2020年1月31日〜2月1日、英国ロイヤル・バレエのトップダンサーたちが来日し、ロイヤルの“いま”を彩る幅広いレパートリーを次々に披露する公演「輝く英国ロイヤルバレエのスター達」（芸術監督 小林ひかる）が開催されます。
出演は、ローレン・カスバートソン、ヤスミン・ナグディ、高田茜、フェデリコ・ボネッリ、平野亮一、ワディム・ムンタギロフ、メリッサ・ハミルトン、マヤラ・マグリ、ウィリアム・ブレイスウェル、アクリ瑠嘉。
まさに、現在のロイヤル・バレエを体現する輝かしいスターダンサーたちばかりが集結します。
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バレエチャンネルでは、この公演の出演者のなかから、私たち日本のバレエファンの誇りとも言える2名のプリンシパルにインタビューしました。
先日公開した平野亮一に続き、2人目は、高田茜。
白い花のような透明感、息をのむほど滑らかなテクニック。いま、バレエを習う子どもたちにとっても憧れの存在である高田さんに、お話を聞きました。
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それぞれに個性的なパートナーたちと
――今回の公演には、
●Part 1 “Dynamism”（ダイナミズム）：ロイヤルゆかりの作品が誇るダイナミックな妙技を
●Part 2 “Personal Emotion”（パーソナル・エモーション）：ダンサー自身が想いを表現できる作品を自ら厳選
●Part 3 “Mystical Being”（神秘的な存在）：バレエ作品で語り継がれる物語
と、それぞれにコンセプトを持った3つのプログラムがあって、1公演につき組み合わせの異なる２プログラムずつが上演されると伺っています。まずPart 1“Dynamism”では、茜さんは『コッペリア』第３幕よりグラン・パ・ド・ドゥを踊りますね。
- 高田 『コッペリア』は、今回の来日公演の直前にロイヤルオペラハウスで初主演させていただくことになっています。リハーサルはこれからですけれど、すごく可愛らしくて楽しい作品です。とくに第3幕のグラン・パ・ド・ドゥは、いろいろな騒動があったあとの結婚式のシーンですので、幸せな雰囲気を出せたらと思っています。
――Part 1で上演されるということは、テクニック的にも見応えがあるということですね。
- 高田 とても複雑なリフトがあって、そこがチャレンジングな部分かなと思います。
高田茜、ウィリアム・プレイスウェル
――Part 2“Personal Emotion”で踊るのは、アサフ・メッセレル振付の『春の水』よりパ・ド・ドゥですね。
- 高田 この作品は私自身も踊ったことがないですし、日本のみなさんにとっても、最近ではそれほどご覧になる機会がないのではないでしょうか？ ロシアバレエならではのダイナミックさがある振付で、春のすがすがしさや新芽の力強さが感じられるような、素敵な作品です。このパ・ド・ドゥにも、ちょっとリスクのあるような、難しいリフトがあるんですよ。でもパートナーが平野亮一さんなので、そういった難易度の高いテクニックも安心して楽しみたいなと思っています。
――Part 2は“パーソナル・エモーション”つまり「ダンサー自身が想いを表現できる作品を」上演するプログラムとなっていますが、茜さんはこの『春の水』でどんな想いを表現したいですか？
- 高田 Part 2で上演される演目は感情で表現するドラマティックな作品が多いと思うのですが、『春の水』はどちらかといえば身体で表現するフィジカルな作品です。でも、そこにはやはり感情があります。寒くて厳しい冬が終わって、あたたかな日差しが輝きだす季節。ここロンドンも冬が長くて、何となくとぼとぼ歩いていた感じだったのが、だんだん春の匂いがしてきて街に緑が増え始めると、気持ちも少し大きくなって、早歩きしたくなるような気分になります。そういう気持ちを身体で表現することも“パーソナル・エモーション”だと思うんですね。
――「とぼとぼ」という表現が可愛らしくてほっこりしました（笑）。そしてPart 3“Mystical Being”では“Homage to the Queen”よりEarthのパ・ド・ドゥを。これはデヴィッド・ビントレー振付の、英国ならではの作品ですね。
- 高田 これも、私にとっては初めての挑戦となる作品です。Earth、つまり大地の精という役どころですので、まさに大地のような力強さを表現できたらと思います。
――『コッペリア』のパートナーはウィリアム・ブレイスウェルさん、『春の水』は平野亮一さん、“Homage to the Queen”はアクリ瑠嘉さん。３作品すべて違う相手と踊りますが、茜さんから見てそれぞれどんなダンサーですか？
- 高田 3人ともそれぞれに違う個性の持ち主です。亮一さんとはこれまで何度か一緒に踊ったことがありますが、どんなに難しい作品でも私を自由に踊らせてくれる、本当に素晴らしいパートナー。ウィリアムは、これからいろいろな役を踊っていくダンサーだと思うので、『コッペリア』のような楽しい作品を一緒に踊れてすごく嬉しいです。瑠嘉くんとは、これまで一度も一緒に踊ったことがなくて。彼もこれからますますたくさんの作品を踊ることになるダンサーだと思います。そんなキラキラしたパートナーたちと一緒に踊れるのはとても刺激になりますし、楽しみですね。
高田茜、ウィリアム・プレイスウェル
踊りで、心を揺らしたい
――茜さんはまだ十代だった頃から本当に美しいダンサーでしたが、ある時点から、踊りに力強さが生まれたというか、確信のようなものがみなぎるようになった気がします。
- 高田 そうでしょうか……。一つひとつの舞台を大事にしたいということは、ずっと思っています。その作品を掘り下げていったり、役に自分の気持ちを入れ込んでいったりする過程も、すごく好きなので。でも、難しいです。コンディションや感情というものはその時どきで違うものなので、それをコントロールすることが、いまだに上手くできなくて。やはり、お客様に特別な舞台をお届けしたい一心で、自分にあまりにもプレッシャーをかけすぎてしまうんですね。そうすると、自分自身の楽しめるところで踊れなくなってしまって、結局お客様には伝わらない。舞台を大事にすることと、自分が楽しんで踊ることのバランスを見つけることが、いまの課題です。ロイヤルにはカンパニー・サイコロジストというメンタル・トレーニングをしてくださるスタッフがいるので、最近はその方に相談することもあります。
――「一つひとつの舞台を大事に」ということを、茜さんは常日頃からおっしゃっていますね。そうやって丁寧に積み重ねた先で、どんな踊りを踊りたい、どんなダンサーでありたいと思っていますか？
- 高田 舞台というのは、ライブですよね。その時の自分にしか表現できないものがあるし、お客様にもその日にしか感じられないものがある。だから、私の踊りを観た方に、何かひとつでも心に残るようなものがあればいいなと思います。悲しい気持ち、楽しい気持ち……どんなことでも感じていただけたらいいな、と。そんなふうに、心を揺らすことのできるダンサーになりたいです。人の気持ちを動かすって、なかなかできないことですから。
――最近、ジュニア世代のみなさんに取材をすると、本当に多くの女の子たちが「憧れは高田茜さん」と名前を挙げます。そんな子どもたちに、メッセージをいただけますか。
- 高田 嬉しいです。若いみなさんにそんなふうに思っていただけているとしたら、私もすごく励まされます。バレエの道をこころざすみなさんには、やはり、「バレエが楽しい」という気持ちを忘れないでほしいと思います。プロになるということは、バレエが“仕事”になるということ。楽しいだけではやっていけない時が、どうしてもあります。それでも続けていけるのは、「バレエが好き」という気持ちが明確にあるから。子どもの頃、純粋に「バレエ楽しい、大好き！」と思っていた気持ちを見失わずに持ち続けていくって、難しいけれど、とても大切なことだと思います。
――茜さんご自身は、つらい時や、壁にぶつかった時、どうやって乗り越えているのでしょうか？
- 高田 他の職業に比べると、ダンサーは現役でいられる期間がすごく短いですよね。好きなことなのに、長くは続けられない。だから限られた時間のなかでできる限り追求していきたいのに、例えば怪我をして踊れなかったり、前に進めなかったりするのは、やはりとてもつらいです。でも、あきらめないでいると、自分の気持ちに素直になれる時が必ずくるんです。「ああ、ちょっと無理してたな」とか、問題がクリアに見えてくる。そうすると、自分は何をしたいのか、どうすべきなのかということがはっきりとわかってきて、「私には“こうなりたい”という目標があるのだから、やっぱりいま頑張ろう」と思えます。支えてくれるお友達や家族の存在も、とても大きいです。
「白鳥の湖」
- 高田茜さんへの3つのQ
- 今回の公演にちなんで、高田さんにとっての“Dynamism”（ダイナミズム）、“Personal Emotion”（パーソナル・エモーション）、“Mystical Being”（神秘的な存在）を聞きました。
- Q1. Dynamism：素敵だな、と思うテクニックは？
パ・ド・ブーレです。バレエならではのとてもユニークな動きですし、とくにクラシックの作品ではよく出てくるステップです。重力を感じさせないような錯覚を起こさせてくれます。
- Q2. Personal Emotion：感情が揺さぶられる作品・役は？
- ジュリエット、ジゼル、あとはニキヤです。この３つはすべて踊ったことのある役。やはりストーリーのある作品が好きなので、この３つを選びました。
- Q3. Mystical Being：自分を人間以外の存在に喩えると？
猫のようになりたいと思っています。単純に、猫好きだからです。
公演情報
輝く英国ロイヤルバレエのスター達
