浦井健治(サム)、咲妃みゆ(モリー) 撮影:桜井隆幸
1990年に公開された大ヒット映画『GHOST』(邦題『ゴースト/ニューヨークの幻』)のミュージカルが、3月5日にシアタークリエで幕を開けた。ミュージカル『GHOST』の日本版初演は2018年。今回は2年半ぶりの再演となる。
初日を翌日に控えた3月4日、同劇場で行われた囲み取材と公開ゲネプロを取材した。
囲み取材には浦井健治、咲妃みゆ、桜井玲香、水田航生、森公美子が登壇。ステージ上で、意気込みや作品への思いを語った。
***
囲み取材レポート
今回、演出家のダレン・ヤップはコロナ禍で来日できず、Zoom越しでの稽古となった。そのぶん、キャスト・スタッフの結束は固い。チームワークは抜群で、特にヒロインのモリー役をダブルキャストでつとめる咲妃と桜井は、浦井いわく「異常なほどの仲の良さ」だそう。
浦井健治 @Balletchannel
初演から続投の浦井健治(うらい・けんじ)。「サムは思い入れのある役。死んでしまったあとのサムの声はモリーに聴こえない設定なので、モリー役の演技の受けに徹するお芝居になります。舞台上でいろいろなアプローチをしてくれる咲妃さん、桜井さんとのやり取りはいつも新鮮」。2人の印象を聞かれ「芯の強い女性。優しさや包容力を兼ね備えた、女性の強さを演じられる方たちです」と語った。
咲妃みゆ @Balletchannel
モリー役に臨む咲妃みゆ(さきひ・みゆ)も、浦井と同じく2回目の出演。「今回のモリー像は(桜井)玲香と2人で構築していきました。お越しくださるお客様に一回一回感謝の気持ちを込めて、歌をお届けしたいと思います」と、笑顔を見せた。
桜井玲香 @Balletchannel
今回から咲妃とダブルキャストでモリーを演じる桜井玲香(さくらい・れいか)。「自分の感情に嘘をつかず、正直に、しっかりとこの作品と向かい合っていきたい」。咲妃のことは「好きが止まらないぐらい好き!」とのこと。
水田航生 @Balletchannel
サムの同僚で親友のカール役を演じる水田航生(みずた・こうき)は今回が初参加。明るく野心家なカールは物語の最後にキーマンとなる役どころ。稽古場での話を聞かれ「とても和やかで濃密な時間をすごすことができました」。
森公美子 @Balletchannel
オダ・メイ・ブラウン役の森公美子(もり・くみこ)は、怪しい霊媒師というキャラクターで、ゴーストになったサムと、モリーをつなぐ役どころ。激しいダンスシーンについては「息切れしながら踊っております!」と即答。会場の笑いを誘った。
この公演中、東日本大震災から10年目を迎える。被災地出身の森はその心境を聞かれて「10年経っても、被災地のみなさんの心の中にある“かさぶた”は取れていない」と声を詰まらせた。「もしコロナ禍でなかったら、『GHOST』を是非、被災地で上演したかった」。演出のダレン・ヤップは、稽古を始めるにあたり、岩手県の「風の電話」について語っていたという。
「ダレンの言葉を聞いて、相手が目に見えなくても『私たちは今、元気だよ』って、自分の思いを伝えることは大切だなと思いました」(森)
最後は浦井が「人は“ひとりきり”じゃない。そういう気持ちになれるミュージカルです」と締めくくった。
**
公開ゲネプロ鑑賞レポート
浦井健治(サム) 撮影:桜井隆幸
開演前、スピーカーからは都会の雑踏とビル風に紛れて、ささやきのような、鋭い叫びのような声が漏れている。やがてその音が大きくなり音楽にかき消されていく。
ニューヨークの銀行で働くサム(浦井健治)はある日暴漢に襲われ、芸術家である最愛の恋人・モリー(咲妃みゆ/桜井玲香)の目の前で命を落とす。ゴーストとなったサムの声が聴こえたのはオダ・メイ(森公美子)ただ一人。彼女はサムから、モリーに大事なことを伝えなくてはならない、その手助けをして欲しいと頼まれ、2人の橋渡し役を引き受ける。
一方、サムの死を受け入れられず哀しみから立ち直れないモリー。元気づけようと励ますカール(水田航生)の優しさに触れ、少しずつサムを忘れようとするモリーだったが……。
浦井健治(サム)、桜井玲香(モリー) 撮影:桜井隆幸
脚本と歌詞はブルース・ジョエル・ルービン。ラブストーリーにとどまらず、サスペンスタッチな展開のなかに様々な人間ドラマを描いている。多彩なミュージカルナンバーと、ゴーストのイリュージョンも見どころのひとつ。音楽はデイヴ・スチュワートとグレン・バラード。
主役のサム(浦井)とモリー(咲妃/桜井)のデュエットは、歌声から2人の会話が聴こえてくるようなナンバー。ゴーストとなったサムが、モリーには届かないと知りながら耳元で囁くように唄うソロも美しい。
咲妃みゆ(モリー)、水田航生(カール) 撮影:桜井隆幸
カール(水田)は、仕事場のスーツ姿とプライベートタイムでは佇まいが大きく違い、表の顔と裏の顔を上手に使い分けている男。物語の後半で、エリート銀行員の切実すぎる感情が一気にあふれ出す。
カールたちがニューヨークのビジネス街を行き交うシーンは、アンサンブルを加えてのダンスナンバー。スピードを緩めず速足で歩くような振付で、ぶつかったり足がもつれて転ぶ人がいても、それに手を貸す者はいない。日本の通勤風景を見ているかのようだ。
浦井健治(サム)、森公美子(オダ・メイ) 撮影:桜井隆幸
一転、オダ・メイ(森)の登場シーンはカラフルでまさにショータイム。パワフルな歌声に会場からは拍手も。森は少しひねくれていて憎めないキャラクターをコミカルに演じた。
『GHOST』には、この世に悔いを残したまま命を落として成仏できない“ゴーストたち”が登場し、アンサンブルがそれぞれ個性豊かに演じている。
とりわけ心に残ったのは、“地下鉄のゴースト”役(地下鉄に住み着いているゴースト)の西川大貴(にしかわ・たいき)。地下鉄のゴーストは、手のひらから「気」のように力を出して物体を動かす。その方法をサムに教えるダンスシーンでは、身体じゅうの怒りや淋しさを集めて叩きつけるかのようにタップを踏み、ラップのような言葉を吐きながら、人や物を弾き飛ばしていく。西川の気迫に満ちたダンスが圧巻だった。
東京公演は3月23日まで。4月は愛知、大阪公演が予定されている。
浦井健治(サム) 撮影:桜井隆幸
公演情報
ミュージカル『GHOST』
脚本・歌詞:ブルース・ジョエル・ルービン
演出:ダレン・ヤップ
日程 |
2021年3月5日(金)~3月23日(火) |
会場 |
シアタークリエ(東京・日比谷) |
全国公演日程 |
【愛知公演】2021年4月4日(日) 愛知県芸術劇場 大ホール<全2回公演> |
|
【大阪公演】2021年4月9日(金)~4月11日(日) 新歌舞伎座<全4回公演> |
予定上演時間 |
約3時間(休憩30分含む) |
詳細 |
https://www.tohostage.com/ghost/ |