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【第10回】鑑賞のためのバレエ・テクニック大研究!ーグラン・ジュテ(2)

海野 敏

文/海野 敏(東洋大学教授)

第10回 グラン・ジュテ(2)

■ジュテ・アン・トゥールナン

第9回に紹介したグラン・ジュテにはたくさんの応用技がありますが、今回はその中から、鑑賞していて間違いなく目にとまるスーパーテクニックを3つ取り上げます。まず、グラン・ジュテと回転の合わせ技を2種類紹介しましょう。

1つ目は「ジュテ・アン・トゥールナン」(jeté en tournant)です。男性ダンサーのマネージュ、すなわち舞台を大きく周回するときに頻出するステップです。「アン・トゥールナン」は、第7回で説明した通り「回転しながら」というフランス語ですから、直訳すれば“回転しながらの跳躍”で、「クペ・ジュテ・アン・トゥールナン」と呼ぶこともあります。

具体的には、ジュテでジャンプし、着地した脚を軸にしてアン・ドゥダン(内回り)に素早く1回転します。これをくり返すと、跳躍と回転で「1、2、1、2、…」というリズムが生じます(注1)。右回り(時計回り)に回転しながら、舞台も右回りに周回するダンサーが多いですが、左回りもさほど珍しくありません。しかし、たまに左回りに回転しながら右回りに周回してみせるダンサーがいて、驚かされます。

ジークフリード、デジレ、バジル、コンラッドなど、古典全幕の主役男性ダンサーのヴァリエーションまたはコーダには、高い確率で、ジュテ・アン・トゥールナンの連続によるマネージュが含まれています。

★動画でチェック!
こちらは2014年のWorld Ballet Dayで配信された英国ロイヤル・バレエのクラス・レッスンの様子。1:12:08〜1:12:24で現在プリンシパルのマルセリーノ・サンベがジュテ・アン・トゥールナンを見せています(ここではソ・ド・バスクを組み合わせています)。

■ジュテ・アントルラセ

2つ目は「ジュテ・アントルラセ」(jeté entrelacé)です。空中で180度向きを変えるジャンプで、優雅に舞うように見えるステップです。「アントルラセ」は「編み合わせた」、「からみ合わせた」という意味です。「グラン・ジュテ・アン・トゥールナン・アントルラセ」と呼ぶこともあります(注2)

具体的には、ジュテでジャンプし、空中で身体をくるっと半回転させながら、踏み切った脚を後ろへ伸ばし(グラン・バットマン)、その脚の高さを保ったままのポーズで(アラベスク・デリエール)、踏み切ったのとは逆の脚で着地します。回転しながら左右の脚が入れ替わるとき、両脚がすばやく交差して空間を編むように見えます。ジャンプの頂点でアラベスクのポーズになる美しいステップです。

古典全幕では、男女どちらの振付にもよく登場します。例えば『バヤデール』第2幕、ニキヤのヴァリエーションは、ソロルとガムザッティの婚約式でニキヤが深い悲しみを表現する踊りですが、その中盤でダンサーは「ジュテ・アントルラセ→床に膝をついて背中を反らせる」という印象的な振付を3回くり返します。

筆者が最も記憶に残っているのは、若い頃のウラジミール・マラーホフのジュテ・アントルラセです。ジャンプの頂点で、後ろへ跳ね上げた片脚が高く天を指し、背中に生えた翼のように見えて感動しました。

★動画でチェック!

英国ロイヤル・バレエが2011年に制作した43秒のデモ映像です。踊っているのは、高田茜とダヴィッド・チェンツェミエックです。まず、高田が助走をつけてグラン・パ・ド・シャで大きくジャンプし、つぎにチェンツェミエックがグラン・ジュテでジャンプします。続いて、高田、チェンツェミエックがそれぞれ2回ずつジュテ・アントルラセをし、最後は高田のグラン・パ・ド・シャをチェンツェミエックがリフトします。

■ジュテ・グラン・テカール

「ジュテ・グラン・テカール」(jeté garnd écart)は、おもに男性ダンサーが披露する“決め技”です。グラン・ジュテに、両脚をさっと前後に開く、力強い動きが加わったものです。「エカール」は引き離すという意味で、ここでは両脚を大きく広げることを意味しています。ただ「グラン・テカール」と言うこともありますし、「ジュテ・クロシュ」または「ジュテ・アン・クロシュ」、あるいは「パ・ド・シゾー・アン・レール」という呼び方もあります。

具体的には、ジュテでジャンプし、前へ伸ばした脚を後ろへ、踏み切った後ろの脚を前へ、空中で素早く入れ替えます。空中で左右の脚を入れ替えた後、ジャンプの頂点で両脚が水平一直線(スプリット)になるとすかっとします。オノマトペで表現すれば、「シュパッ」、「シャキン」という感じの動きです。

『海賊』のグラン・パ・ド・ドゥのコーダでは、男性ダンサーが袖幕から登場するやいなや、高いジャンプでジュテ・グラン・テカールを決めて会場を沸かせることがよくあります。また、ジュテ・アン・トゥールナンとジュテ・グラン・テカールの組み合わせ技で、回転、ジャンプ、脚の入れ替えを連続させる「ジュテ・アン・トゥールナン・グラン・テカール」という豪快な大技もあります。

(注1)本来「クペ・ジュテ・アン・トゥールナン」は「跳躍→回転」ではなく、「回転→跳躍」という順番のステップです。しかし、通常は音楽の「強拍、弱拍」に「跳躍、回転」を合わせるので、「跳躍、回転、跳躍、回転、…」が「1、2、1、2、…」のリズムとなります。

(注2)川路明編著『バレエ用語辞典』新版には、同じステップの呼称としてさらに「ジュテ・アン・トゥールナン・イン・アラベスク」、「グラン・ジュテ・ドゥシュー・アン・トゥールナン」、「グラン・ジュテ・アン・トゥールナン・アン・ナリエール」も掲載されています。

(発行日:2020年2月25日)

次回は…

第11回は、グラン・ジュテのさらなる進化形、「バレル・ターンとファイヴ・フォーティ(540)を紹介します。発行予定日は、2020年3月25日です。

第12回は、「パ・ド・シャとグラン・パ・ド・シャ」を予定しています。

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うみのびん。東洋大学社会学部メディアコミュニケーション学科教授、情報学研究者、舞踊評論家。早稲田大学、立教大学でも講師を務める。バレエ、コンテンポラリーダンスの舞台評・解説を『ダンスマガジン』、『クララ』などのマスコミ紙誌や公演パンフレットに執筆。研究としてコンテンポラリーダンスの三次元振付シミュレーションソフトを開発中。著書に『バレエとダンスの歴史:欧米劇場舞踊史』、『バレエ パーフェクト・ガイド』、『電子書籍と電子ジャーナル』(以上全て共著)など。

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