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【「BALLET TheNewClassic2022」特集②】衣裳デザイン:幾左田千佳インタビュー「バレエは永遠の憧れ。身体が奏でる美しい芸術が、別世界をのぞかせてくれる」

青木かれん Karen AOKI

衣裳デザイン:幾左田千佳 ©Ballet Channnel

2022年8月5日~8月7日の3日間にわたって上演される『BALLET TheNewClassic2022』。このプロジェクトが目指すのは、伝統により築かれてきた「バレエ」の礎を21世紀ならではの価値観で再解釈すること。昨年は新型コロナウイルスの影響によりやむなく延期となった公演が、この夏、いよいよ幕を開けます。

同公演は2部構成で、全8作品を上演。1部は『眠れる森の美女』よりローズ・アダージョからはじまり、アレッサンドロ・ジャクイント振付の新作『HOMEM』『シェヘラザード』よりパ・ド・ドゥ、アルシャーク・ギャルマン振付の『Moment in Time』『ジゼル』よりパ・ド・ドゥ『瀕死の白鳥』、高瀬譜希子振付の新作『ボレロ』と続きます。2部は11名のダンサー総出演の『ライモンダ』より抜粋で華やかにフィナーレを飾るとのこと。舞踊監修はKバレエカンパニー プリンシパルの堀内將平。音楽監修はウィーン国立バレエ専属ピアニストの滝澤志野、衣裳デザインは幾左田千佳(きさだ・ちか)。

バレエチャンネルでは、舞踊監修の堀内將平さんと、衣裳デザインの幾左田千佳さんにお話を伺いました。
衣裳デザインを担当した幾左田千佳さんは、「REKISAMI」と「Chika Kisada」を立ち上げたデザイナー。バレエの経験を活かして、「パンクバレエ」というコンセプトを打ち出したコレクションを発表している幾左田さんのインタビューをお届けします。

【『BALLET TheNewClassic2022』特集➀】舞踊監修:堀内將平インタビューはこちら

衣裳デザインにかける想い

昨年の公演中止を受けて、一年間のあいだにどのようなことを感じましたか?
舞台を作り上げる一員として、やりがいとありがたみを改めて感じました。一年の調整期間を経て、よりアップデートされた新たな挑戦が、みなさまの心を照らしますように。胸に響く舞台をお届けできるよう願っています。
『BALLET TheNewClassic』の衣裳デザインのコンセプトを教えてください。
現代の解釈で古典をアップデートするという挑戦です。古典バレエらしいビーズや刺繍などの装飾を取り払い、新しい解釈で各作品をデザインしていくという作り方です。クラシックの要素は残しつつ、モダンに見えるような工夫を行いました。
「クラシックの要素は残しつつ、モダンに見えるような工夫」とは?
ロマンティック・バレエが確立された19世紀前半の観客のファッションは、ドレスの中にクリノリン(編集部注:鳥かごのような形をした、スカートを丸く見せるための補整用の下着)を入れたり、コルセットをつけたりといったものでした。当時のバレエ衣裳は、観客が「あの感じの服が欲しいわ」、「あの感じの服、私も持っているわ」というような感覚で、舞台衣裳とファッションが近いところにあったのでは……と想像しました。
今回の『BALLET TheNewClassic2022』における私の役割は、お客様にファッションを感じてもらうことだと考えています。そこでお客様の目線で「こういうデザインの要素の服を着たいな」と、着こなしのヒントを得られるようなデザインをイメージしました。素材選びや縫製の技術も、私が本来おこなっているアパレルで成り立つ仕組み、手配できる素材、縫製工場で縫える技術といったところを重点的に取り入れています。
『BALLET TheNewClassic』の衣裳にはチュールがたくさん使われていますね。
チュールにはいろいろな質感や種類があるので、ディテイルに合わせて調合しています。「ローズ・アダージョ」のチュチュも、張りを持たせたいところと軽やかに見せたいところの厚さを変えております。さらにグラデーション染めのようなテクニックで色を表現するのではなくて、似たようなカラーを合わせながらひとつのピンクを作っていくという「色の調合」にも挑戦しています。
その「ローズ・アダージョ」の衣裳はどのようなアイディアから生まれたのですか?
16歳の誕生日に4人の王子の中から1人の婚約者を選ぶ行為は、現代だったら珍しいイベントじゃないですか。その状況におかれたオーロラ姫は、フェミニンでありながら、内面は自立した強い女性像なのでないかとイメージしました。そんなお姫様がボンテージファッションをしていたら、ユーモアに溢れた新しい表現になりそうだと考えました。
コルセットがレザーになっているところもユニークですね。
コルセットには、フェイクレザーを使用しております。私は動物愛護の取り組みとして、ふだんからレザーは使用していません。
ほかにも『ライモンダ』では、ドライクリーニングの石油系溶剤を使わなくても洗えるサッシのような素材をあえて選んでいます。舞台衣裳も、今の時代に合わせた素材選び、調理の仕方を考えていくべきではないか。そうしたメッセージも込めています。
ちなみに、4人の王子の衣裳はどのようなデザインですか?
これは私なりの解釈ですが、今の時代に4人の王子から求婚されるとしたら、仕立てのいいテーラードと、シルエットにこだわったスラックスで、「こんな王子からプロポーズされたら良いな……」と感じていただけるような男性像をイメージしました。どんな衣裳になったのかは、当日劇場でのお楽しみに!
『ジゼル』のアルブレヒトの衣裳も柔らかな印象で素敵ですね。
ジェンダーレスな世界観を表現したかったことと、バレエ・ブランと呼ばれているのだから、男性も白を装うという解釈でもいいのではないかと考えて、白いチュールを使ったデザインで統一しました。アルブレヒトの衣裳のチュールは、照明があたった時に光が綺麗に透けるものを選んでいます。独自のパターン技術を使って、これまでとは異なるイメージで美しく見えるように工夫しました。

白いチュールをふんだんに使ったアルブレヒトの衣裳 ©Ballet Channel

『瀕死の白鳥』の衣裳はどのようにデザインを?
白鳥の衣裳の装飾には羽を使うのが一般的ですが、動物愛護の考えに基づいて、羽を使わずに表現する方法を模索しました。今回の衣裳では、ボディの部分にタックやギャザー、パターンの技術を活用することで、羽を表現しています。そしてその上からPVC(編集部注:ビニール素材)の透明なコルセットを装着していただきます。
PVCということは、通気性がないですよね?
それをこの衣裳の持ち味にしたいと考えていて。人が身体を動かすと、体温が上がって汗をかき、その汗が蒸発しますよね。PVCはその熱を逃がさないので、この衣裳を来て踊っていると、ボディの部分がお風呂の窓のようにだんだん曇っていくはず。その現象が羽に見えるように……というアイディアになっております。もし、たくさんの汗で水滴が出てきたら、それは透明のスパンコールのように美しいでしょうし、湖から上がってきた体を濡らす水滴のようにも見えるでしょう。そのように「水」を表現できるのもすごく理にかなっていますし、自然の中で起こる化学反応も装飾のひとつとして考えています。

中村祥子さんが試着した『瀕死の白鳥』のコルセットには、蒸気によって生じた水滴がついています。 ©Ballet Channel

バレリーナを夢見る少女からファッションデザイナーへ

バレエ衣裳には「踊りやすさ」も求められるかと思いますが、その点はどのように工夫しましたか?
実際に踊るダンサーたちの動きを再現することはできませんが、私自身も幼いころからバレエを習っていたので、バレエ特有の身体の使い方はある程度想定することができます。そのため、バレエの動きに対して衣裳がストレスにならないように、実際の動きをイメージしながらデザインを進めることができました。
もうひとつは素材選びです。あまり舞台衣裳では使われない素材をあえて使うぶん、作品の動きに合った形の作り方やバランスのとり方を模索して、デザインに落とし込んでいます。
ご自身のバレエ経験をデザインに活かしているのですね。
バレリーナを夢見て練習に励んでいたころ、プロのバレエダンサーとして活躍するまでの道のりがどれほど険しくて、並大抵じゃない精神力の強さが必要とされるのかを目の当たりにしました。私はバレリーナにはなれなかったけれど、でもまさに今、ファッションの世界で、その情熱をもって挑んでいます。バレエでは叶わなかった夢が、ファッションデザイナーとして叶えたい目標に向かっていく精神力の肥やしになっています。ですからある意味、私はこれから「デザイナー」として踊っていく。そうしていかなくてはならないと思っています。
「デザイナーとして踊っていく」。とても素敵な表現ですね。いまデザイナーとして活動していて、バレエを踊っていた頃の感覚を思い出すことはありますか?
ショーの最後にデザイナーがご挨拶をする場面があるのですが、あの時はバレエの舞台に戻ってきたような感覚になります。職業は全く異なりますが、物事をどのように解釈して表現していくか、それが肉体なのか布なのかという意識の違いだけだと感じます。今回の公演に関しても、私はステージで踊るわけではないけれど、一緒に作っていくという感覚はフィットしております。
最後に、幾左田さんにとってバレエとはどのようなものでしょうか?
永遠の憧れです。身体が奏でる美しい芸術に心を揺さぶられ、別世界をのぞかせてくれる。私にとって、バレエは今でもかけがえのないものです。
幾左田 千佳 Chika Kisada


幼少期よりクラシック・バレエを学ぶ。バレリーナのバックグランドを着想源にモノづくりを展開。バレエと音楽、都市の空気をインスピレーションに、強く生きる女性のための服を製作している。
2007年 「REKISAMI」を立ち上げる。
2014年 デザイナーの価値観をより強く反映したシグネチャーライン「Chika Kisada」を立ち上げる。
2016年 TOKYO FASHION AWARD 2017 受賞。同年、株式会社ゴールドウイン 「DANSKIN CAPSULE COLLECTION」のディレクション、デザイナーを担当。
2018年 FASHION ASIA HONG KONG 2018受賞。同年、Milan Fashion Week招待デザイナーに選出され、MilanにてRUNWAY showを開催。
2020年 株式会社ゴールドウイン 「DEAR DANSKIN」 を立ち上げ、ディレクション、デザイナーを担当。
オフィシャルサイト:http://www.chikakisada.com/
Instagram:https://www.instagram.com/chikakisada/

公演情報

『BALLET TheNewClassic2022』

日程

2022
85日(金)19:00
86日(土)13:00/18:00
87日(日)12:00/16:30

※上演時間:約2時間(休憩1回)

演目

1部
『眠れる森の美女』よりローズ・アダージョ

ピアノ: 滝澤志野
キャスト:水谷実喜
堀内將平 池本祥真 太田倫功 高野陽年

『HOMEM』
振付: Alessandro Giaquinto
キャスト:菅野茉里奈

『シェヘラザード』よりパ・ド・ドゥ
ピアノ:滝澤志野 チェロ:大宮理人
キャスト:横山瑠華 堀内將平

『Moment in Time』(新作)
振付:Arshak Ghalumyan
キャスト:秋山瑛 池本祥真 太田倫功

『ジゼル』よりパ・ド・ドゥ
ピアノ:滝澤志野
キャスト:森田愛海 高野陽年

『瀕死の白鳥』
ピアノ:滝澤志野 チェロ:大宮理人
キャスト:中村祥子

『ボレロ』(新作)
振付:高瀬譜希子 ピアノ:滝澤志野
キャスト:二山治雄

2部
『ライモンダ』より抜粋

11名総出演

会場

恵比寿 ザ・ガーデンホール

詳細 公演ホームページ

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