© 2023 GAUMONT – FRANCE 2 CINÉMA – GAUMONT ANIMATION
ヒップホップのあふれる街に育った12歳の黒人の少女・ネネが、パリ・オペラ座バレエ学校でエトワールを目指し、成長してゆく姿を描いた映画『ネネ ーエトワールに憧れてー』が、2024年11月8日より公開されます。
ネネ役オウミ・ブルーニ・ギャレルの踊る喜びにあふれたのびやかなダンス、パリ・オペラ座バレエ エトワールのレオノール・ボラックによる『ライモンダ』など本格的なバレエシーンも印象的。この映画の監督・脚本を手がけたラムジ・ベン・スリマン氏に、本作の見どころや完成までのエピソードについて聞きました。
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- スリマン監督は、パリ・オペラ座サイト内のバーチャル劇場「3e Scène (トロワジエム・セーヌ、第三ステージ)」で無料公開されているショートフィルム「Grand Hotel Barbès(グラン・オテル・バルベス)」も撮っていますね。まずは、バレエやダンスというテーマに興味を持ったきっかけを教えてください。
- ダンスにはもちろん興味がありますが、とくに「パリ・オペラ座」というテーマに惹かれています。なぜなら、現代では体型、身長・体重など人の外見に言及することはタブーとされていますが、パリ・オペラ座バレエ学校ではタブーどころか、入学時に詳細な身体検査があり、体型は入学できるかどうかの条件のひとつとなっています。そこが、350年もの歴史と伝統を持つパリ・オペラ座ならではだと思うんですね。
- 映画の中にも、インタビュアーがパリ・オペラ座バレエ学校校長のマリアンヌに「生徒のダイヴァーシティ(多様性)が足りないのではないか」と尋ねるシーンがありますが、これは実際、以前から指摘されていることですね。芸術監督のジョゼ・マルティネズはこの問題に積極的に取り組む姿勢を示し、2023年にはギヨーム・ディオップが、アフリカ系ダンサーとして初のエトワールに昇進したことも話題となりました。
- これは根強い問題で、オペラ座に限ったことではなく、まだ解決していません。オペラ座も門戸を開こうとはしていますが、ギヨーム・ディオップのエトワール昇進もまだひとつの例でしかなく、やはり白人中心のカンパニーといえると思います。「バレエ・ブラン(白いバレエ)」という言葉が象徴的に示すように。
- 「バレエ・ブラン」は『ジゼル』や『白鳥の湖』などで白い衣裳の女性たちが踊るクラシック・バレエの典型的なシーンを指す言葉ですが、映画の中で、マリアンヌ校長がネネの前で発すると残酷なニュアンスを帯びますね。
- ええ。これも映画の中で指摘されていますが、バレエ学校の生徒たちの親は比較的富裕である場合が多く、労働者階級の出身者は数パーセントにすぎません。バレエ学校の時点で多様化が進んでいなければ、バレエ団の多様化も進まない。改革がなかなか進まない背景には「伝統」という諸刃の剣があると思います。
- パリ・オペラ座は350年もの歴史をもつ、世界最古のバレエ団です。バレエ団の伝統は、記録や書物として伝わるものではない。講師一人ひとりがパリ・オペラ座の伝統という遺伝子を、身をもって伝えていく使命を背負っています。それはすばらしい遺産であると同時に、非常に重くて、人を縛る力ももっている。他の比較的新しいバレエ団に比べ、物事を変えるのが難しい理由はそこにあるのではないでしょうか。
たとえば2016年までパリ・オペラ座の芸術監督を務めたパンジャマン・ミルピエは、ダンサーの脚への負担を軽くするため、スタジオの床を堅い木材からバレエ専用のものに変えましたが、それすらかなりの抵抗にあったそうです。
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- 物語の構想や登場人物についても教えてください。主人公のネネは元気な女の子ですが、バレエ学校では様々な壁にぶつかります。毎日、頑張ってつくっているシニヨンを同級生にからかわれるなど、胸に痛いシーンがいくつもありました。いっぽう、マリアンヌは、かなり複雑な面をもつ人物として描かれていますね。
- ネネは黒人で、パリ郊外の団地育ち、裕福でない両親の子どもですけれど、そのことに全然劣等感を感じていません。バレエ学校に入ってはじめてマイノリティとなり、自分は周囲の人と違うんだと意識させられます。しかし、とにかく熱心で真面目で、先生のいうことをしっかり聞く子です。マリアンヌは本来、そういう生徒の助けになるべき立場ですけれど、パリ・オペラ座の「伝統」という遺伝子を守ろうとするあまり、ネネの前に立ちはだかる壁になってしまう。彼女の人物像は、グリム童話「白雪姫」の王妃からも、少しヒントを得ています。
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- ネネ役のオウミ・ブルーニ・ギャレルさんはまさにネネそのものでしたが、配役はどのように?
- オーディションです。脚本の時点から、ネネの特徴ははっきり決まっていたんですが、その条件に合う子がなかなか見つかりませんでした。まず黒人で、バレエ学校の入学試験を受けられる11歳~12歳であること、ダンスができ、演技もある程度できること。でも、黒人の子は8歳か9歳でバレエをやめてしまうケースが多くて、フランス国内では決められず、セネガルやマリ、コートジボアールやカナダまで行ってオーディションを行いました。それでも、ダンスはできるけれど演技ができないとか、体型的に合わないとか、なかなかぴったりとはまる子が見つからなくて……。パリ・オペラ座バレエ学校の試験にはウエストや太股の太さまで細かく調べる身体検査があるので、リアリティを出すためにはその厳しい条件を満たしている必要もあり、本当に大変でした。そこで、先にネネの同級生役の白人の子を決めたんですが、その子にいろいろ聞いてみたら「バレエ学校の入学試験を一緒に受けた中に、オウミっていう上手な子がいたよ」と教えてくれたんです。ようやくオウミに出会えたのがクランクインの3〜4週間前だったので、けっこうヒヤヒヤしましたね。
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- マリアンヌ役のマイウェンさんもぴったりに思えました。
- ええ。マイウェンは女優としての才能はもちろん、ダンスも踊れますし、地中海やアジアにもルーツをもつ外見や雰囲気を含めて適役でした。あのように複雑で曖昧な役柄を演じられる女優は、彼女しかいなかったと思います。
- ネネが電車のホームで踊り出すオープニングをはじめ、彼女ののびやかなダンスシーンが魅力的です。ダンスの力について、監督はどのように感じていますか。
- ダンスは心を動かすもの。感情をまっすぐに届けてくれるものだと思います。この作品の生き生きとした魅力も、彼女のダンスあってこそだと感じています。クラシック・バレエも、ヒップホップも……ジャンルの垣根を越え、踊る楽しさを彼女が体現してくれていますね。
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- 様々なジャンルの音楽が効果的に使われていますが、選曲はどのように?
- 選曲は難しかったです。バレエクラスで使われるピアノ曲は、既存のものの中から、最も動きの美しさを引き出せると感じたものを選んでいきました。ネネがストリートや団地で自由に踊っているときのカリブ風ラップは、マルティニーク諸島出身のMeryl(メリル)の曲を使いました。それ以外のシーンについては、様々なミュージシャンに当たりましたが、なかなかピンとくる音楽がなくて……。迷い続けた末、結局クラシックに落ち着いたという感じですね。
- そういえば、ショートフィルム「Grand Hotel Barbès(グラン・オテル・バルベス)」でも、街中でのダンスバトルのシーンで、主人公がモーツァルトの音楽で即興的に踊るバレエが魅力的でした。監督ご自身も、ひょっとして踊ったりされていますか?
- はい、私もダンスバトル等の熱心な愛好者ですが……残念ながら、これ以上は言えない状況です(笑)。
- 了解しました(笑)。最後に、この映画で特に注目してほしいところや、読者へのメッセージを一言お願いします。
- ネネは厳しい環境の中でも、純粋に自分の楽しみのために踊っています。「周囲の人とは違う」ゆえに壁にぶつかるけれど、その違いを魅力にし、ポジティブなエネルギーに変えていく。そんな様子に注目して観ていただけたら嬉しいです。こういう身体だからバレエはできないとか、ストリート系のダンスは向いていないとか、条件やジャンルにとらわれる必要はないのです。
読者の中にもダンスを学んでいる方は多いと思いますが、何よりもご自身の楽しみのために、踊り続けてほしいですね。
上映情報
『ネネ -エトワールに憧れて-』
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2024年11月8日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほか全国公開
配給:イオンエンターテイメント
詳細:https://neneh-cinema.com/