊地さんがマクゴリアンさんのカラボスで注目しているポイントはありますか?
菊地 とくに注目するのは、プロローグの馬車で登場するシーンですね。
演じるうえでのひとつのエンジンのかけ方なのですが、僕はキャラクターが持つパワーの振り幅を表現する時、ボリュームを上げ下げするようなイメージで行っていて。それが前回、馬車から降りた時にキュッと上がったのを感じた。その瞬間に、「カラボスとして舞台に立った」という感覚が身体の中にスッと入ったんです。だから、そのシーンでその人の作るカラボスのカラーが見えるような気がします。彼女がどういうカラボスを造形してくるか、興味は尽きませんね。

カラボスが馬車から降り立ったシーン ©️Ballet Channel

カラボス役は4回目だそうですが、今回新たな気づきはありましたか?
菊地 それは毎回あります。日々、役に没頭させてもらえる環境に身を置いていると、自然と「いまの行動はなんだったんだろう……」と思うことがあったり、そこからハッと気づきを得ることもある。それは同じ役を何度も重ねてきたからこそ気づくことで、意図的に探っても見つからないものです。
舞台に立った時の役の深度は、役を研ぎ澄ます作業を、どれくらい稽古場でしてきたかで変わると思います。だから、稽古場での「姿勢」はすごく大事にしています。役作りというのは自分一人では導き出せないもので、舞台全体の空気感も多分に影響します。役と真摯に向き合っていると、自然とみんなの表現したいものも見えてきます。ダンサー同士、お互いにキャッチしながら舞台を作ると、相乗効果で本当にいい舞台になるんです。
それは、これまでに何度も主役を経験されてきた菊地さんだからこそ、感じるものかもしれませんね。
菊地 僕は若い時からフロリモンド王子&カラボス、ジークフリード&ロットバルト……と、同じタイミングで両方の役を演じる経験をたくさんさせてもらいました。そうすると視界もぐんと広がりますし、ストーリーもより明確に見えてきます。

牧先生が亡くなる少し前から、バレエマスターも兼任するようになったのですが、本当に学ぶことばかりです。ダンサーとして主役を踊っている時は、自分の背中を見せて引っ張らなきゃ……という思いが強かったのですが、バレエマスターはその逆。ダンサーたちに寄り添い、時には彼らの力を借りながら、一緒に作り上げていく。そういう気持ちが必要なのだと気付かされました。

両立するのは難しいことなのでは?
菊地 そうですね。だから稽古場にいる時は、すごく集中しています。最近は稽古場にいる時間が、いままで以上に尊く感じます。
改めて思うのは、バレエマスターの仕事は、僕自身学ぶことのほうが多いということ。僕もまた、人として成長させてもらっていると感じますし、牧先生もそのために任せてくれたんだろうと思います。
最後に、舞台への意気込みを教えてください。
菊地 『眠り』はバレエ団みんなでひとつとなって作り上げるもの。いま、一つひとつの舞台に、ダンサーの熱をこれまで以上に感じるんです。ゲスト・ダンサーとともに、王道のグランド・バレエをお客さまに届けたい。そして、そのために自分のできる限りを尽くしたいと思っています。

©️Ballet Channel

◆◇◆

【Movie&Point】「眠り」マイム用語集<入門編>

Ⅰ「指に刺す」/Ⅱ「死ぬ」

:右手の指先でつまんだ針を、ちょんと指に刺すジェスチャー。
:『ジゼル』や『白鳥の湖』にも登場する、バレエでは定番のマイム。両手でこぶしを握りクロスさせます。その両腕を上から下へとぐっと下げる一連の動作で「死」を表します。クロスは、十字架を表しているという説も。

Ⅲ「彼女は」/Ⅳ「成長する」

:人差し指で「彼女」がいる場所を指します。
:両手で子どもの背の高さを示します。三段階に手をどんどん高くすることで、成長を表現しています。

Ⅴ「聞いて」

:片手で耳たぶのあたりを軽く2回タッチする動き。

Ⅵ「覚えて」

:両手でこめかみのあたりを軽く2回タッチする動き。

Ⅶ「話す」

:両手を口元から上へ交互に上げ、吹き出しのように、口から言葉が発せられる様子を表現します。

Ⅷ「あなた」/Ⅸ「美しい」/Ⅹ「ハンサム」

:手のひらを上にし、相手を指します。
:右手の甲で左の頬から右の頬までをなぞります。「美しい」というマイムは、女性に対してのみ使われます。
:右手の親指と人差し指で、こめかみから顎までをなぞります。当時は「あごがシャープ=ハンサムな証」と考えられていたため、最後に指先で顎のとんがりを表現します。このマイムは男性に対してのみ使われます。

公演情報

牧阿佐美バレヱ団
『眠れる森の美女』(全幕)

【日程】
12月2日(土)15:00
12月3日(日)15:00
<全2回公演>
会場:東京文化会館 大ホール

【おもな配役】
オーロラ姫:マリアネラ・ヌニェス(英国ロイヤル・バレエ プリンシパル)

フロリモンド王子:ワディム・ムンタギロフ(英国ロイヤル・バレエ プリンシパル)

カラボス:菊地研(12/2)、エリザベス・マクゴリアン(英国ロイヤル・バレエ プリンシパル・キャラクター・アーティスト)(12/3)
※11/27追記:カラボス役/王妃役のエリザベス・マクゴリアンは怪我のため降板し、代わって菊地研(カラボス役)、塩澤奈々(王妃役)が出演する旨発表されました。詳細は牧阿佐美バレヱ団WEBサイトでご確認ください

リラの精:佐藤かんな(12/2)、三宅里奈(12/3)

公式サイトこちら

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