2024年9月8日(日)、K-BALLET TOKYOの新作『マーメイド』が世界初演を迎えます。
アンデルセン作「人魚姫」を題材に、熊川哲也が新たな視点で演出・振付・台本・音楽構成を手がけるオリジナルのグランド・バレエ。
開幕を目前に控えた8月中旬、Kバレエ トウキョウのスタジオでリハーサルに臨むダンサーたちを取材しました。
K-BALLET TOKYO『マーメイド』特集① 岩井優花&栗山廉インタビュー 記事はこちら
Interview 3
長尾美音(ソリスト)
プリンセス役
長尾 美音 Mine Nagao
和歌山県生まれ。4歳よりバレエを始める。2020年9月Kバレエ カンパニーにアパレンティスとして入団。21年9月アーティスト、23年9月ファースト・アーティスト、24年7月ソリストに昇格。
©️Ballet Channel
- 6月の『ラ・バヤデール』でもガムザッティ役を任されるなど抜擢が続き、この7月にはソリストに昇格した長尾さん。まずはここまでの経歴を聞かせてください。
- 長尾 バレエを始めたのは4歳の時。私の母がずっとバレエを習いたかったけれども習えなくて、娘にはバレエをさせようと私を地元のお教室に連れていったそうです。でも私自身は、最初はあまりバレエが好きではありませんでした。もともとのんびりした性格なのもあって、レッスン中にぼーっとしていることもしばしば……。先生から「宇宙人みたいね」と言われたこともありました(笑)。少しずつ意識が変わっていったのは、中学生くらいからでしょうか。コンクールなどにも出るようになって一生懸命練習するうちに、バレエがどんどん好きになりました。
- Kバレエには外部からオーディションを受けて入団を?
- 長尾 そうです。2020年にアパレンティス(準団員)として入団して、翌年からアーティストになりました。Kバレエの作品が大好きなので、オーディションに合格できた時は本当に嬉しかったです。入団して、もちろん厳しいこともたくさんありますけれど、いろいろな役をいただいて、たくさん勉強できることが何より楽しい。優しい先輩方と大好きな同期の仲間たちにも支えてもらっています。
©️Ballet Channel
- 『ラ・バヤデール』の時は、プリンシパルダンサーの降板により急遽ガムザッティ役を務めました。突然の代役にも関わらず、とても落ち着いた様子で大役を演じきった姿が印象に残っています。
- 長尾 ガムザッティは「勉強になるから」とアンダースタディに入れていただいていました。でも、まさか本当に舞台で踊ることになるとは思ってもみませんでしたし、決まったのも本番ギリギリのタイミングでしたので、そこからはもう必死に練習するのみ。プレッシャーを感じている暇もありませんでした。私はもともとあまり緊張しないタイプですが、あの時ばかりは、ものすごい緊張の中で初日を迎えました。2回目の舞台は、比較的落ち着いて踊れたような気がします。
- そして今回の『マーメイド』でもプリンセス役に抜擢されました。
- 長尾 配役については、最初に熊川ディレクターが直接伝えてくださいました。同じ役を踊るのが日髙世菜さんと成田紗弥さんという凄い方たちなので、「今回も必死に頑張らなくては」とドキドキしました。でも同時に、すごく嬉しかったです。このような大きな役に、代役ではなく最初からキャスティングしていただくのは初めてですから。
- プリンセスの人物像をどのように解釈していますか?
- 長尾 明るくてちょっとわがままなお姫様、というのが基本的な人物像だと思っています。ただ、じつはまだ自分のなかで答えが見つかっていないところがあって。第1幕で最初に登場する時にはいまお話ししたようなイメージなのですが、第2幕でプリンスと踊る婚約式のグラン・パ・ダクシオンは、成熟した大人の女性のような振付なんです。作品の中では描かれていないプリンセスの人格や背景を、自分なりにどう理解して演じれば役に説得力を持たせられるのか。日髙さんや成田さんの踊りや演技を見せていただきながら、考えを巡らせているところです。
©️Ballet Channel
- その第2幕のグラン・パ・ダクシオンが、プリンセスの大きな見せ場ですね。
- 長尾 技術的にもすごく難しい場面です。とくにアダージオの部分は、極端に難易度の高いリフト等があるわけではないのですが、わずかにタイミングがずれただけで上手くいかないところがたくさんあります。またヴァリエーションも、テクニックがふんだんに盛り込まれているというよりも、一つひとつのポーズを長いバランスで見せていくような振付。動きよりも凛とした雰囲気や存在感で魅了しなくてはいけないソロなので、いまの自分にとってありがたい挑戦の機会をいただいたと思っています。
- 難しいパ・ド・ドゥを一緒に踊るのは、プリンス役の栗山廉さんです。
- 長尾 栗山さんにはたくさん助けていただいています。丁寧にサポートしてくださるのはもちろん、後輩である私に対しても親しみやすい雰囲気で接してくださるんですよ。かっこよくて優しくて、まさにプリンスそのものです。
- リハーサル中、熊川哲也芸術監督から言われて印象に残っている言葉はありますか?
- 長尾 『マーメイド』のリハーサル中ではないのですが、以前「もっと強く自分を押し出しなさい」と言ってくださったのが心に残っています。ソリスト役なども踊っているのに、いつまでも「自分はまだ入団したばかりだから……」という態度ではダメだと、大切な言葉をいただきました。
- バレエを踊っていて幸せを感じる瞬間は?
- 長尾 私は、踊っている時はいつでも幸せを感じます。朝のクラス・レッスンも大好きです。もちろんリハーサルなどでうまくいかず大変だなと思うことはありますけれど、どんな時も踊っていれば楽しくて、気づくといつも笑顔になっています。
プリンス役の栗山廉と ©️Ballet Channel
Interview 4
田中大智(ソリスト)
シャーク役
田中大智 Daichi Tanaka
千葉県生まれ。5歳よりバレエを始める。2007年Kバレエ スクール入学。18年9月Kバレエ カンパニーにアーティストとして入団。22年9月ファースト・アーティスト、24年7月ソリストに昇格。
©️Ballet Channel
- シャーク役にキャスティングされての率直な感想は?
- 田中 キャストが貼り出された時は、誰よりも僕がいちばんびっくりしていたと思います(笑)。もちろんプレッシャーはありますが、すごく嬉しいです。
- 海の中をダイナミックに泳ぎ回るシャークは、田中さんのイメージにもぴったりですね。
- 田中 ありがとうございます。舞台じゅうを駆け回るので体力的にはとてもハードですが、そのぶんとても踊りがいがあります。こうした迫力のある振付をソロで踊れる機会というのもなかなかありませんし、シャークの踊りは曲もすごくかっこいいんです! あの音楽が、シャークという存在をどう表現するべきか教えてくれている気がします。
- シャークはアンデルセンの原作には登場しない、演出振付の熊川哲也さんが創り出したオリジナルのキャラクターですが、田中さんはどんな役柄として捉えていますか?
- 田中 ストーリー展開のカギを握る、重要なキャラクターのひとりです。鋭くて冷酷な荒くれ者であるいっぽうで、どこかに人間の心のような温かみや優しさもあるんじゃないか……と、リハーサルが進むなかで感じるようになりました。そんな感覚も大事にしながら自分なりのシャーク像を突き詰めて、本番に向かいたいと思っています。
- おもしろいですね。 “海のギャング”みたいなイメージだけではなく、温かみも感じると。
- 田中 はい、シャークは喜怒哀楽の感情がじつは豊かなのではないでしょうか。そして孤独。イルカなど他の生き物たちは群れで生息しているけれど、シャークはいつも独りです。だからいろんな感情を自分自身の中にいっぱい溜め込んでいて、その中の“怒り”が大爆発した時に、海を荒らしてしまった。……もちろんこれは僕の想像にすぎませんが、そんなふうにシャークという存在を自分なりに感じながら、感情に緩急をつけて演じたいなと考えています。
©️Ballet Channel
- シャークらしさを表現するために心がけていることや工夫していることは?
- 田中 やはり海の中の生き物ですから、水の抵抗を感じさせるような動き方を心がけています。たとえばポール・ド・ブラも、腕を運ぶたびに残像が残るようなイメージで。勢いよく走ったり激しく踊ったりする場面でも、主にマイムで見せる芝居的な場面でも、それが水の中であることを感じさせる所作には繊細にこだわって演じたいと思います。
- いま目の前にいる素顔の田中さんは柔和でにこやかですが、舞台姿は情熱的。とくに目力の強さが抜群です。
- 田中 ありがとうございます。以前Kバレエが『アルルの女』全編を初演した時に、指導のルイジ・ボニーノさんから「君はいい目をしている」と褒めていただいたことがあります(笑)。僕は舞台の上で自分とは違う誰かになれることが大好きで、音楽が流れてくると、スイッチがピッ!と入るんです。「演じる」というよりも、「その役になる」という感覚です。
- それはバレエを始めた少年の頃からですか? それとも最近になって体得したものですか?
- 田中 幼い頃から感受性は強かったのか、映画などを観るとすぐに感情移入して涙を流すような子どもでした。だけどシャイな性格でもあったので、スクールの先生からはいつも「大智、もっと笑顔で!」と言われていたんですよ。そんな僕を変えてくれたきっかけのひとつは、2015年のKバレエユース公演『トム・ソーヤの冒険』です。ベンというちょっと臆病な少年の役をいただき、表現として感情を表に出すことをたくさん練習できたのは、大きな経験でした。
- 『マーメイド』で幕を開ける新たなシーズン、田中さんはどんな1年にしたいですか?
- 田中 ありがたいことに、僕はこの7月にソリストに昇格させていただきました。これまで以上の責任感をもって一つひとつの舞台に臨みたいですし、いろいろな役を経験して、もっと表現の幅を広げて、熊川ディレクターの求める芸術を少しでも体現できるようになりたいと思っています。
- 最後に楽しい質問を。好きな海の生き物は?
- 田中 好きな海の生き物……何だろう? シーフードを食べるのはすごく好きなのですが(笑)。いまパッと頭に浮かんだのはイワシの大群。一匹一匹が光を反射させながら海の中を泳いでいる魚の群れって、それ自体がひとつの芸術品のようで、神秘的だなと思います。
©️Ballet Channel
公演情報
K-BALLET TOKYO『マーメイド』
【日程・会場】
●東京
2024年9月8日(日)15:00
東京文化会館 大ホール
●名古屋
9月10日(火)18:30
愛知県芸術劇場 大ホール
●大阪
9月13日(金)14:00/18:30
フェスティバルホール
●札幌
9月18日(水)14:00/18:30
札幌文化芸術劇場 hitaru
●東京
9月21日(土)18:30
9月22日(日)13:00/17:15
9月23日(月休)13:00/17:15
9月28日(土)18:30
9月29日(日)13:00/17:15
10月4日(金)18:30
10月5日(土)18:30
10月6日(日)13:00
Bunkamuraオーチャードホール
【詳細・問合せ】
K-BALLET TOKYO 公演サイト