2024年11月22日(金)・23日(土)、琉球王朝をめぐる人間たちのドラマを日本舞踊×琉球舞踊で紡ぐ舞台『琉球英雄傳』が上演されます。
これは琉球王国の歴史を動かす要となりながら、正史には残されなかった勇者たちの物語。日本舞踊家の藤間蘭黄が芸術監督および作・演出・振付を手がけ、琉球舞踊とタッグを組んで、全幕バレエならぬ“全幕舞踊”に挑む大作です。
芸術監督の藤間蘭黄と出演者が揃って行われた制作発表・取材会のレポートはこちら
見どころだらけの本作ですが、ダンス目線で注目なのは、出演者たちの「流派」の違い。バレエもメソッドによってそれぞれ踊り方に違いがあるように、日本舞踊にも流派によって特徴があるとのこと。本作では、出演者の流派や踊りの持ち味を生かした配役・振付になっているといいます。
そこで今回は出演者のみなさんに、自身の流派やその特徴について実演つきで教わってきました!
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日本舞踊にもいろんな“ダンススタイル”が👀
出演者のみなさんに、流派の特徴を教えてもらいました
山村友五郎(尚巴志/尚泰久役)
——友五郎さんの踊りの流派は?
- 私の踊りは上方舞の山村流です。
まず上方舞というのは京阪神で生まれた「舞」の総称で、関東で生まれた「踊り」とは性格がかなり異なります。
その中でも大阪で生まれ育った山村流は最も古く、約210年の歴史があるんですよ。
——210年も! 山村流の踊りの特徴は?
- 当時の交流の場だった酒宴席の座敷で舞われるものとして発祥したので、埃をたてないように、一畳の畳の上でも舞えるようなスタイルになっています。
我々の間には「流水無間断」(りゅうすいかんだんなし)という言葉があります。流れる水は止まらない、それと同じように舞いなさい、ということです。
——『琉球英雄傳』で友五郎さんが演じる役は?
- 戦乱の世を制して琉球統一を果たした初代琉球王の尚巴志と、その息子で第6代国王の座に就いた尚泰久の二役を演じます。
尚巴志は「これから強い国を作っていくぞ!」という血気盛んな王。
尚泰久は父の作った国を安定に導こうとする王。
衣裳もたっぷりとしていて豪華ですので、脇に空間を持たせて、堂々と立派に構えたいと思っています。
西川箕乃助 改め 西川扇藏(護佐丸役)
——扇藏さんの踊りの流派は?
- 西川流といいます。蘭黄さんの藤間流などと共に江戸系日本舞踊の「五大流派」のひとつなんですが、その中でも西川流はとくに古くて、約300年の歴史があります。
——300年…! 西川流の踊りの特徴は?
- 何しろ古い流派なので、芸立ちが大らか。あまり振りが詰まっていないというのでしょうか。たとえば同じ長さの音の中に、花柳流なら振りを5つ入れるところを、西川流では3つだけ、というように。そういう大らかさが特徴ですね。
——『琉球英雄傳』で扇藏さんが演じる役は?
- 護佐丸を演じます。
護佐丸は琉球王朝の礎を築いた武将で、そのことを自他共に認めている。
琉球王にも頼りにされている存在で、本作の登場人物の中では最年長。
必然的に頑固親父みたいなところもありますが、一途な思いを持った、忠義の武人であると思っています。
- そういう人物像ですから、「大きく構える」ということを意識しています。
とくに僕は背が小さいものですから、少しでも大きく見せなくてはいけないという面もありますしね。
- ちなみに僕はバレエ経験もあるんですよ。もう30年以上前ですがロンドンに留学した時に、ラバン・センターで1年間くらいバレエの基礎を学びました。
藤間蘭黄(阿麻和利役)
——蘭黄さんの踊りの流派は?
- 藤間流といって、これは扇藏さんの西川流と同じく歌舞伎の振付師から誕生した流派です。ですから大きな舞台で遠くのお客様にも伝わるような踊りを踊る、というのが基本。いわゆる歌舞伎舞踊(歌舞伎の中で演じられてきた舞踊のこと)の中でもとくに大らかで、動きが非常に大きい舞踊スタイルです。
——大舞台で見せる演劇的な踊り…バレエと共通してますね!
- そうですね。そして歌舞伎の踊りですから、「役として踊る」ということもたくさんあります。ひとつの作品の中で、ひとりの舞踊家が男の役、女の役、お婆さんの役、子どもの役、動物の役などに次々と変化しながら踊る、なんてこともあるんです。その変化が遠くから見てもちゃんとわかるように、くっきりと変化を持たせて踊るというのも大事な特徴です。
——本作は各舞踊家の流派の違いも演出に活かしてますか?
- もちろんです! 流派の違い、それぞれの舞踊家の個性や踊りの持ち味をすべて入れ込んだ配役と振付にしています。
例えば尚巴志・尚泰久という王様の役には、悠然としたスケール感を感じさせる山村友五郎さんを。
登場人物の中で最も年長で、どんとした芯の強さがある護佐丸は、大らかでずっしり円熟味のある西川扇藏さんに演じてもらう、というように。
——『琉球英雄傳』で蘭黄さんが演じる役は?
- 阿麻和利役を演じます。阿麻和利は、琉球においてはどちらかといえば“悪役”のように伝えられてきた人物。しかしそのいっぽうでは、勝連の地を大いに発展させ、その地域の人々にはものすごく慕われている領主だったわけです。
この『琉球英雄傳』で描く阿麻和利は、自らの力と頭脳で運命を切り拓いた文武両道に長けた武将です。そして最後に、とてもドラマティックな展開が彼を待っています!
志田真木(百⼗踏揚役)
——志田真木さんの踊りの流派は?
- 琉球舞踊重踊流(りゅうきゅうぶよう ちょうようりゅう)といいます。
琉球舞踊は沖縄の芸能で、沖縄がかつて琉球国という王朝であった時代(1429-1879)に育まれました。
源流としては神女(しんにょ。宮中祭祀を掌る女性)たちの祈りの所作から生まれた舞踊で、王朝時代には貴人をもてなすための舞台芸術として完成されていきました。当時は「踊奉行」(おどりぶぎょう)という役職まであったんですよ。
——真木さんの踊りを観て、とても優美だと感じました
- ありがとうございます。じつは琉球舞踊は多様性のある踊りなんです。
王朝時代の琉球舞踊は、テンポがとてもゆったりしていて静かに舞います。
いっぽう、のちに王朝が滅びて明治時代に入ってからは、庶民に琉球舞踊が拡がり、受け継がれ、早いテンポで軽快に踊る作品も生まれました。
今回の『琉球英雄傳』は王朝時代のお話。ですからその当時のゆったりしたテンポの舞踊で表現させていただいています。
——『琉球英雄傳』で真木さんが演じる役は?
- 尚泰久王の娘、百⼗踏揚を演じます。
悲恋の皇女ではありますが、もともとは国のために祈りを捧げる神女的な役割も担っていた人物です。
彼女はきっと、個人的なつらさや悲しみよりも、国のためになることを優先する、大きな心を持っていた女性だったのではないでしょうか。
踊ることが祈ること。それはまさに、琉球舞踊の原点です。
- 踊ることが祈りになり、祈ることが感謝につながる。その気持ちを大切に、百⼗踏揚というお役を務めたいと思っています。
花柳 基(大城賢雄役)
——基さんの踊りの流派は?
- 花柳流といいます。日本舞踊の五大流派の中で、最大の流派とも言われています。
古典の継承と共に、時代に合わせて新しいものもどんどん生み出す、進取の精神に富んだ流派です。
——花柳流の踊りの特徴は?
- 何といっても“手数”の多さ、つまり振り数が多いということでしょうか。
非常に間が細かくて、とんとんとんとん、ツッツッツッツッと振りが詰んでいくような構成になっているのが大きな特徴だと思います。
——動的で、観ていて楽しいです!基さんが演じる役は?
- 大城賢雄を演じます。
とても力強くて性格も一本気、“武勇”というイメージで僕は捉えています。
日本の戦国武将に置き換えるなら、柴田勝家のような感じでしょうか。
筋肉隆々で力持ち、眼光が鋭く、戦も強い武将。
ただし、それゆえにどこか直情径行型なところも持ち合わせている気がするんです。
腹で考えるよりも、力でどっと押していく。そんなイメージで踊らせていただこうと思っています。
花柳寿楽(金丸役)
——寿楽さんの踊りの流派は?
- 花柳流です。日本舞踊の五大流派(花柳・西川・藤間・坂東・若柳)の中で最大とされていますが、例えば蘭黄さんの藤間流などと異なる点をひとつ挙げると、歌舞伎役者さんを家元とする流派ではない、ということです。
——花柳流の踊りの特徴は?
- 花柳流は「踊りの間(ま)が細かい」と言われます。
ある一定の尺のなかにいくつかの振りがあるとして、その振りと振りの間の中間地点にも一個一個ちゃんと点がある、というような踊り方。
私の祖父(二代目花柳壽楽)がそのような踊りでしたので、私もそれを引き継いでいます。
——寿楽さんが演じる役は?
- 金丸(かなまる)を演じます。
心の内にある野望を隠し、表と裏ふたつの顔を駆使してのし上がっていく人物。
ただしそれを具体的に説明するセリフがあるわけではないので、お腹の中と身体の見せ方でしっかり表現していかなくては。例えば王に従順に仕えている時は身のこなし方をシュッとタイトに、逆に本心を語る時にはオレオレ系なところを出してみるなど、当日まで楽しんで役作りしていけたらと思っています。
- 金丸はこのドラマのカギとなる陰謀を企てます。
しかしそれは果たして、富や名誉や地位などに対する単純な欲望だったのか?
史実として、金丸はのちに琉球王(尚円王)となり、以後400年以上も続く第二尚王朝を築いたのです。
きっと彼なりに、善政とは何か、悪政とは何かを見極め、国づくりのプランを描いていたのかもしれません。彼の野心は、いつ、何に対して芽生えるのか。
そして、彼は果たして“悪”なのか。
そこは自分の腹の中でしっかり決めて、演じたいと思います。
公演情報
「日本舞踊の可能性」vol.6『琉球英雄傳』
【日時】
2024年11月22日(金)19:00
2024年11月23日(土)15:00
【会場】
浅草公会堂
【作・振付・演出】
藤間蘭黄
【作曲・作調】
杵屋勝四郎
【作調】
堅田新十郎
【出演】
西川扇藏、花柳寿楽、花柳 基、藤間蘭黄、山村友五郎、志田真木
志田房子(特別出演)
【演奏】
杵屋勝四郎・杵屋栄八郎 社中
堅田新十郎 社中
中川敏裕
【詳細・問合せ】
公演WEBサイト