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【特集】K-BALLET TOKYO「マーメイド」①岩井優花&栗山廉インタビュー〜海の泡になってもいいーー純粋で真っ直ぐな、マーメイドの思いを伝えたい

阿部さや子 Sayako ABE

2924年9月8日(日)、K-BALLET TOKYOの新作『マーメイド』が世界初演を迎えます。
アンデルセン作「人魚姫」を題材に、熊川哲也が新たな視点で演出・振付・台本・音楽構成を手がけるオリジナルのグランド・バレエ。

開幕を目前に控えた8月中旬、Kバレエ トウキョウのスタジオでリハーサルに臨むダンサーたちを取材しました。

Interview 1
岩井優花(プリンシパル・ソリスト)
マーメイド役

岩井優花 Yuka Iwai
岩手県生まれ。4歳よりバレエを始める。2014年ジョフリー・バレエ トレイニープログラムに所属。15年同校スタジオカンパニーに入団。17年ジョフリー・バレエに入団。21年4月Kバレエ カンパニーにソリストとして入団。22年9月ファースト・ソリスト、23年11月プリンシパル・ソリストに昇格。
©️Ballet Channel

岩井さんは今回キーヴィジュアルのモデルも務めました。海に差し込む陽の光に向かって泳いでいくようなポーズから、今回描かれようとしているマーメイドがどんな人物像なのかが伝わってくる気がしました。
岩井 あのヴィジュアルの撮影は今年3月に行われたのですが、その2ヵ月前の1月頃から作品のクリエイションが少しずつ始まっていて、熊川ディレクターのイメージする動きを私の身体で試してみるということをやっていたんですね。その作業のなかで感じたことや、アンデルセンの原作をヒントにして、私なりのマーメイド像を心に思い描きながら撮影に臨みました。
それから作品が出来上がり、いよいよ世界初演を迎えようとしているいま、岩井さんはマーメイド役をどのように解釈していますか?
岩井 明るくて純粋で、人魚のお姫様ではあるけれど、元気で可愛らしい女の子だと感じています。そして一途。王子のことが大好きになったらもう、海底での生活も、美しい声も、何もかもを迷いなく捨てて追いかけていきます。本当に真っ直ぐですよね。
確かに真っ直ぐすぎるくらい真っ直ぐですが、そんなマーメイドの行動を、岩井さん自身は理解できますか?
岩井 私自身が理解できるかどうかというよりも、熊川ディレクターが作ってくださった振付が、マーメイドの感情や行動の理由をすべて教えてくれている気がします。例えば、プリンスへの思いは決して報われないのだと悟った彼女が、最後の決意を固めるところ。そこに至るまでの過程を一つひとつ踊っていくと、マーメイドがどんな心情でその選択をするのか、自然に納得がいくんです。
その振付について。これまで踊ってきた数々の熊川作品とは異なる、本作ならではの特徴はありますか?
岩井 いちばんの特徴は、手や腕の使い方でしょうか。今年1月にクリエイションがスタートした時、熊川ディレクターが最初に取りかかったのも、ステップや全身のポーズではなく手の動きだったんですよ。「手を下から上に動かしてみて」「腕をこういうふうにくねらせることはできる?」等といろいろ試しては、イメージを膨らませていらしたようでした。

©️Ballet Channel

役作りのために、どんな研究や工夫をしていますか?
岩井 具体的な動きについてはディレクターが細かく演出してくださっているのですが、何気なく立っている瞬間など明確な指定がないところでは、片足の膝下をピョンと出して立ったほうが人魚っぽく見えるかな?等と工夫しています。あとは、魚の動きを観察するために水族館へ行ったりもしました。どの魚も参考になるなと思って水槽を見ていたら、不意にきれいな水色の細長い魚が、体をくねらせながらヒューッ!と泳いできたんです。その姿が、マーメイドが舞台の上を駆けていく時のイメージにぴったりで。他にも、「頭の動かし方でも海の生き物っぽさが出せそうだな」とか、「腕は縦方向に羽ばたかせると白鳥っぽくなるけれど、横方向に動かすと魚っぽくなるんだな」とか、いろいろな発見がありました。
マーメイドの衣裳もすごく楽しみなのですが、想像がつきません……。
岩井 私も想像がつきませんでしたし、衣裳合わせで初めて見た時には、その斬新さに驚きました! デザインを手がけてくださったのは、昨年秋に新制作された『眠れる森の美女』に続いてアンゲリーナ・アトラギッチさんです。アンゲリーナさんの衣裳は腕を美しく包んでくれる長い袖が特徴的。マーメイドもやはり長袖の衣裳で、そこにキラキラした水の泡みたいな模様が施されていてとてもきれいなので、ぜひご注目ください。
とくに大切に演じたい場面は?
マーメイドは出番が多いので、迷います……。でもやはり、王子と初めて踊るパ・ド・ドゥは、大切に演じたいですね。そしてその恋は永遠に叶わないと知った彼女の悲しみのソロや、王子との最後のパ・ド・ドゥ、その一連の流れを紡ぐ演技の部分も。切ないけれど、大好きな場面です。

熊川ディレクターがこの物語をどのように閉じるのかは、もしかすると、開幕直前までわからないのかもしれません。でもどんな結末であろうとも、マーメイドにとって「海の泡になる」よりも悲しいのは、王子と一緒にいられないことなのではないでしょうか。それほどまでに強くて純粋な思いを大切にして、マーメイドを演じたいと思います。

©️Ballet Channel

Interview 2
栗山 廉(プリンシパル・ソリスト)
プリンス役

栗山 廉 Ren Kuriyama
北海道生まれ。10歳よりバレエを始める。2008年ロイヤル・バレエ・スクール・アントワープに留学。10年ルードラ・ベジャール・ローザンヌ入学、12年卒業。14年1月Kバレエ カンパニーにアーティストとして入団。16年9月ファースト・アーティスト、18年9月ソリスト、20年11月ファースト・ソリスト、24年7月プリンシパル・ソリストに昇格。
©️Ballet Channel

栗山廉さんはこれまで『白鳥の湖』『眠れる森の美女』『くるみ割り人形』『シンデレラ』といった作品で王子役を演じていますが、それらの王子とは違う、今回の「プリンス」ならではの特徴は?
栗山 古典バレエの王子像とは、かなりイメージが違うと思います。ひと言で言えば、このプリンスは「王子様」というよりも「青年」という印象が強いんです。明るくて気取らない性格で、王子でありながら身分の違うみんなとも“仲間”として付き合う。足を手に入れて人間の世界にやってきたマーメイドに初めて出会った時も、なぜか口のきけない彼女を分け隔てなく受け入れます。きっと、困っている人を放っておけない性格なのでしょうね。海で遭難した自分を助けてくれた人への感謝もずっと忘れないし(残念ながらその人は真の恩人ではなかったわけですが……)、演じていても「ピュアで“いいやつ”だな」と感じます。

それからヒロインとの関係性も、今回は独特です。マーメイドはプリンスに恋焦がれていますが、プリンスのほうはどうかというと、彼女に好感を抱いてはいるけれど、恋愛感情ではありません。古典の王子は基本的に“相思相愛”。そういう面でも今回はいままでにない経験をしています。

まさにそこが、人魚姫の物語の要ですね。ヒロインは自分が王子の命を救ったという真実も伝えられず、王子への思いも届かないという。
栗山 そうですね。切ないですし、演じていて心苦しい気持ちになります。でも、プリンスはマーメイドが本当は何者なのかを最後まで知らないし、彼女の恋心に気づくこともない。つまり、プリンスが悪いわけでは決してないんです。そこがこの物語の美しさでもあると思うので、彼が悪者には見えないように演じなくてはと考えています。

プリンセス役・長尾美音とのリハーサル中のひとコマ ©️Ballet Channel

プリンスは踊る場面もたくさんあると聞きました。
栗山 そうなんです!  作品の序盤からガンガン踊ります。振付の難易度も高くて体力的にハードではありますが、たくさん踊らせていただけることはやっぱり嬉しい。「大変そうだな……」よりも「やってやるぞ!」という気持ちで、すごくワクワクしています。
たくさんあるダンスシーンのなかでも、プリンセスとの婚約式のグラン・パ・ダクシオンは大きな見せ場になりそうですね。
栗山 「これぞバレエ」という王道の踊りを楽しんでいただける場面です。海の中のシーンなどキャラクター性のある楽しいダンスもあれば、こうした正統派クラシックのゴージャスな踊りもあるところが、全幕バレエの魅力ですよね。でもこのシーンはクラシカルでありながら斬新な印象でもあって。一つひとつのテクニックはアカデミックなものなのに、組み合わせ方やつなぎ方が新鮮なんです。
そして何といっても、マーメイドとの美しいパ・ド・ドゥが忘れ難い印象を残しますね。
栗山 そこはぜひ舞台でご覧いただきたいので詳しくは話しませんが、その場面を踊っていると、僕は「儚さ」を感じます。すべてが一瞬の出来事で、まさに泡のように弾けてしまう。そんな感覚が表現された、美しくて素敵なパ・ド・ドゥです。
プリンスとしてとくに大切に演じたい場面は?
栗山 まずは最初に登場して、仲間たちと酒場で盛り上がるところ。人間味あふれるプリンスですから、周りの人々との関係性や「みんなで一緒に冒険に出かけるぞ!」という高揚感は大事に演じたいです。また彼は海の似合う男でもあるので、力強く登場して、舞台上に存在したいと思っています。

そしてもちろん、踊りの場面も。プリンスの踊りには、ありとあらゆる動きやテクニックが詰まっています。ダンスシーンが盛りだくさんなぶん、いい意味で力を抜いて余裕を見せるところと、ガッとエネルギーを爆発させて踊るところのメリハリをつけたいです。

ちなみに、栗山さんが好きな海の生き物は?
栗山 イルカでしょうか。可愛いし、賢そうなところが好きです。
『マーメイド』で幕を開ける新たなシーズン。目標は?
栗山 今シーズンもたくさんの演目がプログラムされていますし公演数も多いので、しっかりと心身の健康を整えて、舞台を全うすること。そして一つひとつの舞台を新鮮な気持ちで踊っていきたいというのが、いちばんの目標です。

あとは、役の幅や表現のアプローチを広げていくことと、よりスケールの大きな踊りを目指すこと。Kバレエの舞台の壮大さに相応しい踊りを追求していかなくてはと思っています。

©️Ballet Channel

K-BALLET TOKYO「マーメイド」特集② 長尾美音&田中大智インタビュー 記事はこちら

公演情報

K-BALLET TOKYO『マーメイド』

【日程・会場】
●東京
2024年9月8日(日)15:00
東京文化会館 大ホール

●名古屋
9月10日(火)18:30
愛知県芸術劇場 大ホール

●大阪
9月13日(金)14:00/18:30
フェスティバルホール

●札幌
9月18日(水)14:00/18:30
札幌文化芸術劇場 hitaru

●東京
9月21日(土)18:30
9月22日(日)13:00/17:15
9月23日(月休)13:00/17:15
9月28日(土)18:30
9月29日(日)13:00/17:15
10月4日(金)18:30
10月5日(土)18:30
10月6日(日)13:00
Bunkamuraオーチャードホール

【詳細・問合せ】
K-BALLET TOKYO 公演サイト

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