動画撮影・編集:古川真理絵(バレエチャンネル編集部)
JASRAC許諾番号:V-2419322
2025年3月14日(金)〜16日(日)、新国立劇場バレエ団が「バレエ・コフレ」を上演します。
同公演は、ミハイル・フォーキンが振付けたバレエ・リュスの代表作『火の鳥』と、ダンスの地平を拓いた鬼才ウィリアム・フォーサイス振付の『精確さによる目眩くスリル』、そしてクラシック・バレエのレッスン風景を描き、華麗なテクニックが繰り広げられていくハラルド・ランダー振付『エチュード』のトリプルビル。
同団が『火の鳥』を上演するのは12年ぶり、『精確さによる目眩くスリル』と『エチュード』は今回がバレエ団初演となります。
これら3演目のうち、『エチュード』のプリンシパルロールである〈プリマ・バレリーナ〉を踊る木村優里さんにインタビューしました。
3月上旬に動画取材したリハーサルのもようと共にお楽しみください。

木村優里(きむら・ゆり)
千葉県出身。泉敬子、泉敦子、牧阿佐美に師事。15年新国立劇場バレエ研修所を修了し新国立劇場バレエ団にソリストとして入団。『くるみ割り人形』で主役デビュー。19年ファースト·ソリスト、22年プリンシパルに昇格。©Ballet Channel
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- 「バレエ・コフレ」で上演される3演目のうち、木村優里さんはハラルド・ランダー振付『エチュード』に出演します。配役が発表されるまで、「自分はどの作品を踊るんだろう……」とドキドキしましたか?
- 木村 ドキドキもしましたし、発表された時はとても嬉しかったです。今回上演される3演目はどれも大好きですけれど、中でもいちばん踊ってみたいなと思っていたのが『エチュード』だったので。本当に踊れることになって、驚きました。
『エチュード』は、バレエダンサーの練習風景を見せていくような作品です。プリエ、タンデュ、ジュテ、ロン・ド・ジャンブ、デヴェロッペ等といった基礎的な動作から始まって、しだいに大きく複雑な動きになっていき、最後は回転やジャンプなど高度なテクニックが畳み掛けるように繰り出されて、幕が閉じる。バレエの動きがどんどん発展していくプロセスが、約40分にギュッと詰め込まれています。
- 木村さんは、『エチュード』のどんなところに特に魅力を感じますか?
- 木村 魅力はたくさんありますけれど、まずは音楽でしょうか。聴いているだけで心が躍るし、身体も自然と動き出すような感覚になります。とくに好きなのは終盤、マズルカからフィナーレに向かっていくところ。緊張感がどんどん高まって、最後にはコール・ド・バレエからプリンシパルまで全員が出揃って総踊り。そこが本当に大好きです。
- 木村さんは、同作のプリンシパルロールである〈プリマ・バレリーナ〉を踊ります。
- 木村 〈プリマ・バレリーナ〉のパートには、ソロもパ・ド・ドゥもパ・ド・トロワもあります。またクラシック・チュチュで古典のスタイルを見せるところもあれば、シルフィードのような衣裳でロマンティック・バレエのスタイルを見せるところもあり、さらにはマズルカというキャラクターダンスの要素も入ってくるんです。つまりバレエダンサーに求められる様々な資質をお見せしなくてはいけなくて、そこがプレッシャーではありますが、それぞれのスタイルを明確に踊り分けることを大切にしたいなと思っています。
- リハーサルでは、ステージングのジョニー・エリアセンさんから直接指導を受けていますね。
- 木村 この作品ではアームスの使い方やポジション、脚を上げる高さにも細かく指定があって、その一つひとつをジョニーさんから丁寧に教わっています。特によく言われるのは「脚を上げすぎないように」ということ。動きによっては脚を高く上げたほうが楽なこともあるのですが、そこをあえて低めに抑えなくてはいけなかったりするのが難しくて、試行錯誤しています!
それから、ジョニーさんはロマンティック・チュチュで踊るところのニュアンスをとても大切にされていて、先日「このバレリーナの踊りが理想だよ」と、白黒の古い映像を見せてくださいました。その踊り方が、とても素敵で。テクニックよりも佇まいが印象に残る踊り、というのでしょうか。音を精確に取るというよりも、少しだけ遅めに、ゆったりと音楽を掬っていくような踊り方。なるほど、と思いました。

リハーサル中に、ステージングのジョニー・エリアセンと ©Ballet Channel
- いっぽうクラシック・チュチュで踊る部分では、堂々たるプレゼンテーションや華麗なテクニックが求められますね。
- 木村 “打って変わって”という言葉がぴったりなくらい、ガラッと踊りのスタイルが切り替わります。衣裳の早替えと合わせて、その変化を鮮やかにお見せできたらと思っています。
- 〈プリマ・バレリーナ〉は、この作品においてどんな存在だと捉えていますか?
- 木村 先ほどお話ししたように、『エチュード』はバレエダンサーの日常の基礎訓練を昇華した作品ですけれど、冒頭のバー・レッスンのところには、〈プリマ・バレリーナ〉は登場しないんです。バー・レッスンが終わって、男性プリンシパルたちも登場してから、いよいよ〈プリマ・バレリーナ〉が出てくる、という流れ。それを考えると、〈プリマ・バレリーナ〉はもしかしたら、クラシック・バレエの象徴というか、結晶みたいな存在なのかもしれません。
- 全編の中で、木村さんが「ここがおもしろいな」と思っている場面があれば教えてください。
- 木村 まずは最初のバー・レッスンのくだり。バーについている女性ダンサーたちは、全員が同じ動きをしているわけではなくて、タンデュの組、フォンデュの組、グラン・バットマンの組、というふうに、数人ずつで別々のことをしています。それを音楽に耳を傾けながら観ていると、この組は脚で弦楽器の音を表現して、この組は腕で管楽器の音を表現して……と、バーのエクササイズでオーケストラの音楽を可視化しているようにも見えてくるんですよ。
それから作品の後半、ほの暗いステージを対角線状に照らす光の中を、ダンサーたちが一人ずつグラン・ジュテしながら駆け抜けていく場面があるんです。最後には私も出ていって、同じくグラン・ジュテで舞台を一周。ハードな場面ではありますけれど、あそこのスピード感がすごく好きです。
- 今回上演される他の2作品についても、おすすめポイントがあればぜひ教えてください。
- 木村 『火の鳥』は入団前から大好きだった作品です。ストラヴィンスキーの音楽も素晴らしいですし、コール・ド・バレエが見せる壁画のようなポーズもおもしろい。そしてその世界のすべてを支配する、火の鳥の存在感。決して長い作品ではないのに、ものすごく見応えがあります。『精確さによる目眩くスリル』はとにかく振りがたくさん詰まっていて、瞬きする間もないくらい! すべてがムーヴメントとしてつながっていくような印象です。3作品とも身体の使い方が大きく違うので、全部に出演するダンサーたちは切り替えが大変だと思います。でも“一度で三度美味しい”のがトリプルビルの良さですから、お客様にはそれぞれのダンススタイルの違いを楽しんでいただけたら嬉しいです。
- その2作品を経て、トリプルビルの最後に上演されるのが『エチュード』ですね。
- 木村 はい! 舞台を盛り上げて「バレエ・コフレ」を締めくくれるように、頑張ります。
- 2022年よりプリンシパルを務めて約3年。いまの木村さんが、踊る時に大事にしていることは?
- 木村 「気合い」です。……というとスポ根みたいに聞こえるかもしれませんが(笑)、そうではなくて。今シーズンの始めに『眠れる森の美女』のオーロラを踊った時、終演後に吉田都芸術監督が「踊りに気合いが入っていて、とても良かった」と声をかけてくださいました。舞台に立ち、お客様の心に届く踊りをするためには、強い気持ちが絶対に必要だということ。それをあらためて認識させてくれたのが、「気合い」という言葉です。
もうひとつは、一つひとつの振付を楽しみ、丁寧に踊ることです。例えば全幕作品など「永遠に終わらないのでは……」と思うくらいハードな作品でも、目の前のステップ一つひとつに集中して向き合っていけば、ちゃんと終わりを迎えられます。大変な時こそ、遠くよりも近くを見る。そんなふうに考えたほうが、私の場合は一瞬一瞬をよりポジティブに楽しめる気がしています。

©Ballet Channel
公演情報
新国立劇場バレエ団「バレエ・コフレ」
日程 |
2025年
3月14日(金)19:00
3月15日(土)14:00
3月15日(土)18:30
3月16日(日)14:00
★予定上演時間:約2時間30分(休憩含む)
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会場 |
新国立劇場 オペラパレス |
詳細 |
新国立劇場バレエ団 公演WEBサイト |