Photos: ART of
スイス・チューリッヒに本拠地を置く〈ART of〉は、世界的に有名な振付家ウィリアム・フォーサイスのサポートにより創設されたバレエ教育機関です。
ローザンヌ国際バレエコンクールの公式パートナースクールとしても知られ、
- クラシックバレエ・クラス
- クラシックヴァリエーション・クラス
- コンクール対策クラス
- コンテンポラリー・クラス
- インプロヴィセーション(即興)テクニック
- フィジカルセラピー・クラス(ターンアウトやインナーマッスルの強化等、踊るための身体を作るクラス)
等から構成される1〜2週間の短期プログラムをヨーロッパ諸国で毎年開催しています。
とくにスイス・チューリッヒ、フランス・マルセイユ、スペイン・マドリードなどで毎夏行われているプログラムには、世界中でバレエを学ぶジュニアからプロフェッショナルまで、200~250人ほどが集まっています。
この〈ART of〉の短期プログラムが、この5月1日〜5日の5日間、初めて東京で開催されました。
今回のために来日した教師陣は、
《クラシック・バレエ》
アンナ・ポリカルポヴァ(元ハンブルク・バレエ団プリンシパル)
エルナ・マタモロス(スペイン国立ダンスカンパニー〈芸術監督ジョゼ・マルティネズ〉バレエ・ミストレス)
《フォーサイス作品/インプロヴィセーション/コンテンポラリー基礎》
アマンチオ・ゴンザレス
《フィジカル・セラピー》
ルイス・ガディア・マテオス
そしてピアニストはドレスデン州立オペレッタ劇場で活躍する砂川陽子さんが来日し、クラシックやミュージカルの名曲からクイーンのナンバーまで飛び出す心踊る演奏で、受講者をサポートしました。
今回受講したのは、12歳から19歳までの生徒たち。
毎日、
- クラシックバレエ・クラス
- ボディ・アウェアネス(フィジカルセラピー)
- ポワント&レパートリー・クラス
- インプロヴィセーション&フォーサイス・レパートリークラス(コンテンポラリー基礎)
の4つのクラスを受けて、文字通り“バレエ漬け”の5日間に汗を流しました。
クラシック・バレエやポワント・テクニック、ヴァリエーション・レッスンを担当したポリカルポヴァ先生。
「バーはあなたの未来のパートナーなの。ガチガチに握りしめたり、しがみついたりしてはダメ。まずは自分で自分の責任をもって、自立することが大切です」
「脚は鋼鉄のように強く。でも腕は本当に優しく柔らかく。それがバレエの素敵な魔法のひとつよ」
同じくクラシック、ポワント、ヴァリエーションの指導を担当したマタモロス先生。
「手があまり大きくないタイプの人は、親指をぎゅっと折りたたみすぎないようにしてね。少し大きめに広げておく意識で、自然なラインを見せてください。でもミッキーマウスみたいに可愛い手にはしないでね!」
「みなさん、バレエでやるべきことがきちんとできています。普段からとてもいい先生方に指導を受けていることがわかるわ。あとは”音楽”をもっと大切にしてください。例えばカンパニーのオーディションでは、技術的にはみんなよく踊れるんです。音楽をきちんと聴けて踊れているかどうかが、とても重要なポイントになってくるのよ」
とてもおもしろそうだったのがボディ・アウェアネス(フィジカル・セラピー)のクラス。歩いたり走ったり跳んだり二人組で引っぱり合ったり、まるでゲームみたいなエクササイズですが、なかなかハードな様子!
「まだやめちゃダメ。お尻が落ちてきてる人がいたら、他の人が足でキックしてあげて!」とマテオス先生のチェックが入ると、みんな「うー!」「きゃー!」と笑い声のような悲鳴のような(?)声を上げたり楽しそうにしていました。
「みんな、ストレッチは1日に何度もやりすぎてはいけないよ。朝クラスが始まる前や、夜寝る前はいいけど、今回みたいにいくつもクラスを受ける時は、その合間の休憩時間のたびにストレッチするようなことはしないで。ストレッチはウォーミングアップではないよ」
「エクササイズは右側と左側を必ず均等に行うようにしてください。どちらかばかりをやると身体のバランスが崩れて、怪我に繋がるからね」
1日目からだんだん日が経つにつれて、受講者のみなさんがいちばん変化していったのがインプロヴィセーション&フォーサイス・レパートリーのクラス。最初は慣れない動きに戸惑ったり、「自分で動きを決めて」と言われてどうしたらいいかわからない様子だったみんなが、どんどん自分の動きや表現を発見していきました。
「インプロヴィセーションのいいところは”自分で決めていい”ということだよ。みんな、決められたことだけやるなんて、つまらないだろう? 自分で決めて、自分で世界を作るんだよ」
朝から夕方まで、いつもとは違う先生による指導を受け、いつもとは違う仲間たちと切磋琢磨し、踊るために大切なことを心身でたくさん学び取った受講者のみなさん。
今回は少人数ながら全員がそれぞれ優秀で、可能性のゆたかさを見せたため、全員に今夏ヨーロッパで行われるART of のサマープログラムのスカラシップが授与されました。
ART of バレエインテンシヴ東京は来年も開催。
2020年3月30日〜4月3日の5日間で行われる予定です。(変更となる可能性もあります)
5日間終了後の、受講者のみなさんの感想
- 三品沙楽さん
- 初日はちょっと大変だったけど、5日間を通じてみんなと仲良くなれたことと、いろいろなヴァリエーションを踊れたことがすごく楽しかったです。バー・レッスンで「脚を出すときは足の裏を伸ばしてから膝を伸ばす」など、将来につながるようなアドバイスもたくさんいただけました。
- 中川千宏さん
- ボディ・アウェアネスのクラスがとてもためになりました。楽しいエクササイズなのにとてもハードで、どんどん自分が追い込まれていくんです! 自分をいかに追い込んでいくかの良い訓練にもなりました。先生が言ってくださった「苦しい時ほどがんばれ」という言葉が、強く印象に残りました。
- 神田レイナさん
- 信じられないほど素晴らしいプログラムでした。この1週間ですごく上達できた気がしています。今回新たに学んだのは、私はもっと全身の動きを調和させなくてはいけない、ということ。そして、本当に心から楽しんで“ダンスする”ということです。それがいかに大切なことかを実感しました。
- 玉木香菜子さん
- 5日間とてもハードだったけど、バレエ以外にもボディコンディショニングなど体の使い方もたくさん学ぶことができて、将来のためになる経験がたくさんできました。心に残ったクラスはインプロヴィセーションです。正解がなくて、自由で、自分の体はここまで動かせるんだという発見があって、楽しかったです。また私は感情を出すのが苦手なのですが、コンテンポラリーは自分の表現したいことを体の動きにしていくために役立つと思いました。
- 川本実夢さん
- いつもはクラシック・バレエのクラスが中心ですが、今回は5日間でいろんなクラスを受けられてとても勉強になりました。特にボディ・コンディショニングは、自分はどこの筋肉が弱いのかがよくわかってよかったです。そういう部分をこれからもっと強化していこうと思います。私は18歳になったばかり。これからいろいろなバレエ団のオーディションを受けるのですが、そのためにも今回受講してとてもよかったと感じています。
- 丸山梨紗さん
- 先生方が一人ひとりをすごく集中してみてくださったので、自分はここをこうしたらいいというのがとてもよくわかって楽しかったです。自分にとって一番の収穫だったと思うのは、フォーサイスのクラスの時に、先生に本当に簡単な動きから「こうしたらいいんじゃない?」とアドバイスをいただけたこと。私は8月からチェコのバレエ団で働くので、コンテンポラリーを踊る時には今回いただいたアドバイスのことを思い出してがんばります。