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【D.LEAGUE 24-25】チャンピオンシップ(6/19)観戦レポート〜CyberAgent Legitが完全優勝、悲願のシーズン王者に!来シーズンはさらに2チームが新規参画

村山 久美子

ダンスのプロリーグ「D.LEAGUE(Dリーグ)24-25」の5年目のシーズンが、2025年6月19日に開催されたチャンピオンシップ(CS)をもって、幕を閉じました。2024年10月のシーズン開幕から約半年間をかけて行われた全14ラウンドの〈レギュラーシーズン〉。その総合成績上位6チームがCSに出場し、今シーズンの覇を競いました。
寄稿は自身も複数ジャンルのストリート系ダンスを踊りこなす舞踊史家・舞踊評論家の村山久美子さんです。

2024-25シーズンのチャンピオンを決定するCHAMPIONSHIP(チャンピオンシップ/CS)。レギュラーシーズンのスコア上位6チームが、出場権を得て戦った。

出場したのは、レギュラーシーズン1位のCyberAgent Legit、2位のKADOKAWA DREAMS、3位のSEPTENI RAPTURES、4位のValuence INFINITIES、5位のdip BATTLES、6位のKOSÉ 8ROCKS。

CSはトーナメント方式。レギュラーシーズンの3~6位通過チームがTRIAL MATCH(準々決勝)で対戦し、勝利した2チームがSEMI FAINAL MATCH(準決勝)に進出、1位通過のCyberAgent Legitおよび2位通過のKADOKAWA DREAMSとそれぞれ対戦した。その勝利2チームが、FINAL MATCH(決勝)で戦ってシーズン・チャンピオンが決定された。準決勝までの毎対戦の審査結果については、レギュラーシーズンで順位が上だったほうのチームに、「アドバンテージ」として1票が加点された。

CHAMPIONSHIP(6/19)の各対戦レポート

1st Trial MATCH

1st Trial Matchは、ハウス、ブレイク、ヒップホップなどダンスを巧みに“編み上げた”Valuence INFINITIESと、ポップのジャンルで勝負したdip BATTLESの対戦。

前者は、打と管楽器のジャズを用い、音楽のリズムの伸縮や質感の変化を、極めて高度な身体コントロールにより、ステップでもブレイキンのアクロバットでも見事に表現した。空間デザインも緻密で、逆立ちしている1人のダンサーの後方、前方、上方を、他のダンサーたちが空中回転で交差したシーンなど、忘れ難い素晴らしさ。「シンクロ・パフォーマンス」で、アイリッシュダンスのように腕を使わずに、急速なステップで統一感を醸し出したのも秀逸。たたみかけるようなシーンの急転換も、ワクワクする高揚感があった。
筆者にとっては、CSで踊られたなかで最高の舞台だった。

Valuence INFINITIES「Going Beyond」写真はシンクロ・パフォーマンスの様子 ©D.LEAGUE 24-25

後者は、速いテンポでのポッピンを続けた作品。パワフルなポッピンを得意とする大柄なダンサーが多いため、急速な音楽に合わせるとやや鈍重なイメージを与えてしまい、選曲で、彼らの美点が引き出せなかった観がある。

dip BATTLES「Concrete Junction」©D.LEAGUE 24-25

結果は、5-2でValuence INFINITIESが勝利

2nd Trial MATCH

2nd Trial MATCHは、ブレイクのチームKOSÉ 8ROCKSと、ヒップホップのチームSEPTENI RAPTURESの対戦。

前者は、ヴォーカルの激しい音楽で、いつもよりもステップのダンス(トップロックなど)を多めに入れた。アクロバティックなパワームーヴが少なくなったため、パワームーヴの多様性に少々欠けてしまったのと、強い音楽のため、「シンクロ」でのフットワークで、いつもの上質の軽やかさが出ていなかったのは残念。高いジャンプからの床のパワームーヴに入ったRyo-spinの「エース・パフォーマンス」は、際立っていた。

KOSÉ 8ROCKS「Spray of blood」写真はRyo-spinによるエース・パフォーマンスのワンシーン ©D.LEAGUE 24-25

後者は、エピソード的な作品で、場所は化学者の実験室。机の横の何も見えなかったパネルに、照明によって、ゾンビのようなダンサーたちがギュウギュウ詰めになって貼り付いているのが見えてくる冒頭と最後が面白い。また、化学者が作った試験管の液を飲むことでゾンビのように変貌したことを、力強いバイブレーションで表現したのは、エピソードのダンスでの表現として名案。なかでも、「エース」を務めたYUYAの姿勢を大きく崩しながらのバイブレーションには、強く印象付けられた。ただ、全体の物語の流れは、あまり明確ではなかった。

SEPTENI RAPTURES「寒気(かんき)」写真はエース・パフォーマーを務めたYUYA ©D.LEAGUE 24-25

結果は2-5でSEPTENI RAPTURESの勝利。「エース・パフォーマンス」はRyo-spinがポイントを獲得したが、YUYAも互角だった。

1st SEMI FINAL MATCH

1st SEMI FINAL MATCHは、ヒップホップにブレイキンを融合させた作品のValuence INFINITIESと、ポッピンとロッキンの動きをメインに構成した作品のCyberAgent Legitの対戦。

前者は、打の音楽のテイストを見事に表現した、床が柔らかく見えるほどの気持ちのよい弾力感でのヒップホップがベース。「エース・パフォーマンス」では、パリ・オリンピックに出場したHIRO10が、水平回転のジャンプから床のパワームーヴに入る高度なブレイキンを見せた。終盤、大股の後取りリズムのウォークにかすかな乱れがあり、その後も、動きの勢いがやや失速した観があったのは、残念だった。

Valuence INFINITIES「Clutch The Beat」写真はHIRO10によるエース・パフォーマンスの様子 ©D.LEAGUE 24-25

後者は、和太鼓風の音楽、スリムな衣裳で、前半は、今シーズン評価の高い、整って引き締まった美しさのシーンの作り。「エース・パフォーマンス」のenaは、今回も、丹田に鉛が入っているかのような強さが四肢に伝わる、迫力あるロッキンだったが、その後ロッカー以外のメンバーも加わったロッキンのシーンは、enaのようなパワーを出そうとしたために、力んでしまっていた。

CyberAgent Legit「逆鱗」©D.LEAGUE 24-25

結果は、2-5でCyberAgent Legitの勝利。Valuence INFINITIESの、稀に見る心地よさのヒップホップでの音楽表現は、引き分けか勝利でもよいほどに筆者は評価している。ただ、彼らのようなヒップホップのダンススタイルや、当該ジャンルならではの緩みのある衣裳は、整然とした印象にはならない(「シンクロ」も、彼らにとっては踊るリズムを完全に合わせることであって、形を合わせることではない)。この1st SEMI FINAL MATCHの結果もまた、整然とした美が評価される傾向にあった今季の特徴を示すものだったように思われる。

2nd SEMI FINAL MATCH

2nd SEMI FINAL MATCHは、SEPTENI RAPTURESKADOKAWA DREAMSのヒップホップがメインの対決。

前者は、工事現場を描くダンスで、三脚や玩具のようなトラック、ヘルメット、ドライバー等々を小道具にした。物語はとくにないように思われたが、ドライバーで人を刺すような残虐さを感じさせる仕草は、なぜ必要なのか。老婆心ながら書いてしまうが、このチームは、高い技術を持っているのであるから、もっと内面を磨いて大人になると、もっと優れた舞台が作れるはずである。
エースのYUYAのソロは、力強いポッピンとも言えるもので、非常に見ごたえがあった。

SEPTENI RAPTURES「換気(かんき)」©D.LEAGUE 24-25

後者は、アニメーションがメインの実力者KELOを中心に置き、和のテイストの音楽で、後方中央に置いた襖のような2枚のパネルの開閉で、シーンの変化をつけた。KELOを筆頭に、超速と超スローの動きの落差がすばらしい。全員の一つひとつの動きの丁寧さ、上手さも光った。2枚のパネルを合わせて閉めた奥で、その前にいるダンサーたちの踊りの流れの絶妙なタイミングで、異常に高く1人が飛び上がった(投げ上げられて)シーンには、思わず笑ってしまった。

KADOKAWA DREAMS「第一曲-LAST SONG-『未来への鍵』」写真中央はエースを務めたKELO ©D.LEAGUE 24-25

結果は、1-6でKADOKAWA DREAMSの勝利

FINAL MATCH

上記の結果、FINAL MATCHは、レギュラーシーズン1位と2位の対決となった。

先攻KADOKAWA DREAMSは、不死鳥のようなイメージなのか、肩に羽根のついた衣裳でのヒップホップ。嵩張った衣裳のため、筋肉の美しい動きがよく見えない。とくに、エースを務めた颯希(SATSUKI)のソロは、彼の巧みなバイブレーションが衣裳のために消されてしまい、残念だった。
全体に、気負いのためか、身体に力が入りすぎていて、いつものように、素敵なダンスを見る幸福感を、観客に贈ることができていなかった。

KADOKAWA DREAMS「最終曲-新世界-『Opus One』」©D.LEAGUE 24-25

いっぽう、CyberAgent Legitは、メンバーの多くが得意のポッピンを主軸に、ロッカーにはロッキンの見せ場、B-boyにはブレイキンの見せ場を作り、それぞれが、得意ジャンルを平常心で遺憾なく披露。あらゆる場面で、肩の力の抜けた踊りの味わい深さを見せた。

CyberAgent Legit「結晶(Crystal)」©D.LEAGUE 24-25

結果は0-6でCyberAgent Legitが圧勝で優勝を決め、賞金3千万円を獲得した。

CSで最も活躍したダンサーMVDには、CyberAgent Legitの「エース・パフォーマンス」を踊ったTAKUMIが選ばれた。

優勝を決め、チャンピオン・フラッグを肩にかけられたCyberAgent LegitのリーダーTAKUMI。彼はCSのMVPにも輝いた ©D.LEAGUE 24-25

CyberAgent Legitは、前々季・前季もレギュラーシーズン優勝を果たしながら、CSの決勝で惜しくも敗れて涙を呑んできた。今季はレギュラーシーズン優勝、そしてCS決勝をSWEEPで制し、ついに「完全優勝」で悲願の王座をつかんだ ©D.LEAGUE 24-25

次の25-26シーズンは、「LDH SCREAM」(チームオーナー:株式会社LDH JAPAN)と「M&A SOUKEN QUANTS」(チームオーナー:株式会社M&A総研ホールディングス)の2チームが新たに参画する。これによりD.LEAGUEは全16チームとなり、来季からは2ブロック制で実施されることが発表されている。

この記事を書いた人 このライターの記事一覧

早稲田大学大学院博士課程満期終了。ハーバード大学大学院、ロシア国立プーシキン記念外国語大学留学。 早稲田大学、工学院大学、東京経済大学、青山学院大学、青山学院大学大学院で非常勤講師として、舞踊史、ロシア・バレエ史、ロシア語の講義、ストリートダンスの実技を担当。 舞踊評論家として、読売新聞、日経新聞、ダンスマガジン、各種公演プログラム等々に、舞踊評論を1980年代前半から寄稿。 文化庁芸術選奨推薦委員、東京新聞全国舞踊コンクール、さいたま全国舞踊コンクール現代舞踊部門審査員、まちだ全国バレエコンクール審査員。 著書に、「バレエ王国ロシアへの道」(東洋書店新社、2022年)、「二十世紀の10大バレエダンサー」(東京堂出版)、「知られざるロシア・バレエ史」(東洋書店)他。訳書に、「ワガノワのバレエレッスン」(新書館)他。論文に、「マリウス・プティパの創作の変遷」「F・ロプホーフのダンスシンフォニー『宇宙の偉大さ』」他多数。 バレエを東京バレエ団元バレエ・ミストレス友田弘子、ボリショイ・バレエ団元プリンシパルでモスクワ国際バレエコンクール第一回優勝者ゲンナージー・レージャフ他、コンテンポラリーダンスをネザーランド・ダンス・シアターの元中心的ダンサー中村恩恵、ストリートダンスを国際ダンスバトル世界チャンピオンSHUHOとGO GOBROTHERSのReiに師事。舞踊歴約60年現役。

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