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【10/15より全国限定公開!】松竹ブロードウェイシネマ「パリのアメリカ人」~編集部座談会! 圧倒的ダンスシーンで綴る大ヒットミュージカルの見どころをチェック

バレエチャンネル

ⒸAngela Sterling

1951年に公開されたミュージカル映画の金字塔『巴里のアメリカ人』。その映画を舞台版にリメイクした『パリのアメリカ人』は、2015年に米ブロードウェイで開幕し、トニー賞4部門を獲得しました。この舞台版映像が松竹ブロードウェイシネマにて、2021年10月15日から東京、大阪、名古屋他、全国の劇場で順次公開されます。

この『パリのアメリカ人』には、バレエ&ダンスファン必見のポイントが盛りだくさん!
演出・振付は、元ニューヨーク・シティ・バレエ団の常任振付家で、英国ロイヤル・バレエ『不思議の国のアリス』の振付でも知られるクリストファー・ウィールドン。そして主役のふたりもバレエダンサーが演じています。

【あらすじ】
1945年、戦争終結直後のフランス。画家を目指しているアメリカ人の退役軍人ジェリー(ロバート・フェアチャイルド)は、作曲家志望で友人の退役軍人アダム(ディヴィッド・シードン=ヤング)、両親に内緒でショーマンになる夢をもつフランス人のアンリ(ハイドゥン・オークリー)らと、希望やチャンスに満ちたパリで新たな人生を夢みている。
ある日、ジェリーは街で美しいダンサーのリズ(リャーン・コープ)と運命の出会いを果たす。ひと目惚れをしたジェリーは真っ直ぐにその思いを伝えるのだが……芸術の都パリを舞台に、恋、友情、芸術をめぐるロマンスを描いたミュージカル。

左から:アダム(ディヴィッド・シードン=ヤング)、ジェリー(ロバート・フェアチャイルド)、アンリ(ハイドゥン・オークリー) ⒸAngela Sterling

今回はバレエチャンネル編集部員が『パリのアメリカ人』を鑑賞。バレエファンにぜひチェックして欲しい見どころなどをご紹介します!
参加したはこの3人↓

エディター・若松(53歳)
演劇&ミュージカル好き。中高時代は演劇部に入り部活のために登校、大学は演劇学科を卒業。小劇演劇の主宰として脚本・演出を担当した経験あり。
エディター・古川(37歳)
ミュージカル鑑賞は十数年ぶり。 バレエは3歳から始めるも受験で中断、大人になって再開。 現在3人の男児を子育て中で、なかなか劇場に行けないのが悩み。
エディター・青木(26歳)
アーティストとして国内のバレエ団の舞台に出演していた。ミュージカルは観る専門で、鑑賞頻度は平均月3回。最近気になるのはオペラと2.5次元作品。

お気に入りポイントを紹介!

若松 この『パリのアメリカ人』はミュージカル公演を収録した映像なんですが、鑑賞後にいちばんテンションが高かった古川さんは、じつはミュージカルが苦手だったとか?
古川 歌で物語が展開するのにちょっと抵抗があったんですが、『パリのアメリカ人』はダンスがいっぱい。最後までとても面白く観ることができました!
若松 まず、それぞれのお気に入りポイントについて語りましょう! まずオーバーチュアで流れるガーシュウィンの音楽。試写会室でつい身体が動いちゃったのは私です。
古川 「足がウズウズ」っていうミュージカルナンバーが出てきますよね。音楽を聴くと、座っていても膝から下だけが思わずリズムを刻んじゃう。まさにあの感じ!
若松 冒頭は終戦から始まるんだけど、舞台を覆う大きなナチス・ドイツの旗が風を受けてくるりと翻り、フランスの国旗に変わって舞台上がパーッと明るくなる。平和のおとずれが視覚的に伝わってきて引き込まれました。

ⒸAngela Sterling

青木 オーバーチュアはプロジェクションマッピングを使った演出で、パリの名所がスケッチされていきますが、その中にロートレックのポスターで有名なムーラン・ルージュを発見。後半のダンスナンバーでは、ダンサーたちがロートレックの絵画を完全再現する瞬間があって、絵画もバレエも好きな私には最高のシーンでした! フレンチ・カンカンの踊り子たちの衣裳も絵から飛び出してきたみたいだったし、ロートレック本人らしき人物に扮した役もこっそり登場していたりして、絵画鑑賞に興味がある人も見どころいっぱいだと思います。
若松 ジェリーとリズを中心に巻き起こるラブストーリーとは別に、ジェリーやアダムのような芸術家志望の退役軍人が、自由の都パリに身を置くという設定が描かれているのも作品の魅力だよね。
ミュージカルとしてとにかく楽しめるのは、終戦直後の暗い影を吹き飛ばすように明るく前を向く人々の姿が描かれているから。私のイチオシは「アイ・ガット・リズム」のナンバー。画家志望のジェリー、作曲家を目指すアダム、ショーマンになる夢を持つアンリの3人がカフェで会うシーンで、歌とダンスで盛り上がったところにちょっとしたアクシデントが起きて、舞台上がシーンと静まり返ってしまう。でも、どこからともなくまた、ちいさな音が聴こえ始める。マッチを擦る音、椅子や食器を叩く音……それがどんどん大きくなり、ひとつのリズムになっていく。何があってもポジティブにいこう、という力があふれてきて、楽しいのに泣きそうになりました。

ⒸAngela Sterling

古川 撮影カメラが客席を飛び出して舞台に上がってくるのも面白かったですね。
若松 アンサンブルの間を縫うように駆け抜けるカメラワークが最高。
古川 ダンサーの息づかいも聞こえてくるし、汗も見える。生の舞台に負けないくらい臨場感があった!
青木 アンサンブルのダンスで感心したのが、ポワントで踊るナンバーもあるところ。ヒールとポワントを短時間で履き替えながら踊るのは、ダンサーにとって高難度の技術のはず。つま先もきちんと伸びていて余韻のある独特な踊りも素敵でした。

バレエダンサーによるダンス・ミュージカル

若松 「ここは是非バレエファンにチェックして欲しい!」というところは?
古川 もちろん主演のふたりのダンス。画家のジュリー役はロバート・フェアチャイルド。2009年にニューヨーク・シティ・バレエのプリンシパルになった人です。
青木 リズ役のリャーン・コープも、ロイヤル・バレエ・スクール出身でロイヤル・バレエに入団。ふたりとも2015年のこの『パリのアメリカ人』で、ブロードウェイデビューだそうですよ。
古川 ふたりの出会いのシーンがよかったな。戦争の傷跡が残るパリの喧騒の中で、ふたりが一瞬立ち止まる。ジュリーがリズにひと目惚れするところなんですが、バレエファンの必見ポイントが、リャーン・コープの美しい立ち姿とアン・ドゥオール!「この人のダンスがもっと見たい!」と思わずにはいられなかった。
若松 リズのアン・ドゥオールに注目ですね。
古川 それからロバート・フェアチャイルドが物語後半で魅せる高速のマネージュもすごかった! ジェリーの高揚感が踊りで伝わってきました。

左から:ロバート・フェアチャイルド、リャーン・コープ ⒸAngela Sterling

若松 ラストの交響曲「パリのアメリカ人」のナンバーのダンスも素敵だった。映画版『巴里のアメリカ人』でジェリーを演じ、振付を担当したジーン・ケリーのダンスも本当に素晴らしかったけれど、舞台版の振付はクリストファー・ウィールドン。現代的でおしゃれに進化してる。
青木 舞台版の振付にはアシンメトリーな動きや規則性などが入っていて、ジョージ・バランシンの『ジュエルズ』の「ルビー」を思い出しました。
古川 バレエファンの心をくすぐるポイントがところどころにあるんですよ。アンリの両親が開催したサロンで、バレエ団がお披露するシーンがあるでしょう? あの劇中劇は『牧神の午後』を思わせます。さらにバレエ団名はシャトレ座・バレエ、先生の名前はニジンスキー! バレエ・リュスがとくに大好きなのでこういうところを発見するのも楽しい。エッフェル塔を背景に黄色い衣裳で踊るリズの姿にも、ローラン・プティの『若者と死』が頭をよぎりました。
青木 まだまだありそうですよね。それを探すだけでも面白い!
古川 ペアダンスも、パ・ド・ドゥのようで素敵なんですよね。とくにお気に入りはセーヌ川の橋のたもとで踊るナンバー「ライザ」です。アメリカ人のジェリーの明るさに、リズの心が解放されていく感じがダンスを通して表現されるシーン。私、観終わったあとに疑問だったのが「いつからリズはジェリーに恋をしたんだろう?」ってことだったんです。
若松 ここではまだ伏せられているけれど、リズが自分のことを多く語らないのには、生い立ちが深く関係していますよね。ジェリーはリズにとって“自由の国アメリカ”そのもので、ひっそりと暮らしてきた自分の手を取り、明るい世界へ連れ出してくれる人だと感じたんじゃないかな。
青木 ジェリーがリズのことを「ライザ」って英語読みで呼ぶのがいいですよね。本心や存在を悟られないように生きてきたリズの寂しさがそこから溶けていくような。
古川 「ライザ」と呼ばれた瞬間、リズは心をノックされたのかも。『千と千尋の神隠し』じゃないけれど、名前って一文字変えるだけで新しい自分に生まれ変わるような気がするし、その気持ちがバレリーナのリズの踊りを魅力的に変えるんですよね。
青木 歌だけじゃなくて、感情の高まりも踊りで伝えてくれるのがこの作品の素敵なところだと思います。

ⒸAngela Sterling

愛すべき登場人物たち

古川 そうだ、みなさんこの作品で誰に感情移入しました? 私はジェリーよりもアダムに共感しちゃいました。ジェリーとリズの物語のそばで、アダムやアンリにもちょっと切ないラブストーリーがあるんですよね。いつも皮肉めいた口調のアダムが恋心を胸にとどめて劇場でひとり歌うシーンはキュンとしました。
若松 私はアンリのお母さんかな。コメディエンヌ的な演技なのに息子への愛情が伝わってくる。ネタバレになるので控えるけど、アンリたちとリズの間には重大な秘密がある。後半にその種明かしがあったところで、彼女の強靭な精神力や愛情のようなものが突然リアルに伝わってきたの。一生ついて行きたくなるような魅力的なキャラクターだった。私がもし俳優だったらぜひ演じてみたいです!
青木 私はシャトレ座に支援する裕福な女性、マイロさんがかっこいいなと思いました。
若松 マイロ・ダヴェンポート役のゾーイ・レイニーは、アメリカ人の女性らしい自由さと気さくな演技が、寡黙なリズとの対比になっていて良かった。思ったことはハッキリ言うし、人前では絶対に泣かない。そんなキャラクターだからこそ応援したくなる。マイロの見せ場は演技が中心で、ほんのわずかな間や、とまどいを視線と表情だけで魅せてくれる。演劇好きとしてはキュンとします。
青木 なるほど!
古川 どの登場人物にもそれぞれのストーリーがあって、かならず誰かに感情移入できると思います。

中央がマイロ役のゾーイ・レイニー ⒸAngela Sterling

若松 まだまだ話足りないところだけれど、そろそろまとめましょう。
青木 ミュージカルに抵抗がある人も、いろいろな切り口で楽しめる作品だと思いました。衣裳や小道具も一つひとつが可愛かったです。
古川 バレエやダンス好きにはたまらない映画だと思います!
若松 ガーシュウィンの音楽に乗って、パリへ長旅をしたような気持ちになりました。帰り道は『パリのアメリカ人』のテーマ曲が脳内をリフレインします!

上映情報

『パリのアメリカ人』

作曲&作詞:ジョージ・ガーシュウィン&アイラ・ガーシュウィン
台本:クレイグ・ルーカス(原案:ミュージカル映画「巴里のアメリカ人」)
映画版監督:ロス・マッギボン
演出・振付:クリストファー・ウィールドン
<2018年撮影>

【配給】松竹
<日本語字幕スーパー版/上映時間139分>

10月15日(金)から
東劇(東京)、なんばパークスシネマ(大阪)、ミッドランドスクエア シネマ(名古屋)ほか
全国順次限定公開
※上演が予定されている劇場・映画館はこちら

松竹ブロードウェイシネマ公式WEBサイト:https://broadwaycinema.jp
『パリのアメリカ人』特設ページはこちら

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