©︎K-BALLET COMPANY
K-BALLET Opto(Kバレエオプト)は、KバレエカンパニーとBunkamuraが合同で立ち上げる新しいプロジェクト。舞踊監督の渡辺レイが指揮を執り、「K-BALLETダンサーを基盤に、世界の気鋭の振付家によるオリジナル作品や、他ジャンルとのコラボレーションなど、ダンスの魅力を多角的に捉えた作品で、K-BALLETの新たな光(=Opto)を生み出」すことを目指すという。
つまり、これまで芸術監督・熊川哲也によるオリジナル版の古典作品を中心に「クラシック・バレエのカンパニー」として存在感を示してきた同団が、コンテンポラリー・ダンスなどバレエ以外のジャンルにも切り込んでいこうとする取り組み、ということになるだろうか。
旗揚げ公演は2022年9月30日(金)・10月1日(土)、KAAT神奈川芸術劇場(ホール)にて。「プティ・コレクション」と題して、作品名に“プティ”(小さい)という言葉を冠した3つの演目を上演する。
1つ目は渡辺レイと同じくネザーランド・ダンス・シアター(NDT)で活躍後、現在はバレエ・ブリティッシュコロンビア(カナダ)の芸術監督を務めるメディ・ワレルスキー振付『プティ・セレモニー“小さな儀式”』。2つ目は日本人で初めて欧州のカンパニー(レーゲンスブルク歌劇場ダンスカンパニー)の芸術監督を務めたことでも知られる森優貴振付『プティ・メゾン“小さな家”』。そして3つ目は、渡辺レイ振付『プティ・バロッコ“小さな真珠(ゆがんだ真珠)”』。
開幕に先駆けて、8月22日・23日の両日、東京・文京区のKバレエカンパニースタジオでメディア向け公開リハーサルが行われた。
リハーサル写真撮影:阿部さや子(バレエチャンネル)
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今回リハーサルが公開されたのは、ワレルスキー振付『プティ・セレモニー“小さな儀式”』と渡辺レイ振付『プティ・バロッコ“小さな真珠(ゆがんだ真珠)”』の2作品。
まずは『プティ・セレモニー“小さな儀式”』から。この作品はメディ・ワレルスキーが2011年にジョージア国立バレエに振付けたもので、以来バレエ・ブリティッシュコロンビアなど他国のカンパニーでも再演を繰り返している。
『プティ・セレモニー』を踊る15人のダンサーたちがずらりと並んで観客と対峙する
プリンシパルソリストの小林美奈(写真右)とファーストソリストの岩井優花。集中力をみなぎらせた表情がマスク越しにも伝わってくる
「この作品は、15人のダンサーが無音のなかで、物凄い集中力で踊る場面が多い。本当に一体感を持って踊らなくてはいけない作品なので、観ているほうもグーッと引き込まれていくと思う」と渡辺レイ舞踊監督。ダンサーたちが「無音」という音に神経を研ぎ澄ませ、お互いの息遣いやわずかな掛け声に鋭く反応し合いながら、こちらには予想のつかない独特な動きを繰り出していく。
ファーストソリストの戸田梨紗子と関野海斗
山本雅也(写真左)と堀内將平。カンパニーを代表する男性プリンシパル2人によるデュエットという、ファンにとって新鮮味のある場面も
ファーストソリストのグレゴワール・ランシェによる見事なジャグリングも
コンテンポラリー・ダンス作品に挑戦、といっても数えきれないほど選択肢があるなかで、なぜワレルスキーの本作を選んだのか? それはこの作品が「ジョージア国立バレエに振付けられたものだから」というのが大きな理由だという。「ワレルスキーの作品は他にもたくさんありますが、これはジョージア国立バレエというクラシック・バレエのカンパニーに振付けられた作品。つまりクラシック・バレエのダンサーのために作られた作品だから、K-BALLET Optoの最初の公演として、今のKバレエのダンサーやファンのお客様には、これがいちばん合っていると思いました」(渡辺)。
プリンシパルソリストの成田紗弥(写真左)ら、女性ダンサーたちも新たな一面を見せる
岩井優花のしなやかなソロ
「タイトルに『セレモニー』とあるくらいですから、15人のダンサーたちは揃いのフォーマルな衣裳を着て踊ります。彼らが無音のなかで空間を共有するのを観て、『どうやって動きを揃えているんだろう? どういうふうにカウントを取っているんだろう?』等と考えてみたり。この作品では、そんなふうにただシンプルにダンサーたちの一体感を楽しんでいただけたら」(渡辺)。
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続いて『プティ・バロッコ“小さな真珠(ゆがんだ真珠)”』。こちらは今回の公演のために渡辺レイが振付けた新作。
「この作品は、ルネサンスという均整の取れた世界から、バロックという歪んだ時代へと入っていった、その変化というものがアイディアのベースにあります。均整の取れていた世界に歪みをもたらすということは、物凄い抵抗力と反発力があったはず。そこに私は魅力を感じています。本作では、女性たちが男性によって理想化された完璧像から解き放たれて、自己を表現していく。それをバロックとリンクさせてみようという作品です」(渡辺)。
本作の中心的存在、プリンシパルの飯島望未
ハイヒールを履いた女性ダンサーたちが、まっすぐにこちらを見て凛と立つ
女性たちの、ためらいのない眼ざし。その全身から立ちのぼるエネルギーに引き込まれつつ見入っていると、しだいにダンサーたちが激しく動き始める。シャッターを切る指が、そのスピード感にまるで追いつけなくなっていく。
同じポーズでもダンサーによって少しずつ表現のニュアンスが違って見えるのがおもしろい
「この作品は、ダンサーたちから出てくるエネルギーというものを、ただ見て、感じてほしい。ストーリーがあるわけでもないし、『何を表現しているんだろう?』なんてわからなくてもいい。男女の関係性とか、文化や音楽の関係性とか、感じた通りに受け取っていただければ充分だと思っています」(渡辺)。
吉田早織(ソリスト)、金瑛揮(ファーストアーティスト)
吉岡眞友子(ファーストアーティスト)、石橋奨也(プリンシパル)
トップギアで、身体の限界を攻め続けるかのようなダンス。ダンサーたち自身、「『プティ・バロッコ』は殺人的にハードな作品」だと話しているという。「とりあえず、ダンサーたちを疲れさせたいです(笑)。疲れ果てた先にポコッと生まれ出る人間の究極のエネルギーや感情を、お客様に伝えたいと思っています」と渡辺舞踊監督。
飯島望未、石橋奨也
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リハーサル終了。踊り終えた瞬間のダンサーたちが、少し照れたような、でもとても嬉しそうな、充実の表情を浮かべていたのが強く印象に残った。
「本番まで、まだまだクオリティを上げていかなくてはいけない」と渡辺。この日は公開されなかった森優貴作品について、最後にこう語った。
「森優貴さんは、ストーリー性のある詩的な作品を作るのではないかと思います。彼自身、幼い頃からミュージカル等も好きで、ドイツの劇場で芸術監督をしていた時も、そうした作品をかなり作っています。『プティ・セレモニー』とも『プティ・バロッコ』とも違った作風になるかと思いますので、楽しみにしていてください」。
公演情報
K-BALLET Opto「プティ・コレクション」─プティ・プティ・プティ!
日時 |
2022年
9月30日(金)12:30開演
9月30日(金)17:30開演
10月1日(土)12:30開演
10月1日(土)17:30開演
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会場 |
KAAT神奈川芸術劇場 <ホール>
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演目 |
◆Petite Ceremonie /小さな儀式<アジア初演>
振付:メディ・ワレルスキー
◆Petite Maison / 小さな家<世界初演>
振付:森優貴
◆Petit Barroco / 小さな真珠(ゆがんだ真珠)<世界初演>
振付:渡辺レイ
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詳細 |
「プティ・コレクション」特設サイト |