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【動画つき】新国立劇場バレエ団「バレエ・コフレ」特集② 水井駿介インタビュー〜何も隠せない。「エチュード」は、自分というダンサーがさらけ出される作品です

阿部さや子 Sayako ABE

動画撮影・編集:古川真理絵(バレエチャンネル編集部)
JASRAC許諾番号:V-2419322

2025年3月14日(金)〜16日(日)、新国立劇場バレエ団が「バレエ・コフレ」を上演します。
同公演は、ミハイル・フォーキンが振付けたバレエ・リュスの代表作『火の鳥』と、ダンスの地平を拓いた鬼才ウィリアム・フォーサイス振付の『精確さによる目眩くスリル』、そしてクラシック・バレエのレッスン風景を描き、華麗なテクニックが繰り広げらていくハラルド・ランダー振付『エチュード』のトリプルビル。
同団が『火の鳥』を上演するのは12年ぶり、『精確さによる目眩くスリル』と『エチュード』は今回がバレエ団初演となります。

これら3演目のうち、『エチュード』の〈プリンシパル〉を踊る、水井駿介さんにインタビューしました。
3月上旬に動画取材したリハーサルのもようと共にお楽しみください。

水井駿介(みずい・しゅんすけ)
新潟県出身。佐渡バレエフレンドにてバレエを始め、渡辺珠実、上田めぐみに師事。AMスチューデンツ第27期生に合格。2009年よりウィーン国立バレエ学校に留学。 11年ウィーン国立バレエに研修生として入団。その後、ポーランド国立バレエに移籍。19年より牧阿佐美バレヱ団に在籍し、『くるみ割り人形』『眠れる森の美女』『白鳥の湖』『リーズの結婚』『アルルの女』に主演。24年新国立劇場バレエ団にファースト・ソリストとして入団。©Ballet Channel

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水井駿介さんは、ウィーン国立バレエ、ポーランド国立バレエを経て、2019年に帰国。牧阿佐美バレヱ団で数々の主要な役を踊るなど活躍したのち、昨年(2024年)、新国立劇場バレエ団にファースト・ソリストとして入団しました。
水井 環境がガラリと変わり、新たな気持ちでバレエに取り組めています。ここには付設の劇場があって、大きなリハーサルスタジオも複数備わっている。海外で踊っていた頃とかなり近い環境で、ありがたいことだなと思います。
移籍しようと思った理由は?
水井 牧阿佐美バレヱ団でも素晴らしいレパートリーをたくさん踊らせていただき、そのことに感謝と充実感を感じていたいっぽうで、ふと、ダンサー人生の“短さ”を考えるようになったんです。これまで夢中で踊ってきて、気が付けば30代。自分が心身ともにトップギアで踊れるのはあと何年だろう……と考えた時、頭に浮かんだのが「舞台に立つ回数をもっと増やしたい」ということでした。

新国立劇場バレエ団の公演回数は、年間で約70回。一つひとつのプログラムが数回〜十数回ずつ上演されるので、同じ役を複数回踊り、深めていくこともできます。それが、移籍を考えるようになった最大の理由でした。

牧阿佐美先生は、僕にとって本当に偉大な存在です。10代で海外に出て以来、日本で踊ったことのなかった僕を最初に受け入れ、チャンスを与えてくださったのは牧先生でした。そんな先生が亡くなってしまったことも、やはり大きかった。残りの現役人生をどう生きるべきか――それを考えに考えた末、移籍する道を選びました。

移籍後さっそく次々と大役を任されている水井さん。今回の「バレエ・コフレ」では、『エチュード』のプリンシパルを踊ります。
水井 上演される3演目はどれも大好きなのですが、個人的には『エチュード』か『精確さによる目眩くスリル』のどちらかを踊れたら嬉しい、と思っていました。なぜかというと、この両作品は僕がかつて在籍していたウィーン国立バレエのレパートリーで、当時から「踊ってみたい!」と思っていたからです。

今回は、当初配役されていたダンサーの降板に伴って、『エチュード』を踊ることになりました。僕はポーランド時代にフォーサイスやキリアン、ベジャールといった作品を数多く踊っていたので、自分にとってより新鮮なチャレンジになるのは『エチュード』のほうかもしれません。チャンスをいただけたことに感謝して、精一杯いいパフォーマンスをお見せしたいと思っています。

『エチュード』には男性プリンシパルが2名登場して、それぞれに印象的なハイライトシーンを担います。とりわけ作品後半、マズルカの音楽でダイナミックなカブリオールを畳み掛けるソロが有名ですが、水井さんはそのソロを踊るほうのプリンシパルですか? それとも踊らないほう?
水井 僕もウィーンで『エチュード』を観た時にいちばん胸が熱くなったのがそのソロでした。だからぜひ踊ってみたいと思っていたのですが、今回その夢が叶います。
踊るほう、なんですね!
水井 はい(笑)。でもいま実際にリハーサルをやっていて思うのは、この作品は最初から最後まで、すべてを通して素晴らしいということです。冒頭、バーを握るダンサーたちの足先の小さな動きから、だんだんと全身を使った大きな動きへと広がっていく。その展開をぐんぐん盛り上げていく音楽がまた最高で、最初から最後までワクワクが止まりません。

ただ、踊るのはもちろん大変です。最初のバーはもちろん、クライマックスの華やかなテクニックまで、バレエの基礎中の基礎が振付になっている。つまり、ごまかしがいっさい利かなくて、バレエダンサーにとっては最も難しい類の振付だと言えます。演じるべきストーリーも役もなく、衣裳もシンプルで、ただ自分というダンサーが持っているものがさらけ出される作品です。何も隠せない。だから怖くもありますが、やっぱりそれ以上に、挑戦できることが嬉しいです。

©Ballet Channel

水井さんが踊る〈プリンシパル〉というパートは、この作品において何を表現するべき存在だと捉えていますか?
水井 いまステージングのジョニー・エリアセンさんからリハーサル指導をしていただいているのですが、その中で強く感じるのは、この作品はバレエの基礎や型を精確に行うことが何より重要だということです。僕が自分で何かを表現しようとするよりも、振付に含まれている一つひとつのポジションやステップを、音楽に対して忠実に積み重ねていく。それによって完成するのがこの作品だという気がします。
確かに、それこそマズルカのあたりから終盤にかけての盛り上がりには、音楽とテクニックの相乗効果を強く感じますね。
水井 音楽の力に負けないように、僕らは踊りで対峙する。そのエネルギーが、『エチュード』という作品の大きな魅力だなと思います。ただ、繰り返しになりますが、本当にごまかしが利かないので。たぶん凄まじく緊張するでしょうけれど、でもその緊張感がいいんだと思います。観る側のお客様も、きっとエネルギーを使いますよ!
今回の「バレエ・コフレ」は『エチュード』の他に『火の鳥』『精確さによる目眩くスリル』という2作品が同時上演されるトリプルビル公演です。全幕作品とは違う、トリプルビルならではの魅力とは何だと思いますか?
水井 いろいろなダンサーが観られるお得感でしょうか(笑)。3作品それぞれに主役がいて、ソリストがいて、コール・ド・バレエがいて……というかたちになるので、いろんなダンサーのいろんな個性を楽しめると思います。さらに今回は3演目ともダブルキャスト。今回はベテラン中心の回と、若手中心の回になっていますが、それぞれの魅力をぜひ味わっていただきたいです。
あらためて、「新国立劇場バレエ団の水井駿介」としての抱負を聞かせてください。
水井 ここは僕にとって、まだ踊ったことのない作品がたくさん並んでいる未知の世界。だからとにかく、目の前に与えられた役に対して、ひとつずつ誠実に向き合っていくことでしか前に進めないと思っています。もちろん、理想として思い描いていることはいろいろあります。だけどそれをあまり意識しすぎてしまうと、自分の中で歯車が噛み合わなくなる気がして。大きな役でも小さな役でも、リハーサルでいただけるアドバイスを自分なりに噛み砕き、掘り下げて、舞台に立つ。その積み重ねの先で、理想のダンサーになっていけたらいいなと思います。

©Ballet Channel

公演情報

新国立劇場バレエ団「バレエ・コフレ」

日程

2025年
3月14日(金)19:00
3月15日(土)14:00
3月15日(土)18:30
3月16日(日)14:00

★予定上演時間:約2時間30分(休憩含む)

会場 新国立劇場 オペラパレス
詳細 新国立劇場バレエ団 公演WEBサイト

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