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【Report】井関佐和子、加治屋百合子が文部科学大臣賞を受賞! 令和2年度(第71回)芸術選奨贈呈式レポート

阿部さや子 Sayako ABE

Photos:Ballet Channel

2021年3月9日(火)、都内ホテルにて、令和2年度(第71回)芸術選奨贈呈式が執り行われた。
この賞は、文化庁が昭和25年から毎年度、芸術各分野において優れた業績を挙げた人、または新生面を開いた人に対して贈っているもの。
今回発表された受賞者のうち、バレエ・ダンス関係では、Noism副芸術監督の井関佐和子とヒューストン・バレエ プリンシパルの加治屋百合子舞踊部門の「文部科学大臣賞」を受賞。
また「帝室劇場とバレエ・リュス」を著した神戸市外国語大学客員研究員の平野恵美子評論等部門の「新人賞」を受賞した。

まずは文部科学大臣賞・文部科学大臣新人賞を受賞した計29名がひとりずつ登壇し、荻生田光一文部科学大臣により表彰状と目録を授与された。

井関は紅色、加治屋はサーモンピンクのドレス姿。ふたりがそれぞれ登壇すると、その美しさと存在感に文字通り場内がぱっと華やいだ

贈呈後は荻生田大臣の挨拶に続き、受賞者を代表して演劇部門文部科学大臣賞の岡本健一舞踊部門文部科学大臣新人賞の市川翠扇がそれぞれ挨拶を述べた。

受賞者代表で挨拶に立った演劇部門文部科学大臣賞の岡本健一。「創作をしている間は、楽しいことはあまりない。肉体や精神を使い、役柄によっては戦争がテーマだったり、心が病んでいる人を演じたりすることもある。でもそうした役を通して僕は人間の凄さなどいろいろなことを学んできた。これから先が大切だと思う。自分は役や作品の中でしか生きていない気がするし、これからも生き続けたい。そして芸術活動を通して社会に貢献していけたらと思います」

舞踊部門文部科学大臣新人賞の市川翠扇。「私は歌舞伎の家に生まれました。ご存じの通り歌舞伎の世界では、女性が舞台に立つことはできません。でも私は幼少の頃から歌舞伎や日本舞踊が常に身近にあり、踊ることが好きで、楽しくて、舞台を見ると美しくてそれだけで気持ちが元気になった。踊ることは私の日常、体の一部。“古典離れ”が進んではいるけれども、古来の芸術には日本人の心の温かさがある。自分が教わってきたことを次の時代に継承していけるよう精進します」

約1時間ほどの贈呈式が終了した後、嬉しそうな笑顔の井関佐和子と加治屋百合子に話を聞いた。

「贈呈式の感想は?」と聞くと「舞台より緊張しました!」と笑顔が弾けたふたり。「舞台は『できる!』と自信が持てるまで練習してから舞台に立つけれど、これはそうではないから……」と加治屋が言うと、「足が震えました。これも練習しないと無理ですよね(笑)」と井関

井関佐和子(Noism副芸術監督)

受賞、本当におめでとうございます!
最初に受賞のお報(しら)せをいただいた時、自分というよりも周りの人たちの顔しか浮かびませんでした。この受賞はみなさんのおかげ。だから「みなさんが喜んでくれる!」というのが、いちばん嬉しくて。新潟で17年間やってきて、私たちが新潟にいることもみなさんわかってきてくださっているし、新潟の方々も「(Noismは)自分たちのものだ」という感覚を持ち始めてくださっています。私たちが舞踊を突き詰めるためには、〈場所〉と〈環境〉と〈人〉が必要。新潟には、いまの日本では唯一、それらが揃っています。本当にありがたいことですし、それらがなかったら私はいまここにはいません。だから今の気持ちは「感謝」。その言葉がいちばんぴったりです。
2004年に「日本唯一の劇場専属舞踊団」として新潟にNoismが誕生したことは日本の舞踊界にとって大きな一石であり、そこで井関さんが無二のダンサーとして踊り続けてこられたからこその今回の受賞、と言えますね。
バレエ団やダンサーが公的なものに支えられ、「これが私たちの職業です」と胸を張って言える環境がもっと増えてきてほしいと切に思っています。海外で踊っている素晴らしいダンサーたちが日本に戻ってきても安心して活動ができますし、それによって日本の文化芸術が豊かになるなら、これ以上ないですよね。
これからも井関さんの舞踊家人生は続きますね。ここから先、目指していきたいことを聞かせてください。
今回の賞は、私の不安を取り除いてくれたというか、自分の行く道に対して背中をポンと押していただけた気がしています。自分が信じる舞踊、金森穣というアーティストの作品を突き詰めるということに、迷いなく、完全に身を委ねていいのだと。これから何かを新しく変えるわけではなくて、いま自分がやろうとしている道を極めること。それを信じること。それが私の次の一歩だと思っています。

加治屋百合子(ヒューストン・バレエ プリンシパル)

この度は本当におめでとうございます!
ありがとうございます。今日はこんなにも素敵な受賞者の皆様と並んで座っているのが光栄すぎて恐縮していたのですが、でも芸術に限りがないのと一緒で、私にはまだまだ、これからできることがある。その扉が開いたのかな、という気がしています。いままでやってきたことが、このようなかたちで認めていただけて、本当に感謝しています。これを新たなスタートにして、この賞にふさわしい存在でいられるように、もっと新しいことに挑戦したり、自分ならではの貢献できることを探したりしていきたいと、あらためて思いました。
今後、加治屋さんがアーティストとして目指していきたいことを聞かせてください。
これまで海外で踊ってきた私が、日本で『海賊』に出演させていただいたり、日本のアーティスト支援のためのプロジェクト〈Hearts for Artists〉を行ったりしたことが、今回の賞につながりました。現在の拠点はアメリカですけれど、私は日本人で、日本という“帰ってくる場所”があって、たくさんのファンのみなさまが待っていてくださったり、支えてくださったりしています。ですからこれからはもっと日本のみなさまの前で踊る機会をもって、舞台の特別なひとときをシェアできたらいいなと思っています。

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