「ドン・キホーテ」と聞いてまず思い出すのは激安の殿堂じゃなく全幕バレエですけど何か?
……そんなわれらバレエクラスタが決して放っておけないもの、それは「バレエな名前」のついたあれこれ。
お菓子、香水、服飾、花、動物……
身のまわりを見渡すと、意外な物にバレエにまつわる名前がつけられていることに気づきます。
なぜその名前がついたのか?
どのあたりが「バレエ」なのか?!
バレエに絡むものならとりあえず何でも集めたくなってしまう、そんな私たちのための「バレエの名前をもつモノやコト」を集めるシリーズ、始めます!
今回は、バレエにまつわる名前のついたバラを調べてみました
バラは、バレエでも最もよく登場する花のひとつ。古典バレエの金字塔『眠れる森の美女』にはローズ・アダージオやガーランド・ワルツといったバラの花を用いた踊りがあり、『ドン・キホーテ』のヒロイン・キトリは頭に真っ赤なバラの花飾りをつけています。また伝説の大スター、ヴァスラフ・ニジンスキーの演じた『薔薇の精』といった作品もあります。
いっぽう花の世界にも、バレエにちなんだ名前をもつバラがたくさんあるのだそう。
バレエチャンネル調査班調べによると、なんと50種を超える“バレエな名前”のバラが見つかりました!(2023年5月現在)
今回はその中でも選りすぐりの16種を、名前の由来ごとに分けて紹介します。
バレエダンサーの名前
アンナパブロワ
ほんのりとにじむピンクがなんて可憐……! 一輪でも華やかな存在感があります
- 系統:ハイブリットティーローズ
作出国:イギリス(1981年) 作出者:Peter Beales
開花:四季咲き 花色・花形・花径:淡いピンク系・エレガント系・大輪
芳香:強香・ダマスクにティ
アンナ・パブロワ(1881-1931)は、20世紀初頭に活躍した著名なバレエダンサー。なかでもミハイル・フォーキン振付の『瀕死の白鳥』は彼女の代名詞と言われています。
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エレーヌ・ジュグラリス
やわらかな白……羽衣のような美しさとはかなさを感じます
- ブランド:ロサオリエンティス
系統:ハイブリッドティーローズ
作出国:日本(2008年) 作出者:木村卓功
開花:四季咲き 花色・花形・花径:白系・エレガント系・大輪
芳香:強香・ティ
エレーヌ・ジュグラリス(1916-1951)は、日本の能楽と日本文化を研究したダンサーです。彼女は「羽衣伝説」に感銘を受け、『羽衣』という作品をフランスで発表。舞台の三保松原を訪れることを夢見ていましたが、生前には叶いませんでした。静岡県の三保松原には「エレーヌの碑(羽衣の碑)」があります。
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ダーシー・バッセル
バッセルの華やかな笑顔とエネルギッシュな存在感を彷彿とさせる、いきいきとした鮮やかな赤!
- ブランド:デビッドオースチン
系統:シュラブローズ
作出国:イギリス(2006年) 作出者:David Austin
開花:四季咲き 花色・花形・花径:赤系・ロマンティック系・中大輪
芳香:中香・ダマスクスにティ
ダーシー・バッセル(1969-)は、元英国ロイヤル・バレエ プリンシパル。現在はロイヤル・アカデミー・オブ・ダンス会長のほか、英国ロイヤル・バレエのゲストプリンシパルコーチを務めています。2021年には、コロナ禍で危機的状況にあるダンス業界を支援する目的でチャリティーガラを主催しました。
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ルイ14世
この重厚感……! さすがはフランス絶対王政最盛期の国王にしてバレエの第一黄金期を築いた太陽神
- 系統:チャイナローズ
作出国:フランス(1859年) 作出者:Jean-Baptiste André Guillot
開花:四季咲き 花色・花形・花径:赤系・ソフトエレガント系・中輪
芳香:中香・ティにダマスク
ルイ14世(1638-1715)は、ブルボン朝第3代フランス国王。バレエを愛し、自身もダンサーとして踊っていたのは有名な話。太陽神アポロンに扮して踊ったことから「太陽王」と呼ばれます。国内のバレエの研究・教育のために、現在のパリ・オペラ座バレエの起源となる「王立舞踊アカデミー」を創立しました。
黒に近いクリムゾンレッドが目を引くこのバラは、花びらが開くと金色のしべが顔をのぞかせます。
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ずばり「バレリーナ」とつく名前
バレリーナ
小ぶりな花が連なって咲く様子は、チュチュ姿で踊るコール・ド・バレエのよう
- 系統:ハイブリッドムスクローズ
作出国:イギリス(1937年) 作出者:Bentall
開花:繰り返し咲き 花色・花形・花径:ピンク系・ナチュラル系・極小輪
芳香:微香・ティ
中央の白をピンクで縁どったような花色、一重咲き。可憐な小花がぎゅっと集まった姿が何とも愛らしいバラです。ローズヒップ(バラの実)を楽しめます。
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プリマ・バレリーナ
この圧倒的な華やかさはまさにステージに咲く大輪のプリマ・バレリーナ……! ただしうっかり手を伸ばすとトゲに刺されます
- 系統:ハイブリッドティーローズ
作出国:ドイツ(1957年) 作出者:Mathias Tantau, Jr.
開花:四季咲き 花色・花形・花径:ピンク系・エレガント系・大輪
芳香:中香・ティにダマスク+パウダー
花びらは鮮やかなピンク色で、花の大きさは15cmになることもあるそう。トゲが多い品種なので、剪定のさいは気をつけて。
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バレエ音楽を書いた作曲家の名前
チャイコフスキー
優しいクリーム色の花びらが柔らかく開いていく……チャイコフスキーの甘美な旋律が聞こえてきそうです
- ブランド:メイアン
系統:ハイブリッドティーローズ
作出国:フランス(2004年) 作出者:Meilland
開花:四季咲き 花色・花形・花径:白系・ソフトエレガント系・中大輪
- 芳香:中香・ティ
ピョートル・チャイコフスキー(1840-1893)は、ロシアの大作曲家。バレエを愛し、その生涯で書いた3つのバレエ音楽『白鳥の湖』『眠れる森の美女』『くるみ割り人形』は「チャイコフスキー三大バレエ」と呼ばれ、世界のさまざまなバレエ団で上演されています。
花持ちが良い品種です。
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バレエの衣裳の名前
クラシックチュチュ
中心に向かって淡いピンクに染まるバラ。まさに、チュールが重なってグラデーションが生まれるクラシック・チュチュのようです
- ブランド:ロサオリエンティス
系統:フロリバンダローズ
作出国:日本(2018年) 作出者:木村卓功
開花:四季咲き 花色・花形・花径:白系・ヘブンリー系・中輪
芳香:中香・ティ
名前の由来は、『白鳥の湖』などクラシック・バレエに使われる張りのあるスカート状の舞台衣裳から。白い花びらが重なって咲くようすは、クラシック・チュチュのチュールが重なっている構造によく似ています。株全体にふわりと花をつけ、太陽を浴びた部分は淡く光り、幻想的です。
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ロマンティックチュチュ
この佇まい……タリオーニ、グリジ、チェリート、グラーンというロマンティック・バレエ時代最高のバレリーナ4人のために作られたバレエ『パ・ド・カトル』を思い出します
- ブランド:ロサオリエンティス
系統:シュラブローズ
作出国:日本(2018年) 作出者:木村卓功
開花:繰り返し咲き 花色・花形・花径:コーラルピンク・ロマンティック系・小中輪
芳香:強香・ダマスクにハーブ+パウダー
名前の由来は、『ジゼル』や『ラ・シルフィード』など、ロマンティック・バレエに使われるベル型のふんわりとしたスカート状の舞台衣裳から。花形は、ダンサーのターンやジャンプで風を受けて、ふわりと広がったロマンティック・チュチュのようです。アーチやオベリスクに添って、こんもりとした花をつけるのが愛らしい品種。
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バレエの演目・キャラクターの名前
エスメラルダ
花びらの先端に向かって濃くなっていくピンク色の艶やかさ。聖職者も警備隊長も鐘つき男もとりこにしてしまう魅惑のヒロインにぴったりです
- 系統:ハイブリットティーローズ
作出国:ドイツ(1973年) 作出者:Reimer Kordes
開花:四季咲き 花色・花形・花径:ピンク系・エレガント系・大輪
芳香:中香・ティにダマスク
『エスメラルダ』は、ユゴーの長編小説『ノートルダム・ド・パリ』に想を得た作品。プーニの音楽を用いてペローが台本と振付を行い、1844年に初演。のちに“クラシック・バレエの父”プティパがドリゴの音楽を加えて改訂上演したのをはじめ、ブルメイステルやプティなど、さまざまな版が作られています。
11~14cm程度の大輪を咲かせる、花持ちが良い品種です。
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カルメン
目に飛び込んでくる強烈な赤、濃厚に立ちのぼる芳香。これはもうカルメン以外の何者でもない
- 系統:ハイブリッドティーローズ
作出国:ベルギー(1956年) 作出者:Hippolyte Delforge
開花:四季咲き 花色・花形・花径:赤系・エレガント系・大輪
芳香:強香・ダマスク
『カルメン』は19世紀フランスの作家メリメの小説が原作で、音楽家ビゼーによって作曲された同名のオペラとして著名な作品。プティをはじめとしたさまざまな振付家によってバレエ化されています。
濃い香りを楽しみたい時におすすめのバラです。
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シェエラザード
青みがかったピンク、エキゾチックな香り、艶かしく波打つ花姿。このバラに「シェエラザード」と名づけた人のセンスに脱帽
- ブランド:ロサオリエンティス
系統:シュラブローズ
作出国:日本(2013年) 作出者:木村卓功
開花:四季咲き 花色・花形・花径:ピンク系・ヘブンリー系・中輪
芳香:強香・ダマスクにティ+スパイス
名前の由来は『アラビアンナイト』のヒロインから。バレエ『シェエラザード』は『千夜一夜物語』に想を得た、バレエ・リュスのレパートリ―のひとつです。台本をブノワ、音楽をコルサコフ、振付をフォーキンが担当し、1910年に初演されました。
フリルのように波打ち、先がツンと尖った花びらに、青みがかったピンク、スパイスの効いた芳香などエキゾチックな魅力のバラです。
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スワンレイク
白に淡いピンクがにじむ花びら……こんな美しいバラに『白鳥の湖』と名がついていて、バレエファンとして嬉しいです
- 系統:つるばら・クライミングローズ
作出国:イギリス、アイルランド(1968年) 作出者:Samuel Darragh McGredy IV
開花:繰り返し咲き 花色・花形・花径:淡いピンク系・ソフトエレガント系・中大輪
芳香:中香・ティ
『白鳥の湖』は、ヨーロッパなどに伝わる伝説をもとに、白鳥に姿を変えられた乙女と王子の物語を描いた作品。チャイコフスキー三大バレエのひとつです。ライジンガーによる振付で1877年に初演されたのち、プティパとイワーノフによる振付で1895年に上演されました。現在もさまざまな振付家によって演出の異なる版が上演されています。
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ノワゼットシンデレラ
淡いピンクの花びらからふわりと放たれる気品、愛らしさ、清らかさ。ちょっと小ぶりなところもシンデレラのイメージにぴったりです
- 系統:ノワゼットローズ
作出国:アメリカ(1859年) 作出者:Charles G. Page
開花:四季咲き 花色・花形・花径:淡いピンク系・ロマンティック系・小輪
芳香:中香・ティにダマスク+パウダー
『シンデレラ』は、ペローの童話をもとにプロコフィエフの音楽によってバレエ化され、1945年にザハーロフの振付で初演されました。以来、さまざまな振付家による演出で上演されています。
小ぶりながらも品格を感じられるバラです。
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リラ
病に打ち勝つ強さと芳香を兼ね備え、藤色の凛とした佇まい。リラの精を体現したようなバラです
- ブランド:ロサオリエンティス プログレッシオ
系統:フロリバンダローズ
作出国:日本(2020年) 作出者:木村卓功
開花:四季咲き 花色・花形・花径:藤色系・ロマンティック系・中輪
芳香:中香・ダマスクにティ+グリーン
名前の由来は、『眠れる森の美女』のオーロラ姫がかけられた16歳で死ぬ呪いを眠りに変え、絶望を希望に変えたリラの精から。おそらく世界ではじめて、藤色のバラとして耐病性と香りを両立させた品種です。作出者の木村さんの「バラの育種で不可能と言われていることも、きっとすべてに希望はあるはず」という思いも込められています。
『眠れる森の美女』はペローの童話をもとに作られた作品で、チャイコフスキー三大バレエのひとつ。プティパによる振付で、1890年に初演されました。第1幕にはオーロラ姫による「ローズ・アダージオ」など、バラを使った華やかなシーンがあります。
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バレエのテクニックの名前
ピルエット
丸みを帯びた形が、くるくる回ると広がるバレリーナのチュチュそのものに見えてきます
- ブランド:ロサオリエンティス プログレッシオ
系統:フロリバンダローズ
作出国:日本(2022年) 作出者:木村卓功
開花:四季咲き 花色・花形・花径:淡いピンク系・ロマンチック系・小中輪
芳香:中香・ダマスクにミルラ
名前の由来は、バレエの回転技のピルエットから。衣裳を着た可愛らしい少女たちが、思い思いにピルエットを練習するさまを想像させられて名付けたそう。
昨年できたばかりの新品種で、外側に向かって濃くなるピンクが特徴的な可愛らしいバラです。
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国内では、ロサ オリエンティスというブランドで、本記事で紹介したエレーヌ・ジュグラリス、クラシックチュチュ、ロマンティックチュチュ、シェエラザード、リラ、ピルエットの6種の薔薇を育種しています。
ぜひお気に入りを見つけて、お部屋に飾ったり、バラ園に足を運んだりしてみてはいかがでしょうか。
次回のバレエの名前★ハンターズもお楽しみに!
協力:バラの家/有限会社キムラ企画
画像提供:バラの家/有限会社キムラ企画│篠宮バラ園