3年に1度、横浜で開催される日本最大級のダンスフェスティバル「Dance Dance Dance @ YOKOHAMA 」。
横浜の街や劇場を舞台に、「観る人」も「踊る人」も、誰もがダンスの楽しさを満喫できるオールジャンルの大型イベントです。
2021年の今年はこのフェスティバルの開催年!
8月28日・29日の「横浜ベイサイドバレエ」を皮切りに様々なステージが開幕中ですが、なかでもバレエファンにとって見逃せないのが、2021年9月18日(土)に上演さるガラ公演「International Choreography × Japanese Dancers ~舞踊の情熱~」。
フレデリック・アシュトン、モーリス・ベジャール、ローラン・プティ、ウィリアム・フォーサイス、デヴィッド・ビントレー、クリスタル・パイト……20世紀以降、バレエの地平を大きく切り拓いてきた世界的振付家たちのマスターピースに、日本のダンサーたちが挑みます。
〈バレエチャンネル〉では、この1日限りのガラに出演する3組5名のダンサーに特別インタビュー。
まずは自身にとって初めてとなるベジャール振付の“ソロ”作品『椿姫のためのエチュード』に挑む中村祥子さんにお話を聞きました。
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- 今回のDance Dance Dance @ YOKOHAMA 2021(DDD2021)で、私たちバレエファンが最も楽しみにしている公演のひとつが「International Choreography × Japanese Dancers ~舞踊の情熱~」です。この公演では、中村祥子さんがモーリス・ベジャール振付『椿姫のためのエチュード』を踊ることも大きな話題ですね!
- 中村 ベジャールの作品は、ベルリン国立バレエ時代に『これが死か』と『ニーベルングの指環』を踊ったことがありましたが、ソロで踊るのは今回が初めてです。『椿姫のためのエチュード』は、DDD2021ディレクターの小林十市さんの奥様であるクリスティーヌ・ブランさんに振付けられたもの。この作品は十市さんからのご提案で踊らせていただくことになりました。
- リハーサル指導には十市さん自らが当たっているそうですね。
- 中村 十市さんが日本に帰国されてから、まずは8月のうちに2日間リハーサルしていただきました。1日目に私の踊りを動画で撮ってフランスのご自宅にいるクリスティーヌさんに送り、アドバイスしていただいたんですよ。
- クリスティーヌさんからはどのようなアドバイスが?
- 中村 「“型”ではなく“心情”を踊ってほしい」と。やはり初めての作品ですし、テクニック的にも難しいので、まずは身体に動きを入れることに集中してしまっていたんです。本番を迎えるまでに、このベジャールが描いた椿姫の心情の深いところまでたどり着かなくてはと思っています。
- 祥子さんはこれまで数々の振付家の作品を踊っていますが、ベジャールならではの特徴や魅力を感じるところがあれば聞かせてください。
- 中村 作品に使われているステップそのものには、じつはそれほど大きな特徴はないのではないでしょうか。あくまでもクラシック・バレエのテクニックがベースであるように感じますし、だからこそ心情を大切にして踊りを変化させなければいけないと思っています。そして私にとっては、「ベジャール作品=レオタードか総タイツで踊る」という印象。何も隠せない。衣裳に助けてもらえない。その人のすべてが表れる。身体から言葉が見えてくる。その美しさを求めているのがベジャール作品であり、ダンサーは素のままのこの身体でどう表現していくかを追求しなくてはいけない……そんなふうに感じます。もちろん、私はまだ今回を含めて3作品しか踊っていないので、現時点ではそう思う、ということではあるのですが。
- 先ほど「テクニック的にも難しい」という言葉がありましたが、例えばどういう動きが難しいと感じますか?
- 中村 「1歩で次!」という振りが多いんです。例えば脚を高く上げるとか、何か大きなポーズやテクニックに入る時、普通はその前に2歩くらい助走的なつなぎのステップが入ります。でもこの作品では、1歩でポーズ、また1歩でポーズ……というふうに、1歩の踏み込みで大きな動きに移行しなくてはいけないことが多くて。だから、コントロールがすごく大変です。
- この『椿姫のためのエチュード』は、具体的には椿姫マルグリットのどのような場面・心情が描かれた作品なのでしょうか?
- 中村 作品は、マルグリットが舞台上にたったひとりで椅子に座っているところから始まります。そこにはいないアルマンの姿を探し求め、孤独のなかで死を迎える場面だと理解しています。
- 哀しくて切ないシーンですね……。
- 中村 そうですね。でもベジャールは、その哀しみや孤独を“わかりやすく”振付けてはいないような気がするんです。例えばジョン・ノイマイヤーの『椿姫』であれば、マルグリットはドレスを着て、ひとりの女性としてそこにいるから、小さな動きひとつでも彼女の境遇や感情が手に取るようにわかりますよね。でも、このベジャールの『椿姫のためのエチュード』は、衣裳も総タイツですし、初演の映像を見るとクリスティーヌさんはヘアスタイルもショートカットで、振付も決して「哀しみのパ」だけではないように感じます。そこをもっと掘り下げて、表現すべき心情を自分なりに見つけたいです。
- 祥子さんは以前、別のインタビューで「今の自分を表現できる作品を踊っていきたい」という旨のことをおっしゃっていました。今回の『椿姫のためのエチュード』は、今のご自身にしっくりきますか?
- 中村 そう感じていますし、この作品を通して今の自分が見えてくるとも思っています。そしてできれば、もっとベジャールの様々な作品を踊ってみたいです。そうすることで振付家の表現の深みなどがしっくりと身体に伝わってくるはずですし、1つ2つ踊っただけでは、その振付家のもつ表現の芯はつかめないなと思うので。これはベジャールだけでなく、どの振付家の作品でも同じだと思います。
- 祥子さんはちょうど1年ほど前にKバレエカンパニーを“卒業”し、その後はフリーランスで活躍しています。現在のダンス活動やダンサーとしての今後について、思うところがあれば聞かせてください。
- 中村 「バレエダンサーはこうでなければいけない」というレールは敷かれていないと思いますし、自分の環境や活動は自分自身で積み上げていかなくてはいけません。
バレエ団に所属していた時のように、「今月はこれ、来月はこれ」と華やかな舞台が次々と予定されていて、それに向けて毎日リハーサルをして……という生活ももちろん魅力的。もしも誰かに「もっと踊りたいでしょう?」と聞かれたら、「いいえ」とは言い切れません。でも、今の環境でしか得ることのできないことや経験が、また違った魅力として自分自身にプラスになっていると思いますし、これまで見えていなかったものが今ようやく見えてきた気もしています。バレエに対していろいろな思いや考え方を持っている方々と出会ったり、他のことにも目を向けて自分自身の幅を広げてみるなど……先のことは分かりませんが、自分を深めていくためにも、今のこの時間が私には必要だということは感じています。
- 最後の質問です。今回の公演のタイトルは「舞踊の情熱」。祥子さんの踊りに対する情熱、その燃料になっているものは何でしょう?
- 中村 いちばんは、「感動してもらいたい」という思いです。お客様にいい時間を過ごしていただきたい。若い頃は、自分が踊りたい、自分が上手くなりたい、自分があの役を演じたい……等と、「自分のために」という気持ちが強かったかもしれません。でも、今の私は「自分のために」というよりも、ただただ、舞台を見にきてくださる方々が感動して、いい時間を過ごしてくださるかどうか。そこに自分のパッションがあり、楽しみも感じています。
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- 中村祥子 Shoko NAKAMURA
- 佐賀県佐賀市出身。6歳よりバレエを始める。1996年ローザンヌ国際バレコンクールにてスカラーシップ賞、テレビ視聴者賞を受賞。同年より1998年までジョン・クランコ・スクールに留学。シュツットガルト・バレエ、ウィーン国立歌劇場バレエで活躍後、2006年ベルリン国立バレエに移籍、2007年プリンシパルに昇格。2013年ハンガリー国立バレエにプリンシパルとして移籍。2015年より日本に拠点を移し、Kバレエカンパニーのゲスト・プリンシパルに。現在はフリーランスで活動中。
公演情報
International Choreography × Japanese Dancers ~舞踊の情熱~
【日時】2021年9月18日(土)15:00開演
上演時間:約120分(予定・転換と途中休憩を含む)
【会場】神奈川県民ホール 大ホール
【出演】
厚地康雄
池本祥真
上野水香
ヴィスラフ・デュデック
小㞍健太
佐久間奈緒
島添亮子
柄本弾
中村祥子
鳴海令那
スターダンサーズ・バレエ団(渡辺恭子、池田武志、石川聖人、林田翔平)
【プログラム】
『ステップテクスト』(ウィリアム・フォーサイス振付)
『ソナタ』(ウヴェ・ショルツ振付)
『二羽の鳩』よりパ・ド・ドゥ(フレデリック・アシュトン振付)
『A Picture of You Falling』より(クリスタル・パイト振付)
『スパルタクス』よりパ・ド・ドゥ(デヴィッド・ビントレー振付)
マ・パヴロワより『タイスの瞑想曲』(ローラン・プティ振付)
『椿姫のためのエチュード』(モーリス・ベジャール振付)
『M』(モーリス・ベジャール振付)
【詳細】https://dance-yokohama.jp/ddd2021/icjd/
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Dance Dance Dance @ YOKOHAMA 2021
【会期】2021年8月28日(土)~10月17日(日)
【会場】横浜市内全域〈横浜の“街”そのものが舞台〉
【ジャンル】バレエ、コンテンポラリー 、ストリート、ソシアル、チア、日本舞踊、フラ・ポリネシアン、盆踊りなどオールジャンル
【プログラム数】約200
【ディレクター】小林十市
【主催】横浜アーツフェスティバル実行委員会
【共催】横浜市、公益財団法人横浜市芸術文化振興財団
【詳細】https://dance-yokohama.jp/