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【第62回】鑑賞のためのバレエ・テクニック大研究!-2列で進む(2)マズルカとポロネーズ

海野 敏

文/海野 敏(舞踊評論家)

第62回 2列で進む(2)マズルカとポロネーズ

■マズルカの特徴

「2列で進む」群舞の典型として、前回はキャラクター・ダンス(第61回参照)としてのチャルダーシュを取り上げました。今回はマズルカとポロネーズです。

マズルカ(mazurka)はポーランドの民族舞踊で、チャルダーシュと同様に男女がカップルで踊るダンスです。古い農民の踊りが起源で、ポーランド国内では16世紀に貴族の間で流行した記録があります。19世紀、ポーランドの国民的作曲家であるショパンは生涯50曲以上のマズルカのピアノ曲を作り、マズルカを広く有名にしました。そして19世紀後半には、ヨーロッパ中の舞踏会でマズルカが踊られるようになりました。

マズルカの音楽は3拍子系(4分の3拍子か8分の6拍子)で、第3拍(または第2拍)にアクセントがあります(下図参照)。マズルカには多数の種類があり、テンポはさまざまです。

出典:英語版Wikipedia “Mazurka”

振付は、男女が組になって踊るので、2列で進む振付が多くなります。“テクニック”としては、「マズルカ・ステップ」が特徴的。軸脚をホップしながら片脚を前へ蹴り出して前進する動きです(注1)。また、小さくジャンプして真横で脚を打ち合わせる「カブリオール・ア・ラ・スゴンド」(第18回)のような動きも特徴的です。

さらに、バレエのマズルカの振付には、チャルダーシュで紹介した「踵を打ち合わすステップ」も使用されます。少し顔を俯き加減にして、膝を曲げて脚をターンインしてから、顔を上げ、全身で伸び上がりながら踵を1度または2度打ち合わせる動作です。軽く手を打ったり、足踏みをしたりする動きが入るのも、チャルダーシュと共通しています。また、マズルカらしいポーズとしては、前腕を胸の前で水平にして重ねるアームスがよく使われます。

■古典全幕バレエの中のマズルカ

『パキータ』第3幕では、「グラン・パ・クラシック」(第60回)の直前に、マズルカが踊られます。このマズルカは多くのバレエ団で、バレエ学校の生徒たち、つまり子どものダンサーが踊ることが多く、その場合は若々しいダンスが楽しめるでしょう。まず8~12組の男女が2列で登場し、いったん男女が左右に分かれた後、男性が女性のほうへマズルカ・ステップで近づきます(注2)。それから2列で舞台をぐるっと回ったり、男女ごとに輪になったり、フォーメーションを変化させてゆきます。踵を打ち合わすステップも使われます。

『白鳥の湖』第3幕では、通常は「オディール(黒鳥)のグラン・パ・ド・ドゥ」の直前にマズルカが踊られます。人数は4組(8人)か6組(12人)が多いと思います。マズルカ・ステップはもちろん、カブリオール・ア・ラ・スゴンド、踵を打つステップ、軽く手を打つ、足踏みをするという、上述の特徴をすべて揃えた振付が多いでしょう。

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牧阿佐美バレヱ団の『白鳥の湖』の紹介映像です。7分38秒からマズルカを観ることができます。華やかな音楽に合わせた特徴的な振付をお楽しみください。

『コッペリア』第1幕は、前回チャルダーシュの例として紹介しましたが、マズルカの群舞も登場します。このドリーブ作曲のマズルカは音楽コンサートでも定番なので、音楽ファンにもよく知られています。

★動画でチェック!★
イングリッシュ・ナショナル・バレエの『コッペリア』よりマズルカの映像です。にぎやかな群舞をぜひお楽しみください。

■ポロネーズの特徴

ポロネーズ(polonaise)は、マズルカと並ぶポーランドの民族舞踊の代表です。そもそも”polonaise”はフランス語で「ポーランド風」という意味です。起源は諸説ありますが、ポーランド宮廷で貴族の踊りとして始まり、17世紀以降にヨーロッパ各国の宮廷で踊られるようになったと言われています(注3)

音楽はマズルカと同じ3拍子系(4分の3拍子、下図参照)ですが、曲調が異なります。マズルカの軽快さに対して、ポロネーズは重々しく力強い。祝祭的な雰囲気があり、そのためかつては宮廷の儀式や軍隊の隊列行進などに使われました。

出典:英語版Wikipedia “Polonaise”

振付は、チャルダーシュ、マズルカと同じように男女が組になって2列で進むのですが、この行進自体がポロネーズの特徴と言ってもよいと思います。ポロネーズはマーチと同じく行進の要素の強いダンスです。男女組の2列で練り歩き、その列が蛇行したり、円を描いたり、2つに分かれて交差したりします。“テクニック”としては、「タンタタ・タン・タン」の1拍目の「タンタタ」で深く踏み込み、1小節ごとに踏み込む脚の左右を入れ替えます。

■古典全幕バレエの中のポロネーズ

『眠れる森の美女』第3幕の冒頭は、まずマーチで貴族たちが入場し、続いてポロネーズでおとぎ話の登場人物たちが次々と入場します。マーチを割愛して、ポロネーズで貴族たちとおとぎ話の登場人物が続けて入場するバージョンも珍しくありません。いずれにしても、このポロネーズは、これから始まる祝宴のディヴェルティスマン(第61回の注2参照)を予告する華やかなオープニングとなっています。

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ローマ歌劇場バレエ団の『眠れる森の美女』の映像より。第3幕冒頭のポロネーズは1時間48分25秒から。こちらの映像では、ポロネーズで貴族たちとおとぎ話の登場人物たちが続けて入場するバージョンを観ることができます。

『白鳥の湖』第1幕では、夕暮れが迫り、王子の友人たちが退出するときの「杯の踊り」がポロネーズです。盃を手にして踊ったり、提灯を持って踊ったりします。振付のバージョンは多く、男女が組になって2列でさまざまな隊形になります。2列で進む場面が少ない振付もありますが、曲の最後は2列で袖へ入ってゆくバージョンが多いと思います。

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新国立劇場バレエ団の『白鳥の湖』の紹介映像より。27秒から、第1幕の「杯の踊り」を観ることができます。

以上、チャイコフスキー作曲のポロネーズを2つ紹介しましたが、彼のオペラ『エフゲニー・オネーギン』第3幕のポロネーズも有名で、ガラ公演のエンディングなど、バレエの舞台でも使用されることが少なくありません。

★動画でチェック!★
チャイコフスキー作曲のオペラ『エフゲニー・オネーギン』より第3幕のポロネーズです。

(注1)マズルカ・ステップは「パ・ドゥ・マズルカ」(pas de mazurka)とも言います。

(注2)実は、この曲の題名は「ポロネーズとマズルカ」で、男女が2列で登場して男女が左右に分かれるところまでの音楽は、次に紹介するポロネーズです。また、マズルカに続く「グラン・パ・クラシック」では、ポアントを履いた女性ダンサーたちの振付にマズルカ・ステップが多用されています(第60回の注2を参照)。

(注3)なお、ユネスコでは世界各地の伝統的な民族舞踊を「無形文化遺産」として順次登録しており、ポロネーズは2023年に登録されています。

(発行日:2024年9月25日)

次回は…

第63回は、長く1列に並んで踊るコール・ド・バレエを取り上げます。第58~60回は「1列で進む」でしたが、進まずに並び、その場で演技する群舞パターンです。発行予定日は2024年10月25日です。

【鑑賞のためのバレエ・テクニック大研究!-総目次】
http://bibliognost.net/umino/ballet_tech_contents.html

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この記事を書いた人 このライターの記事一覧

うみのびん。東洋大学社会学部メディアコミュニケーション学科教授、情報学研究者、舞踊評論家。早稲田大学、立教大学でも講師を務める。バレエ、コンテンポラリーダンスの舞台評・解説を『ダンスマガジン』、『クララ』などのマスコミ紙誌や公演パンフレットに執筆。研究としてコンテンポラリーダンスの三次元振付シミュレーションソフトを開発中。著書に『バレエとダンスの歴史:欧米劇場舞踊史』、『バレエ パーフェクト・ガイド』、『電子書籍と電子ジャーナル』(以上全て共著)など。

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