令和3年度(第72回)芸術選奨贈呈式の会場にて。左から:井澤駿、奧村康祐 写真提供:新国立劇場バレエ団
2022年3月15日(火)、都内ホテルにて、令和3年度(第72回)芸術選奨贈呈式が執り行われました。
この賞は、文化庁が昭和25年から毎年度、芸術各分野において優れた業績を挙げた人、または新生面を開いた人に対して贈っているもの。
本年度は、舞踊部門の文部科学大臣賞を上野水香(東京バレエ団プリンシパル)と奥村康祐(新国立劇場バレエ団プリンシパル)、同部門新人賞を井澤駿(新国立劇場バレエ団プリンシパル)が受賞!
贈呈式を終えた直後の奧村康祐さん、井澤駿さんの喜びの声をお届けします。
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令和3年度芸術選奨〈舞踊部門〉文部科学大臣賞
奧村康祐(新国立劇場バレエ団プリンシパル)
『白鳥の湖』ジークフリード王子(奧村康祐) 撮影:鹿摩隆司
- 受賞おめでとうございます!
- 奧村 ありがとうございます。こんな素晴らしい賞をいただけるとは微塵も思っていなかったので、とにかく驚いたというのがいちばんの感想です。本当に、周りの方々の力のおかげだと思います。一緒に踊っているダンサーたち、スタッフのみなさん、すべての方の力に対する賞であり、僕はただその代表としていただいているだけだという気持ちです。
- この受賞について、ご家族には報告を?
- 奧村 しました! とても喜んでくれました。
- 何か特別な言葉をかけられましたか?
- 奧村 特別な言葉はとくにないです(笑)。「びっくりしたなあ」くらいの感じでした(笑)。僕だけでなく家族のみんなも、あまりにも想像していなかったので。
- 贈賞理由のひとつに、「日本を代表するダンスール・ノーブル(貴公子ダンサー)の一人である」ということが挙げられていました。
- 奧村 そのことに、とくにびっくりしています。僕はどちらかというとキャラクター的な役のほうで評価していただくことが多く、「ダンスール・ノーブル」というのはむしろ自分の個性からは遠いと思っているので。ですからそう言っていただけて、驚くと同時に気持ちが引き締まります。
- こちらはむしろ、奧村さんが「ダンスール・ノーブルは自分の個性から遠い」と思っていらしたということに驚いています。
- 奧村 本当に、僕はそういうタイプではないと思っています。今回の受賞で評価していただいた『ライモンダ』についても、吉田都芸術監督から「もっとダンスールノーブルらしく」ということをすごく言われていましたし。でも、だからこそ「ダンスール・ノーブルらしくあること」を強く意識して踊ったので、そこを見ていただけたのかもしれません。
- 贈賞理由には、「今年度は古典名作『白鳥の湖』『ライモンダ』で踊りのスケールや力強さ、心理表現に著しい進境を示し、現代作品においても繊細な感性の光る名演が続いた」ともありました。古典作品と現代作品それぞれについて、奧村さんは今後どのようなことをさらに追求していきたいと思いますか?
- 奧村 まず古典作品には守るべき伝統があると同時に、バージョンごとのスタイル、演出によって変化する作品の色というものがあります。そうした部分をしっかりと出せるように意識していきたいですね。現代作品については、挑戦することで芸術の幅を広げていくこと。新たな可能性をどんどん追求していけたらと思っています。
- この賞をひとつの励みにして、決意を新たにしたことなどはありますか?
- 奧村 やはり、賞に恥じないように自分自身をより鍛えていって、バレエ界の発展のために努力していきたいなと思っております。
- 世界は未だコロナ禍の終息も見通せず、戦いも起こっていて、つらい現実のなかにあります。そうした状況の中で、いち芸術家として、奧村さんはどのように活動していきたいと思いますか?
- 奧村 芸術家として、人々に何かの「力」や「きっかけ」を与える存在であれたら嬉しいなと思います。自分が踊ることで、誰かの活力になれたら。もしかしたら逆に批判的な思いを抱く人もいるかもしれないけれど、それでもいいと思うんです。その人にとっては、やはりそれが何かのきっかけになるのかもしれないから。そしてもちろん、平和を強く願っています。
- ファンのみなさんにメッセージをお願いします!
- 奧村 みなさんがいつも観てくださっているおかげで、私たちは踊ることができています。コロナで大変な時も「観に来てくださる方がいるんだ」という気持ちが頑張りにつながって、こうして賞をいただくことができました。本当に感謝しかありません。これから舞台をますます頑張って、芸術家として、ダンサーとして、進化していきたいと思います。
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令和3年度芸術選奨〈舞踊部門〉新人賞
井澤 駿(新国立劇場バレエ団プリンシパル)
『白鳥の湖』ジークフリード王子(井澤 駿) 撮影:鹿摩隆司
- 受賞おめでとうございます!
- 井澤 ありがとうございます。このように名誉ある賞をいただけて、本当に嬉しいです。とくに今年は公演中止などもあって踊る回数が少なかったので、まさか受賞できるとは思わず、正直とても驚きました。
- 贈賞理由を見ると、とくに『白鳥の湖』の王子役について高い評価が記されていますね。
- 井澤 今回はピーター・ライト版という新しいバージョンの『白鳥の湖』だったので、僕にとっても新たな挑戦でした。一から作品を作っていくなかで、自分なりにどういう王子を演じるかを深く考えながら踊ることができ、とても勉強になりました。
- ライト版『白鳥の湖』は非常にドラマティックであり、王子の物語という側面も強い版ですが、井澤さんはその王子をどのように掘り下げて表現したのでしょうか?
- 井澤 今回は文字通り「自分なりに」という感じで、キャラクターを作り込むのではなく、自然体で役を生きるということをとくに意識して踊りました。自分が本当にジークフリード王子だったらどうするか? リアルな僕自身が、もしも本当にこの物語の主人公になったらどう感じ、どう行動するのか?と。今回は4人のジークフリード役がいましたが、本当に人それぞれ違う個性がありました。その中でも自分なりの表現ができたのかなと思っています。
- ご自身としても、その役を自分自身で生きたという感覚が得られたと。
- 井澤 はい、そうですね。物語を自分で引っ張っていかなくてはいけないので、大きな責任と難しさはありましたが、自分なりに入り込めたと思っています。
- 贈賞理由には「新国立劇場バレエ団に入団して早々に主役デビュー」したということも特筆されていました。
- 井澤 はい。早い段階からたくさんの役を任せていただけたのは、とてもありがたいことでした。
- しかし入団早々から真ん中に立つということは、喜びと同時にプレッシャーもあったのではないでしょうか?
- 井澤 それはありましたし、いまでもあります。本当に毎回、数えきれないほど壁にぶち当たっているので。とにかく、一つひとつの舞台を大切に、責任を持って終えること。それだけを考えて、メンタルを保っています。先々のことを考えすぎるよりも、目の前のことを一つひとつ一生懸命こなしていくことで乗り越えてきたという感じです。
- 今回の受賞を励みにして、あらためて今後取り組んでいきたいことなどはありますか?
- 井澤 コロナ禍もまだ終息せず、今後もいつまた公演中止などの事態が起こるかわかりません。それでも与えられた一つひとつの舞台を大切に、責任をもって踊りきるためにも、まず精神的な部分をきちんと整えられるようになりたいと考えています。どんな状況になろうとも、前を向いて踊れるように、自分自身の内面の環境をしっかりと作っておきたいです。
- ファンのみなさんにメッセージをお願いします!
- 井澤 現在、世界情勢を伝える日々のニュースに落ち込んでいる方も、つらい思いをしている方もたくさんいらっしゃると思います。僕たちダンサーも、幸せなことにいまこうして踊ることができていますが、かたや同じバレエダンサーなのに銃を持って戦地に向かう人もいます。そのような状況のなかで僕たちアーティストがやるべきことは、少しでも明るさや喜びをもたらすこと。その責任があると思っています。お客様に楽しんでいただけるように、これからも努力していきます。