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【レポート】神奈川県民ホール〈Jewels from MIZUKA 2025 ジュエルズ・フロム・ミズカ 2025〉記者発表

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©Ballet Channel

2025年1月に50周年を迎える神奈川県民ホールは、同年4月の休館を前に、3月1日(土)〜31日(月)の1カ月間に「ありがとう神奈川県民ホール」としてさまざまな公演、イベントを実施する。そのメインに据えられる公演が、〈Jewels from MIZUKA 2025 ジュエルズ・フロム・ミズカ 2025〉。鎌倉市出身の東京バレエ団ゲストプリンシパル、かながわ観光親善大使でもある上野水香のプロデュース、主演による、1日限りのスペシャルな公演だ。2024年11月11日、神奈川県民ホールで記者発表が行われ、黒岩祐治神奈川県知事と上野水香が登壇。上野が本公演に込める思い、上演作品への意気込みなどを語った。

文:加藤智子(フリーライター)

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冒頭に挨拶した黒岩知事は、本公演の概要について説明するとともに、プロデュース、主演を務める上野水香を紹介した。「上野さんは日本最高峰のバレエ団で主役を務めてこられました。代表作は『ボレロ』。20世紀を代表する世界的振付家、故モーリス・ベジャールが振付け、べジャール氏から許された人だけが踊ることができる作品です。上野さんは日本人女性として初めて踊ることを許され、ベジャール氏から直接『ボレロ』の指導を受けた最後のダンサーです。私も神奈川県民ホールで上野さんの『ボレロ』を何度も観劇しましたが、本当に圧巻で素晴らしい。県民ホールでは『白鳥の湖』『くるみ割り人形』『ジゼル』などに主演のほか、年末の風物詩となっている〈ファンタスティック・ガラコンサート〉に平成20年(2008年)から毎年出演、ご自身のプロデュース公演でも数々の成功をおさめていらっしゃいます」。

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会場では、神奈川県民ホールで2014年に実施された上野水香プロデュース〈ジュエルズ・フロム・ミズカ〉で上演された『ドン・キホーテ』の一場面が上映され、黒岩知事は「上野さんは令和3年度には文化庁芸術選奨舞踊部門文部科学大臣賞を受賞、令和5年秋には紫綬褒章を受章、またかながわ観光親善大使でもあります。このような数々の素晴らしい功績をおさめられた上野さんに県民ホール50年の記念公演をご一緒していただけることを、とても嬉しく思っています」と笑顔を見せた。

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次にマイクを渡された上野は、〈ジュエルズ・フロム・ミズカ〉開催実現への心からの感謝を述べるとともに、この劇場への思いを熱く語った。

「神奈川県民ホールは家からいちばん近い大劇場。海外のカンパニーの来日公演や日本を代表するバレエ団の公演が上演されるたびに、観に来るのはいつもここでした。ずっとなじみのある劇場でしたし、プロとして踊るようになっても、つねに特別な気持ちで、大切に踊らせていただきました。2008年から毎年欠かさず出演させていたただいている年末の〈ファンタスティック・ガラコンサート〉は、これがないと年が越せないと思うくらい、本当に大切にしてきた舞台です。また2017年にはここでモーリス・ベジャールの『ボレロ』を踊らせていただきました。一つひとつが大切な舞台で、忘れることはできません」(上野)

2014年、2018年に開催された〈ジュエルズ・フロム・ミズカ〉については、こう振り返る。

「私にとって初のプロデュース公演。自分で演目や出演ダンサーをすべて決める──ずっと若い頃からやってみたかったことでしたから、夢が叶ったときは本当に嬉しく思いました。最初に私が考えたのは、東京バレエ団でいつも一緒に踊っている仲間たちに、普段の公演で見せているのとは違った一面を見せてほしい、ということ。みんながより素に近い姿で、伸び伸びと踊り、その個性が輝く、温かみある、人間味のある舞台にしたいなと思って取り組みました。みんなも喜んでくれた気がして、すごく嬉しかったです。当時は、振付をしたいというダンサーにその機会はあまりなく、彼らが新しい作品を披露する場にもしたかった。彼らが自らダンサーを集めて、理想通りの、思い通りの舞台ができたと喜んでくれて、私も嬉しく思いました。
プロデュースという責任ある立場で、初めてダンサーたちに指導する機会ともなりました。初めてのアドバイス、コーチングは緊張もしましたが、それもすごく楽しくて。というのも、私が『こうしたらどうかな』と言うことで、彼らの何かが引き出され、新しい表情が見えたり、より伸び伸びと踊れたりしたのです。『水香さんの指導はわかりやすい』と言ってもらえたことも嬉しく、ちょっと違う世界が見えたようでした」(上野)

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上野は今回の公演でも、ダンサーたちの生き生きとした表情を引き出したいと考える。

「東京バレエ団で上演した公演〈上野水香オン・ステージ〉は、完成された、オーガナイズが行き届いた舞台ですが、〈ジュエルズ・フロム・ミズカ〉のほうはより温かみや手作り感のある、ダンサーたちの別の一面を見てもらう舞台にしたいと思っています。2014年の公演で好評だった『ドン・キホーテ』は、今回もまた、いまのメンバーに楽しく踊ってほしいなと思っています。また、東京バレエ団の岡崎隼也さんには、新作を振付けていただきます。新鮮な舞台になると思います。元東京バレエ団のブラウリオ・アルバレスさんには、私が踊る『パリのアメリカ人』を作ってもらいますが、ちょっと洒落た感じの舞台にしたい。ゲストの中村祥子さん、厚地康雄さんには金森穣さん振付の『Andante』という作品を、元東京バレエ団プリンシパルの吉岡美佳さんにはベジャールの『Manou la mou』というソロの作品を踊っていただきます」

さらに上野は、『ドン・キホーテ』と『パリのアメリカ人』に加え、もう一つ、新しい挑戦にのぞむと明かした。

「モーリス・ベジャールの『ルナ』という作品です。白の総タイツで踊るソロで、バッハの音楽で月の光を表現する作品。憧れてきたシルヴィ・ギエムさんが踊った、ベジャールの代表作の一つです。今回、挑戦できることをとても楽しみにしていますが、指導としてジル・ロマンさん(元モーリス・ベジャール・バレエ団芸術監督)が来てくださいます。ジルさんにはご指導だけでなく、出演もしていただくことになり、吉岡さんとともにベジャールのパ・ド・ドゥ作品を踊っていただきます。舞台上では見ることのできない、リハーサルでのみんなの様子をスクリーンに映したりできたらな、とも思っていますので、ぜひ楽しみにしていただけたら。こんなにも思い出深い、素晴らしいホールが休館になってしまうことは本当に寂しいですが、これまでの感謝の気持ちを込めて、来年の3月8日まで大切に準備をしていき、いい舞台にしたいと思います」(上野)

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続いて行われた質疑応答の内容は以下の通り。

(記者1)黒岩知事に質問です。神奈川県民ホールだけでなく、東京でも劇場が次々と改修工事に入り、劇場不足に悲鳴が上がっている状態です。この舞台芸術のピンチともいえる状況について、知事の考えを聞かせてください。
黒岩知事 県民ホールはみなさまに愛していただきましたが、50年経って老朽化、これまで大規模修繕を何度もやってきましたが、その度に何ヵ月もクローズし、やっとオープンしてもまた大規模修繕。その繰り返しで、まさに限界がきている。そこで来年3月をもって幕を閉じることにいたしました。その後どうするかは、横浜市の都市再開発ともあわせながら決めていきたいと思います。
ご指摘のとおり、神奈川県民ホールだけなく、東京の上野文化会館も(2026年より)改修に入りますが、大きな劇場がなくなることは非常に重大な問題。舞台芸術をどのように継承していくかは、そのための場がないと難しい。上野さんのようにダンサーとして表に出る方もですが、裏方で舞台を支える方たちの技術をどう継承するか。これも問題です。
そこで、さまざまなことを考えています。神奈川県の中にはほかにも、公的な劇場、例えば鎌倉芸術館や横須賀芸術劇場がありますので、うまく連携しながら技術、場を継承していく。また先の週末には、リニア中央新幹線神奈川県駅(仮称)の工事現場、その地下30メートルで〈さがみはらリニアフェスタ〉というイベントを開催し、かながわ観光親善大使の河村隆一さんに歌っていただきました。地下30メートルという不思議な空間は、エンターテインメントの魅力を発信する場になり得ると、私自身確認をしてまいりました。とにかく非常に広大なスペース。普通の劇場ではないけれども、リニア・ステーションシアターとして、いろんな形で活用し、しっかりと継承していきたいと考えています。

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(記者1)上野さんに質問です。今回の神奈川県民ホールでの公演は、これまでの〈ジュエルズ・フロム・ミズカ〉に「ありがとう」「さようなら」の意味も加わるかと思います。それを意識して何か趣向を凝らそうと考えていることなどがあれば教えてください。
上野 神奈川県民ホールは私にとっていつも特別で、憧れが詰まった大劇場ですから、本当に寂しいんです……。毎年の〈ファンタステォック・ガラコンサート〉も、〈ジュエルズ・フロム・ミズカ〉も本当に思い入れのある公演でした。残念ではありますが、これを一つの節目と捉えて、悲しさより感謝の気持ち、いっぱい夢をくれた、夢の詰まった舞台をくれた県民ホールへのありがとうという気持ちを強く持ってのぞみたい。年末の〈ファンタスティック・ガラコンサート〉、来年2月末に主演するアトリエヨシノ主催『白鳥の湖』(ウラジーミル・マラーホフ版)と続き、3月の〈ジュエルズ・フロム・ミズカ〉が最後となるので、より思いの詰まった舞台になることは間違いないと思います。最後だから特別に何かをということはいまのところ考えていませんが、いつも思っているように、観てくださるお客様が、劇場に来るときの足取りより、帰るときの足取りのほうが軽くなるような舞台にしたいです。

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(記者2)ベジャールの『ルナ』に初挑戦することについて、上野さんのいまの気持ちを聞かせてください。
上野 若いときから、やはりギエムがいちばんの憧れでしたから、彼女が踊った作品に挑戦できることがとても嬉しい。それ以上に思ったのは、『ルナ』にはポエジーを感じるということ。ベジャールにはいろんな味わいの作品がありますが、中でも『ルナ』は、詩情にあふれた作品。この会場での公演が最後という、エモーショナルな、寂しいとか悲しいという気持ちのこもった舞台になると思います。ジル・ロマンさんにご指導いただくと決まったとき、ジルさんが「これを見て覚えてください」と持ってきてくださった映像は、ギエムではなく初演者の方のビデオ。ギエムと全然振りが違ってびっくりしましたが、とても音楽的だと感じました。バッハの音楽に寄り添った振付ですので、踊ることで自分が音楽になれたら。初めての演目で、しかも長いソロ。大変だとは思いますが、一つひとつのパにいろんな思いを込められる時間になればいいですね」

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公演情報

ありがとう神奈川県民ホール
Jewels from MIZUKA 2025
ジュエルズ・フロム・ミズカ 2025〉

【日時】
2025年3月8日(土) 15:00 開演 (14:15 開場)

【会場】
神奈川県民ホール 大ホール

【出演】
上野水香(プロデュース・出演)
ジル・ロマン (特別ゲスト)
中村祥子 吉岡美佳 厚地康雄 秋元康臣
ブラウリオ・アルバレス
  東京バレエ団
ほか

【プログラム(予定)】
マリウス・プティパ振付『ドン・キホーテ』より
モーリス・ベジャール振付『ルナ』
サン=レオン振付『コッペリア』より
ブライリオ・アルバレス振付新作『パリのアメリカ人』
ほか

【詳細・問合せ】
神奈川県民ホール WEBサイト

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